【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

文字の大きさ
84 / 702
5

悪役令嬢は胎内めぐれない

しおりを挟む
 修学旅行、最終日。本日も晴れ。

「ではこちら、胎内めぐりと言いまして」

 清水寺の、とあるお堂の前でバスガイドさんは微笑みながら解説を始めた。

「この建物の中は、仏様のお腹の中をイメージして作られています。ところで皆さんは、お母さんのお腹の中を覚えていますか~?」

 バスガイドさんがそう聞くと、覚えてなーい、とあちらこちらで声がする。覚えてるー! なんておちゃらけた男子の声もして、そんな反応にも慣れきってるバスガイドさんは微笑み、先を続けた。

「中は真っ暗で、壁に巡らされた数珠を頼りに奥へと進んでいきます。この数珠がへその緒なんですね。お母さんのお腹にいた時、こんな風だったかなぁなんて思いながら歩いてみてください」

 バスガイドさんはお腹を撫でた。幸せそうな顔。もしかしたら、もうお子さんがいるのかも。

「出てきたら生まれ変わった気持ちになれますよ。心機一転ですね! 真っ暗ですが、頑張って辿ってくださいね」

 はぁい、と皆が返事をする中、私はどうしたものかと固まっていた。

(真っ暗なのかぁ。建物の中だし大丈夫、だとは思うけど)

 しかし、万が一ということもあり。
 私は夜道が歩けないのだ。要は暗い道が苦手。
 昨日だって、夜道が無理という私のために、少し離れたとこに停めてたはずのアキラくんのお姉さんの車を出入り口近くまで移動してもらった。

(多分、それでバレたよね)

 ホテル帰って、もうこってり絞られた。絞り切るくらい怒られました。廊下で並んで正座です。
 あの後、どうも私たちが寝ちゃった後にアキラくんのお母さんまで謝りに見えていたらしい。申し訳ない……。

(んー、でも、胎内めぐり……、生まれ変わった気分、か)

 実際私は生まれ変わった訳だけど、どうなんだろ。姿形以外で、何か変わったのかな、私は。

(変わってない、気もするし、変わっちゃった気もする……あ)

 というか、早く決めなきゃだ。列が進み始めている。

(……これ室内だし、イケるかな)

 どうなんだろ、とは思うけど。ちょっと気になるし。

(でもなぁ、パニックになっちゃったらみんなに迷惑かけるよねぇ)

 というわけで、私は辞退することにした。潔く。

「相良先生、私これ無理です」
「あ、そっか。聞いてます。これ室内だけど無理そう?」
「半々ですかね……」
「無理しなくていいよ。じゃあ外で先生と待ってようか」
「行かないの華ちゃん!?」

 ひよりちゃんは残念そうに言う。

「うん、暗いの苦手」
「あ。そっかあ、でもこれ奥にお願い叶う石があるらしいよ」
「またもや石」

 京都、お願い叶う石だらけじゃないか。

「あは、私の分までお願い頼みます」
「らじゃ、だよ!」
「俺もパス」

 黒田くんは少しかったるそうに言った。

「めんどくせえ」
「めんどくさいとかパスとかじゃなくて」

 相良先生は黒田くんの頭に手を置いた。ぎゅうっと頭を握るようにする。片手で。

「いててててて」
「行ける人は行きなさい」
「……、ッス」

 黒田くんはなぜかこちらを見て心配そうにしながら、皆の列に戻っていく。
 それを眺めながら、相良先生は「設楽さんって」と口を開いた。

「好きな人いる?」
「ふぇっ!?」

 思わず大きく振り返る。

(と、唐突すぎる)

 一体なんの話の流れだろう。

「い、いませんけど」
「そうなの? それくれた人とかは?」

 相良先生が悪戯っぽい目で指したのは、樹くんにもらったブレスレット。

「え」
「許婚がいるって聞いてるけど」
「あ、はぁ……」

 敦子さん、話したのかな? 家庭訪問で。そんなこと言う必要ないと思うけど。

「まぁ、よいお友達というか」

 なんか芸能人熱愛発覚! の事務所コメントみたいになってしまった。いや、熱愛が発覚したわけではないんだけど。

「ふーん?」

 先生は目を細めた。

「でもまぁ、先生としてはどうかなとは思うんだよね。敢えてこう言う言い方するけど、幼いうちから結婚相手決めちゃうなんて」
「まぁ」

 そりゃ当然の感想だとは、思う。

「でもまぁ、大人になったら自由にできるんじゃないかなと思います」

 好きな人できたら考えるって言ってたし。

「そうなの? じゃあ逆に、設楽さんがその許婚くん好きになったらそのまま結婚するの?」
「す、好きに?」

 ぽわわ、と浮かぶのは少し前の千晶ちゃんの言葉。「樹くんだっていつか大人になるんだよ」。
 ひとりで赤くなってしまう。

「赤いね?」
「あわわわ」

 手を顔の前でふって煩悩を散らす。散れ散れーい!

「まぁ先生としてはさ」

 先生はぽんぽん、と私の頭を撫でた。

「設楽さんが本当に好きな人と幸せになってほしいと思ってるよ」
「……? はい」
「ちなみにクラスに気になる人とかいないの?」
「クラスですか?」
「うん、例えばくろ「戻りましたけど!?」

 肩で息をしている黒田くんだった。

「早いね?」
「先頭にしてもらってまわってきたんで」

 それを聞いて先生は破顔した。

「いやぁ、頼もしいナイトがたくさんで先生助かっちゃう」

 黒田くんはナイトっていうよりお付きの武士って感じだけど、と笑う。

「なんかセンセー信用できねんすよね」
「あはは」

 先生は見たことないくらい、楽しげに笑った。

「ほんとに君って刑事向きかも」
しおりを挟む
感想 168

あなたにおすすめの小説

傷物令嬢は魔法使いの力を借りて婚約者を幸せにしたい

恋愛
ローゼライト=シーラデンの額には傷がある。幼い頃、幼馴染のラルスに負わされた傷で責任を取る為に婚約が結ばれた。 しかしローゼライトは知っている。ラルスには他に愛する人がいると。この婚約はローゼライトの額に傷を負わせてしまったが為の婚約で、ラルスの気持ちが自分にはないと。 そこで、子供の時から交流のある魔法使いダヴィデにラルスとの婚約解消をしたいと依頼をするのであった。

ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する

ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。 皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。 ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。 なんとか成敗してみたい。

彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~

プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。 ※完結済。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...