【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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悪役令嬢は大凶を引いちゃいがち

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「うう……やっと登りきった」
「……華、体力ないんやな」
「運動不足かなぁ……」

 神社の、長い参道の階段を登りきり、ふう、と一息をつく。

 2人並んで本殿に参拝する。二礼二拍手一礼。ぺこり。

(どうか、平穏無事な人生がおくれますように)

 気合を込めてお願いする。
 ふとアキラくんを見ると、アキラくんもちょうど顔を上げたところだった。

「お願い、できた?」
「おう。ちょーお願いしたわ」

 アキラくんは真剣な顔で言った。

(なんだろ。大事なお願いだったんだろうな)

 そう思いながら、ふと境内を見回す。

「あ、おみくじ」
「ほんまや」
「ひいてみる?」
「そうしよか」

 並んでおみくじを引く。
 巫女さんは私たちを見てにこにこと微笑みながら、おみくじの紙を渡してくれた。

「お、中吉や」
「………だ、大凶」

 私はおみくじを持ったまま、ぷるぷる震えた。

(だ、大凶なんて初めて引いたっ)

 ひょい、とアキラくんが私のおみくじを覗き込む。

「あっ、ええなぁ華、大凶やん」
「えぇ……いい?」
「おう。なんか、戦ったろーっていう気になるやん!」

 にかっ、と笑うアキラくん。

「? なにと?」

 首を傾げて、聞き返す。

「運命? なんかそんな感じのやつ」
「……運命」

 私は、もう一度、おみくじを眺めた。

「負けたらんで! っていう気にならへん?」
「ん、ちょっとなってきた」

 私は微笑み返す。

「せやろ?」

 笑うアキラくん。

「なんか、そっちのがカッコええやんか!」
「あは、そだね」

 とりあえず、私は近くのおみくじを結ぶ紐に、それをくくりつける。

(いつか、もし。私が"運命"とやらに、負けそうになったときは、このこと思い出そう)

「……負けたらんで、か」

 結びながら、私はそう、ひとりごちた。

「この後、どうする? 大仏さん見る?」
「あ、俺な、海見てみたいねん」
「海? 神戸にもあるんじゃない?」
「いや、江ノ島? なんかようテレビで見るやん」
「ああ」
「路面電車乗ってみたいし」
「神戸にはないの?」
「京都まで行けばあるけどな」

 大阪にもあったかもしれん、とアキラくんは首をひねった。

「じゃあ、路面電車乗って江ノ島までいってみようか」
「おう」
「しらす丼食べよう」
「どうなんやあれ、美味いんかな」
「どうだろう……」

 私は少し頭を傾げた。

(アラサー的にはすごく美味しそうだけど、小学生の胃には物足りないかな?)

 海鮮丼とか、もはやお肉とかのほうがいいのかも。

「ま、行けば色々あると思うよ」
「せやな!」

 再び、元気に私の手を取るアキラくん。
 神社から駅へ戻り、路面電車で一路、江ノ島へ。

「えっこんな住宅街の中でとか通るん!? いや予想以上なんやけど!」
「でしょでしょ、これテンション上がるでしょ!?」

 ひよりちゃんとかは地元育ちなので、この路面電車スペクタクル(?)にすっかり慣れてしまっていて、この感動が共有できなかったのだ。

「あ、そういや」
「ん?」
「お守り、付けてくれてるんやな」

 アキラくんは、私のポシェットに付いているお守りを、そっと触った。

「うん、いつも付けてるよ」
「ほんま?」
「普段は学校用のカバンに付けてるんだけど」
「めっちゃ嬉しいわ、サンキューな」 

 アキラくんは、すこしだけ頰を赤くして、なぜかお礼を言ってくれた。

「? お礼を言うのは私じゃない? 貰ったんだし」
「せやけどやな……あ、せや、お土産」

 アキラくんは小さな紙袋を渡してくれた。

「え、うそ、ありがと! どうしよ、私何もないや」
「ええねん、俺は華に会えただけで幸せやねん、単に俺が華にプレゼントしたかっただけや」

  紙袋の中には、小さな黒いクマのぬいぐるみ。

「これ、神戸のキャラやねん。なんかええやろ、ゆるいやろ」
「うわ、可愛い! こんなのいたんだ」
「せやろ。なんか華に似てるやろ」
「えっ似てる?」

 私って、悪役令嬢やれるくらいは美人なはず、なんですが……ま、このクマさん可愛いからいっか!
 そんなこんなではしゃいでいる内に、江ノ島駅に着く。

「うお、人やばっ」
「晴れてるからね~」

 とにかく、人、人、人、だ。

「はぐれんようにせなな」

 アキラくんはにっこり笑って、私と手を繋ぐ。
 歩きながら、ガイドブックで読んだ知識を披露してみる。

「えっとね、ここの神様は恋愛成就とかにご利益があるんだって」
「めっちゃええやん」

 アキラくんは、繋いだ手をぶんぶんと振る。ご機嫌そうだ。

「でもね、カップルで参拝すると別れる、っていうジンクスが」

 アキラくんは、ぱっと手を離した。

「カップルじゃないフリせなあかんな?」

 眉根を寄せて、かなり真剣な表情だ。私は首をかしげる。

(そもそもカップルじゃないしなあ、あ、これがもしかしてボケってやつなの!?)

 こういう時は、きっと「何でやねん付き合っとらんわ!」とか言うんだ。

(う、でもハードルが高いよう)

 多少の恥ずかしさがある。しょうがない、ボケに気づかなかったフリをしよう、うん、ごめんねアキラくん……。

「あ、えと、でも、ほら、ご夫婦で来られてる方もたくさんいるし、大丈夫なんじゃない!?」
「あ、ほんまやな。ほな大丈夫や」

 ボケを流しちゃった私なのに、アキラくんは優しく笑って、また手を繋いでくれた。今度はなんでか、ぎゅっ、と強く。

(うう、ごめんねアキラくん、ちゃんとお笑い勉強しておくからね)

 まぁ勉強しようにも、テレビないからなぁ。

(そういえば……、テレビ無いの、多分私がニュースを見ないように、だよね)

 華のお母さんの事件は、あの新聞記事からすると、どうやらかなり大きく取り上げられていたみたいだ。どうやったって、起訴や判決が出ればニュースになる。私が、それを目にしたら「あの時の記憶」が戻るのではないか、と心配したのだろう。
 実際、たったあれだけの情報で、断片的ではあるが、華の記憶が戻った……というよりは、華の記憶をほんの少し覗き見た、という方が正確だろうか。

「華?」
「あ、ごめん、ちょっとボーっと」
「華」

 アキラくんは笑って、手を離して、両手を私の頰に当てた。包み込むように。

「華、なぁ華、今日は俺といる日やろ、俺だけの日やろ、他のこと考えんとって、俺のことだけ見て俺のことだけ考えとって」

 年下らしく、甘えるような口調。
 なのに、なぜかその微笑む表情は、ひどく大人びていて。

「な?」
「え、あ、うん、ごめん」

 つい、謝ってしまう。

「それともなんか、心配なことあるん? なんでも聞くし、華のためならなんでもやるで、俺」

 アキラくんは微笑み一転、真剣な表情で、そう言う。

「ううん、大丈夫、ほんとに」
「ほんま?」
「うん」
「ならやっぱ、俺のことだけな、今日」
「あは、うん、今日はアキラくんだけ」
「今日だけやなくても、ええねんけ「あっアキラくんあれしらす丼!」

 私はしらす丼の看板を見つけて、思わず叫んでしまった。

(ああ、思ってたより美味しそう……)

 思わず駆け寄り、うっとりとお店のドアに貼ってある写真付きのメニューを眺める。

(ああ、生きのいいしらす)

 ツバが湧いてきちゃう。
 アキラくんを振り返ると、お腹を抱えて爆笑していた。

(なんで!?)

 不思議そうな私に気づいたのだろう、アキラくんは「ごめんごめん」と言いながら私に駆け寄って来てくれた。

「いや、これぞ華やな、華らしいな思て」

 そして、手を繋ぎ直す。

「あかん、今日ほんまちょー楽しいわ!」
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