【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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分岐・黒田健

砂の城とヒロインの噂

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 結局、浮きまで泳ぐのは断念した。黒田くんはともかく、私の体力では厳しそうだった。
 黒田くんと話しながら浜に上がる。

「案外遠いんだねぇ」
「浮き輪とかありゃいけんじゃねーの、……ってすげえなオイ」

 秋月くんをバスト豊満な美女(?)にするのに飽きたのか、3人は結構大きな砂のお城を作っていた。どこから持ってきたのか、バケツやヘラを駆使して細かいところまで作っている。

「なんか、千晶ちゃんにスイッチ入っちゃったみたいでね」

 秋月くんは楽しそうに言う。ひよりちゃんも「結構たのしーよ、これ」と笑った。
 千晶ちゃんに目をやると、少し恥ずかしそうに「あは」と笑って立ち上がる。

「昔からこういうの、好きなんだよねぇ」
「へぇ」

 まじまじとお城を見つめる。
 なんだか見たことがあるような。外国の有名なお城?

「ふふ、ノイシュヴァンシュタイン城なの、まだ完成は先だけど形は見えてきたかな」

 にこり、と千晶ちゃん。スマホ片手にそういうので、おそらく写真を見ながらこだわって作っているようだった。

「のいしゅ」

 そして私は、そのお城の名前を繰り返そうとして、噛んだ。

(言えない……)

 とにかく、そのノイシュなんちゃら城だ。

「いやすごすぎる」
「鍋島ってこんな特技あったんだな」

 私と黒田くんが感心してそういうと、「2人が手伝ってくれてるからだよ!」と千晶ちゃんはひよりちゃんと秋月くんに目をやった。

(そういえば千晶ちゃん、前世では圭くんが推しキャラだったんだもんね)

 もともと、こういう芸術的なものが好きなのかもしれない。
 私がちょっと納得して頷いていると、背後から、いや、背後よりずうっと後ろから大声で黒田くんを呼ぶ声がした。

「よーーっす、黒田っ」

(うわぁ超元気な声っ)

 私たち皆が、いや浜の殆どの人が彼を見つめた。
 同じ年くらいだろうか、日焼けした肌に黒い短髪、何よりやたらと整った顔にちょっと嫌な予感がして、千晶ちゃんを見ると、少し驚いたような顔をした後、黒田くんを見て納得したような表情に変わる。
 当の黒田くんは少し面倒くさそうに「よう来てたのか橋崎」と肩をすくめた。

(橋崎……って、橋崎鉄斗!)

 千晶ちゃんがこないだ教えてくれた、千晶ちゃんが悪役令嬢な"ゲーム"での攻略対象! で、毎回黒田くんに勝ってる空手のライバル。
 ちょっとオロオロと黒田くんと橋崎くんを交互に見ていると、黒田くんはふと笑って私の脳天にチョップした。かるーく、だけど。

「心配すんな、仲はいーんだよ。つか、知ってんだな」
「えっと、うん」

 毎回負けちゃう相手がいるって、知られたくなかったかな。どうだろ。
 そんな私たちを見て、橋崎くんは……崩れ落ちた。私はびくりと後ずさる。なになにっ!?

「くそっ、なんでっ、なんでお前にはか~わいいっ彼女がいて! オレにはいないんだっ」
「知るかよ」

 黒田くんは冷静に突っ込む。

「彼女どころか! 女友達さえ! いないっ!」
「……まぁ男子校だもんな、お前」

 そう言った後、「こいつ中高一貫の男子校いってて」とフォローらしきものを入れてくれた。

「そうなんです、最近女ならなんでも可愛く見えてきました、約1名を除いて……どうも橋崎っす、お見知り置きを」

 橋崎くんはなんだか意味深なことを言いながら立ち上がり、自己紹介をしてくれた。

「はぁ、あ、設楽です……」

 私は自己紹介しかえしながら、首をかしげた。

(……? ヒロインの石宮さんと幼馴染なのでは?)

 幼馴染は友達としてノーカンなの?
 そう思って千晶ちゃんを見ると、千晶ちゃんも不思議そうに橋崎くんを見つめていた。

「紹介してくれ、その後ろの友達っぽい可愛い子を紹介してくれ」
「あー、無理」

 黒田くんはすげなく断る。

「俺そういうのしねぇから」
「お前は! お前ってやつは! 独り占めか!? 独り占めなのか!?」
「男もう1人いるだろ」
「イケメンダァ!!!」

 秋月くんを見て、橋崎くんはまたもや崩れ落ちた。

「それも爽やか系イケメンだっ、俺らみたいなオトコクセェのと違う系だ……」

 なにか恨みでもあるのだろうか、橋崎くんは恨めしそうに秋月くんを見る。秋月くんは少し面白そうに「相変わらずだねー」と笑っていた。黒田くんの試合とかで見かけたことがあるのかもしれない。

「あの」

 千晶ちゃんが果敢にも話しかける。

「はっ!? なんでしょう!?」

 橋崎くんはバッと立ち上がり、千晶ちゃんに詰め寄る。話しかけられたのが超嬉しそう。
 千晶ちゃんは苦笑いしながら「あの、勘違いだったら申し訳ないんですけど」と前置きして続けた。

「幼馴染で、可愛らしい女の子、いませんでしたっけ……?」
「ぎゃーす! その話どこで聞いたんすかっ」

 謎の感嘆詞を叫びつつ頭を抱えた橋崎くん。

「えと、噂? うん、噂で」
「あれは! なんだか分からないけどつきまとってくる、よく分からない幼稚園が同じだけのよく分からん奴です!」
「よ、よく分からない……?」
「うっす! その上なぜかオレと幼馴染アピールが凄いっす! しんどいっす!」

 ハッキリ言い切って、ふう、と橋崎くんは肩を落とした。

「オレがモテねーのは、あいつがいるせいっす、きっと」
「そ、そうなんだ、大変だね」

 千晶ちゃんは首を傾げながらも、不憫に思ったのか橋崎くんを慰める。

「そのうちいいことあるよ」
「……今、ありました」

 橋崎くんはぱちぱちと目を瞬かせた後、千晶ちゃんの足元に跪いて千晶ちゃんの手を取る。

「お付き合いしてください」
「……は?」

 千晶ちゃんがぽかん、とした顔になる。

「この橋崎鉄斗、あなたに一目惚れいたしました!」

 いっそ堂々と、橋崎くんは宣言する。

「大好きです! 付き合ってください!」
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