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悪役令嬢、まよう
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「ケーサツ呼ぶか」
「せやな」
黒田くんがスマホを取り出す。
(あ、まだ呼んでなかったのか)
さっきのは久保に対するブラフだったのだろう。
(てか)
「ちょ、ちょっと待って」
「あ?」
黒田くんは不思議そうに私を見る。
「あ、あのね。これ、松影ルナが絡んでるみたいなの」
「マジかよ」
黒田くんは舌打ちをして腕を組んだ。
ちなみにバットはソファに立てかけてある。
「え、誰?」
アキラくんは私を見て首を傾げた。
「えっと」
(言っていい、のかな……)
余計なことに、巻き込んでしまいそうで……とそこまで考えて、もう巻き込んじゃってるか、と口を開いた。
「神戸の病院で会った子、覚えてる?」
「いきなり華押してきたヤツ?」
「そう」
「は!? なんでこっちおんねん」
アキラくんが目を剥く。
「むしろ神戸にいたのがイレギュラーみたいなんだけど」
と、去年の塾での一件を伝えた。
「はー。そんなんあったんか……つか、華。言えって言ったやんな、俺」
「え」
「もしまたあの女に会ったら言えって」
アキラくんは明らかに怒った声をしていた。
「あの、ごめん。心配かけたくなくて」
「ちゃうやん。言われへん方が心配やし腹立つやん」
「ご、ごめんなさい……」
ちょっと、シュンとなってしまう。小学生に説教される(中身)アラサー。
「で、松影がどう絡んでるって?」
黒田くんは私たちを取りなすように、話を元に戻した。
「あ、えっとね。久保に私を誘拐するように焚きつけた、みたいなの」
「犯罪やん」
吐き出すように言う、アキラくん。
「ケーサツに突き出したったらええねん」
「それがね」
難しいところなんだよなぁ、と口には出さずに首をかしげる。
「どうしてだ?」
黒田くんも訝しげな表情で言った。
「松影ルナは、誘拐しろなんて一言も言ってないみたいなの。単に、久保を焚きつけただけ」
「焚きつけた?」
聞き返す、ふたり。
「あのね……」
どう説明したものか、と迷って、前世の話を抜いて説明することにする。
「源氏物語って知ってる?」
「あー」
「まぁ、なんとなくは」
フワフワした返答の2人に「まぁ私も詳しくはないんだけど」と前置きする。
「主人公がね、半ば無理矢理女の子を自分の邸に連れてきて、理想の女性に育てて、またも半分無理矢理自分の奥さんにするっていう」
いやそれだけじゃないんだけど。たぶん、全然主題はそこではないんだけど。
「ちょっと待て」
黒田くんは、声を低くした。
「まさか久保、お前をそうしようって誘拐したんじゃねぇだろうな」
怒りのオーラに、私までビクつきつつ「どうもそうみたい」と答える。
「はぁぁあ!?」
アキラくんが叫んだ。
「アホちゃうう!? やっぱキョセーすべきやったんや! 健クン何逃しとんねんほんま! つか作戦もテキトーやねんもん健クン。室内でデカイ音出すからそれに合わせて裏口から突入せぇって、雑やねん全体的に」
「逃したのは謝るがな、うるせぇな突入はうまく行ったんだからいいじゃねぇか」
喧々と言い合うふたり。
(てか、仲良しだ?)
なんとなく、波長が合ってる気がする。
(ていうか、黒田くんが床を叩いたのにはそういう意味があったのね)
「んなやつ、野放しにできねー。やっぱケーサツ呼ぶぞ」
「ま、待って。それでね、思ったんだけど」
私は必死で考えをまとめる。
「多分、ね。ここで久保を捕まえてもらっても、また別の人を使って何かしてくるかもしれないの」
「せやろな」
アキラくんは低い声で言った。
「そのオンナどうにかせな。悪の根源や。チュースーや」
「うん……でも、今回のことで松影ルナをどうにかする、ってことはできないと思う」
「なんで? あのアホとキョーボーしてるやん」
「そうなんだけど」
私は「えーと」と言葉を紡いだ。やはり「前世」に触れずに説明は難しいか。
「あのさ、なんかクラスでも学年とかでもね、前世がどうのとか言う子、いない……?」
「は? いや聞いたことあらへん」
「あー、小川がそんなタイプだったな」
「おがわ?」
黒田くんから出た、知らない名前に首をかしげる。
「ああ、お前が転校してくる前にどっかに転校してったやつ」
「あ、そうなんだ。すれ違い」
「会わなくて良かったぜ。メンドクセー奴だった。そいつが前世やらなんやら言ってたな」
思い出したのか、少し眉をひそめそう話す黒田くん。
「とまぁ、そんな感じでね、これくらいの女子はそういうこと言っちゃう子がいるわけ」
「ほへーん、理解できひんわ。イタいヤツやな要は」
「だな、なんだ前世って」
私は無言で微笑んだ。
(い、言えないっ、私も前世の記憶あるとか絶対に言えないっ)
「せやけど、華に前世あるとかなら信じるわ」
にんまり、と笑うアキラくん。
「多分俺ら前世でも出会ってたんちゃうかなぁ~、天女と龍とかで?」
「あ? 設楽が天女ってのはギリ分かるとして、なんでお前が龍なんだ」
(……分かるんだ!?)
しかし残念ながら、私の前世はセカンド彼女になりがちな、平凡なアラサーでしかないんですが。
「結婚するし」
「じゃあやっぱりお前龍じゃねえよ」
「なんでやねん」
「ええと」
かなり脱線してきたので、無理矢理話を戻す。
(なんであの島の昔話してるんだろ?)
首をひねりつつ、話を続けた。
「それでね、松影ルナは久保に私のこと、久保の前世での……その、好きだった人だって言ったみたい、なの」
ストーキングの末殺した相手、とは言えない……。
(というか、本当にあいつなの? 私をかつて殺した、……ストーカー男)
再び背中に悪寒が走り、思わずしゃがみこむ。唐突に、再びやってきた恐怖。
(怖い、怖い、怖い)
手で口を押さえ、早鐘を打つような心臓を抑える。
(なんで、)
ぽろり、と涙がこぼれた。
(なんでまた関わらなきゃいけないの)
「せやな」
黒田くんがスマホを取り出す。
(あ、まだ呼んでなかったのか)
さっきのは久保に対するブラフだったのだろう。
(てか)
「ちょ、ちょっと待って」
「あ?」
黒田くんは不思議そうに私を見る。
「あ、あのね。これ、松影ルナが絡んでるみたいなの」
「マジかよ」
黒田くんは舌打ちをして腕を組んだ。
ちなみにバットはソファに立てかけてある。
「え、誰?」
アキラくんは私を見て首を傾げた。
「えっと」
(言っていい、のかな……)
余計なことに、巻き込んでしまいそうで……とそこまで考えて、もう巻き込んじゃってるか、と口を開いた。
「神戸の病院で会った子、覚えてる?」
「いきなり華押してきたヤツ?」
「そう」
「は!? なんでこっちおんねん」
アキラくんが目を剥く。
「むしろ神戸にいたのがイレギュラーみたいなんだけど」
と、去年の塾での一件を伝えた。
「はー。そんなんあったんか……つか、華。言えって言ったやんな、俺」
「え」
「もしまたあの女に会ったら言えって」
アキラくんは明らかに怒った声をしていた。
「あの、ごめん。心配かけたくなくて」
「ちゃうやん。言われへん方が心配やし腹立つやん」
「ご、ごめんなさい……」
ちょっと、シュンとなってしまう。小学生に説教される(中身)アラサー。
「で、松影がどう絡んでるって?」
黒田くんは私たちを取りなすように、話を元に戻した。
「あ、えっとね。久保に私を誘拐するように焚きつけた、みたいなの」
「犯罪やん」
吐き出すように言う、アキラくん。
「ケーサツに突き出したったらええねん」
「それがね」
難しいところなんだよなぁ、と口には出さずに首をかしげる。
「どうしてだ?」
黒田くんも訝しげな表情で言った。
「松影ルナは、誘拐しろなんて一言も言ってないみたいなの。単に、久保を焚きつけただけ」
「焚きつけた?」
聞き返す、ふたり。
「あのね……」
どう説明したものか、と迷って、前世の話を抜いて説明することにする。
「源氏物語って知ってる?」
「あー」
「まぁ、なんとなくは」
フワフワした返答の2人に「まぁ私も詳しくはないんだけど」と前置きする。
「主人公がね、半ば無理矢理女の子を自分の邸に連れてきて、理想の女性に育てて、またも半分無理矢理自分の奥さんにするっていう」
いやそれだけじゃないんだけど。たぶん、全然主題はそこではないんだけど。
「ちょっと待て」
黒田くんは、声を低くした。
「まさか久保、お前をそうしようって誘拐したんじゃねぇだろうな」
怒りのオーラに、私までビクつきつつ「どうもそうみたい」と答える。
「はぁぁあ!?」
アキラくんが叫んだ。
「アホちゃうう!? やっぱキョセーすべきやったんや! 健クン何逃しとんねんほんま! つか作戦もテキトーやねんもん健クン。室内でデカイ音出すからそれに合わせて裏口から突入せぇって、雑やねん全体的に」
「逃したのは謝るがな、うるせぇな突入はうまく行ったんだからいいじゃねぇか」
喧々と言い合うふたり。
(てか、仲良しだ?)
なんとなく、波長が合ってる気がする。
(ていうか、黒田くんが床を叩いたのにはそういう意味があったのね)
「んなやつ、野放しにできねー。やっぱケーサツ呼ぶぞ」
「ま、待って。それでね、思ったんだけど」
私は必死で考えをまとめる。
「多分、ね。ここで久保を捕まえてもらっても、また別の人を使って何かしてくるかもしれないの」
「せやろな」
アキラくんは低い声で言った。
「そのオンナどうにかせな。悪の根源や。チュースーや」
「うん……でも、今回のことで松影ルナをどうにかする、ってことはできないと思う」
「なんで? あのアホとキョーボーしてるやん」
「そうなんだけど」
私は「えーと」と言葉を紡いだ。やはり「前世」に触れずに説明は難しいか。
「あのさ、なんかクラスでも学年とかでもね、前世がどうのとか言う子、いない……?」
「は? いや聞いたことあらへん」
「あー、小川がそんなタイプだったな」
「おがわ?」
黒田くんから出た、知らない名前に首をかしげる。
「ああ、お前が転校してくる前にどっかに転校してったやつ」
「あ、そうなんだ。すれ違い」
「会わなくて良かったぜ。メンドクセー奴だった。そいつが前世やらなんやら言ってたな」
思い出したのか、少し眉をひそめそう話す黒田くん。
「とまぁ、そんな感じでね、これくらいの女子はそういうこと言っちゃう子がいるわけ」
「ほへーん、理解できひんわ。イタいヤツやな要は」
「だな、なんだ前世って」
私は無言で微笑んだ。
(い、言えないっ、私も前世の記憶あるとか絶対に言えないっ)
「せやけど、華に前世あるとかなら信じるわ」
にんまり、と笑うアキラくん。
「多分俺ら前世でも出会ってたんちゃうかなぁ~、天女と龍とかで?」
「あ? 設楽が天女ってのはギリ分かるとして、なんでお前が龍なんだ」
(……分かるんだ!?)
しかし残念ながら、私の前世はセカンド彼女になりがちな、平凡なアラサーでしかないんですが。
「結婚するし」
「じゃあやっぱりお前龍じゃねえよ」
「なんでやねん」
「ええと」
かなり脱線してきたので、無理矢理話を戻す。
(なんであの島の昔話してるんだろ?)
首をひねりつつ、話を続けた。
「それでね、松影ルナは久保に私のこと、久保の前世での……その、好きだった人だって言ったみたい、なの」
ストーキングの末殺した相手、とは言えない……。
(というか、本当にあいつなの? 私をかつて殺した、……ストーカー男)
再び背中に悪寒が走り、思わずしゃがみこむ。唐突に、再びやってきた恐怖。
(怖い、怖い、怖い)
手で口を押さえ、早鐘を打つような心臓を抑える。
(なんで、)
ぽろり、と涙がこぼれた。
(なんでまた関わらなきゃいけないの)
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