【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

文字の大きさ
28 / 702
3

悪役令嬢、変装する

しおりを挟む
 学校から帰宅すると、八重子さんはカップケーキを焼いて待っていてくれた。

(あ、これ美味しいやつ~! クルミ入りの)

 私はついにやけてしまう、にやけてしまうが、今日はこれから大事なミッションがあるのだ。

「八重子さん、私今から塾の見学に行ってくる」
「え? 塾? 敦子知ってるの?」
「ううん、今日決まったから。あと、ハイヤー使っていいですか?」

 夕方以降、私は夜道が歩けないのだ。車なら比較的、平気。

(病院の先生も甘えていいと言っていたし)

 というわけで、敦子さんがいない時の夕方以降のお出かけには、ハイヤーを使うことになったのだ。まぁ滅多にないんだけど。

 ちなみに敦子さんには「運転手雇う?」と聞かれたけど、それは遠慮した。人件費と、車の維持費だけでいくらかかるか……。

「ハイヤーはいいと思うけど、塾のことは敦子に電話しなきゃ」
「お願いします。あと、伊達メガネとマスク、ない?」
「伊達メガネとマスク? なんに使うの」
「変装」

(できれば、ルナに私が"あの"設楽華だとは気付かせたくない)

 特徴的なお姫様カットは切ってしまったので、大丈夫として。

(変装といえば、メガネにマスク!)

 ……とは、安易だろうか?

「……ほんとに塾?」
「ほんとに塾」

 八重子さんは「マスクはあるけど」と口を尖らせた。

「伊達メガネ、ねぇ」
「ないならいいの」
「あ」

 八重子さんはふと思いついたように言った。

「ある?」
「敦子の部屋に、ブルーライトカットするだけの、度が入っていないメガネがあるはずよ。塾の話も合わせて聞いてみたら」

 そうします、と頷いて、私はお子様ケータイから敦子さんに電話をかけた。
 忙しいかしら、とも思ったが、幸い3コール目ででてくれた。
 挨拶もそこそこに、本題を切り出す。

『塾の見学?』
「うん、それでハイヤー使いたい」
『それは構わないわよ、じゃああたしから手配しておくわ』
「ありがとう! あっあと、敦子さんブルーライトカットのメガネ持ってるでしょ。借りていいですか?」
『いいけど。あなたには大きくない? というか何でメガネがいるの』
「変装です」
『ほんとに塾?』
「ほんとに塾」

 電話を切って、敦子さんの部屋へ向かう。

(あんま入ったことないんだよねー)

 なぜか緊張してしまう。
 部屋はいつも片付いていて、シンプルだ。パソコンの横には、私の振袖の写真(例のお茶会の時のものだ)が飾ってあって、ちょっと嬉しい。

 机の三番目の引き出し、とのことだったのでガラリと開く。

「あ、あったあった」

 メガネケースに収まったそれを、ケースごとお借りする。
 部屋を出ようとして、ふと本棚に画集を見つけた。
 ルノワール。

(あ。これこないだ樹くんがナンチャラ嬢がどうのこうのって言ってた画家じゃないかな)

 何気なく手に取り、開こうとして、ヒラリと何かが落ちた。
 それは、挟まっていたのだろうハガキだった。

「あ、やば」

 すぐに戻そうとして手に取って、私は固まってしまった。

「これ、……華のお母さんとお父さん? ……と、赤ちゃんの華?」

 年賀状だった。
 表書きはもちろん敦子さん宛て、差出人は「設楽笑」とあった。

(ショウ? エミ? ……たぶん、エミかな)

 少し変わった名前かもしれない。

 裏には写真が印刷してあった。
 幸せそうな男女と、女性に抱っこされた赤ちゃん。
 その側に、手書きでひとこと。"いつか華に会ってもらいたいです"

(あ、やっぱこれ華、なんだ……てか、お父さんそっくりなのね、華って)

 もしかしたら、華のお父さんはハーフ……では無さそうだけど、クォーターとか、かもしれない。華はそうでもないけど、華のお父さんはかなり彫りが深い。印刷が荒いからハッキリは言えないけど、肌もずいぶん白いのではないかと思う。

(華の、この妙に色白なお肌は、そういうことだったのねぇ)

 ハガキをしげしげと眺めて、ふと気づいた。

(……お母さん、敦子さんにそっくりじゃない?)

 敦子さんは、私のおばあちゃんの従姉妹、のはずだ。ということは、華のお母さんからすれば"母親の従姉妹"のはずで……

(そんなに似るものかしら?)

 首をひねる。
 その時、八重子さんが呼ぶ声がした。

「ハイヤー来たわよー?」
「あっ、はぁい!」

 私はハガキを画集にはさんで、本棚に戻した。

(いけないいけない、今から重要なミッションがあるんだった!)
しおりを挟む
感想 168

あなたにおすすめの小説

傷物令嬢は魔法使いの力を借りて婚約者を幸せにしたい

恋愛
ローゼライト=シーラデンの額には傷がある。幼い頃、幼馴染のラルスに負わされた傷で責任を取る為に婚約が結ばれた。 しかしローゼライトは知っている。ラルスには他に愛する人がいると。この婚約はローゼライトの額に傷を負わせてしまったが為の婚約で、ラルスの気持ちが自分にはないと。 そこで、子供の時から交流のある魔法使いダヴィデにラルスとの婚約解消をしたいと依頼をするのであった。

ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する

ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。 皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。 ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。 なんとか成敗してみたい。

彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~

プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。 ※完結済。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...