【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

文字の大きさ
33 / 702
3

悪役令嬢、落ち込む

しおりを挟む
 ルナはかえってスッキリしたような表情で微笑んだ。
 
「アタシ、なんか"ブルーローズ"のキャラとは相性悪いのかしら? アキラくんの時もあの女いて、つい手が出ちゃったし……反省反省」

(あ、また出た。ブルーローズ……)

 "ブルーローズにお願い"は、私、というか、設楽華が悪役令嬢として出てくる乙女ゲームのことだ。
 3部作構成になっていて、ブルーローズは2作目。私自身が前世でプレイしたのはブルーローズのみなので、1作目と3作目に関しては全く知識がない……。

「? 何を言っている?」
「こっちの話。どうせ話しても分かりっこないわよ」
「それは俺が判断することだ。なぜこんなことをした?」
「……さあね」

 樹くんは、ふう、とひとつため息をついた。冷たい目でルナを見遣る。

(樹くん、あんな怖い目できるんだ……)

 ちょっとびっくりしてしまう。
 私には、いつも優しいところしか、見せてこないから。

「……後は塾長室で聞こう。それから、今から読み上げる者はここで待機。順に話を聞く。それ以外は帰宅していい」

 樹くんは、担任の久保と、取り巻き連中であろう男子の名前を呼びあげた。
 それから、樹くんの背後にいたスーツの大人のうち、女の人がルナの背中に手を置いて歩くのを促す。
 ルナはしぶしぶ、という感じでそれに従い、教室を出て行こうとしてーーぴたり、と止まった。
 そして、なぜか、笑った。

(!?)

 背中が、ぞくりとする。
 ルナはにっこりと笑ったまま、秋月くんに視線を向ける。

「秋月くん、またね」

 そう言って、今度こそ、教室から出て行った。

(秋月くん……? なんで?)

 私が秋月くんを見ると、秋月くんは「え、俺!?」と完全に怯えた表情でキョロキョロしていた。
 それから樹くんも(ちらりと私に微笑んでから)退出し、教室は一瞬静寂に包まれた。

(……私、何もしてなくない?)

 情けないことに、私は今回、1人でぷんすかしていただけで、一切何もしてないのだ。
 気がつけば終わっていた。

(黒田くん秋月くんと、樹くんが解決してくれちゃった……情けない)

 私は唇をかんだ。

(私は……大人なのに)

 悔しくて、眼鏡の奥でぐっと涙をこらえる。
 そのとき、レンズ越しに、ひよりちゃんの元カレが、ひよりちゃんを見ながらソワソワしているのがみえた。
 ちょっと、ピンと来る。

(無駄に歳食った、私ができることってこれくらいよね)

 私は眼鏡とマスクを外し、立ち上がった。
 隣で、千晶ちゃんが息を飲むのが聞こえた。

(? 何を驚いているんだろ?)

 まぁとりあえず、これだけは伝えなくては。

「ひよりちゃん」
「なぁに?」

 ひよりちゃんは、まだ少し呆然とした表情で、私を見上げる。千晶ちゃんも、私を見つめていた。

「ムダに悲しい経験が多い私から、ひとこと。クソ男って、別れてるのに"元カノはずっと俺のことが好き"っていう謎の幻想を抱いて生きているから、気をつけてね」

 それだけを言い、とりあえず黒田くんと秋月くんのところへ向かう。

「よお」
「お疲れさま」
「私、何もしてないよ……2人こそ、お疲れさま」

 私は軽く首を振りながら、振り向いてひよりちゃんの方を見た。

 ひよりちゃんが、元カレと話している。
 元カレくんは、何か必死に言い訳をしているようだが、これこそムダだろう、と思う。

 案の定、ひよりちゃんは立ち上がって、元カレをにらみーーそして、乾いた音が教室に響いた。

「あ、あいつ、俺に暴力はダメって言ってたくせに」
「あれくらいはしていいでしょ」

 平手打ち。
 元カレくんは信じられない、という目でひよりちゃんを見ている。

(バカなの? ねぇ、バカなの?)

 私はあまりに彼が哀れすぎて、かえって心配になってさえいる。
 まだ小学生、ということを差し引いても、もう小学五年生なのだ。やっていいこと、わるいこと、信じるべき人くらいは分かっていなくてはならない、と思う。

(まー、大人になっても分かってないアホもいーっぱいいたけど?)

 前世の記憶が走馬灯のように……うう、忘れたい。
 しかし、元カレくん含めて、彼らには高い勉強代になっただろうと思う。今後はまともに……なるよね? なっておくれ。お姉さんからのお願いだよ。
 そして、平手打ちをかましたひよりちゃんは、わたしを見てーー笑った。

(あ、良かった)

 あの笑顔は、本気で吹っ切れた後の笑顔だ。

(ザマミロ、よね)

 大人気ないけど、元カレくんにべぇっと舌を出した。
 黒田くんに笑われる。
 ちょっと拗ねて口を尖らせてにらむと、黒田くんは意外そうな顔をして、なぜか口を押さえて、また顔をそらされた。

(むう、すぐ顔逸らすんだよね黒田くんは)

 嫌われてはないと思うけど。

「しかし、なんだったんだあいつ。中学生くらいか? 大人には見えなかったけど」
「ねぇ。でもなんか、先生も怯えてたよねぇ」
「……」

 私はとりあえず、黙って微笑んでおいた。

(だって、私にもなんで樹くんが来たのか分からないし)

 後で、とのことだったから、まぁあとできっちり説明してくれるんだと思う。

「あ、ねえ華ちゃん、ねえさっきの」
「ひひひひよりちゃんまたそれ後でね!」

 ややこしくなるからね。

 不思議そうに見てくる黒田くんたちに、適当に笑いかけて「帰ろっか!」とことさらに、大きな声で言った。
しおりを挟む
感想 168

あなたにおすすめの小説

ふたりの愛は「真実」らしいので、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしました

もるだ
恋愛
伯爵夫人になるために魔術の道を諦め厳しい教育を受けていたエリーゼに告げられたのは婚約破棄でした。「アシュリーと僕は真実の愛で結ばれてるんだ」というので、元婚約者たちには、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしてあげます。

彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~

プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。 ※完結済。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

【完結】悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない

As-me.com
恋愛
完結しました。 自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと気付いたセリィナは悪役令嬢の悲惨なエンディングを思い出し、絶望して人間不信に陥った。 そんな中で、家族すらも信じられなくなっていたセリィナが唯一信じられるのは専属執事のライルだけだった。 ゲームには存在しないはずのライルは“おねぇ”だけど優しくて強くて……いつしかセリィナの特別な人になるのだった。 そしてセリィナは、いつしかライルに振り向いて欲しいと想いを募らせるようになるのだが……。 周りから見れば一目瞭然でも、セリィナだけが気付かないのである。 ※こちらは「悪役令嬢とおねぇ執事」のリメイク版になります。基本の話はほとんど同じですが、所々変える予定です。 こちらが完結したら前の作品は消すかもしれませんのでご注意下さい。 ゆっくり亀更新です。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

処理中です...