15 / 702
2
悪役令嬢はサッカー少年に押し切られる
しおりを挟む
「友達……そうか」
鹿王院くんは少し寂しそうに反駁した。
(え、あ、もしかして鹿王院くん友達じゃないとか言われたと思ってる!?)
それは誤解だ。曲がりなりにも友達になれたとちょっと思っているーーと言おうとして、その前に口をひらかれた。
「そうだな。俺は友達ではなく許婚だし」
私はぽかんと口を開いた。
(そっち!?)
勝手に鹿王院くんは納得したように頷いた。
「そろそろ行こう。茶受けに祖母が羊羹を買ってきている。なかなか美味いぞ」
くるりと踵を返し歩き出そうとする鹿王院くんのシャツの裾を、慌ててぎゅっと握った。
「……なんだ?」
不思議そうに首をかしげる鹿王院くん。しかし、耳の先がほのかに赤い。
(あ、怒って……はないかな? どうだろう)
とりあえずシャツを離し「ねえ、鹿王院くんのお祖母様にお会いする前に、聞きたいことがあるの」と言った。
念のために、羊羹のことではない。
気になるが。
(普通のいわゆる羊羹なの? それとも抹茶入りなの? 私は栗入りが好きなんだけど? って、違う)
「なんだ?」
「ねぇ、本当にいいの? 許婚なんて」
「……俺は、……構わない」
「そんな風に決めて大丈夫? だって、これから好きな人とか、できたり、とか」
(てか出来るのよ鹿王院くん! ヒロインちゃんが! 高校2年になったら入学してくるのよ!?)
ちなみに鹿王院くんは先輩枠だったりする。
「……華は、嫌だろうか。俺と婚約するのは」
(……!? 何その悲しそうな目! 子犬のような!)
鹿王院くんの方がよほど背が高いのに、まるで幼子を相手にしているような気分になった。
(いや、そりゃアラサー的精神年齢としてはそうなんだけど……)
そんな風に言われたら断りづらいではないか……。
「でも、鹿王院くん、好きな人、出来るかもよ?」
「……華にできるのではなく?」
「んっ? ああ私? それは……あんまり考えてなかったや」
「そうか」
なぜかホッとしたように微笑むと「その時はまた考える」とぽつりと言った。
「まぁ大丈夫だ」
「大丈夫なの?」
「そうだ」
まっすぐな目で私を見てくる鹿王院くん。
(うーん、まぁその時は考える、という言質も頂いたし、またヒロインちゃんなり、好きな人なり現れてから考えたら、いいの、かな)
そのまっすぐな瞳に気圧されるように「う、ん」と頷く。
「……それから」
鹿王院くんは少し迷うように呟いた。
「できれば、下の名前で呼んで欲しい。いつき、と」
「え? あ、うん。樹、くん?」
私がそう言うと、鹿王院……じゃない、樹くんはさっと私の手を握って歩き出した。
「え、あの、樹くん?」
「……お茶が冷めるぞ」
「あ、ほんと? ご、ごめんね」
その成長過程の背中を眺めていると、やはり耳が赤い気がした。
(お熱? でも体調悪くはなさそうだけど)
考えている間に、広間に到着した。
「あらやだほんと華、はぐれないでよ」
「ごめんなさい敦子さん、でも早足すぎでした」
「まぁでも、王子様にお出迎えしてもらえて良かったじゃない?」
にっこり、とウインクを送ってくる敦子さん。王子様て。相変わらず超ポジティブだ。
「こんにちは華ちゃん、顔色良さそうね」
「あ、ろく…….じゃない、樹くんのお祖母様、お邪魔してます、すみません、いきなり迷って」
「いいのいいの、分かりにくいでしょ。でもまぁ将来は住むのだから、じきに覚えるでしょう」
うふふ、と上品に微笑むお祖母様。
(やっぱ結婚前提なのか……お金持ちって良く分かんない)
とりあえず曖昧に微笑んでみる。
「じゃあ2人はそっちの机でお勉強なさい。私たちは今からアナタたちの婚約披露会の話し合いをしてますから」
「……披露会!?」
(な、なにそれっ? 気が早くない!?)
驚く私を見て、敦子さんは笑って「ウチは親戚少ないけど、鹿王院さんは多いからね。きちんとご挨拶しておかないと」とちょっとズレた返答をしてきた。
なんと言えば良いのか分からずアワアワしていると樹くんに「華、こっちだ。算数からしよう」と言われる。
見ると、すでにテキストが用意してあった。ノートなども新しいものが並んでいる。
(もうこうなったらなるようにな~~れ、だわ)
一つ諦めのため息をついて、私は大人しく算数のテキストを開く……フリをして、まずはやはり羊羹にかぶりつくのたった。
がぶり。
(あら、栗入りでした。ラッキー)
鹿王院くんは少し寂しそうに反駁した。
(え、あ、もしかして鹿王院くん友達じゃないとか言われたと思ってる!?)
それは誤解だ。曲がりなりにも友達になれたとちょっと思っているーーと言おうとして、その前に口をひらかれた。
「そうだな。俺は友達ではなく許婚だし」
私はぽかんと口を開いた。
(そっち!?)
勝手に鹿王院くんは納得したように頷いた。
「そろそろ行こう。茶受けに祖母が羊羹を買ってきている。なかなか美味いぞ」
くるりと踵を返し歩き出そうとする鹿王院くんのシャツの裾を、慌ててぎゅっと握った。
「……なんだ?」
不思議そうに首をかしげる鹿王院くん。しかし、耳の先がほのかに赤い。
(あ、怒って……はないかな? どうだろう)
とりあえずシャツを離し「ねえ、鹿王院くんのお祖母様にお会いする前に、聞きたいことがあるの」と言った。
念のために、羊羹のことではない。
気になるが。
(普通のいわゆる羊羹なの? それとも抹茶入りなの? 私は栗入りが好きなんだけど? って、違う)
「なんだ?」
「ねぇ、本当にいいの? 許婚なんて」
「……俺は、……構わない」
「そんな風に決めて大丈夫? だって、これから好きな人とか、できたり、とか」
(てか出来るのよ鹿王院くん! ヒロインちゃんが! 高校2年になったら入学してくるのよ!?)
ちなみに鹿王院くんは先輩枠だったりする。
「……華は、嫌だろうか。俺と婚約するのは」
(……!? 何その悲しそうな目! 子犬のような!)
鹿王院くんの方がよほど背が高いのに、まるで幼子を相手にしているような気分になった。
(いや、そりゃアラサー的精神年齢としてはそうなんだけど……)
そんな風に言われたら断りづらいではないか……。
「でも、鹿王院くん、好きな人、出来るかもよ?」
「……華にできるのではなく?」
「んっ? ああ私? それは……あんまり考えてなかったや」
「そうか」
なぜかホッとしたように微笑むと「その時はまた考える」とぽつりと言った。
「まぁ大丈夫だ」
「大丈夫なの?」
「そうだ」
まっすぐな目で私を見てくる鹿王院くん。
(うーん、まぁその時は考える、という言質も頂いたし、またヒロインちゃんなり、好きな人なり現れてから考えたら、いいの、かな)
そのまっすぐな瞳に気圧されるように「う、ん」と頷く。
「……それから」
鹿王院くんは少し迷うように呟いた。
「できれば、下の名前で呼んで欲しい。いつき、と」
「え? あ、うん。樹、くん?」
私がそう言うと、鹿王院……じゃない、樹くんはさっと私の手を握って歩き出した。
「え、あの、樹くん?」
「……お茶が冷めるぞ」
「あ、ほんと? ご、ごめんね」
その成長過程の背中を眺めていると、やはり耳が赤い気がした。
(お熱? でも体調悪くはなさそうだけど)
考えている間に、広間に到着した。
「あらやだほんと華、はぐれないでよ」
「ごめんなさい敦子さん、でも早足すぎでした」
「まぁでも、王子様にお出迎えしてもらえて良かったじゃない?」
にっこり、とウインクを送ってくる敦子さん。王子様て。相変わらず超ポジティブだ。
「こんにちは華ちゃん、顔色良さそうね」
「あ、ろく…….じゃない、樹くんのお祖母様、お邪魔してます、すみません、いきなり迷って」
「いいのいいの、分かりにくいでしょ。でもまぁ将来は住むのだから、じきに覚えるでしょう」
うふふ、と上品に微笑むお祖母様。
(やっぱ結婚前提なのか……お金持ちって良く分かんない)
とりあえず曖昧に微笑んでみる。
「じゃあ2人はそっちの机でお勉強なさい。私たちは今からアナタたちの婚約披露会の話し合いをしてますから」
「……披露会!?」
(な、なにそれっ? 気が早くない!?)
驚く私を見て、敦子さんは笑って「ウチは親戚少ないけど、鹿王院さんは多いからね。きちんとご挨拶しておかないと」とちょっとズレた返答をしてきた。
なんと言えば良いのか分からずアワアワしていると樹くんに「華、こっちだ。算数からしよう」と言われる。
見ると、すでにテキストが用意してあった。ノートなども新しいものが並んでいる。
(もうこうなったらなるようにな~~れ、だわ)
一つ諦めのため息をついて、私は大人しく算数のテキストを開く……フリをして、まずはやはり羊羹にかぶりつくのたった。
がぶり。
(あら、栗入りでした。ラッキー)
41
あなたにおすすめの小説
傷物令嬢は魔法使いの力を借りて婚約者を幸せにしたい
棗
恋愛
ローゼライト=シーラデンの額には傷がある。幼い頃、幼馴染のラルスに負わされた傷で責任を取る為に婚約が結ばれた。
しかしローゼライトは知っている。ラルスには他に愛する人がいると。この婚約はローゼライトの額に傷を負わせてしまったが為の婚約で、ラルスの気持ちが自分にはないと。
そこで、子供の時から交流のある魔法使いダヴィデにラルスとの婚約解消をしたいと依頼をするのであった。
ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する
ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。
皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。
ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。
なんとか成敗してみたい。
彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~
プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。
※完結済。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ
朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。
理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。
逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。
エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。
すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした
珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。
色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。
バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。
※全4話。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる