【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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分岐・相良仁

馬子にも衣装な悪役令嬢とヒロイン(謎)

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「あれだな、馬子にも衣装」
「ねぇ似合ってるくらい言えないの」

 私は口を尖らせて言った。
 数日前の、樹くんのご両親との顔合わせ。終始和やかな感じで、まったりと美味しいお食事をして過ごした。

(穏やかな感じの人たちだったな~)

 樹くんのご両親ってかんじ。
 その時、最初はあまり気張らず洋装で、ってかんじだったんだけど、敦子さんが急に気合が入ったのか、振袖になった。
 さすがにそれで外を移動する気になれなくて、食事したホテルで着て、食事後は脱いで帰ったけど。
 その時に撮った写真、なんとなく仁に見せてみた。わざわざ夏休み中の学校まで行って、職員室から連れ出した。職員玄関前の、楠木の下のベンチ。勉強教えてもらうって名目だから、教科書ノート持参で。しかしまぁ、あっついったら。
 蝉は今鳴かなきゃいつ鳴くんだ! って勢いでじわじわじわじわ言ってるし、空にはでっかい入道雲だし、……夕立が来ないといいけど。
 しかし、前世の成人式の写真、反応薄かったから今度こそリベンジ、と思ったけど、仁は大して変わらない反応。ふーん、だ。

「しょーじきさ」

 私は仁を上目遣いに睨みつけた。

「前世よりは美人になったんだから、馬子じゃないよね馬子じゃ」
「は? あー、見た目だけなら前世のがタイプ」
「うっそでしょこの見た目よ!?」

 悪役令嬢スペックだよ!?
 とはいえ、残念アラサーな中身が染み出しているような気は常々してるんだけど。
 と、いうか前世でアンタ私のことブス言ってたじゃん……。どんだけ私がタイプじゃないんだか。今更ヘコみなんかしないけどねっ!

「だってお前子供だし」
「そーだけどさ~」

 まぁロリコンよりマシかなぁ。

「せっかく悪役令嬢なのにさ~」

 いやせっかくも何もないんだけど。

「なんだよそれ」
「あ」

 私は仁を見上げる。

(もしかして知らない?)

 そりゃそう、かな? 乙女ゲームするタイプの人ではなかった。

「あのね」

 私はざっとこの世界について説明する。といっても、私も「三部作」のゲームのうち、ひとつしか知らないから、何とも説明しがたいんだけど。

「……なにその顔」
「信用してない顔」
「してよ! 生まれ変わりの時点で不思議満載でしょ! 今更なにを怪しむの」
「証拠出せ証拠」
「証拠お?」

 私はうーん、と首を傾げた。

(証拠、ねぇ……あ)

 私はニヤリと笑う。

「証拠はないけど証人はいます」
「誰だよ」

 訝しむ仁に「仕事終わったらここに来てね!」とメモを渡して、私はるんるんと学校を出た。全く、人をウソつき呼ばわりしてさっ!

 夕方、と言ってもまだ日が高いそんな刻限。カフェまで千晶ちゃんに来てもらって事情を話すと、千晶ちゃんは目を大きく見開いて「ほえー」と言った。

「いるもんなんだねぇ」
「ねー」
「しかも華ちゃんの友達かぁ」
「ほら私のことブス呼ばわりしたあいつよ」
「あー……」

 千晶ちゃんは少し気まずそうな顔をする。

「大丈夫?」
「ん? ああ、うんうん、今更だし。いいヤツだよ」
「そ? まぁ、相良せんせ、いい人だしそうなんだろうけど」
「全然キャラ違うよ」
「そうなの?」

 私はちょっと笑ってしまう。
 その時、だった。

「な、なんで」

 可愛らしい声。
 振り向くと、そこにいたのは何だか既視感のある女の子。

(……、誰だっけな?)

 見たことはある、気はするんだけど。
 首を傾げながら千晶ちゃんを見ると、その大きな瞳が溢れんばかりに目を見開いていた。

(知ってる子かな?)

 「友達?」と聞こうと口を開きかけた瞬間、その女の子は「悪巧みね!?」と叫んだ。

「……ん?」
「あ、悪役令嬢が揃ってるってことは、今後の悪事をどう働くか話し合ってるところなんだわ!」

 ぷるぷると震えながら言う女の子。

(……話が見えない)

 でも、思い出した……この子、小学生の時に会ったことがある! 確か、樹くんと横浜のカフェにいた時に難癖をつけてきた、子!
 千晶ちゃんの反応を見るに、多分千晶ちゃんが悪役令嬢な"サムシングブルー"のヒロインちゃん、なのではないだろうか。

「ど、どんな悪巧みをしていたの! ルリの友達に手を出したら、ゆ、許さないんだからっ」
「……えっとね? イシミヤさん?」

 千晶ちゃんがゆっくり口を開く。

「わたし達、そんなことするつもりはないわ。わたし達にも、記憶があるの。前世の。だから」
「か、関係ない、です」

 ルリは手で服を握りしめ、勇気を振り絞ってます、と言わんばかりの表情で続ける。

「だって、悪役は、悪役だもの。そういう風にできているんだもの。あ、あなたたちは、わ、悪くないと思ってても、そ、それは皆にとっては悪事なのっ」

 ぽかんとしてそれを聞いた。

(ど、どうしろと……)

 聞く耳を持たない、とはこのことだ。

「い、いじめとか、偏見とかっ、庶民だからとか、そんなの絶対にダメなんだからっ」
「や、だからイシミヤさん?」

 してませんよー……?

「おいルリっ、いつの間にてめー! 何、人様にメーワクかけてんだっ」

 カフェの入り口から慌てたように入ってきたのは、背の高い、日焼けをした男の子。

(あ)

 この子も知ってる。こないだひよりちゃんと秋月くんと行った、黒田くんの空手の試合。決勝で黒田くんに勝った、確か……橋崎くん。
 ルリと知り合い?

「て、てっと、だって、悪役令嬢が」
「まーたその話かっ! お前のその妄想癖、そろそろやめろ」
「も、妄想じゃないもんっ」
「だからお前と行動すんのヤなんだよ、……って、あ、黒田のお友達じゃないっすか。えーと、設楽さん」
「こ、こんにちは」
「くっそマジかよ、黒田の友達にまでメーワクかけたんかお前、顔向けできねーだろうが」
「迷惑じゃないもんっ、ルリの大事な友達に手を出さないように言ってるだけだもんっ」
「出さねーよ、つかお前友達いねーだろうがよ」
「? いるよ?」
「……そうかよ」

 はあ、と橋崎くんはため息をついた。それからふと千晶ちゃんを見て、何度も瞬きをした。頬に赤味がさすけど、すぐに目をそらす。

「……とにかく、謝れ」
「あ、謝らないっ! ルリ、悪いことしてないもんっ。てか、し、設楽華っ!」

 唐突に名指しされ、びくりとルリを見上げる。

「あ、あなた、どんな手を使ったか知らないけどっ、てっと騙して、と、取り入って、るのっ」
「し、してません」

 慌てて首を振るけど、ルリは相変わらず聞く耳が無さそうで、ただ悲壮な表情で言い募る。

「て、てっとに手を出すなんて、ゆ、許せない」

 そう言って、ルリは(全然関係ない隣のテーブルの)水が入ったコップを手に取り、「す、少しはやられた方の気持ちも分かった方がいいんだ!」と叫びながら私に水をかけよう、とした。

(うっわ)

 反射的に目を瞑るけど、……何も起こらない。恐る恐る目を開けると、目の前には広い背中。

「……仁」
「なんでいきなり修羅場になってんの? 三角関係?」
「あは」

 代わりに水をかぶってくれた仁は、相変わらずの飄々とした口ぶりで首をかしげる。

「だれっ!」
「あー、この子たちの担任です?」
「うわ、すんません、ほんとすんません」

 橋崎くんはぺこぺこと頭をさげ、自分のリュックからタオルを取り出す。仁は適当に顔だけ拭いて「ありがと」とそれを返した。
 店員さんもモップ片手に駆けつけて、店内は騒然となった。

「あの、服、クリーニングとか」
「いいよ、水だし。てか、なんか良く分かんないけどカノジョ、まだ怒ってるみたいだよ」

 ふう、ふう、と肩で息をしているルリをちらりと見て仁は言う。

「カノジョじゃねーんす、マジで勘弁してください」

 橋崎くんはがくりと肩を落として言った。

「あ、そうなの? まぁいいよ、行きなよ、多分居ても何の解決にもなんないよ」

 相当感情的みたいだし? と仁が言うと橋崎くんはもう一度頭を下げる。

「設楽さん、もしなんかあったら、黒田経由で連絡もらえるっすか。とりあえず回収するっす」
「あ、うん、そうする」
「じゃ、ほんと、お騒がせしました……ほんとすみません」

 周りの席の人にもぺこぺこと謝りつつ、橋崎くんはルリを引きずってカフェから出て行く。

「さて」

 仁は何でもなかったかのように椅子に座る。私の横。

「で、ゲームがどうしたって?」
「なぁに普通にしてんのよっ、アンタべっしょべしょじゃんっ」

 私はカバンからハンカチを出して首とかを拭く。

「そんなんだから風邪引くの」
「……自分で拭きます事案だから」

 仁はそう言って少し目を細めて、私からハンカチを奪い取る。

「へえ?」

 千晶ちゃんは少し面白そうに言って、それから「あの」と首を傾げた。

「お店、出ません?」

 言われて周りを見ると、さすがにあれだけ大騒ぎしちゃったし、なるほど、けっこう見られていた。
 というより最早、注目の的ですね、コレ。
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