【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

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悪役令嬢は語り合う

（ひ、ひよりちゃんが！？）

　私は大混乱して、再びベンチから立ち上がった。

「うん、大友ひよりちゃん」

　頷く、千晶ちゃん。

「あああ悪役令嬢！？」
「まぁ正確には、ひよりちゃん、ご令嬢ではなさそうなんだけど……まぁ、ヒロインに嫌がらせする役、という意味では、そう」

　ちなみにそのヒロインって松影ルナだよ、と言い添えられた。

「えっちょっと待って、混乱してる」
「無理しないで」

　心配気に眉を寄せる、千晶ちゃん。

（う、嘘でしょ、ひよりちゃんまでもが！？）

「え、えと、じゃあ、ひよりちゃんも記憶あったり、するのかな」
「ううん、ちょっと探ってみたけど、そんな感じはなさそう……ねぇ、設楽さん、設楽さんはいつ前世の記憶、取り戻したの？」
「取り戻した、っていうか」

　私はうーん、と考え込む。

「１年くらい前に事故にあったみたいなの。それで、病院で目が覚めたら、まるっと華の記憶は消えて、今の私になってたの」
「え、あ、そうなんだ……事故ね。やっぱり」

　千晶ちゃんは少し悲しそうに言った。

「多分、なんらかの、凄く痛い……もしくは、辛い経験をした時に、前世の記憶が戻ってるんだと思う」
「え、でも」

　私は首を傾げた。
　ひよりちゃんが、前世の記憶など無しであの性格ならば、自分から松影ルナに嫌がらせなど、するはずがないからだ。

「ひよりちゃん、誰かをいじめたり、嫌がらせするような子じゃないよ」

　どちらかというと、そういうのから誰かを守るタイプだ。

「えっとね、ひよりちゃんが＂そう＂なっちゃうのは、理由があって。中学で、いじめられるの」
「えっ」
「それも、いじめられてた友達を庇ったら、ターゲットが自分になっちゃった、ってやつ。その上、その友達にまでいじめられるようになるのね。それで、性格変わっちゃって」
「……酷い」
「その時に、庇ったり支えてくれてたのが、秋月くんと黒田くん。特に秋月くんには依存しちゃうみたい」
「え、もしかしてその２人って、攻略対象だったりする？」
「ううん、秋月くんだけ」
「はー」

（なるほど、それでイケメンなのね、秋月くんは）

　変な納得の仕方をする。

（そういえば、塾でルナがしきりに、秋月くんがひよりちゃんの味方をしているのを不思議がってた）

　あれは、＂自分と大友ひよりなら、自分を選んでくれるはずなのに＂という意味、だったのだろうか？

「え、じゃあ黒田くんは？」
「あ、覚えてない？　ブルーローズにも出てたよ、彼」
「え！？　嘘！？」
「黒田くんは三部作、全部に出てる」
「えー！？」

　私は頭を回転させるが、一向に思い出せない。

「出てたかなぁ……？」
「あのさ、ゲームの中にミニゲームあったの覚えてる？　パズルとか」
「え？　ああ、あった！　あれクリアすると特典イラスト貰えたりとか、ちょっとしたイベントとかが起こるんだよね」
「そう。それで、クリア失敗したときどうなった？」
「え？　あ、失敗してても、なんか攻略対象といい感じ～になりそうなシーンまでは行くんだよね、ミニイベント。でも確か、空手部の集団が来て……」

（そうだ。空手部の集団が来て、近くで練習始めたり、ランニングし始めたりして邪魔してくるんだ！）

「えっあの中のひとり！？」
「そうそう、でも二年生の途中には主将になって、ブルーローズでも名前出たし、セリフもあったよ。ちょっとだけど」
「うわぁ」

（き、気づかなかった……）

「ていうか、黒田くん、将来あんなガタイ良くなるのね」

　どこからどうみてもムッキムキ、というわけではなかったけど、確か空手部は皆、筋肉質だったイメージだ。

「今も背とかは高いみたいだけどね」

　千晶ちゃんは苦笑した。

「で、あ、ひよりちゃんが悪役令嬢するゲームは＂ブルームーンにソナタを＂っていうの」
「あ、全部ブルーが付くのね」

　ひよりちゃんのは、ブルームーン。
　私のは、ブルーローズ。
　千晶ちゃんのは、サムシングブルー。

「そう。青の三部作、とか言われてたよ」
「なるほどね」

　私は混乱した頭を落ち着けるように、ぐるりと頭を回した。
「でね、黒田くんはまだ役割があって。と言っても、ほとんど登場シーンはないんだけど」
「うん」
「ゲームで……＂ブルームーン＂での黒田くんはね」

　なぜか千晶ちゃんは、少し言いにくそうにした。

「ゲームでの黒田くんはね、ひよりちゃんが好きなの」
「ふーん……ええっ！？」
「あくまで、ゲームだからね、ゲームでの話」
「う、うん」

（でも、本当に好きだったりして？）

　ちょっと、そう考えてみる。

（そうじゃなきゃ、塾乗り込んだりとか、しないんじゃないかな……あ、でも黒田くんならやるか）

　やたらとオトコマエだもんな、と首をひねる。

「でね、前に松影ルナが＂負い目＂って言ってたの、覚えてる？」
「あ、うん」

　そんなもんねェ、と一蹴されていたけど。

「その負い目、ってね、どうも黒田くん、ひよりちゃんにケガさせちゃうみたいなの」
「え、ケガ」
「大したことはないんだけど、痕が残っちゃったみたいで。それをすごく、黒田くんは気にしてて、ひよりちゃんは……ゲームの、ひよりちゃんは、その負い目を利用して、ヒロインの松影ルナに嫌がらせをさせたり、するの」
「……黒田くんが？」

　想像できない。嫌がらせする、黒田くんなんて。

「あんな性格でしょ、ゲームでもちゃんとは嫌がらせなんか、できてなかったよ。それで、ひよりちゃんは黒田くんに酷く怒ったりして」
「はぁ……」

　ゲームの中、の話とはいえ、今実際に身の回りにいる人たちの「これから」がもしかしたら、本当にもしかしたらだけど、そうなるのかも、と思うとゾッとした。

「これは、あくまでゲームの話。だから」

　千晶ちゃんは、私をじっと見つめた。

「わたし、ひよりちゃんに幸せになってもらいたい」

　そう、意を決したように言う。

「あの子、本当にいい子だもん。そんな辛い思い、させたくない」
「うん」

　私も、しっかりと千晶ちゃんを見返す。

「私も、そう思う」
「良かった」

　安心したように、千晶ちゃんは言った。

「設楽さんは、ゲームの通りなら小学校から、私は中学校から例の学園に通ってたはず、なんだけど」

　千晶ちゃんは少し俯いて、一度区切ってから、続けた。

「ひよりちゃんは、多分このまま公立の中学に行くと思うの。わたしも同じ校区だから、学園の受験はやめて、公立へ行こうと思ってて……いじめを、例え止められなくても、なんとかしなくちゃ、って」
「私もそうする」
「いいの？」

　千晶ちゃんは、ぱっと顔を上げた。

「うん」

　私は、笑ってみせる。

「私も、ひよりちゃん、守りたい」
「あ、ありがとう」

　千晶ちゃんはホッとしたように笑った。

「１人だと、何ができるか、不安で」
「がんばろうね」

　千晶ちゃんと、うなずきあう。

（きっと、これもまた、＂運命＂とやらに逆らう道）

　私の脳裏に、あの日の松影ルナが過ぎる。

（負けないわよ）

　松影ルナに。運命に。

（私は、私の大事な人たちを、守り切ってみせる）