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分岐・相良仁
素直に(side相良)
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昔からトラブル誘引体質なところはあるよなこいつ、と水をかぶりながら思った。
華に呼び出されたカフェ前で同僚から護衛を引き継ぎ、店に入ると華はまぁ訳がわからんのに絡まれていた。
(男子の方は見覚えがある)
確か、ちょっと前に華が友人らと観に行った黒田の大会の試合相手。
(女子は知らん)
やたらとキイキイ喚いたかと思うと、やおらコップを手に取ったので、華との間に入る。冷たい水がかかる。水はともかく、氷はちょっと痛い。華に当たらなくて良かった。
振り向いて華を確認すると、驚いたようではあったがなんともなさそうで安心する。うん、良し。
「三角関係?」
少しおちゃらけて言うと、華は笑った。ヨシヨシ。俺も笑う。
店を移動して、ゲームとやらの話を聞きつつ飯を食う。
「ファミレス、そういや前世ぶり」
「ほんとだ、たしかに」
そう言い合う"悪役"な令嬢二人組。まったく、なんというか、いいよな金持ち。でも中学生に金払わせる気になれなくて(中身は大人でも、例えコイツらのほうが金持ちでも、だ)奢ってやる。まぁそこそこ稼がせて頂いますし、コイツのおばーさんから。
ファミレス出る前に華がトイレ行くというので、鍋島と2人でレジ前のソファで待つ。
「あの」
「ん?」
「ちょっとヒントなんですけど」
「ヒント?」
鍋島の唐突な"ヒント"とやらに首を傾げた。
「前世で華ちゃん、一瞬だけ、ほんと一瞬だけ自分から好きになった人がいるんですって」
「ふーん?」
何でそんな話を。
怪訝に眉をひそめて鍋島を見ると、楽しそうに笑う。
「元カレのこと、殴ってくれたんですって」
「え」
「でもブスって言われたから諦めたらしいんで」
「……うそ」
「少し素直になった方がいいかもですよ?」
くすくす、と笑って鍋島は立ち上がる。
「あ、華ちゃん、来ました」
華がのんびり歩いてくる。
「おまたせ~」
「全然。さ、先生、行きましょうか」
「……おう」
頭が回転しない。全然。
(うっそだろ)
俺、前世、あと少しだけ勇気あったら人生変わってたのか。あの失言さえなかったら。
そう思うと心臓が痛い。もしかしたらコイツの人生も、あんな形で終わらずに済んだのかもしれない。
「仁?」
不思議そうに首を傾げる華に、俺はなんとか笑顔を作った。
鍋島を送り届けてから、華は自然に助手席に移動した。
(体操座り)
なんでか、華は前世から助手席に座ると体操座りするクセがある。
「誰の運転でもってことはないよ、なんとなくリラックス?」
誰のでもじゃない、ってとこに結構グッとくる。あーあ、可愛い。
「運転させといて」
一応文句は言う。全然いいけど。どこまででも運転してやる。
「免許ないもーん」
「いーけど」
俺は少し頬が緩むのを覚えた。前世では華はペーパードライバーだった。やたらとゴールド免許なのを自慢されたが、運転しなきゃそりゃゴールドだろって。
「あー、眠い」
「着くぞもう」
「わかってるけどね」
華はひどく眠そうに瞬きを繰り返す。
(そーいや、俺も十代はやたらと眠かったな)
成長期は眠いもんなのかな、とちらりと目線をやると、華は大きくあくびをした。あーあ、せっかく整ってんのにヒドイ顔。にやりと笑う。
「でけーアクビ」
「眠いの。中学生は忙しいの、塾とか」
「はいはい」
そう返事をしながら、ふと聞きたかったことを思い出す。華は、思い出したくもないかもしれないけど。
「暗いのダメなのは」
「ん?」
「お前が、暗い道歩けないのは、前世の、最後、のせいか」
華は少しためらった後、小さく返事をした。
「……うん」
「言えよ」
即答で返す。
「ん?」
「相談くらいしてくれてたら」
……違う。俺に勇気がなかったせいだ。お前のことが好きだって、そう伝える勇気がほんの少し足りなかった、そのせい。
「……ごめん」
お前のせいじゃない。
その言葉を飲み込んで、俺はひとつお願いをした。
「今度は何かあったら絶対言ってくれ」
「分かった」
華が真剣に頷くから、俺は少し安心する。護衛がついてるとはいえ、本人からの申告もあればなおありがたい。
少し会話が途切れて、ふと、鍋島の言葉が脳裏をよぎる。
"素直になった方がいいかもですよ"
(素直に、ねぇ)
そういえば、今日もひとつ、素直になれないことがあった。
俺はほんの少し、勇気を出す。
「……綺麗だったよ」
「なにが?」
きょとんとする華に、俺は言う。
「振袖」
「え、今更なんですけどー」
ちょっと華は照れて、俺は嬉しい。
「似合ってた」
「そ、そう?」
少しドギマギする華。
(なんで素直に似合ってるって言えなかったって、)
だってあれは別の男のために着たやつだったから。俺のためだったらな、って思っちゃったから。
「腹立ってただけ」
「ん? なにそれ」
「なんでもない」
適当に答えて、運転に集中するフリをする。
華はウトウトとしながらも何かを考えるような顔をしてて、ふと笑った。そして呟く。
「最初から素直になればいーのにさ」
驚いて華を見るけど、スヤスヤと幸せそうに眠るだけ。
(寝顔、……かわんねーな)
前世と同じ表情。恐ろしいくらいに。顔の作りは全然違うのに。
(つかやっぱり寝たな)
前世から、車に乗ってると大抵寝るとこは変わらない。多分帰りに寝るだろうな、とさっきシャツを買った店で特価で売られていた膝掛けを買っていた。
赤信号のうちに、後部座席に置いていた袋からそれを取り出し、タグをライターで焼き切る。華に膝掛けをかけるとちょうど青信号で、俺はアクセルを踏んだ。
華の家に着く。家庭訪問で来たから知ってんだよ、とうそぶいておいた。
「ちょっと待っとけ」
「ん?」
運転席から降りて、助手席側まで来てドアを開ける。
「え、なに、何企んでんの」
ものすごく怪訝そうな顔をされた。まったく、失礼な。
「なにもねーよ、バカ、暗いのダメなんだろ」
「そだけど」
俺は華の手を取る。
「どうぞ、お嬢様?」
「なんかその口調腹立つ」
そう言って笑う華は言葉とは逆に全然怒ってる感じはなくて、なんかこういうやり取り好きなんだよな~、って俺は思ったりしてる。
華に呼び出されたカフェ前で同僚から護衛を引き継ぎ、店に入ると華はまぁ訳がわからんのに絡まれていた。
(男子の方は見覚えがある)
確か、ちょっと前に華が友人らと観に行った黒田の大会の試合相手。
(女子は知らん)
やたらとキイキイ喚いたかと思うと、やおらコップを手に取ったので、華との間に入る。冷たい水がかかる。水はともかく、氷はちょっと痛い。華に当たらなくて良かった。
振り向いて華を確認すると、驚いたようではあったがなんともなさそうで安心する。うん、良し。
「三角関係?」
少しおちゃらけて言うと、華は笑った。ヨシヨシ。俺も笑う。
店を移動して、ゲームとやらの話を聞きつつ飯を食う。
「ファミレス、そういや前世ぶり」
「ほんとだ、たしかに」
そう言い合う"悪役"な令嬢二人組。まったく、なんというか、いいよな金持ち。でも中学生に金払わせる気になれなくて(中身は大人でも、例えコイツらのほうが金持ちでも、だ)奢ってやる。まぁそこそこ稼がせて頂いますし、コイツのおばーさんから。
ファミレス出る前に華がトイレ行くというので、鍋島と2人でレジ前のソファで待つ。
「あの」
「ん?」
「ちょっとヒントなんですけど」
「ヒント?」
鍋島の唐突な"ヒント"とやらに首を傾げた。
「前世で華ちゃん、一瞬だけ、ほんと一瞬だけ自分から好きになった人がいるんですって」
「ふーん?」
何でそんな話を。
怪訝に眉をひそめて鍋島を見ると、楽しそうに笑う。
「元カレのこと、殴ってくれたんですって」
「え」
「でもブスって言われたから諦めたらしいんで」
「……うそ」
「少し素直になった方がいいかもですよ?」
くすくす、と笑って鍋島は立ち上がる。
「あ、華ちゃん、来ました」
華がのんびり歩いてくる。
「おまたせ~」
「全然。さ、先生、行きましょうか」
「……おう」
頭が回転しない。全然。
(うっそだろ)
俺、前世、あと少しだけ勇気あったら人生変わってたのか。あの失言さえなかったら。
そう思うと心臓が痛い。もしかしたらコイツの人生も、あんな形で終わらずに済んだのかもしれない。
「仁?」
不思議そうに首を傾げる華に、俺はなんとか笑顔を作った。
鍋島を送り届けてから、華は自然に助手席に移動した。
(体操座り)
なんでか、華は前世から助手席に座ると体操座りするクセがある。
「誰の運転でもってことはないよ、なんとなくリラックス?」
誰のでもじゃない、ってとこに結構グッとくる。あーあ、可愛い。
「運転させといて」
一応文句は言う。全然いいけど。どこまででも運転してやる。
「免許ないもーん」
「いーけど」
俺は少し頬が緩むのを覚えた。前世では華はペーパードライバーだった。やたらとゴールド免許なのを自慢されたが、運転しなきゃそりゃゴールドだろって。
「あー、眠い」
「着くぞもう」
「わかってるけどね」
華はひどく眠そうに瞬きを繰り返す。
(そーいや、俺も十代はやたらと眠かったな)
成長期は眠いもんなのかな、とちらりと目線をやると、華は大きくあくびをした。あーあ、せっかく整ってんのにヒドイ顔。にやりと笑う。
「でけーアクビ」
「眠いの。中学生は忙しいの、塾とか」
「はいはい」
そう返事をしながら、ふと聞きたかったことを思い出す。華は、思い出したくもないかもしれないけど。
「暗いのダメなのは」
「ん?」
「お前が、暗い道歩けないのは、前世の、最後、のせいか」
華は少しためらった後、小さく返事をした。
「……うん」
「言えよ」
即答で返す。
「ん?」
「相談くらいしてくれてたら」
……違う。俺に勇気がなかったせいだ。お前のことが好きだって、そう伝える勇気がほんの少し足りなかった、そのせい。
「……ごめん」
お前のせいじゃない。
その言葉を飲み込んで、俺はひとつお願いをした。
「今度は何かあったら絶対言ってくれ」
「分かった」
華が真剣に頷くから、俺は少し安心する。護衛がついてるとはいえ、本人からの申告もあればなおありがたい。
少し会話が途切れて、ふと、鍋島の言葉が脳裏をよぎる。
"素直になった方がいいかもですよ"
(素直に、ねぇ)
そういえば、今日もひとつ、素直になれないことがあった。
俺はほんの少し、勇気を出す。
「……綺麗だったよ」
「なにが?」
きょとんとする華に、俺は言う。
「振袖」
「え、今更なんですけどー」
ちょっと華は照れて、俺は嬉しい。
「似合ってた」
「そ、そう?」
少しドギマギする華。
(なんで素直に似合ってるって言えなかったって、)
だってあれは別の男のために着たやつだったから。俺のためだったらな、って思っちゃったから。
「腹立ってただけ」
「ん? なにそれ」
「なんでもない」
適当に答えて、運転に集中するフリをする。
華はウトウトとしながらも何かを考えるような顔をしてて、ふと笑った。そして呟く。
「最初から素直になればいーのにさ」
驚いて華を見るけど、スヤスヤと幸せそうに眠るだけ。
(寝顔、……かわんねーな)
前世と同じ表情。恐ろしいくらいに。顔の作りは全然違うのに。
(つかやっぱり寝たな)
前世から、車に乗ってると大抵寝るとこは変わらない。多分帰りに寝るだろうな、とさっきシャツを買った店で特価で売られていた膝掛けを買っていた。
赤信号のうちに、後部座席に置いていた袋からそれを取り出し、タグをライターで焼き切る。華に膝掛けをかけるとちょうど青信号で、俺はアクセルを踏んだ。
華の家に着く。家庭訪問で来たから知ってんだよ、とうそぶいておいた。
「ちょっと待っとけ」
「ん?」
運転席から降りて、助手席側まで来てドアを開ける。
「え、なに、何企んでんの」
ものすごく怪訝そうな顔をされた。まったく、失礼な。
「なにもねーよ、バカ、暗いのダメなんだろ」
「そだけど」
俺は華の手を取る。
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