49 / 702
4
悪役令嬢はクッキーを頬張る
しおりを挟む
ていうか、染色体XXならいいのか。ストライクゾーン広すぎない?
「それは、相当な女性好きで……」
「うーん、ていうかね、あれは復讐なのよ。愚兄なりの。全く理解できないんだけど」
千晶ちゃんは、ゆっくりと紅茶を口に含んだ。
「わたしたちの母親ね、わたしが生まれてすぐ、出てっちゃったみたいで」
「え」
「もともと政略結婚みたい。でもまぁ、オトコ作って出てくのはね、褒められたものではないよね」
「うーん」
「でね、愚兄は母親がオトコ作ったのにもショック受けてるし、自分置いてったことにもショック受けてるのよ」
「まぁねぇ……」
それは傷つく、と思う。特に、まだ幼かったのならば、なおのこと。
「それで、彼女……っていうか、もうオンナ取っ替え引っ替えよ。女性性、というものに憧憬と憎悪を同時に抱いちゃってる的な」
「的な」
すごく難しいことを言われている気がする……。
「"サムシングブルー"ではさ、その辺りをヒロインが癒していくわけだけど」
「あ、そういや」
私はぽん、と手を叩いた。
「ごめん、"ブルームーン""ブルーローズ""サムシングブルー"って、どういう順? ていうか、いつシナリオ開始なのかな、それぞれ」
「ああ、えっとね」
千晶ちゃんは首を傾げた。
「まず"ブルームーン"シナリオ開始は、わたしたちが高校1年のとき。悪役令嬢はひよりちゃんで、ヒロインは言わずと知れた松影ルナ。ちなみにデフォルト名です。同級生ね」
「うん」
「それから、華ちゃんが悪役令嬢となる"ブルーローズ"、これは私たちが高校2年生になったときがシナリオスタート。ヒロインは1つ下の子。彼女の入学式がシナリオのスタート」
「どんな子かな……」
「いい子だといいよね」
千晶ちゃんは、少し気遣わしげに言った。
「それから"サムシングブルー"、わたしが悪役令嬢です。わたしたちは、高校3年生だよ。ヒロインは同級生なんだけど、転校生になります」
「高3で転校?」
「学園はそもそも付属高校なの。大学にエスカレーターで行けるから、早めに転入試験受けて入ってくる子もいるんだって」
「へえ」
「特に成績優秀な人は授業料免除になるから。ヒロインもそれで転校してきたのよ、親の負担になりたくないって」
「なるほどね」
ゲームとか漫画で良くあるパターン、かもしれない。
「んで、さっきの愚兄ですが」
「あ、はい」
グケイってなんか妖怪の鳴き声みたいな響きだよな……。グケイグケイ。
「愚兄はね、付属の大学に通ってて、部活の指導をしに、母校である学園に来てて。その時にヒロインと出会うわけ」
千晶ちゃんはケッ、という顔をした。
「いつまでも先輩ヅラして通っちゃってさ、後輩からウザがられたらいいのに」
「ち、千晶ちゃん、キャラ変わってる」
「え、あ、うふふ」
「うふふ」
しばし微笑み合う。
お互い、紅茶をひとくち、ふたくち。
「えーと、ごほん。と、まぁ。そんな感じです」
「なるほどねえ……、分かったような、分からないような」
「また分からないことあったら聞いて?」
「うん、そうさせてもらいます」
私はぱくり、とクッキーを食べた。美味しい。止まらない。もぐもぐ。
「あ、そういえばね」
「うん?」
クッキーを口にする合間の私の問いかけに、軽く首をかしげる千晶ちゃん。ポニーテールかフワリと揺れて、大変可愛らしい。
「明日、アキラくんと会うんだけど」
「うん、アキラくんかぁ、……え!?」
突然の大声に、びくりとなる私。
「な、なに!?」
「えっ、山ノ内瑛くん!?」
「う、うん」
「なんでもう出会ってるの!?」
「え、い、言ってなかったっけ」
「聞いてないよ~」
驚き顔の千晶ちゃんに、アキラくんとの出会いについて話す。一年間、文通していることも。
「そ、そうなのかぁ……」
「うん、記憶戻って訳わからない時に支えてくれた、マジのガチでマブダチなの」
「マブダチって……はぁ、そう。しかしびっくりしたわ」
やや落ち着きを取り戻した千晶ちゃんは「そんなこともあるのねぇ」とひとりごとのような、相づちのようなことを呟いた。
「で、ね。どこ案内したらいいかな? 観光スポット的な」
「あまり時間がなさそうだし、行けて二箇所くらいかなと思うよ」
千晶ちゃんは本棚から、鎌倉の地図を取り出して、いくつかの観光名所を教えてくれた。
「はー。ありがとう。私も良くウロウロしてるんだけどね、鎌倉。良く分かってないから」
「あは。わたしね、前世、日本史の先生してたの」
はにかむように、千晶ちゃん。
「だから、結構この土地は好きかな」
「そうなんだ……あ、じゃ、それで日本史の教科書、お兄さんに借りたの?」
「ん?」
千晶ちゃんは、テーブルの上の日本史の教科書をチラリと見遣ると「ちょっとね」と肩をすくめた。
「気になることがあって」
「ふうん?」
それからしばらく、益体も無いことをツラツラと話してから、私は迎えに来てくれた、島津さんの運転する車で、鍋島邸を辞した。
もちろんクッキーの生みの親、ノゾミさんにはしっかりとお礼を言わせていただいた。あんなに、美味しいクッキーをこの世に生み出してくれてありがとう。
しかし最近、島津さんは私専門みたいになってて、ちょっと申し訳ないような気がしてる。結構待たせたりしちゃうし。
(いつか、お礼しなきゃなぁ)
お礼しなきゃいけないことだらけだ。
「華様は、鍋島様ともお付き合いがあるんですねぇ」
「え、島津さん、鍋島さんのこと知ってるんですか?」
「ええ、地元の代議士さんですから」
「代議士……というと」
「衆議院議員をされているはず、ですよ。多分お祖父様でしょうか。代々政治家の御家系で」
「ふはー」
思わず変な声がでた。
(ガチお嬢様だあ)
それから、少し首をかしげる。
(なのに、どうして初等部から学園に行ってないんだろ?)
それだけが、ちょっと疑問に残った。
「それは、相当な女性好きで……」
「うーん、ていうかね、あれは復讐なのよ。愚兄なりの。全く理解できないんだけど」
千晶ちゃんは、ゆっくりと紅茶を口に含んだ。
「わたしたちの母親ね、わたしが生まれてすぐ、出てっちゃったみたいで」
「え」
「もともと政略結婚みたい。でもまぁ、オトコ作って出てくのはね、褒められたものではないよね」
「うーん」
「でね、愚兄は母親がオトコ作ったのにもショック受けてるし、自分置いてったことにもショック受けてるのよ」
「まぁねぇ……」
それは傷つく、と思う。特に、まだ幼かったのならば、なおのこと。
「それで、彼女……っていうか、もうオンナ取っ替え引っ替えよ。女性性、というものに憧憬と憎悪を同時に抱いちゃってる的な」
「的な」
すごく難しいことを言われている気がする……。
「"サムシングブルー"ではさ、その辺りをヒロインが癒していくわけだけど」
「あ、そういや」
私はぽん、と手を叩いた。
「ごめん、"ブルームーン""ブルーローズ""サムシングブルー"って、どういう順? ていうか、いつシナリオ開始なのかな、それぞれ」
「ああ、えっとね」
千晶ちゃんは首を傾げた。
「まず"ブルームーン"シナリオ開始は、わたしたちが高校1年のとき。悪役令嬢はひよりちゃんで、ヒロインは言わずと知れた松影ルナ。ちなみにデフォルト名です。同級生ね」
「うん」
「それから、華ちゃんが悪役令嬢となる"ブルーローズ"、これは私たちが高校2年生になったときがシナリオスタート。ヒロインは1つ下の子。彼女の入学式がシナリオのスタート」
「どんな子かな……」
「いい子だといいよね」
千晶ちゃんは、少し気遣わしげに言った。
「それから"サムシングブルー"、わたしが悪役令嬢です。わたしたちは、高校3年生だよ。ヒロインは同級生なんだけど、転校生になります」
「高3で転校?」
「学園はそもそも付属高校なの。大学にエスカレーターで行けるから、早めに転入試験受けて入ってくる子もいるんだって」
「へえ」
「特に成績優秀な人は授業料免除になるから。ヒロインもそれで転校してきたのよ、親の負担になりたくないって」
「なるほどね」
ゲームとか漫画で良くあるパターン、かもしれない。
「んで、さっきの愚兄ですが」
「あ、はい」
グケイってなんか妖怪の鳴き声みたいな響きだよな……。グケイグケイ。
「愚兄はね、付属の大学に通ってて、部活の指導をしに、母校である学園に来てて。その時にヒロインと出会うわけ」
千晶ちゃんはケッ、という顔をした。
「いつまでも先輩ヅラして通っちゃってさ、後輩からウザがられたらいいのに」
「ち、千晶ちゃん、キャラ変わってる」
「え、あ、うふふ」
「うふふ」
しばし微笑み合う。
お互い、紅茶をひとくち、ふたくち。
「えーと、ごほん。と、まぁ。そんな感じです」
「なるほどねえ……、分かったような、分からないような」
「また分からないことあったら聞いて?」
「うん、そうさせてもらいます」
私はぱくり、とクッキーを食べた。美味しい。止まらない。もぐもぐ。
「あ、そういえばね」
「うん?」
クッキーを口にする合間の私の問いかけに、軽く首をかしげる千晶ちゃん。ポニーテールかフワリと揺れて、大変可愛らしい。
「明日、アキラくんと会うんだけど」
「うん、アキラくんかぁ、……え!?」
突然の大声に、びくりとなる私。
「な、なに!?」
「えっ、山ノ内瑛くん!?」
「う、うん」
「なんでもう出会ってるの!?」
「え、い、言ってなかったっけ」
「聞いてないよ~」
驚き顔の千晶ちゃんに、アキラくんとの出会いについて話す。一年間、文通していることも。
「そ、そうなのかぁ……」
「うん、記憶戻って訳わからない時に支えてくれた、マジのガチでマブダチなの」
「マブダチって……はぁ、そう。しかしびっくりしたわ」
やや落ち着きを取り戻した千晶ちゃんは「そんなこともあるのねぇ」とひとりごとのような、相づちのようなことを呟いた。
「で、ね。どこ案内したらいいかな? 観光スポット的な」
「あまり時間がなさそうだし、行けて二箇所くらいかなと思うよ」
千晶ちゃんは本棚から、鎌倉の地図を取り出して、いくつかの観光名所を教えてくれた。
「はー。ありがとう。私も良くウロウロしてるんだけどね、鎌倉。良く分かってないから」
「あは。わたしね、前世、日本史の先生してたの」
はにかむように、千晶ちゃん。
「だから、結構この土地は好きかな」
「そうなんだ……あ、じゃ、それで日本史の教科書、お兄さんに借りたの?」
「ん?」
千晶ちゃんは、テーブルの上の日本史の教科書をチラリと見遣ると「ちょっとね」と肩をすくめた。
「気になることがあって」
「ふうん?」
それからしばらく、益体も無いことをツラツラと話してから、私は迎えに来てくれた、島津さんの運転する車で、鍋島邸を辞した。
もちろんクッキーの生みの親、ノゾミさんにはしっかりとお礼を言わせていただいた。あんなに、美味しいクッキーをこの世に生み出してくれてありがとう。
しかし最近、島津さんは私専門みたいになってて、ちょっと申し訳ないような気がしてる。結構待たせたりしちゃうし。
(いつか、お礼しなきゃなぁ)
お礼しなきゃいけないことだらけだ。
「華様は、鍋島様ともお付き合いがあるんですねぇ」
「え、島津さん、鍋島さんのこと知ってるんですか?」
「ええ、地元の代議士さんですから」
「代議士……というと」
「衆議院議員をされているはず、ですよ。多分お祖父様でしょうか。代々政治家の御家系で」
「ふはー」
思わず変な声がでた。
(ガチお嬢様だあ)
それから、少し首をかしげる。
(なのに、どうして初等部から学園に行ってないんだろ?)
それだけが、ちょっと疑問に残った。
20
あなたにおすすめの小説
傷物令嬢は魔法使いの力を借りて婚約者を幸せにしたい
棗
恋愛
ローゼライト=シーラデンの額には傷がある。幼い頃、幼馴染のラルスに負わされた傷で責任を取る為に婚約が結ばれた。
しかしローゼライトは知っている。ラルスには他に愛する人がいると。この婚約はローゼライトの額に傷を負わせてしまったが為の婚約で、ラルスの気持ちが自分にはないと。
そこで、子供の時から交流のある魔法使いダヴィデにラルスとの婚約解消をしたいと依頼をするのであった。
ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する
ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。
皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。
ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。
なんとか成敗してみたい。
彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~
プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。
※完結済。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ
朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。
理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。
逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。
エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。
すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした
珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。
色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。
バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。
※全4話。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる