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閑話・かつて、前世にて(side???)

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「あーもう、私このままセカンド彼女にされ続けちゃって、そんでこのまま野垂れ死ぬのかなぁ」
「そうなったら骨は拾ってやるよ」
「ちょっとひどい、その前に俺が貰ってやるよとか言えないの」

 そう言って、中ジョッキ片手に怒る大学の同級生の彼女は、見た目は平凡な癖になんだかひどく可愛らしく、ああ告白できたらなぁ、でもこの関係を崩したくないしな、と迷っている間に俺たちは卒業して、就職して、相変わらず彼女はいろんな男にセカンド扱いされてて、相変わらず俺はグチを聞いてて、俺は心地よい関係を崩したくなくて、そんで彼女は死んだ。

「ほんとに骨を拾う羽目になるとは」

 火葬場の煙は高く高く上がっていく。
 俺は煙草をぷかりと吹かす。

 俺が恋い焦がれた女が、今日、骨になる。

 その訃報を聞いた時から、そして今も、全く現実感がない。おかげで、未だ泣けずにいる。

「告ってたら何か変わってたかな」

(お前を殺したストーカー野郎の相談もしてくれてたかな)

 もしも恋人になっていたら。
 俺はセカンド扱いなんかしないのにって言えてたら。

 彼女は、ストーカーに悩まされていることを誰にも相談していなかった。
 警察に被害届出して、一人で引っ越して、また警察に相談して、また引っ越して、そして殺された。

 俺も、誰でも、そのことを知らなかった。気づかなかった。

「恋愛運に良くないんだよね、風水的に。今の家」という、彼女にありそうな引っ越しの言い訳を鵜呑みにして。

「クソヤローは死んだしな」

 ストーカー男は、彼女を殺した後、自宅で首を吊ったらしい。
 被疑者死亡のまま送検ってやつだ。
 誰に怒りをぶつけていいか分からず、結局自分に対してうじうじ悩むしかできない。

「なぁ」

 背後から突然話しかけられて、びくりと振り向く。
 そこには大学の先輩で、かつて彼女をセカンド扱いしてた男。鹿爪らしく喪服を着込んで、なんだか腹が立つ。

「何スか」
「なぁ、ご家族の方、俺たちにも骨上げ来てほしいって言ってくださってるけどさ、俺、見れないわ、あいつの」

 先輩は言い淀んで、泣いた。

(泣くくらいなら、もっと大事にしてやればよかったのに)

「俺は拾うッスよ」
「……見れるのかよ、骨なんか、お前、あいつのこと」

(知ってたのかよ)

 俺は肩をすくめる。

(そうだよ、俺は、お前なんかより、ずっとずっとずっと、彼女のことを)

「骨の髄まで愛してるんで、平気っす」

 そう言って、空を見上げた。優しい青。雲ひとつない。
 この空の先で、彼女が幸せになってくれてたらいい、なんて空想を思い描く。

 願わくば、彼女を一途に愛してくれる誰かに出会っていますように。

 さて、骨でも拾ってやりますか、と俺は煙草の火を消した。
 何せ長年の約束だっからな、ちゃんとやらねーとあいつが化けてでてきちゃうぜ。

 出てきてくれても全然いいけど、なんて少し考えて、それから俺は、やっと泣いた。
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