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関西弁少年、鎌倉へ来る
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アキラくんと、約束の日。
(元気かな。ちょっとドキドキ)
少し緊張しつつ(何せ一年ぶりなのだ)電車で、鎌倉駅へ向かう。
改札から出た瞬間、アキラくんの元気な声とハグに出迎えられた。
「華やーーーーっ!」
「うわぁアキラくんっ苦しい苦しいっ」
「髪切っとるやんけ可愛いっ似合うっ」
ぎゅーぎゅーと抱きしめられ、思わずアキラくんの腕を軽く叩く。
「めっちゃ可愛いっ」
「待って、ぎぶぎぶぎぶぎぶ」
「うおお、すまんっ華っ死なんといて!」
「いや、死にはしないけども」
ふう、と一息ついてアキラくんを見上げた。
(ん? 見上げた?)
少し小さいくらいの背だったアキラくんが、わずか一年で私を大きく追い抜いてしまっていた。
(まぁ、あれは松葉杖で姿勢悪かったのもあるかもしれないけど)
「背ぇ伸びたねぇ」
思わずアキラくんの頭に手を置いた。
むっ、と頬を軽く赤くしてアキラくんは口を尖らせる。
「やから小さい子扱いすなって。一個しか違わんのやし、そもそも俺のがでかいしー?」
自慢げに腰に手を当てるアキラくん。
私は笑いながら「ごめんごめん」と謝った。
「ほんなら行こか!」
するっ、と自然に手を繋がれる。
(おー、さすがというかなんというか、女の子扱いに慣れている……)
小学生なのになぁ、と半ば感心しながら着いて行く。
が、数メートル進んですぐにぴたりと止まって振り返った。
「……で、どっちやっけ?」
「ん?」
「いや、華、突っ込んでや。お前道知らんやろて」
「あ、そっか」
あまりに自信満々に進むので、なんとなく着いて行ってしまっていた。ツッコミ待ちだったらしい。
「華、あかんで。そんなぽけーっとしてたら」
「ご、ごめんごめん」
「変な男とかに着いて行ったらあかんで」
「行かないよ」
「ほんまかなぁ」
「大丈夫だよ、お……」
大人なんだから、と言いそうになって飲み込んだ。危ない危ない。
「お?」
「お、お……男の人になんか着いていかない、からっ」
「おう、その意気やっ!」
(な、なんとかごまかせたかな?)
私は1人で苦笑いをして、それから今度は私がアキラくんの手を引いて駅の構内を出た。
「とはいえ、私もあんまり知らないんだけど」
と言い訳しつつ、まず案内したのは近くの大きな神社。
手を繋いだまま(まだ4月とはいえ、暑くないのだろうか? 小学生ってこんな感じだったっけ?)段葛という、他の道より一段高くなっている参道に上がる。
「う、わ」
ぶわ、っと真っ直ぐに続く桜の道。散り始めが近いのか、花びらも綺麗に桜色に染まってちる。豪華だ。
「うお、キレイやなぁ」
「桜好きなの?」
「せやな、好きかも」
(あ)
桜から透けるように落ちる日の光を眺めながら、私はとあることを思い出した。
例の乙女ゲーム……"ブルーローズにお願い"の、ヒロインのことだ。確か、彼女は「桜」をモチーフとしたキャラクターじゃなかっただろうか。
(幸い? というか、なんというか、まだ"ブルーローズ"のヒロインちゃんには遭遇してないけど)
いい子だといいなぁ、と思う。
(そうしたら、邪魔なんかしませんから……せめて、ルナみたいな子では、ありませんように……)
心からそう祈る。
そういえば、"ブルーローズ"では、ヒロインの各攻略対象との出会いも確か、桜が関係していたと思う。
(アキラくんは桜が好き、か。既に物語の布石は打たれてる、って感じなのかな)
少しばかり複雑な気持ちになって、私はふと足を止めて鳥居の向こうの神社をながめた。
段葛の先には三の鳥居、そしてその先の階段を上がれば勇壮な神社の本殿が。
「「あ」」
2人で思わず声をあげた。
段葛の横の通りを、白無垢の花嫁と紋付袴の新郎を乗せた人力車が、ゆっくりと通り過ぎて行った。
周りの観光客も嬉しそうに拍手をしたり、微笑んだりして彼らを見守っている。
外国人と思しき観光客は、着物姿が珍しいのだろう、大きな一眼レフカメラを向けている。
しあわせな光景。
(うう、胸が痛い……)
"私だって"……かつて、前世で何度も思ったのだ。
"この人なら"と。"今度こそ"と、何度も。
(まぁ、なぜか毎回ッ!! セカンド彼女だったんですけどね……)
フリーだったはずの人と付き合っても、気がつけば向こうに"本命"ができている、悲しき日々だった……あれも"運命"だったのだろうか?
胸に詰まった思いを、そっとため息にして吐き出す。
「……華?」
不思議そうなアキラくん。
「あ、ごめん。……綺麗だったね」
「せやなぁ」
「……憧れるなぁって」
「お、和装派なん? 覚えとくわ」
なぜか神妙に頷くアキラくん。覚えといてどうするんだ。
(前世でもそういうの良く言われたなぁ、本命にする気もなかったくせにっ)
「似合うやろうなぁ」となぜか嬉しそうなアキラくんにさえ、ハイハイお世辞ありがとーみたいな逆恨み的感情がうずまく。
(完全にやさぐれモードだわ)
口を尖らせたまま、ぽつりと呟く。
「幸せな結婚がしたい」
「おう」
なぜかアキラくんが微笑んで、ぎゅうっと手を握ってくれた。君はさっきからなんなんだ。元気付けようとしてくれてるのか。
(小学生に心配かけてっ……)
情けないぞ、中身はアラサーなのに!
気を取り直して、とりわけ元気な声で「よし! 行こうっ」と声をあげた。
(元気かな。ちょっとドキドキ)
少し緊張しつつ(何せ一年ぶりなのだ)電車で、鎌倉駅へ向かう。
改札から出た瞬間、アキラくんの元気な声とハグに出迎えられた。
「華やーーーーっ!」
「うわぁアキラくんっ苦しい苦しいっ」
「髪切っとるやんけ可愛いっ似合うっ」
ぎゅーぎゅーと抱きしめられ、思わずアキラくんの腕を軽く叩く。
「めっちゃ可愛いっ」
「待って、ぎぶぎぶぎぶぎぶ」
「うおお、すまんっ華っ死なんといて!」
「いや、死にはしないけども」
ふう、と一息ついてアキラくんを見上げた。
(ん? 見上げた?)
少し小さいくらいの背だったアキラくんが、わずか一年で私を大きく追い抜いてしまっていた。
(まぁ、あれは松葉杖で姿勢悪かったのもあるかもしれないけど)
「背ぇ伸びたねぇ」
思わずアキラくんの頭に手を置いた。
むっ、と頬を軽く赤くしてアキラくんは口を尖らせる。
「やから小さい子扱いすなって。一個しか違わんのやし、そもそも俺のがでかいしー?」
自慢げに腰に手を当てるアキラくん。
私は笑いながら「ごめんごめん」と謝った。
「ほんなら行こか!」
するっ、と自然に手を繋がれる。
(おー、さすがというかなんというか、女の子扱いに慣れている……)
小学生なのになぁ、と半ば感心しながら着いて行く。
が、数メートル進んですぐにぴたりと止まって振り返った。
「……で、どっちやっけ?」
「ん?」
「いや、華、突っ込んでや。お前道知らんやろて」
「あ、そっか」
あまりに自信満々に進むので、なんとなく着いて行ってしまっていた。ツッコミ待ちだったらしい。
「華、あかんで。そんなぽけーっとしてたら」
「ご、ごめんごめん」
「変な男とかに着いて行ったらあかんで」
「行かないよ」
「ほんまかなぁ」
「大丈夫だよ、お……」
大人なんだから、と言いそうになって飲み込んだ。危ない危ない。
「お?」
「お、お……男の人になんか着いていかない、からっ」
「おう、その意気やっ!」
(な、なんとかごまかせたかな?)
私は1人で苦笑いをして、それから今度は私がアキラくんの手を引いて駅の構内を出た。
「とはいえ、私もあんまり知らないんだけど」
と言い訳しつつ、まず案内したのは近くの大きな神社。
手を繋いだまま(まだ4月とはいえ、暑くないのだろうか? 小学生ってこんな感じだったっけ?)段葛という、他の道より一段高くなっている参道に上がる。
「う、わ」
ぶわ、っと真っ直ぐに続く桜の道。散り始めが近いのか、花びらも綺麗に桜色に染まってちる。豪華だ。
「うお、キレイやなぁ」
「桜好きなの?」
「せやな、好きかも」
(あ)
桜から透けるように落ちる日の光を眺めながら、私はとあることを思い出した。
例の乙女ゲーム……"ブルーローズにお願い"の、ヒロインのことだ。確か、彼女は「桜」をモチーフとしたキャラクターじゃなかっただろうか。
(幸い? というか、なんというか、まだ"ブルーローズ"のヒロインちゃんには遭遇してないけど)
いい子だといいなぁ、と思う。
(そうしたら、邪魔なんかしませんから……せめて、ルナみたいな子では、ありませんように……)
心からそう祈る。
そういえば、"ブルーローズ"では、ヒロインの各攻略対象との出会いも確か、桜が関係していたと思う。
(アキラくんは桜が好き、か。既に物語の布石は打たれてる、って感じなのかな)
少しばかり複雑な気持ちになって、私はふと足を止めて鳥居の向こうの神社をながめた。
段葛の先には三の鳥居、そしてその先の階段を上がれば勇壮な神社の本殿が。
「「あ」」
2人で思わず声をあげた。
段葛の横の通りを、白無垢の花嫁と紋付袴の新郎を乗せた人力車が、ゆっくりと通り過ぎて行った。
周りの観光客も嬉しそうに拍手をしたり、微笑んだりして彼らを見守っている。
外国人と思しき観光客は、着物姿が珍しいのだろう、大きな一眼レフカメラを向けている。
しあわせな光景。
(うう、胸が痛い……)
"私だって"……かつて、前世で何度も思ったのだ。
"この人なら"と。"今度こそ"と、何度も。
(まぁ、なぜか毎回ッ!! セカンド彼女だったんですけどね……)
フリーだったはずの人と付き合っても、気がつけば向こうに"本命"ができている、悲しき日々だった……あれも"運命"だったのだろうか?
胸に詰まった思いを、そっとため息にして吐き出す。
「……華?」
不思議そうなアキラくん。
「あ、ごめん。……綺麗だったね」
「せやなぁ」
「……憧れるなぁって」
「お、和装派なん? 覚えとくわ」
なぜか神妙に頷くアキラくん。覚えといてどうするんだ。
(前世でもそういうの良く言われたなぁ、本命にする気もなかったくせにっ)
「似合うやろうなぁ」となぜか嬉しそうなアキラくんにさえ、ハイハイお世辞ありがとーみたいな逆恨み的感情がうずまく。
(完全にやさぐれモードだわ)
口を尖らせたまま、ぽつりと呟く。
「幸せな結婚がしたい」
「おう」
なぜかアキラくんが微笑んで、ぎゅうっと手を握ってくれた。君はさっきからなんなんだ。元気付けようとしてくれてるのか。
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