54 / 702
4
空手少年と関西弁少年(side健、瑛)
しおりを挟む
空手の道場からの、帰り道。
前カゴに道着を帯で巻いたやつをポイっといれてチャリで走っていると、少し前に見慣れた背中が見えた。
「秋月」
「あ、タケちゃん」
野球の練習着姿の秋月は、ロードバイクを止めて振り返る。
エナメルバッグとバットケースを背負っていた。良くカゴもないチャリなんかに乗るなぁ、と見るたびに思う。
「よお、いま帰りか」
「うん。タケちゃんもお疲れぇ」
幼馴染同士で息が合ってるのか、俺たちは特に相談することもなく、いつも通りに近所のコンビニにチャリを止めた。
成長期は、すぐに腹が減るのだ。
「俺、新作の角煮まんにしようかな」
「羽振りがいいじゃねえか」
「お小遣いもらったばっかなんだよね」
機嫌が良さそうな秋月と、レジ横のホットスナックコーナーでどれを食べるか悩んでいると、見た顔がコンビニに入ってきた。
「……オイ、秋月。あいつ」
「? どうしたの、タケちゃん」
不思議そうな秋月に、くいっとアゴでその男をしめす。
「……、あ、あいつ。ひよりちゃんの塾の。えっと、久保だっけ」
「まぁ覚えてねぇと思うけど、絡まれたらめんどくせえ。隠れてようぜ」
なんでもクビになった、とか聞いた。俺たちも虫型オモチャでアイツとは因縁がある。
俺たちはこっそり、パンコーナーに身を潜めつつ、レジを伺い久保を観察した。
久保はペットボトルの水とお茶を数本買おうと、レジに並んだ。
その時だ。
尻ポケットから財布を取り出した久保は、一緒に何かを落としたのだ。
(……お守り?)
久保は気付かず、そのまま自動ドアを抜けていった。
俺はサッと近づいてそれを拾う。
「あ、それ」
秋月は俺より先に、それに気づいたようだった。
「華ちゃんのお守りじゃん。なんで久保が持ってたの」
確か、ひより情報だと世界に1つしかないお守り、だったか。
「……なんでだ?」
慌てて2人でコンビニを出る。
久保が乗り込んだ車は、駐車場を出て行こうとしている時だった。
「秋月」
「覚えた!」
ギリギリで、なんとか2人とも車のナンバーを見ることができた。
「どうしよタケちゃん、警察行った方がいいかな? でも勘違いかな、拾っただけ、とか」
「勘違いで設楽が無事だって分かれば、それでいいだろ」
俺たちはすぐ近くの交番に走り込んだ。
だが。
「……お守り、ね」
「そうなんです! はやく捕まえてください」
机に身を乗り出して言う秋月に、警官の態度は冷ややかなものだった。
「君たち、その女の子が車に乗せられるとことか、見たの?」
「いえ、それはっ」
(時間の無駄だな)
警官の目は、めんどくさそうに細められるばかりで、とりあってくれる様子すらなかった。
「秋月、行くぞ」
「でもタケちゃん」
「いいから」
俺は秋月を交番から連れ出した。
「いいのっ、タケちゃん!?」
「良くねぇよ、良くねぇけどよ、オトナが頼りになんねぇなら俺らでなんとかするしかねぇだろうがよ」
「え?」
「スマホ出せ」
「え、え、え? 何するの?」
戸惑う秋月に、俺は自分のスマホを振ってみせる。
「子供は情報戦に強ぇんだってとこ見せんだよ」
片頬を上げて、にやりと笑ってみせる。
そうしないと、嫌な予感に押しつぶされそうになっていたからだ。
(何事もなく、俺らの勘違いで済めばそれでいいんだ)
それを心から願っていた。
☆☆☆
新横浜駅。
「焼売、焼売なぁ」
山ノ内瑛は駅弁屋の前で腕を組んでいた。
「美味いんかなぁ」
「だから美味しいって」
弁当屋のおばさんも呆れ顔だ。かれこれ五分ほど迷っている。
「せやけどやな」
「これにしときな、一番人気」
おばさんは一番シンプルな焼売弁当を指差した。
「一番人気」
瑛はその言葉を繰り返した。それから何度か頷いて「一番人気なら間違いないやろな」と小さく言った。
「ほんならそれもらおか!」
「はいはい」
おばさんにお弁当を包んでもらい、ベンチに座り新幹線を待つ。
彼の家族は一足先の新幹線に乗っており、今からしばしの一人旅なのだ。
瑛は上機嫌でスマホを取り出し、しばし眺めた後、急に驚いたような顔になった。何度か確認するように、スマホを凝視する。
それから、瑛は口を引き結び立ち上がった。
「どうやら焼売は後回しらしいでっ!」
瑛は弁当の袋を抱えて、階段を改札に向かって駆け下りていく。「うおおおおお」という叫び声付きだ。
それを弁当屋のおばさんはしばらく眺めて、それから「忙しい子だねぇ」と少しだけ面白そうに呟いた。
前カゴに道着を帯で巻いたやつをポイっといれてチャリで走っていると、少し前に見慣れた背中が見えた。
「秋月」
「あ、タケちゃん」
野球の練習着姿の秋月は、ロードバイクを止めて振り返る。
エナメルバッグとバットケースを背負っていた。良くカゴもないチャリなんかに乗るなぁ、と見るたびに思う。
「よお、いま帰りか」
「うん。タケちゃんもお疲れぇ」
幼馴染同士で息が合ってるのか、俺たちは特に相談することもなく、いつも通りに近所のコンビニにチャリを止めた。
成長期は、すぐに腹が減るのだ。
「俺、新作の角煮まんにしようかな」
「羽振りがいいじゃねえか」
「お小遣いもらったばっかなんだよね」
機嫌が良さそうな秋月と、レジ横のホットスナックコーナーでどれを食べるか悩んでいると、見た顔がコンビニに入ってきた。
「……オイ、秋月。あいつ」
「? どうしたの、タケちゃん」
不思議そうな秋月に、くいっとアゴでその男をしめす。
「……、あ、あいつ。ひよりちゃんの塾の。えっと、久保だっけ」
「まぁ覚えてねぇと思うけど、絡まれたらめんどくせえ。隠れてようぜ」
なんでもクビになった、とか聞いた。俺たちも虫型オモチャでアイツとは因縁がある。
俺たちはこっそり、パンコーナーに身を潜めつつ、レジを伺い久保を観察した。
久保はペットボトルの水とお茶を数本買おうと、レジに並んだ。
その時だ。
尻ポケットから財布を取り出した久保は、一緒に何かを落としたのだ。
(……お守り?)
久保は気付かず、そのまま自動ドアを抜けていった。
俺はサッと近づいてそれを拾う。
「あ、それ」
秋月は俺より先に、それに気づいたようだった。
「華ちゃんのお守りじゃん。なんで久保が持ってたの」
確か、ひより情報だと世界に1つしかないお守り、だったか。
「……なんでだ?」
慌てて2人でコンビニを出る。
久保が乗り込んだ車は、駐車場を出て行こうとしている時だった。
「秋月」
「覚えた!」
ギリギリで、なんとか2人とも車のナンバーを見ることができた。
「どうしよタケちゃん、警察行った方がいいかな? でも勘違いかな、拾っただけ、とか」
「勘違いで設楽が無事だって分かれば、それでいいだろ」
俺たちはすぐ近くの交番に走り込んだ。
だが。
「……お守り、ね」
「そうなんです! はやく捕まえてください」
机に身を乗り出して言う秋月に、警官の態度は冷ややかなものだった。
「君たち、その女の子が車に乗せられるとことか、見たの?」
「いえ、それはっ」
(時間の無駄だな)
警官の目は、めんどくさそうに細められるばかりで、とりあってくれる様子すらなかった。
「秋月、行くぞ」
「でもタケちゃん」
「いいから」
俺は秋月を交番から連れ出した。
「いいのっ、タケちゃん!?」
「良くねぇよ、良くねぇけどよ、オトナが頼りになんねぇなら俺らでなんとかするしかねぇだろうがよ」
「え?」
「スマホ出せ」
「え、え、え? 何するの?」
戸惑う秋月に、俺は自分のスマホを振ってみせる。
「子供は情報戦に強ぇんだってとこ見せんだよ」
片頬を上げて、にやりと笑ってみせる。
そうしないと、嫌な予感に押しつぶされそうになっていたからだ。
(何事もなく、俺らの勘違いで済めばそれでいいんだ)
それを心から願っていた。
☆☆☆
新横浜駅。
「焼売、焼売なぁ」
山ノ内瑛は駅弁屋の前で腕を組んでいた。
「美味いんかなぁ」
「だから美味しいって」
弁当屋のおばさんも呆れ顔だ。かれこれ五分ほど迷っている。
「せやけどやな」
「これにしときな、一番人気」
おばさんは一番シンプルな焼売弁当を指差した。
「一番人気」
瑛はその言葉を繰り返した。それから何度か頷いて「一番人気なら間違いないやろな」と小さく言った。
「ほんならそれもらおか!」
「はいはい」
おばさんにお弁当を包んでもらい、ベンチに座り新幹線を待つ。
彼の家族は一足先の新幹線に乗っており、今からしばしの一人旅なのだ。
瑛は上機嫌でスマホを取り出し、しばし眺めた後、急に驚いたような顔になった。何度か確認するように、スマホを凝視する。
それから、瑛は口を引き結び立ち上がった。
「どうやら焼売は後回しらしいでっ!」
瑛は弁当の袋を抱えて、階段を改札に向かって駆け下りていく。「うおおおおお」という叫び声付きだ。
それを弁当屋のおばさんはしばらく眺めて、それから「忙しい子だねぇ」と少しだけ面白そうに呟いた。
20
あなたにおすすめの小説
ふたりの愛は「真実」らしいので、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしました
もるだ
恋愛
伯爵夫人になるために魔術の道を諦め厳しい教育を受けていたエリーゼに告げられたのは婚約破棄でした。「アシュリーと僕は真実の愛で結ばれてるんだ」というので、元婚約者たちには、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしてあげます。
彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~
プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。
※完結済。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ
朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。
理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。
逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。
エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。
【完結】悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない
As-me.com
恋愛
完結しました。
自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと気付いたセリィナは悪役令嬢の悲惨なエンディングを思い出し、絶望して人間不信に陥った。
そんな中で、家族すらも信じられなくなっていたセリィナが唯一信じられるのは専属執事のライルだけだった。
ゲームには存在しないはずのライルは“おねぇ”だけど優しくて強くて……いつしかセリィナの特別な人になるのだった。
そしてセリィナは、いつしかライルに振り向いて欲しいと想いを募らせるようになるのだが……。
周りから見れば一目瞭然でも、セリィナだけが気付かないのである。
※こちらは「悪役令嬢とおねぇ執事」のリメイク版になります。基本の話はほとんど同じですが、所々変える予定です。
こちらが完結したら前の作品は消すかもしれませんのでご注意下さい。
ゆっくり亀更新です。
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる