【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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悪役令嬢はクッキーを頬張る

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 ていうか、染色体XXならいいのか。ストライクゾーン広すぎない?

「それは、相当な女性好きで……」
「うーん、ていうかね、あれは復讐なのよ。愚兄なりの。全く理解できないんだけど」

 千晶ちゃんは、ゆっくりと紅茶を口に含んだ。

「わたしたちの母親ね、わたしが生まれてすぐ、出てっちゃったみたいで」
「え」
「もともと政略結婚みたい。でもまぁ、オトコ作って出てくのはね、褒められたものではないよね」
「うーん」
「でね、愚兄は母親がオトコ作ったのにもショック受けてるし、自分置いてったことにもショック受けてるのよ」
「まぁねぇ……」

 それは傷つく、と思う。特に、まだ幼かったのならば、なおのこと。

「それで、彼女……っていうか、もうオンナ取っ替え引っ替えよ。女性性、というものに憧憬と憎悪を同時に抱いちゃってる的な」
「的な」

 すごく難しいことを言われている気がする……。

「"サムシングブルー"ではさ、その辺りをヒロインが癒していくわけだけど」
「あ、そういや」

 私はぽん、と手を叩いた。

「ごめん、"ブルームーン""ブルーローズ""サムシングブルー"って、どういう順? ていうか、いつシナリオ開始なのかな、それぞれ」
「ああ、えっとね」

 千晶ちゃんは首を傾げた。

「まず"ブルームーン"シナリオ開始は、わたしたちが高校1年のとき。悪役令嬢はひよりちゃんで、ヒロインは言わずと知れた松影ルナ。ちなみにデフォルト名です。同級生ね」
「うん」
「それから、華ちゃんが悪役令嬢となる"ブルーローズ"、これは私たちが高校2年生になったときがシナリオスタート。ヒロインは1つ下の子。彼女の入学式がシナリオのスタート」
「どんな子かな……」
「いい子だといいよね」

 千晶ちゃんは、少し気遣わしげに言った。

「それから"サムシングブルー"、わたしが悪役令嬢です。わたしたちは、高校3年生だよ。ヒロインは同級生なんだけど、転校生になります」
「高3で転校?」
「学園はそもそも付属高校なの。大学にエスカレーターで行けるから、早めに転入試験受けて入ってくる子もいるんだって」
「へえ」
「特に成績優秀な人は授業料免除になるから。ヒロインもそれで転校してきたのよ、親の負担になりたくないって」
「なるほどね」

 ゲームとか漫画で良くあるパターン、かもしれない。

「んで、さっきの愚兄ですが」
「あ、はい」

 グケイってなんか妖怪の鳴き声みたいな響きだよな……。グケイグケイ。

「愚兄はね、付属の大学に通ってて、部活の指導をしに、母校である学園に来てて。その時にヒロインと出会うわけ」

 千晶ちゃんはケッ、という顔をした。

「いつまでも先輩ヅラして通っちゃってさ、後輩からウザがられたらいいのに」
「ち、千晶ちゃん、キャラ変わってる」
「え、あ、うふふ」
「うふふ」

 しばし微笑み合う。
 お互い、紅茶をひとくち、ふたくち。

「えーと、ごほん。と、まぁ。そんな感じです」
「なるほどねえ……、分かったような、分からないような」
「また分からないことあったら聞いて?」
「うん、そうさせてもらいます」

 私はぱくり、とクッキーを食べた。美味しい。止まらない。もぐもぐ。

「あ、そういえばね」
「うん?」

 クッキーを口にする合間の私の問いかけに、軽く首をかしげる千晶ちゃん。ポニーテールかフワリと揺れて、大変可愛らしい。

「明日、アキラくんと会うんだけど」
「うん、アキラくんかぁ、……え!?」

 突然の大声に、びくりとなる私。

「な、なに!?」
「えっ、山ノ内瑛くん!?」
「う、うん」
「なんでもう出会ってるの!?」
「え、い、言ってなかったっけ」
「聞いてないよ~」

 驚き顔の千晶ちゃんに、アキラくんとの出会いについて話す。一年間、文通していることも。

「そ、そうなのかぁ……」
「うん、記憶戻って訳わからない時に支えてくれた、マジのガチでマブダチなの」
「マブダチって……はぁ、そう。しかしびっくりしたわ」

 やや落ち着きを取り戻した千晶ちゃんは「そんなこともあるのねぇ」とひとりごとのような、相づちのようなことを呟いた。

「で、ね。どこ案内したらいいかな? 観光スポット的な」
「あまり時間がなさそうだし、行けて二箇所くらいかなと思うよ」

 千晶ちゃんは本棚から、鎌倉の地図を取り出して、いくつかの観光名所を教えてくれた。

「はー。ありがとう。私も良くウロウロしてるんだけどね、鎌倉。良く分かってないから」
「あは。わたしね、前世、日本史の先生してたの」

 はにかむように、千晶ちゃん。

「だから、結構この土地は好きかな」
「そうなんだ……あ、じゃ、それで日本史の教科書、お兄さんに借りたの?」
「ん?」

 千晶ちゃんは、テーブルの上の日本史の教科書をチラリと見遣ると「ちょっとね」と肩をすくめた。

「気になることがあって」
「ふうん?」

 それからしばらく、益体も無いことをツラツラと話してから、私は迎えに来てくれた、島津さんの運転する車で、鍋島邸を辞した。
 もちろんクッキーの生みの親、ノゾミさんにはしっかりとお礼を言わせていただいた。あんなに、美味しいクッキーをこの世に生み出してくれてありがとう。
 しかし最近、島津さんは私専門みたいになってて、ちょっと申し訳ないような気がしてる。結構待たせたりしちゃうし。

(いつか、お礼しなきゃなぁ)

 お礼しなきゃいけないことだらけだ。

「華様は、鍋島様ともお付き合いがあるんですねぇ」
「え、島津さん、鍋島さんのこと知ってるんですか?」
「ええ、地元の代議士さんですから」
「代議士……というと」
「衆議院議員をされているはず、ですよ。多分お祖父様でしょうか。代々政治家の御家系で」
「ふはー」

 思わず変な声がでた。

(ガチお嬢様だあ) 

 それから、少し首をかしげる。

(なのに、どうして初等部から学園に行ってないんだろ?)

 それだけが、ちょっと疑問に残った。
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