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悪役令嬢、ジェネレーションギャップを感じる
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「先生さっきのおじさん、観光客に紛れてわからなくなっちゃった」
「でも神社にいるのは間違いないっす」
秋月くんと黒田くんが戻ってきた。
「え、あ……そっか、ごめんね? ありがとう」
先生は弱々しく笑う。
「どーすんスか先生……、お、小学五年生、合流したんだな」
「えっ誰!?」
なんだかとてもフツーにアキラくんを受け入れる黒田くんと、ちょっと驚いてる秋月くん。
「えっなんなん健クン気付いてたん!?」
「バレッバレだぞお前、柱から半分でてんだもんよ。めんどくせーから無視したけど」
「いや言えや~」
かなり悔しそうなアキラくんをチラリと見て「で、どーすんスか?」と黒田くんは続けた。
「あそこの神社かなりでかいし、そんなすぐ帰るとかはねーかなとは思うんすけど」
「うーん」
「ねーっ、ごめんそろそろ説明してもらっていい?」
ひよりちゃんが、ぷうと頰を膨らませた。
黒田くんがザッと状況を説明する。
(まぁ要約してもしなくても、個人情報満載のノートパソコンが行方不明って結構まずい)
先生はあらためて、はぁと肩を落とした。
「クビ、かなぁ……」
「え、先生いなくなるのヤダ」
秋月くんがすぐに反応した。
「先生、そりゃミスとか多いけどさ! 授業面白いし、それに俺が50メートル走のタイム伸びないって悩んでた時、練習めっちゃ付き合ってくれたじゃん! あれ、野球のコーチにも褒められたんだよ、走塁速くなったって」
「あ、褒められたのかぁ、速くなったのかぁ」
先生は笑った。とても嬉しそうに。
「良かったぁ」
(う。ほんとにいい先生なんだよなぁ……)
私は悩む。
(手分けしてあのおじさんを探す?)
私はいいけれど、他の子たちは一生に一度の小学校の修学旅行だ。そんなことに時間を割いていいものか……。
うーん、と悩んでいると、アキラくんが「ほな、こうしたらどない?」と声を上げた。
「どっちにしろそのオッサンも、荷物間違えたって気付いたらここ戻ってくるやろ。駅のヒトに荷物とどいてませんかぁ言うて聞くやろし、せやったらその荷物駅員さんに預けて、あとは観光がてら3組に分かれて、2人1組で稲荷大社探し回ったらええやん」
「あ、そうしよ」
「うんうん、手伝うよ先生!」
アキラくんの提案にすぐに乗るひよりちゃんと秋月くん。
(それがいいかな、観光がてら、ならみんなも楽しめるし……ん?)
私は首をひねる。
(2人1組でみっつ?)
アキラくんを見ると、にこっ! と笑って両手の親指で自分を指した。
「ここまできたらこの山ノ内瑛も一肌脱ぐで!」
「てめーは設楽と遊びたいだけじゃねぇか」
「ええやん! 人手は多い方がええやろ!?」
「せっかく決めてもらったけど、ダメだよ」
先生は静かに言った。
「これは先生の責任で、先生が大人としてどうにかします。君たちは修学旅行を楽しみなさい。せっかくの自由行動、好きに過ごして、ね?」
「えー、でも」
不服そうな秋月くん。
「じゃあそうします」
ぴしゃり、と私は言った。
「これは先生の自業自得ですから」
「うっ……その通り」
苦笑いする先生と、少し怒り顔の私を交互に見て、ひよりちゃんと秋月くんはオロオロしていた。黒田くんとアキラくんも少しびっくり顔だ。
「ですが」
私は少し表情を緩めた。
「私たちが勝手に、あのおじさんを探すのは、それは自由ですよね? 今日は自由行動なんですから」
笑って続けた私の言葉に、秋月くんは大きく頷いた。
「先生、絶対あのおじさん見つけてくるから!」
「すぐに見つかるって」
秋月くんとひよりちゃんの言葉に、涙ぐむ先生。
「みんなぁ……」
それから、うん、と頷くと言葉を続けた。
「じゃあ、さっきの提案に甘えよう。2人1組で、でも、午前中いっぱいだよ。それ以降は予定通り移動して」
「はぁい」
私はブレスレットと重ね付けした腕時計を確認する。
(いま、10時前……ってことは)
2時間で見つけなくては。
(まぁ、そもそも気付いて戻ってくるかもだし)
荷物を駅員さんに預けた先生が戻ってきた。事情を簡単に話して、おじさんが来たら連絡をもらう手筈にしたらしい。
「ちなみに先生、その、おじさんの荷物には何が入ってたんですか?」
ひよりちゃんが尋ねる。
「それがね」
先生はうーん、と首を大きくひねった。
「あぶらあげ」
「は?」
「あぶらあげが、大量に」
「あぶらあげ?」
私たちは顔を見合わせた。
(あぶらあげー?)
そりゃ、お稲荷様だから、あぶらあげなんだろうけど。良く知らないけど……
「奉納するやつだったのかな?」
私は首を傾げた。
「あ、そうかも。それなら今頃気付いてるんじゃない?」
ひよりちゃんも嬉しそうに手を叩く。
「どうやろうか。ここ、めっちゃ山の上まで神社あるで。本殿にならすぐやろうけど」
「あ、そうなのか……」
私はそうか、とガイドブックを開く。
(一ノ峰上社、とかまで行かれると、少しヤバイかな)
山頂にあるらしい。
ちらりと時計を見た私の腕に、先生は視線をやる。
「ね、設楽さん、そのブレスレット」
「え」
(だ、だめだったかな!?)
修学旅行中、みんなシンプルなアクセサリーはつけているので大丈夫かなと思っていたけど。
「ううん、大丈夫。没収とかはしないから。ちょっと見せてもらってもいい?」
「え、あ、はい」
外して、先生に渡す。
「ふうん」
先生は手に取ったそれを、少し面白そうに眺めた。
「なるほどね、ありがと」
「……?」
不思議そうな私に、先生は言う。
「ごめんごめん、それね、ちょっとその、特殊なやつだと思うよ」
「特殊?」
「お値段そこそこ。素材自体もプラチナだし、まぁ特殊性はそこにないんだけどねぇ」
「えっ」
(樹くん、そんな高価なものを!?)
私がまじまじとブレスレットを眺めているうちに、アキラくんは「ほなこれで組み分けしよか!」とスマホを取り出していた。
「え、どうやって?」
「アプリであみだくじ」
「ほえー」
私は感心した。
(最近の子って、そうやってやるのね……)
もう紙に書く時代は終わったのだろうか……アラサーはちょっと切ないよ。
「でも神社にいるのは間違いないっす」
秋月くんと黒田くんが戻ってきた。
「え、あ……そっか、ごめんね? ありがとう」
先生は弱々しく笑う。
「どーすんスか先生……、お、小学五年生、合流したんだな」
「えっ誰!?」
なんだかとてもフツーにアキラくんを受け入れる黒田くんと、ちょっと驚いてる秋月くん。
「えっなんなん健クン気付いてたん!?」
「バレッバレだぞお前、柱から半分でてんだもんよ。めんどくせーから無視したけど」
「いや言えや~」
かなり悔しそうなアキラくんをチラリと見て「で、どーすんスか?」と黒田くんは続けた。
「あそこの神社かなりでかいし、そんなすぐ帰るとかはねーかなとは思うんすけど」
「うーん」
「ねーっ、ごめんそろそろ説明してもらっていい?」
ひよりちゃんが、ぷうと頰を膨らませた。
黒田くんがザッと状況を説明する。
(まぁ要約してもしなくても、個人情報満載のノートパソコンが行方不明って結構まずい)
先生はあらためて、はぁと肩を落とした。
「クビ、かなぁ……」
「え、先生いなくなるのヤダ」
秋月くんがすぐに反応した。
「先生、そりゃミスとか多いけどさ! 授業面白いし、それに俺が50メートル走のタイム伸びないって悩んでた時、練習めっちゃ付き合ってくれたじゃん! あれ、野球のコーチにも褒められたんだよ、走塁速くなったって」
「あ、褒められたのかぁ、速くなったのかぁ」
先生は笑った。とても嬉しそうに。
「良かったぁ」
(う。ほんとにいい先生なんだよなぁ……)
私は悩む。
(手分けしてあのおじさんを探す?)
私はいいけれど、他の子たちは一生に一度の小学校の修学旅行だ。そんなことに時間を割いていいものか……。
うーん、と悩んでいると、アキラくんが「ほな、こうしたらどない?」と声を上げた。
「どっちにしろそのオッサンも、荷物間違えたって気付いたらここ戻ってくるやろ。駅のヒトに荷物とどいてませんかぁ言うて聞くやろし、せやったらその荷物駅員さんに預けて、あとは観光がてら3組に分かれて、2人1組で稲荷大社探し回ったらええやん」
「あ、そうしよ」
「うんうん、手伝うよ先生!」
アキラくんの提案にすぐに乗るひよりちゃんと秋月くん。
(それがいいかな、観光がてら、ならみんなも楽しめるし……ん?)
私は首をひねる。
(2人1組でみっつ?)
アキラくんを見ると、にこっ! と笑って両手の親指で自分を指した。
「ここまできたらこの山ノ内瑛も一肌脱ぐで!」
「てめーは設楽と遊びたいだけじゃねぇか」
「ええやん! 人手は多い方がええやろ!?」
「せっかく決めてもらったけど、ダメだよ」
先生は静かに言った。
「これは先生の責任で、先生が大人としてどうにかします。君たちは修学旅行を楽しみなさい。せっかくの自由行動、好きに過ごして、ね?」
「えー、でも」
不服そうな秋月くん。
「じゃあそうします」
ぴしゃり、と私は言った。
「これは先生の自業自得ですから」
「うっ……その通り」
苦笑いする先生と、少し怒り顔の私を交互に見て、ひよりちゃんと秋月くんはオロオロしていた。黒田くんとアキラくんも少しびっくり顔だ。
「ですが」
私は少し表情を緩めた。
「私たちが勝手に、あのおじさんを探すのは、それは自由ですよね? 今日は自由行動なんですから」
笑って続けた私の言葉に、秋月くんは大きく頷いた。
「先生、絶対あのおじさん見つけてくるから!」
「すぐに見つかるって」
秋月くんとひよりちゃんの言葉に、涙ぐむ先生。
「みんなぁ……」
それから、うん、と頷くと言葉を続けた。
「じゃあ、さっきの提案に甘えよう。2人1組で、でも、午前中いっぱいだよ。それ以降は予定通り移動して」
「はぁい」
私はブレスレットと重ね付けした腕時計を確認する。
(いま、10時前……ってことは)
2時間で見つけなくては。
(まぁ、そもそも気付いて戻ってくるかもだし)
荷物を駅員さんに預けた先生が戻ってきた。事情を簡単に話して、おじさんが来たら連絡をもらう手筈にしたらしい。
「ちなみに先生、その、おじさんの荷物には何が入ってたんですか?」
ひよりちゃんが尋ねる。
「それがね」
先生はうーん、と首を大きくひねった。
「あぶらあげ」
「は?」
「あぶらあげが、大量に」
「あぶらあげ?」
私たちは顔を見合わせた。
(あぶらあげー?)
そりゃ、お稲荷様だから、あぶらあげなんだろうけど。良く知らないけど……
「奉納するやつだったのかな?」
私は首を傾げた。
「あ、そうかも。それなら今頃気付いてるんじゃない?」
ひよりちゃんも嬉しそうに手を叩く。
「どうやろうか。ここ、めっちゃ山の上まで神社あるで。本殿にならすぐやろうけど」
「あ、そうなのか……」
私はそうか、とガイドブックを開く。
(一ノ峰上社、とかまで行かれると、少しヤバイかな)
山頂にあるらしい。
ちらりと時計を見た私の腕に、先生は視線をやる。
「ね、設楽さん、そのブレスレット」
「え」
(だ、だめだったかな!?)
修学旅行中、みんなシンプルなアクセサリーはつけているので大丈夫かなと思っていたけど。
「ううん、大丈夫。没収とかはしないから。ちょっと見せてもらってもいい?」
「え、あ、はい」
外して、先生に渡す。
「ふうん」
先生は手に取ったそれを、少し面白そうに眺めた。
「なるほどね、ありがと」
「……?」
不思議そうな私に、先生は言う。
「ごめんごめん、それね、ちょっとその、特殊なやつだと思うよ」
「特殊?」
「お値段そこそこ。素材自体もプラチナだし、まぁ特殊性はそこにないんだけどねぇ」
「えっ」
(樹くん、そんな高価なものを!?)
私がまじまじとブレスレットを眺めているうちに、アキラくんは「ほなこれで組み分けしよか!」とスマホを取り出していた。
「え、どうやって?」
「アプリであみだくじ」
「ほえー」
私は感心した。
(最近の子って、そうやってやるのね……)
もう紙に書く時代は終わったのだろうか……アラサーはちょっと切ないよ。
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