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分岐・黒田健
砂の城とヒロインの噂
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結局、浮きまで泳ぐのは断念した。黒田くんはともかく、私の体力では厳しそうだった。
黒田くんと話しながら浜に上がる。
「案外遠いんだねぇ」
「浮き輪とかありゃいけんじゃねーの、……ってすげえなオイ」
秋月くんをバスト豊満な美女(?)にするのに飽きたのか、3人は結構大きな砂のお城を作っていた。どこから持ってきたのか、バケツやヘラを駆使して細かいところまで作っている。
「なんか、千晶ちゃんにスイッチ入っちゃったみたいでね」
秋月くんは楽しそうに言う。ひよりちゃんも「結構たのしーよ、これ」と笑った。
千晶ちゃんに目をやると、少し恥ずかしそうに「あは」と笑って立ち上がる。
「昔からこういうの、好きなんだよねぇ」
「へぇ」
まじまじとお城を見つめる。
なんだか見たことがあるような。外国の有名なお城?
「ふふ、ノイシュヴァンシュタイン城なの、まだ完成は先だけど形は見えてきたかな」
にこり、と千晶ちゃん。スマホ片手にそういうので、おそらく写真を見ながらこだわって作っているようだった。
「のいしゅ」
そして私は、そのお城の名前を繰り返そうとして、噛んだ。
(言えない……)
とにかく、そのノイシュなんちゃら城だ。
「いやすごすぎる」
「鍋島ってこんな特技あったんだな」
私と黒田くんが感心してそういうと、「2人が手伝ってくれてるからだよ!」と千晶ちゃんはひよりちゃんと秋月くんに目をやった。
(そういえば千晶ちゃん、前世では圭くんが推しキャラだったんだもんね)
もともと、こういう芸術的なものが好きなのかもしれない。
私がちょっと納得して頷いていると、背後から、いや、背後よりずうっと後ろから大声で黒田くんを呼ぶ声がした。
「よーーっす、黒田っ」
(うわぁ超元気な声っ)
私たち皆が、いや浜の殆どの人が彼を見つめた。
同じ年くらいだろうか、日焼けした肌に黒い短髪、何よりやたらと整った顔にちょっと嫌な予感がして、千晶ちゃんを見ると、少し驚いたような顔をした後、黒田くんを見て納得したような表情に変わる。
当の黒田くんは少し面倒くさそうに「よう来てたのか橋崎」と肩をすくめた。
(橋崎……って、橋崎鉄斗!)
千晶ちゃんがこないだ教えてくれた、千晶ちゃんが悪役令嬢な"ゲーム"での攻略対象! で、毎回黒田くんに勝ってる空手のライバル。
ちょっとオロオロと黒田くんと橋崎くんを交互に見ていると、黒田くんはふと笑って私の脳天にチョップした。かるーく、だけど。
「心配すんな、仲はいーんだよ。つか、知ってんだな」
「えっと、うん」
毎回負けちゃう相手がいるって、知られたくなかったかな。どうだろ。
そんな私たちを見て、橋崎くんは……崩れ落ちた。私はびくりと後ずさる。なになにっ!?
「くそっ、なんでっ、なんでお前にはか~わいいっ彼女がいて! オレにはいないんだっ」
「知るかよ」
黒田くんは冷静に突っ込む。
「彼女どころか! 女友達さえ! いないっ!」
「……まぁ男子校だもんな、お前」
そう言った後、「こいつ中高一貫の男子校いってて」とフォローらしきものを入れてくれた。
「そうなんです、最近女ならなんでも可愛く見えてきました、約1名を除いて……どうも橋崎っす、お見知り置きを」
橋崎くんはなんだか意味深なことを言いながら立ち上がり、自己紹介をしてくれた。
「はぁ、あ、設楽です……」
私は自己紹介しかえしながら、首をかしげた。
(……? ヒロインの石宮さんと幼馴染なのでは?)
幼馴染は友達としてノーカンなの?
そう思って千晶ちゃんを見ると、千晶ちゃんも不思議そうに橋崎くんを見つめていた。
「紹介してくれ、その後ろの友達っぽい可愛い子を紹介してくれ」
「あー、無理」
黒田くんはすげなく断る。
「俺そういうのしねぇから」
「お前は! お前ってやつは! 独り占めか!? 独り占めなのか!?」
「男もう1人いるだろ」
「イケメンダァ!!!」
秋月くんを見て、橋崎くんはまたもや崩れ落ちた。
「それも爽やか系イケメンだっ、俺らみたいなオトコクセェのと違う系だ……」
なにか恨みでもあるのだろうか、橋崎くんは恨めしそうに秋月くんを見る。秋月くんは少し面白そうに「相変わらずだねー」と笑っていた。黒田くんの試合とかで見かけたことがあるのかもしれない。
「あの」
千晶ちゃんが果敢にも話しかける。
「はっ!? なんでしょう!?」
橋崎くんはバッと立ち上がり、千晶ちゃんに詰め寄る。話しかけられたのが超嬉しそう。
千晶ちゃんは苦笑いしながら「あの、勘違いだったら申し訳ないんですけど」と前置きして続けた。
「幼馴染で、可愛らしい女の子、いませんでしたっけ……?」
「ぎゃーす! その話どこで聞いたんすかっ」
謎の感嘆詞を叫びつつ頭を抱えた橋崎くん。
「えと、噂? うん、噂で」
「あれは! なんだか分からないけどつきまとってくる、よく分からない幼稚園が同じだけのよく分からん奴です!」
「よ、よく分からない……?」
「うっす! その上なぜかオレと幼馴染アピールが凄いっす! しんどいっす!」
ハッキリ言い切って、ふう、と橋崎くんは肩を落とした。
「オレがモテねーのは、あいつがいるせいっす、きっと」
「そ、そうなんだ、大変だね」
千晶ちゃんは首を傾げながらも、不憫に思ったのか橋崎くんを慰める。
「そのうちいいことあるよ」
「……今、ありました」
橋崎くんはぱちぱちと目を瞬かせた後、千晶ちゃんの足元に跪いて千晶ちゃんの手を取る。
「お付き合いしてください」
「……は?」
千晶ちゃんがぽかん、とした顔になる。
「この橋崎鉄斗、あなたに一目惚れいたしました!」
いっそ堂々と、橋崎くんは宣言する。
「大好きです! 付き合ってください!」
黒田くんと話しながら浜に上がる。
「案外遠いんだねぇ」
「浮き輪とかありゃいけんじゃねーの、……ってすげえなオイ」
秋月くんをバスト豊満な美女(?)にするのに飽きたのか、3人は結構大きな砂のお城を作っていた。どこから持ってきたのか、バケツやヘラを駆使して細かいところまで作っている。
「なんか、千晶ちゃんにスイッチ入っちゃったみたいでね」
秋月くんは楽しそうに言う。ひよりちゃんも「結構たのしーよ、これ」と笑った。
千晶ちゃんに目をやると、少し恥ずかしそうに「あは」と笑って立ち上がる。
「昔からこういうの、好きなんだよねぇ」
「へぇ」
まじまじとお城を見つめる。
なんだか見たことがあるような。外国の有名なお城?
「ふふ、ノイシュヴァンシュタイン城なの、まだ完成は先だけど形は見えてきたかな」
にこり、と千晶ちゃん。スマホ片手にそういうので、おそらく写真を見ながらこだわって作っているようだった。
「のいしゅ」
そして私は、そのお城の名前を繰り返そうとして、噛んだ。
(言えない……)
とにかく、そのノイシュなんちゃら城だ。
「いやすごすぎる」
「鍋島ってこんな特技あったんだな」
私と黒田くんが感心してそういうと、「2人が手伝ってくれてるからだよ!」と千晶ちゃんはひよりちゃんと秋月くんに目をやった。
(そういえば千晶ちゃん、前世では圭くんが推しキャラだったんだもんね)
もともと、こういう芸術的なものが好きなのかもしれない。
私がちょっと納得して頷いていると、背後から、いや、背後よりずうっと後ろから大声で黒田くんを呼ぶ声がした。
「よーーっす、黒田っ」
(うわぁ超元気な声っ)
私たち皆が、いや浜の殆どの人が彼を見つめた。
同じ年くらいだろうか、日焼けした肌に黒い短髪、何よりやたらと整った顔にちょっと嫌な予感がして、千晶ちゃんを見ると、少し驚いたような顔をした後、黒田くんを見て納得したような表情に変わる。
当の黒田くんは少し面倒くさそうに「よう来てたのか橋崎」と肩をすくめた。
(橋崎……って、橋崎鉄斗!)
千晶ちゃんがこないだ教えてくれた、千晶ちゃんが悪役令嬢な"ゲーム"での攻略対象! で、毎回黒田くんに勝ってる空手のライバル。
ちょっとオロオロと黒田くんと橋崎くんを交互に見ていると、黒田くんはふと笑って私の脳天にチョップした。かるーく、だけど。
「心配すんな、仲はいーんだよ。つか、知ってんだな」
「えっと、うん」
毎回負けちゃう相手がいるって、知られたくなかったかな。どうだろ。
そんな私たちを見て、橋崎くんは……崩れ落ちた。私はびくりと後ずさる。なになにっ!?
「くそっ、なんでっ、なんでお前にはか~わいいっ彼女がいて! オレにはいないんだっ」
「知るかよ」
黒田くんは冷静に突っ込む。
「彼女どころか! 女友達さえ! いないっ!」
「……まぁ男子校だもんな、お前」
そう言った後、「こいつ中高一貫の男子校いってて」とフォローらしきものを入れてくれた。
「そうなんです、最近女ならなんでも可愛く見えてきました、約1名を除いて……どうも橋崎っす、お見知り置きを」
橋崎くんはなんだか意味深なことを言いながら立ち上がり、自己紹介をしてくれた。
「はぁ、あ、設楽です……」
私は自己紹介しかえしながら、首をかしげた。
(……? ヒロインの石宮さんと幼馴染なのでは?)
幼馴染は友達としてノーカンなの?
そう思って千晶ちゃんを見ると、千晶ちゃんも不思議そうに橋崎くんを見つめていた。
「紹介してくれ、その後ろの友達っぽい可愛い子を紹介してくれ」
「あー、無理」
黒田くんはすげなく断る。
「俺そういうのしねぇから」
「お前は! お前ってやつは! 独り占めか!? 独り占めなのか!?」
「男もう1人いるだろ」
「イケメンダァ!!!」
秋月くんを見て、橋崎くんはまたもや崩れ落ちた。
「それも爽やか系イケメンだっ、俺らみたいなオトコクセェのと違う系だ……」
なにか恨みでもあるのだろうか、橋崎くんは恨めしそうに秋月くんを見る。秋月くんは少し面白そうに「相変わらずだねー」と笑っていた。黒田くんの試合とかで見かけたことがあるのかもしれない。
「あの」
千晶ちゃんが果敢にも話しかける。
「はっ!? なんでしょう!?」
橋崎くんはバッと立ち上がり、千晶ちゃんに詰め寄る。話しかけられたのが超嬉しそう。
千晶ちゃんは苦笑いしながら「あの、勘違いだったら申し訳ないんですけど」と前置きして続けた。
「幼馴染で、可愛らしい女の子、いませんでしたっけ……?」
「ぎゃーす! その話どこで聞いたんすかっ」
謎の感嘆詞を叫びつつ頭を抱えた橋崎くん。
「えと、噂? うん、噂で」
「あれは! なんだか分からないけどつきまとってくる、よく分からない幼稚園が同じだけのよく分からん奴です!」
「よ、よく分からない……?」
「うっす! その上なぜかオレと幼馴染アピールが凄いっす! しんどいっす!」
ハッキリ言い切って、ふう、と橋崎くんは肩を落とした。
「オレがモテねーのは、あいつがいるせいっす、きっと」
「そ、そうなんだ、大変だね」
千晶ちゃんは首を傾げながらも、不憫に思ったのか橋崎くんを慰める。
「そのうちいいことあるよ」
「……今、ありました」
橋崎くんはぱちぱちと目を瞬かせた後、千晶ちゃんの足元に跪いて千晶ちゃんの手を取る。
「お付き合いしてください」
「……は?」
千晶ちゃんがぽかん、とした顔になる。
「この橋崎鉄斗、あなたに一目惚れいたしました!」
いっそ堂々と、橋崎くんは宣言する。
「大好きです! 付き合ってください!」
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