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分岐・相良仁
前世会議
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「とりあえず信じるよ、話聞いてたけど、なんかあのブッとんでる子もそんなこと言ってたし」
仁の車でやってきた、近所のファミレス。日も暮れてきて、どうせなら早めの夕食にしよう、ということになったのだ。千晶ちゃんも私も、お互い家には電話連絡済み。
仁は途中でファストファッションのお店でシャツを買って着替えていた。
「でもなぁ、そんなことあるのかな」
「あるから実際そうなってるんじゃん」
仁がまだ疑わしげに言うので、わたしは口を尖らせる。
「まぁなぁ……」
仁はドリンクバーのコーヒーを飲みつつ、まだ少し信じられないという顔をしている。まぁ、そりゃそうかもなんだけど。
「でも、現実とゲームの、そのシナリオか? それは違うんだろ?」
「はい、本来シナリオ通りなら、わたし達は青百合に通ってるはずなんです」
説明してくれたのは、千晶ちゃん。
「実は、ひよりちゃんが」
千晶ちゃんはこれからあるだろう、ひよりちゃんに対するいじめについて相談する。
「そーか、あの大友がなぁ」
「ひよりちゃんの性格が変わっちゃうくらいだから、よほどの事があると思うんです」
「分かった、俺の方からもよく見とく」
「助かります」
千晶ちゃんは微笑んだ。
私も、仁が約束してくれたので、ちょっと安心する。昔からその辺はなんか信頼しているのだ、私は。
ちょうどその時、注文していたメニューが運ばれて来た。
「ふふふ」
「……相変わらず食べるよなお前」
「え、華ちゃん前世からこんなんです?」
千晶ちゃんは少し驚いた顔をした。失礼な……。
「焼肉とか何人前食うのって感じだったなー、そういや」
仁はニヤニヤ笑いを隠そうともしない。
「食べた後は食べたこと後悔するくせに」
「い、いまはそんなに太らないもん」
「別に前世も太ってはいなかったけどさ、しょっちゅうダイエットだなんだって挫折してたじゃねーか」
「う」
ほっといてください、と目を細めながら私は目の前に運ばれて来たお肉を(最初は仁のところに置かれた)眺める。
ステーキ、350グラム。ご飯大盛りセット。サラダ付き。美味しそう。いいのだ、若いうちはきっと代謝が良いからたくさん食べちゃうのだ。
ニッコリ微笑むと、となりの仁が呆れたような、どっか楽しいような顔で笑う。
「なに?」
まだ何か? と軽く睨むと仁は含み笑いをする。
「なんでもない」
そう言って目線を逸らすけど、口元が緩んでいる。どーせ昔からよく食べますよ、ふん。
「仲良しだね?」
「やめてよ千晶ちゃん、腐れ縁なの」
「腐れ縁ってなんだ腐れ縁って。骨まで拾ってやったのに」
「それなんか複雑になるからヤメテ」
この人、私の骨まで見たんだなぁ。なんか裸見られるより恥ずかしい、ような、そんなことないような?
デザートのパフェまでペロリと食べて(仁がおごってくれた)私たちは仁に車で送ってもらう。国産のSUV車は、前世でも仁が乗ってた車。
「趣味かわんないねー」
千晶ちゃんを先に送ってから、助手席に移動して話しかけると「なにが」と仁は前を見たまま答えた。
「クルマ。前世もこれだった」
「よく覚えてんな」
「よく乗せてもらったからねー」
笑いながら言うと「お前もな」と仁は口だけで笑う。
「助手席で体操座りになんの、なんでだよ」
「えー? なんとなく」
なんとなく丸まっちゃうんだよなぁ。もちろん靴は脱いでるけど。
「誰のでもってことはないよ、なんとなくリラックス?」
仁は運転が上手だから、車の中でものんびりしちゃうんだよなぁ。
「運転させといて」
「免許ないもーん」
「いーけどさ」
文句ありありな感じなのに、ちょっと嬉しそうだから不思議だ。
「あー、眠い」
「着くぞもう」
「わかってるけどね」
助手席ってなんか眠くなるんだよなぁ。しかもお腹いっぱいだしな、とアクビをする。
「でけーアクビ」
「眠いの。中学生は忙しいの、塾とか」
「はいはい」
それから何となく、無言になる。私が本格的に襲ってきた眠気に、寝ようかどうか迷っていると、ふと仁は口を開いた。
「暗いのダメなのは」
「ん?」
「お前が、暗い道歩けないのは、前世の、最後、のせいか」
仁は悔しそうに眉をひそめて言う。
(泣いてくれたかな)
私がいなくなったの、寂しいと思ってくれたかな?
少し、そんな風に思う。
「……うん」
「言えよ」
「ん?」
「相談くらいしてくれてたら」
「……ごめん」
「今度は何かあったら絶対言ってくれ」
「分かった」
頷くと、仁は安心したように笑ってから、それからまたぽつりと口を開いた。
「……綺麗だったよ」
「なにが?」
あまりに唐突なので、思考が追いつかない。
「振袖」
「え、今更なんですけどー」
私は仁の横顔を眺める。なんか真剣な顔をしていた。
(え、なに、そのトーンで来られると照れるじゃん)
少し慌てて姿勢を正した。なんで急に?
「似合ってた」
「そ、そう?」
ちょっと照れながら返すと、仁はふと「腹立ってただけ」と呟く。
「ん? なにそれ」
「なんでもない」
それ以降、また仁は黙ってしまった。エンジン音と、夜の街並みと、安心できる仁の運転。私はさすがに眠くなる。
現実と夢のあわいで、私はふと前世の成人式の写真のことを思い出す。
(そういえば、あの時も仁は後で綺麗だったとか可愛かったとか言い直したんだよなぁ)
最初から素直になればいーのにさ、と言ったつもりだけど、どうだろう、半分以上寝ていたので良く覚えていない。
起きたら家の前で、膝にブランケットがかけられていて、あー、やっぱり何か女慣れしてるよなぁって思った。てか、車にブランケット乗せてる時点で彼女いるよね。
まぁ前世からモテてたっぽいし、今もカッコいいみたいだからおモテになるんでしょうね~、ってちょっと思って複雑な気持ちになる。
(今更、今更)
私は気持ちを切り替える。そもそも前世の時点で脈ナシなんだ。
「ちょっと待っとけ」
「ん?」
運転席から降りた仁が、わざわざ助手席側まで来てドアを開ける。
「え、なに、何企んでんの」
「なにもねーよ、バカ、暗いのダメなんだろ」
「そだけど」
仁は私の手を取る。
「どうぞ、お嬢様?」
「なんかその口調腹立つ」
そう返すと、仁は楽しそうに笑った。
仁の車でやってきた、近所のファミレス。日も暮れてきて、どうせなら早めの夕食にしよう、ということになったのだ。千晶ちゃんも私も、お互い家には電話連絡済み。
仁は途中でファストファッションのお店でシャツを買って着替えていた。
「でもなぁ、そんなことあるのかな」
「あるから実際そうなってるんじゃん」
仁がまだ疑わしげに言うので、わたしは口を尖らせる。
「まぁなぁ……」
仁はドリンクバーのコーヒーを飲みつつ、まだ少し信じられないという顔をしている。まぁ、そりゃそうかもなんだけど。
「でも、現実とゲームの、そのシナリオか? それは違うんだろ?」
「はい、本来シナリオ通りなら、わたし達は青百合に通ってるはずなんです」
説明してくれたのは、千晶ちゃん。
「実は、ひよりちゃんが」
千晶ちゃんはこれからあるだろう、ひよりちゃんに対するいじめについて相談する。
「そーか、あの大友がなぁ」
「ひよりちゃんの性格が変わっちゃうくらいだから、よほどの事があると思うんです」
「分かった、俺の方からもよく見とく」
「助かります」
千晶ちゃんは微笑んだ。
私も、仁が約束してくれたので、ちょっと安心する。昔からその辺はなんか信頼しているのだ、私は。
ちょうどその時、注文していたメニューが運ばれて来た。
「ふふふ」
「……相変わらず食べるよなお前」
「え、華ちゃん前世からこんなんです?」
千晶ちゃんは少し驚いた顔をした。失礼な……。
「焼肉とか何人前食うのって感じだったなー、そういや」
仁はニヤニヤ笑いを隠そうともしない。
「食べた後は食べたこと後悔するくせに」
「い、いまはそんなに太らないもん」
「別に前世も太ってはいなかったけどさ、しょっちゅうダイエットだなんだって挫折してたじゃねーか」
「う」
ほっといてください、と目を細めながら私は目の前に運ばれて来たお肉を(最初は仁のところに置かれた)眺める。
ステーキ、350グラム。ご飯大盛りセット。サラダ付き。美味しそう。いいのだ、若いうちはきっと代謝が良いからたくさん食べちゃうのだ。
ニッコリ微笑むと、となりの仁が呆れたような、どっか楽しいような顔で笑う。
「なに?」
まだ何か? と軽く睨むと仁は含み笑いをする。
「なんでもない」
そう言って目線を逸らすけど、口元が緩んでいる。どーせ昔からよく食べますよ、ふん。
「仲良しだね?」
「やめてよ千晶ちゃん、腐れ縁なの」
「腐れ縁ってなんだ腐れ縁って。骨まで拾ってやったのに」
「それなんか複雑になるからヤメテ」
この人、私の骨まで見たんだなぁ。なんか裸見られるより恥ずかしい、ような、そんなことないような?
デザートのパフェまでペロリと食べて(仁がおごってくれた)私たちは仁に車で送ってもらう。国産のSUV車は、前世でも仁が乗ってた車。
「趣味かわんないねー」
千晶ちゃんを先に送ってから、助手席に移動して話しかけると「なにが」と仁は前を見たまま答えた。
「クルマ。前世もこれだった」
「よく覚えてんな」
「よく乗せてもらったからねー」
笑いながら言うと「お前もな」と仁は口だけで笑う。
「助手席で体操座りになんの、なんでだよ」
「えー? なんとなく」
なんとなく丸まっちゃうんだよなぁ。もちろん靴は脱いでるけど。
「誰のでもってことはないよ、なんとなくリラックス?」
仁は運転が上手だから、車の中でものんびりしちゃうんだよなぁ。
「運転させといて」
「免許ないもーん」
「いーけどさ」
文句ありありな感じなのに、ちょっと嬉しそうだから不思議だ。
「あー、眠い」
「着くぞもう」
「わかってるけどね」
助手席ってなんか眠くなるんだよなぁ。しかもお腹いっぱいだしな、とアクビをする。
「でけーアクビ」
「眠いの。中学生は忙しいの、塾とか」
「はいはい」
それから何となく、無言になる。私が本格的に襲ってきた眠気に、寝ようかどうか迷っていると、ふと仁は口を開いた。
「暗いのダメなのは」
「ん?」
「お前が、暗い道歩けないのは、前世の、最後、のせいか」
仁は悔しそうに眉をひそめて言う。
(泣いてくれたかな)
私がいなくなったの、寂しいと思ってくれたかな?
少し、そんな風に思う。
「……うん」
「言えよ」
「ん?」
「相談くらいしてくれてたら」
「……ごめん」
「今度は何かあったら絶対言ってくれ」
「分かった」
頷くと、仁は安心したように笑ってから、それからまたぽつりと口を開いた。
「……綺麗だったよ」
「なにが?」
あまりに唐突なので、思考が追いつかない。
「振袖」
「え、今更なんですけどー」
私は仁の横顔を眺める。なんか真剣な顔をしていた。
(え、なに、そのトーンで来られると照れるじゃん)
少し慌てて姿勢を正した。なんで急に?
「似合ってた」
「そ、そう?」
ちょっと照れながら返すと、仁はふと「腹立ってただけ」と呟く。
「ん? なにそれ」
「なんでもない」
それ以降、また仁は黙ってしまった。エンジン音と、夜の街並みと、安心できる仁の運転。私はさすがに眠くなる。
現実と夢のあわいで、私はふと前世の成人式の写真のことを思い出す。
(そういえば、あの時も仁は後で綺麗だったとか可愛かったとか言い直したんだよなぁ)
最初から素直になればいーのにさ、と言ったつもりだけど、どうだろう、半分以上寝ていたので良く覚えていない。
起きたら家の前で、膝にブランケットがかけられていて、あー、やっぱり何か女慣れしてるよなぁって思った。てか、車にブランケット乗せてる時点で彼女いるよね。
まぁ前世からモテてたっぽいし、今もカッコいいみたいだからおモテになるんでしょうね~、ってちょっと思って複雑な気持ちになる。
(今更、今更)
私は気持ちを切り替える。そもそも前世の時点で脈ナシなんだ。
「ちょっと待っとけ」
「ん?」
運転席から降りた仁が、わざわざ助手席側まで来てドアを開ける。
「え、なに、何企んでんの」
「なにもねーよ、バカ、暗いのダメなんだろ」
「そだけど」
仁は私の手を取る。
「どうぞ、お嬢様?」
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そう返すと、仁は楽しそうに笑った。
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