【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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悪役令嬢は反省する

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「先生、泣かしちゃってごめんなさい」
「え、いいのに、ってか本当にこちらこそごめんね?」

 帰りの新幹線。
 私がもう一度謝りに行くと、相良先生は申し訳なさそうに眉を寄せた。

(きっと、先生もセカンド扱いされてきたんだわ、今まで)

 だって浮気とかされても許しそうだし、てきとーな言い訳信じていつまでも彼女待ってそうだもん。切ない。
 同じ気持ちを味わったことがある者として、せめてものお詫びで例のガチガチアイスを献上させていただこうと、先生の席までやってきたのだ。

「いいのに、っていうか、もらえないからね? 生徒さんからこんなの」
「でももう買っちゃいましたし」
「2個食べたら? 入るでしょ」

 う。バレてる。入るけど、でも。

「じゃあ捨てます。先生食べないなら捨てます。あーあ、もったいないなぁ、牛さんが一生懸命ミルク出して、工場の人が一生懸命作ったこのアイス、捨てます」
「わ、わかりました、食べます、食べますから」

 先生は苦笑しながらアイスを受け取ってくれた。

「……そういう言い方、よくする?」
「え?」
「脅しみたいな」
「あは、あんまりしないですけど、たまに」

 前世ではよくしてた。
 友達とかに遠慮されたりしたら、半ば押し付けるみたいに、こんな風に。

(今思えば、あれってありがた迷惑?)

 みんな元気かなぁ。幸せに暮らしてくれてたらいいな、なんて思う。

「まぁ、先生としてはホテル抜け出したこともっと謝ってほしいかな」
「う……反省してます」
「うん」
「てか、先生なんであそこで出てきたの?」

 私は首を傾げた。出現マジックで現れた先生。

「ああ」

 先生は笑った。

「タクシーで後付けたんだけど、料亭入った後どこ行ったかわからなくてウロウロしてたらね、あの人のアシスタントさんに頼まれて。予定の人が来れなくなったって、同じくらいの体格の人だからって。舞台から見たら君たちも見つけられそうだったし」
「あ、そうなんですか……てか、やっぱあれ、タネがあるんだ」
「そりゃね」
「先生見たんでしょう」
「見たけど、見たからできるわけじゃないからね」
「そりゃそうか」

 たくさんの練習とか、知恵と努力の成果があのマジックになるわけだもんな。

「でも、伏見稲荷のあれはタネも仕掛けもなーい、ですよね! すごかったぁ」
「あっは、あれは集団白昼夢だと思うね」
「そうかなぁ」
「……楽しかった?」
「その時はびっくりしてたけど、いま思うと凄かったなって思います。面白かった」

 私がそう言うと、先生は笑った。

「それは何よりでした」

 むう、まだ白昼夢説を推す気だな。黒田くんもハイハイって感じだし、まったく何を見てたんだこの人たちは!

「じゃあ私戻ります」
「うん、ありがと」

 笑う先生に手を振り、席に戻るとさっきまで起きてたはずの、ひよりちゃんと秋月くんが爆睡していた。
 というか、そもそも周りの子たちもほぼ寝ている。まだ名古屋にも着いてないのに、皆体力の限界まで楽しんでいたのだろう。

「あら」
「ちょっと目ぇ離したらこうだったよ」

 黒田くんはお菓子を食べながら言った。

「つか、また食べるんかよソレ」

 手元のアイスを指さされる。

「うん。今日は時間あるから、ゆっくり溶かしてゆっくり食べるの」
「そーかよ。残念」
「なにが?」
「なんでもねぇよ」

 黒田くんは食べていたスナック菓子を、私の口に押し込んだ。美味しい。
 ちょっと幸せな気持ちになってもぐもぐしていると、やっぱり黒田くんは変な顔をした。失礼な。

「あ、忘れないうちに」
「ん?」

 私は鞄から、お守りの袋を取り出した。「音羽山清水寺」と印刷してある、小さな紙袋。

「お守り?」
「ひよりちゃんと秋月くんにも買ってるんだけど、ふたりにはまた」

 そう答えて黒田くんに袋を渡す。

「……サンキュ」
「いつもお世話になってるからね!」

 いやほんとに。

「見ていいか?」
「うん」

 黒田くんには、「勝」と書かれている青いお守り。
 ひよりちゃんと秋月くんには「幸」と書いてあるお守り。ピンクと水色の、色違いにしてみたりした。えへへ。

「空手頑張ってね」
「……おう」

 少し照れたように、返事をして。

「……なぁ」
「うん?」
「大会近いんだよ」
「うん、らしいね」

 このあいだ関東大会で準優勝してた黒田くんは、その前の県大会で県代表になっていた。次は全国らしい。すごい。

「……」

 黒田くんは黙って私をじっと見た。口を真一文字に結んで。

「……え。おまじない?」

 時々、試合前にしてるのだ。"おまじない"。

「ダメか」
「だって」

 周りを見渡す。

(みんな寝てるけど)

 少し離れた席で、女の子たちの笑い声がする。座ってたら、見えない角度ではあるけど。

(さすがに恥ずかしいじゃん!)

 おでこコツンするし!
 アワアワしてると、黒田くんは笑った。

「や、悪い。変なこと言った」

 笑う顔が、なんかちょっと辛そうで。

(なんでそんな顔するのかな)

 分からない、けど。
 私は黒田くんの手を握り、おでこを合わせた。

「黒田くんのお願いが叶いますように、なーむー」

 少し早口で、すぐに身体を離す。

「……相変わらず気ぃ抜けるよな、なーむー」

 いつも通りの口調に少し安心する。

「ここまでしたんだから、絶対優勝してよね」

 ちょっと口を尖らせて言う。

「負ける気しねーな」

 黒田くんは片頬を上げて笑って、それからお守りをぎゅうっと握りしめて言った。

「あのな、優勝したら聞いて欲しいことがあんだけど」
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