【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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悪役令嬢、失恋話を聞く

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 すっかり小学校にも慣れて来て、と同時に街路樹も少しずつ秋を感じさせるものになり始めた、そんなとある日。
 朝食を食べたカフェから家に戻ると、ちょうど電話が鳴ったところだった。
 ナンバーディスプレイには、ひよりちゃんちの番号。

(どうしたのかな?)

 寝坊かな、などと呟きながら受話器をとる。
 ひよりちゃんはスマホ持ってるけど、私はお子様ケータイなのだ。通話のみの、メッセージアプリとか使えないやつ。

「はい」
『あ、……はなちゃん』
「ひよりちゃん!?」

 電話の向こうのひよりちゃんは、明らかに涙声だった。

「ど、どうしたの?」
『ぐすっ、うう、学校、行ったら話す、けど……ちょっと、遅刻、するから、それ伝えようと思って』
「う、うん、分かった、……無理しないでね?」
『ぐすっ、ありがと、多分2時間目には間に合うからっ』

 がちゃり、と受話器を置く音。

(大丈夫かな……)

 少し早足で学校へ向かう。
 校門の手前で、黒田くんと秋月くんを見つけて、駆け寄った。

「くっくろっ、はぁ、黒田くん、ごめん、ちょっと聞きたいことがっ」
「うおっ設楽、どうした」
「おはよー華ちゃん、どうしたの急いで」

 黒田くんと秋月くんは驚いたように振り返った。

「いや、あの、ふう……今日ひよりちゃん遅刻するの知ってる?」
「あ? そうなのか?」
「えっどうしたのひよりちゃん、風邪?」

 不思議そうな2人、というか黒田くんにホッとする。なにせ黒田くんはひよりちゃんのイトコなのだから。

「あ、良かった、じゃあ家族が急に入院したとかじゃないんだよね」
「特にうちの母親は何も言ってなかったぞ」
「や、ごめん急に~。ちょっと様子が変だったからさ」
「そうなのか?」
「大丈夫かな?」

 心配しつつも、いつも通りに朝は進んでいく。ホームルームが済んで、1時間目の算数の途中で、ひよりちゃんは登校してきた。

「ひっ、ひよりちゃん……!」

 クラスは騒然となった。

(目が完全に泣き腫らしてる!)

 スポーティー系猫目美少女のひよりちゃんのまぶたは、すっかり腫れぼったくなっていた。

「遅刻、しました……」
「大友さん、大丈夫? 保健室行く?」

 先生もさすがに戸惑っている。

「あ、私、付いて行きます!」

 私は立ち上がりながら手を挙げた。本当は保健委員の仕事かもだけど、でも。

「そうね、設楽さん、お願い。大友さん、無理はしなくていいからね」
「はい……」

 私たちは無言で保健室へ向かう。

(ど、どうしたんだろう)

 気まずい。

(親とケンカとか、かなぁ)

 保健室にたどり着き、養護の先生に許可をもらい、ひよりちゃんをベッドに寝かせた。
 今は、保健室には他に誰もいないようだった。

「体温、測る? 熱はなさそうだけど」

 養護の先生は気遣わしげな視線で言った。

「……大丈夫です」

 かぶりを振るひよりちゃん。そしてそのまま、私を見つめた。

「ねえ華ちゃん、教室帰らず、話聞いてくれる?」
「うん、大丈夫」

 ぎゅうっと、ひよりちゃんの手を握る。
 先生は微笑んで「ちょっと職員室行ってくるわね」と部屋を出てくれた。ひよりちゃんの泣き腫らした様子から、気を使ってくれたのだろう。

「あのね、華ちゃん。わたし、……彼氏と別れたの」
「えっ!?」

 私は驚いてひよりちゃんを見つめた。

(あの、塾で同じクラスの、他校の男子!? こないだまですごいラブラブだったのに)

 お揃いのキーホルダーをランドセルに付けていた。

(アラサーからすると、微笑ましい、可愛らしいお付き合いっていうか、甘酸っぱいっていうか、お似合いだったのに)

 そうか。
 別れちゃった、のか……。

(それはショックだよね)

 よしよし、と私はひよりちゃんの頭を撫でた。

「でね、理由なんだけど」
「うん」
「好きな人が、できたって」

(ありがちだよね、でも一番辛い理由、かも)

 私は前世に思いを馳せた。セカンド彼女扱いばかりだった前世。
 せっかくフリーの人とお付き合いした、と思っていても、気がつけば「本命の彼女ができたんだけど……どうする?」なんて、言われたりして。

(時間が経った今なら、どうするもこうするもねー! って言えるけど、その時は傷ついて、泣くばかりで)

 なにも言えず、ただ私は頷いて、ひよりちゃんの頭を撫で続けた。よしよし。

「そのね、好きな人っていうのが、1ヶ月くらい前に塾に新しく入ってきた子なんだけど、あ、隣の市の小学校の子ね」

 ひよりちゃんが通っている塾自体が、隣の市にあるらしい。

「うん」
「なんか、その子、……変なの」
「変?」

 私は首を傾げた。

「彼氏とられたヒガミ、って思われるかも知れないんだけど」
「思わないよ。言ってみて」
「あのね、塾のクラスの男子、みんなその子のこと好きになっちゃったの、男子10人ちょっといるんだけど」

 私はぽかーんとした。
 それは、ちょっと衝撃的すぎない?
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