221 / 702
分岐・鹿王院樹
手のかかる悪役令嬢(side樹)
しおりを挟む
大事にしたい、と思う。
「一緒に寝よ?」
華がそう首を傾げて、頬を赤らめて言った時、俺は喜びと同時に自分の迂闊さを呪った。
(何をホイホイと2人きりで旅行なんかに連れ出したんだ、俺は)
喜ぶだろうか、と思ったのだ。
元々は"仕事"の手伝いで知ったホテルだ。どんなところか、実地調査にも来ていた。その時にずうっと、華の好きそうなところだなと思っていたのだ。
実際喜んでくれて、海や空をキラキラとした眼で見る華はとても可愛らしかった。
目の前で耳まで赤くして俯く華。もちろんそんな華だって可愛らしく思う。
俺は、そっと華の頭を撫でた。
(大事にしたいから、してるから)
伝わればいいのに、と思う。
うまく言葉には、まだできそうにないから。俺は子供で、きっと自分が思うよりもっと幼いのだろう。特に、華を目の前にすると、何をどうしていいか見当もつかなくなるのだから。
このホテルのビュッフェは有名で、地元の特産の郷土料理がアレンジしてあってとても美味しい。華も気にいるだろうなと思っていたら、予想通りすっかりお気にめしたようですっかりご機嫌だ。
「なかみじる、すごい好き……」
華はうっとりと、モツスープのお椀を眺める。
「沖縄料理のお店行けば食べれるかなぁ?」
「店によるのではないか? かなりの手間がかかるらしいから」
「問い合わせしてみよ~。あ、イノシシのチャンプルも美味しい」
「臭みがないな」
「ねっ!」
華はニッコリと笑う。
「ラフテーもカニも美味しい!」
「ノコギリガザミだな。本州でも採れることもあるが」
言いながら、明日はどうしよう、と思う。本島の水族館にも行きたいが、せっかく来たのだから別の島に渡って華に水牛も見せたい。
(二泊では足りなかったな)
また来よう、と思う。南十字星を見る約束もしている。
(1週間くらいはいるな)
うむ、と頷くと華は不思議そうに首を傾げて、生クリームたっぷりの黒糖パンケーキをぱくりと食べた。
部屋に戻ると、華は明らかに眠そうだった。なんとかシャワールームに突っ込み、シャワーを浴びてもなお眠そうな華の髪はまだ濡れている。
「華、寝る前に髪」
「んー? うん」
移動疲れもあるのだろう、ソファでウトウトしだす華を抱えて鏡台の前の椅子に座らせる。
抱き上げた時に、甘えるように胸に頬を寄せるからドキリとする。可愛くて仕方ない。
「最近の華は手がかかる」
照れ隠しで何となくそう言うと、華は半分寝かかりながらもムッとした顔をして「そんなことないもん」と言う。
「手間のかかる私はきらい? 許婚やめる?」
「そんな訳ないだろう」
バカなことを、と少し笑って言うと、華は安心したように頬をゆるめる。
「私、ちゃんと樹くんの許婚?」
「? もうしばらくは、そうだ」
そのうち結婚するのだから、そうなれば許婚は卒業だ……18になったら、卒業を待たずして籍を入れたい、なんてことも思っている。ダメだろうか。
華は不思議な顔をして「ふふ」と笑う。可愛らしいような、少し切なそうな顔。
華の髪は短いので、比較的すぐに乾かし終わる。
「終わったぞ」
そう言うと、鏡の中の華は半分目を閉じて、少し寂しそうな顔をした。
(華)
俺は素直に嬉しい。華が俺を意識してくれていることも、甘えてくれていることも、ワガママを言うようになってくれたことも。
髪の毛をひとすくい、持ち上げてキスをする。
「明日の朝、浜辺を歩こう」
「うん」
寝ぼけ眼で振り返った華は、ゆったりと笑う。だが、ほんの少し頬に赤みがさしていて、俺はそれをすごく嬉しいと思う。
(伝えるべきだ)
許婚で、許婚だけど、それだけではない、と。きちんと好きだと。家のことなど関係なく、将来の伴侶になってほしいのだと。
「華」
ドライヤーを洗面台の棚に置き、部屋に戻りつつそう口を開いたときと、華の可愛らしい寝息が聞こえたのとは、ほぼ同時だった。
鏡台にもたれかかるようにして眠る華の瞼にキスを落とす。
「疲れていたんだな」
そう言いながら頭を撫でる。スヤスヤと眠る横顔。
"あんだけ美人でも、そのうち飽きるんじゃない?"
"中学の時に付き合ったひとと、世の中の何パーセントが結婚してると思う?"
"単に決められているから、あの子が好きだと錯覚してるんじゃない?"
ふと、そんな言葉を思い出す。
すべて、学校の同級生に言われた言葉だ。それぞれ別の人間。わざわざ忠告のように言われることもあれば、雑談のついでのように言われることもあった。
(お前らには、関係ない)
正直、そう思った。人生で華以上に好きになる人間が出てくるとは思えない。にもかかわらず「ご親切に」アドバイスをしてくるのだ。さも、自分の方が俺のことを知っている、と言わんばかりの風情で。
(あれは、何なんだろうなぁ)
いつも不思議に思う。
やたらと口を出してくるのは、たいてい女子だ。
(放っておいてくれたらいいのに)
そう思いながら、華を抱き上げる。こんなに面白くて可愛いひとのことを、錯覚なんかで好きになるものか。ましてや、飽きるなどあり得ない。
夕食前、"華の方から"手をつないでくれた、それだけで信じられないくらい、幸せになれるのに。
ベッドルームに運んで横たえて、しっかり布団をかけてやる。
(おやすみ)
いい夢を、と願いながら、もう一度だけ瞼にキスをした。
「一緒に寝よ?」
華がそう首を傾げて、頬を赤らめて言った時、俺は喜びと同時に自分の迂闊さを呪った。
(何をホイホイと2人きりで旅行なんかに連れ出したんだ、俺は)
喜ぶだろうか、と思ったのだ。
元々は"仕事"の手伝いで知ったホテルだ。どんなところか、実地調査にも来ていた。その時にずうっと、華の好きそうなところだなと思っていたのだ。
実際喜んでくれて、海や空をキラキラとした眼で見る華はとても可愛らしかった。
目の前で耳まで赤くして俯く華。もちろんそんな華だって可愛らしく思う。
俺は、そっと華の頭を撫でた。
(大事にしたいから、してるから)
伝わればいいのに、と思う。
うまく言葉には、まだできそうにないから。俺は子供で、きっと自分が思うよりもっと幼いのだろう。特に、華を目の前にすると、何をどうしていいか見当もつかなくなるのだから。
このホテルのビュッフェは有名で、地元の特産の郷土料理がアレンジしてあってとても美味しい。華も気にいるだろうなと思っていたら、予想通りすっかりお気にめしたようですっかりご機嫌だ。
「なかみじる、すごい好き……」
華はうっとりと、モツスープのお椀を眺める。
「沖縄料理のお店行けば食べれるかなぁ?」
「店によるのではないか? かなりの手間がかかるらしいから」
「問い合わせしてみよ~。あ、イノシシのチャンプルも美味しい」
「臭みがないな」
「ねっ!」
華はニッコリと笑う。
「ラフテーもカニも美味しい!」
「ノコギリガザミだな。本州でも採れることもあるが」
言いながら、明日はどうしよう、と思う。本島の水族館にも行きたいが、せっかく来たのだから別の島に渡って華に水牛も見せたい。
(二泊では足りなかったな)
また来よう、と思う。南十字星を見る約束もしている。
(1週間くらいはいるな)
うむ、と頷くと華は不思議そうに首を傾げて、生クリームたっぷりの黒糖パンケーキをぱくりと食べた。
部屋に戻ると、華は明らかに眠そうだった。なんとかシャワールームに突っ込み、シャワーを浴びてもなお眠そうな華の髪はまだ濡れている。
「華、寝る前に髪」
「んー? うん」
移動疲れもあるのだろう、ソファでウトウトしだす華を抱えて鏡台の前の椅子に座らせる。
抱き上げた時に、甘えるように胸に頬を寄せるからドキリとする。可愛くて仕方ない。
「最近の華は手がかかる」
照れ隠しで何となくそう言うと、華は半分寝かかりながらもムッとした顔をして「そんなことないもん」と言う。
「手間のかかる私はきらい? 許婚やめる?」
「そんな訳ないだろう」
バカなことを、と少し笑って言うと、華は安心したように頬をゆるめる。
「私、ちゃんと樹くんの許婚?」
「? もうしばらくは、そうだ」
そのうち結婚するのだから、そうなれば許婚は卒業だ……18になったら、卒業を待たずして籍を入れたい、なんてことも思っている。ダメだろうか。
華は不思議な顔をして「ふふ」と笑う。可愛らしいような、少し切なそうな顔。
華の髪は短いので、比較的すぐに乾かし終わる。
「終わったぞ」
そう言うと、鏡の中の華は半分目を閉じて、少し寂しそうな顔をした。
(華)
俺は素直に嬉しい。華が俺を意識してくれていることも、甘えてくれていることも、ワガママを言うようになってくれたことも。
髪の毛をひとすくい、持ち上げてキスをする。
「明日の朝、浜辺を歩こう」
「うん」
寝ぼけ眼で振り返った華は、ゆったりと笑う。だが、ほんの少し頬に赤みがさしていて、俺はそれをすごく嬉しいと思う。
(伝えるべきだ)
許婚で、許婚だけど、それだけではない、と。きちんと好きだと。家のことなど関係なく、将来の伴侶になってほしいのだと。
「華」
ドライヤーを洗面台の棚に置き、部屋に戻りつつそう口を開いたときと、華の可愛らしい寝息が聞こえたのとは、ほぼ同時だった。
鏡台にもたれかかるようにして眠る華の瞼にキスを落とす。
「疲れていたんだな」
そう言いながら頭を撫でる。スヤスヤと眠る横顔。
"あんだけ美人でも、そのうち飽きるんじゃない?"
"中学の時に付き合ったひとと、世の中の何パーセントが結婚してると思う?"
"単に決められているから、あの子が好きだと錯覚してるんじゃない?"
ふと、そんな言葉を思い出す。
すべて、学校の同級生に言われた言葉だ。それぞれ別の人間。わざわざ忠告のように言われることもあれば、雑談のついでのように言われることもあった。
(お前らには、関係ない)
正直、そう思った。人生で華以上に好きになる人間が出てくるとは思えない。にもかかわらず「ご親切に」アドバイスをしてくるのだ。さも、自分の方が俺のことを知っている、と言わんばかりの風情で。
(あれは、何なんだろうなぁ)
いつも不思議に思う。
やたらと口を出してくるのは、たいてい女子だ。
(放っておいてくれたらいいのに)
そう思いながら、華を抱き上げる。こんなに面白くて可愛いひとのことを、錯覚なんかで好きになるものか。ましてや、飽きるなどあり得ない。
夕食前、"華の方から"手をつないでくれた、それだけで信じられないくらい、幸せになれるのに。
ベッドルームに運んで横たえて、しっかり布団をかけてやる。
(おやすみ)
いい夢を、と願いながら、もう一度だけ瞼にキスをした。
10
あなたにおすすめの小説
傷物令嬢は魔法使いの力を借りて婚約者を幸せにしたい
棗
恋愛
ローゼライト=シーラデンの額には傷がある。幼い頃、幼馴染のラルスに負わされた傷で責任を取る為に婚約が結ばれた。
しかしローゼライトは知っている。ラルスには他に愛する人がいると。この婚約はローゼライトの額に傷を負わせてしまったが為の婚約で、ラルスの気持ちが自分にはないと。
そこで、子供の時から交流のある魔法使いダヴィデにラルスとの婚約解消をしたいと依頼をするのであった。
ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する
ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。
皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。
ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。
なんとか成敗してみたい。
彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~
プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。
※完結済。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ
朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。
理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。
逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。
エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。
すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした
珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。
色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。
バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。
※全4話。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる