195 / 702
分岐・相良仁
背中の暖かさ
しおりを挟む
背中で華がおとなしくしている。さすがに反省しているのだろうと思うし……、というか、反省してもらわなければ。
(ナカミはいいトシしてる癖して)
妙なところで意地張りやがってこのザマだ、ほんとバカ。
さんざん小言は言ってやったので、あとは黙って林道を歩く。
「ごめんね」
ぽつりと背中で、華は言う。
「いーよ。まあ無事で良かった」
いつものトーンで言ってやると、華は少し安心したように息をついた。
「てか、すごいね、人背負って崖登れるんだ?」
「まぁ割と足場があったから」
「ニンジャみたい」
「はは」
軍隊時代も言われたことあるな、それ。
「山岳部とかだったの? ボルダリングが趣味?」
「いやぁ昔取った杵柄というか」
「あれ、華ちゃん?」
川遊び組の最後尾だろうメンバーに追いつく。大友が不思議そうに駆け寄ってきた。
「どうしたの?」
「あー。コケたみたいだよ」
俺が笑って言うと、華は背中で余計にしゅんとした。
「え、大丈夫?」
「捻挫してるみたいで」
「小西先生呼ぼうか」
俺はぎくりとした。いや、何も悪いことはしてないぞ俺は。
「ううん、宿舎で見てもらうからいいよ」
華が断って、俺はホッとする。
宿舎に戻って、小西に堂々と華を引き渡す。
(何もしてないぞ俺は)
そういう気持ちをこめて小西を見たが、その目は(女子中学生背負えて良かったですねロリコン野郎)と語っている……だから、違うんだって。
「設楽、大丈夫か」
黒田が救護室を覗きに来た。
「うん、大丈夫」
華も少しホッとしたような顔をする。え、なんだ、ほんとにフったフられたの関係なのか? ……だよね?
すぐに鍋島も入ってきたので少しホッとする。
(俺もいちいち中学生相手に何ヤキモチ妬いてるんだか)
……いや、中学生相手だから、なのか。 華と堂々と恋愛できる立場だから。
俺はこっそり息を吐いて、考えをリセットする。教師としての仕事だってあるのだ、俺は。
「……じゃあ小西先生、頼みました」
「はぁい」
含みのある返事を聞き流しつつ、宿舎から出る。これからカレーの準備なのだ、火傷とか続出しそうだし、魚捌くのはどうなんだ、大騒ぎしそうだ、と、ちょっとうんざりする。
だいたい飯盒炊爨なんか何のためにするんだ。アウトドアだ? レーションを食べろクソまずいレーションを。とりあえず腹は膨れる。
黒田も鍋島もすぐに自分の班に合流して調理を開始する。鍋島は包丁持てないしどうかなと思ったが、自ら洗い物係になってしのいでいた。
一度救護室にもどる。もう、暗いので華は外に出たがらないだろう。というか、出られないと思う。
「あ、相良先生」
「どうです、足は」
「軽い捻挫、みたいです」
小西の前だしこんな会話になる。
(なんかこっそり付き合ってるカップルみてー)
秘密の共有って、なんか、いいな。
俺はちょっとニヤつく。
「? 気持ち悪いですよ?」
小西に素で言われた。
「……失礼な。ええと、どうしますか設楽さん、外には出られないでしょう」
「えーと、千晶ちゃんがカレー持ってきてくれるらしいんで、食堂で食べます」
華は笑って言う。宿舎の食堂で食べるのは元からの予定だったが、あんなだだっ広いところで1人でメシはさみしーだろうなぁ、と思う。
「酷くなるようなら、明日病院行った方がいいと思います、今のところは湿布で様子見ましょう」
小西がそう言って、首をかしげる。
「どうする? 食堂まで歩ける?」
「えっと、……相良先生」
華はじっと俺を見上げた。
「歩いてみますけど、無理そうなら手伝ってもらっていいですか?」
「もちろん」
じいっと小西に見つめられるけど、これ華に頼まれたんだもんね~だ。
救護室を出て、階段を上がるけど途中で華はへばる。
「あー、むりそ」
「無理すんな」
俺は華を肩に担ぐ。
「え、ちょっと、仁」
「怪我してんだから足バタつかせんじゃねーよ」
「うう」
華は大人しくじっとして「前はさぁ」と呟いた。
「そんなに肉体派って訳じゃなかったよねぇ?」
「あー、まぁ、たまたま」
「たまたまねぇ。筋トレでもしてるの」
「まぁな」
「へんなの!」
華はケタケタ笑うけど、それも仕事のため、つかお前の護衛が俺の仕事なんだけど。まぁ教えないけどね。
誰もいない食堂の窓際の椅子に座らせる。窓の外では楽しそうに皆はしゃぎながらカレーを作っているのが見えて、なんていうか、華は少し寂しそうに見えた。
「この後さぁ、キャンプファイヤーでしょ」
「おう」
「いいなぁ」
「あー」
「踊るんでしょみんな」
「まぁな」
「定番のアレを」
華は上半身だけで踊る仕草をした。練習だけは、華も参加していたから。そしてクスクスと笑う。
「好きな子と当たると緊張するんだよね」
「あー、わかる」
「でしょ」
華の笑顔を見ながら、俺は固まる。
前世の話、として聞いて相槌まで打ったけど、……え、もしや今だったりする?
俺は「ごめん、それ今の話? 前世じゃなくて?」なんて聞いてしまう。
「え、いや、前世」
「そうか」
あからさまにホッとしてしまって、俺はちょっとシマッタと思う。恐る恐る華の様子を見ると、何か考えてる顔をしていた。
「……華?」
「あのさ、仁」
「なに」
返事をしながら、俺はどきどきしてる。まさか、バレた?
「仁って、小西先生と付き合ってるの?」
「は?」
「違う?」
俺は一瞬、言われた意味が分からなくてぼうっとした後、大きく否定する。
「違う違う違う、なんでそんな誤解を」
「え、だってなんか雰囲気、仲よさそうっていうか、そうだな」
うーん、と華は首をかしげる。
「もしくは、何か秘密を共有してるかんじ?」
俺は一瞬、びくりとするけど「とにかく付き合うとか絶対ない」と全力で否定しておく。
別に誰に誤解されてもいいけど、華にだけはダメだ。ダメというか、嫌だ。
「そー?」
「絶対」
「ふーん?」
まだ少し疑っている華に、俺はつい、言ってしまう。
「だって俺、好きな人いるもん」
告白もできないくせに、こういうところは素直に言っちゃうんだからホント俺ってバカだよね。バカオブバカだよ、ほんとにもう。
(ナカミはいいトシしてる癖して)
妙なところで意地張りやがってこのザマだ、ほんとバカ。
さんざん小言は言ってやったので、あとは黙って林道を歩く。
「ごめんね」
ぽつりと背中で、華は言う。
「いーよ。まあ無事で良かった」
いつものトーンで言ってやると、華は少し安心したように息をついた。
「てか、すごいね、人背負って崖登れるんだ?」
「まぁ割と足場があったから」
「ニンジャみたい」
「はは」
軍隊時代も言われたことあるな、それ。
「山岳部とかだったの? ボルダリングが趣味?」
「いやぁ昔取った杵柄というか」
「あれ、華ちゃん?」
川遊び組の最後尾だろうメンバーに追いつく。大友が不思議そうに駆け寄ってきた。
「どうしたの?」
「あー。コケたみたいだよ」
俺が笑って言うと、華は背中で余計にしゅんとした。
「え、大丈夫?」
「捻挫してるみたいで」
「小西先生呼ぼうか」
俺はぎくりとした。いや、何も悪いことはしてないぞ俺は。
「ううん、宿舎で見てもらうからいいよ」
華が断って、俺はホッとする。
宿舎に戻って、小西に堂々と華を引き渡す。
(何もしてないぞ俺は)
そういう気持ちをこめて小西を見たが、その目は(女子中学生背負えて良かったですねロリコン野郎)と語っている……だから、違うんだって。
「設楽、大丈夫か」
黒田が救護室を覗きに来た。
「うん、大丈夫」
華も少しホッとしたような顔をする。え、なんだ、ほんとにフったフられたの関係なのか? ……だよね?
すぐに鍋島も入ってきたので少しホッとする。
(俺もいちいち中学生相手に何ヤキモチ妬いてるんだか)
……いや、中学生相手だから、なのか。 華と堂々と恋愛できる立場だから。
俺はこっそり息を吐いて、考えをリセットする。教師としての仕事だってあるのだ、俺は。
「……じゃあ小西先生、頼みました」
「はぁい」
含みのある返事を聞き流しつつ、宿舎から出る。これからカレーの準備なのだ、火傷とか続出しそうだし、魚捌くのはどうなんだ、大騒ぎしそうだ、と、ちょっとうんざりする。
だいたい飯盒炊爨なんか何のためにするんだ。アウトドアだ? レーションを食べろクソまずいレーションを。とりあえず腹は膨れる。
黒田も鍋島もすぐに自分の班に合流して調理を開始する。鍋島は包丁持てないしどうかなと思ったが、自ら洗い物係になってしのいでいた。
一度救護室にもどる。もう、暗いので華は外に出たがらないだろう。というか、出られないと思う。
「あ、相良先生」
「どうです、足は」
「軽い捻挫、みたいです」
小西の前だしこんな会話になる。
(なんかこっそり付き合ってるカップルみてー)
秘密の共有って、なんか、いいな。
俺はちょっとニヤつく。
「? 気持ち悪いですよ?」
小西に素で言われた。
「……失礼な。ええと、どうしますか設楽さん、外には出られないでしょう」
「えーと、千晶ちゃんがカレー持ってきてくれるらしいんで、食堂で食べます」
華は笑って言う。宿舎の食堂で食べるのは元からの予定だったが、あんなだだっ広いところで1人でメシはさみしーだろうなぁ、と思う。
「酷くなるようなら、明日病院行った方がいいと思います、今のところは湿布で様子見ましょう」
小西がそう言って、首をかしげる。
「どうする? 食堂まで歩ける?」
「えっと、……相良先生」
華はじっと俺を見上げた。
「歩いてみますけど、無理そうなら手伝ってもらっていいですか?」
「もちろん」
じいっと小西に見つめられるけど、これ華に頼まれたんだもんね~だ。
救護室を出て、階段を上がるけど途中で華はへばる。
「あー、むりそ」
「無理すんな」
俺は華を肩に担ぐ。
「え、ちょっと、仁」
「怪我してんだから足バタつかせんじゃねーよ」
「うう」
華は大人しくじっとして「前はさぁ」と呟いた。
「そんなに肉体派って訳じゃなかったよねぇ?」
「あー、まぁ、たまたま」
「たまたまねぇ。筋トレでもしてるの」
「まぁな」
「へんなの!」
華はケタケタ笑うけど、それも仕事のため、つかお前の護衛が俺の仕事なんだけど。まぁ教えないけどね。
誰もいない食堂の窓際の椅子に座らせる。窓の外では楽しそうに皆はしゃぎながらカレーを作っているのが見えて、なんていうか、華は少し寂しそうに見えた。
「この後さぁ、キャンプファイヤーでしょ」
「おう」
「いいなぁ」
「あー」
「踊るんでしょみんな」
「まぁな」
「定番のアレを」
華は上半身だけで踊る仕草をした。練習だけは、華も参加していたから。そしてクスクスと笑う。
「好きな子と当たると緊張するんだよね」
「あー、わかる」
「でしょ」
華の笑顔を見ながら、俺は固まる。
前世の話、として聞いて相槌まで打ったけど、……え、もしや今だったりする?
俺は「ごめん、それ今の話? 前世じゃなくて?」なんて聞いてしまう。
「え、いや、前世」
「そうか」
あからさまにホッとしてしまって、俺はちょっとシマッタと思う。恐る恐る華の様子を見ると、何か考えてる顔をしていた。
「……華?」
「あのさ、仁」
「なに」
返事をしながら、俺はどきどきしてる。まさか、バレた?
「仁って、小西先生と付き合ってるの?」
「は?」
「違う?」
俺は一瞬、言われた意味が分からなくてぼうっとした後、大きく否定する。
「違う違う違う、なんでそんな誤解を」
「え、だってなんか雰囲気、仲よさそうっていうか、そうだな」
うーん、と華は首をかしげる。
「もしくは、何か秘密を共有してるかんじ?」
俺は一瞬、びくりとするけど「とにかく付き合うとか絶対ない」と全力で否定しておく。
別に誰に誤解されてもいいけど、華にだけはダメだ。ダメというか、嫌だ。
「そー?」
「絶対」
「ふーん?」
まだ少し疑っている華に、俺はつい、言ってしまう。
「だって俺、好きな人いるもん」
告白もできないくせに、こういうところは素直に言っちゃうんだからホント俺ってバカだよね。バカオブバカだよ、ほんとにもう。
10
あなたにおすすめの小説
傷物令嬢は魔法使いの力を借りて婚約者を幸せにしたい
棗
恋愛
ローゼライト=シーラデンの額には傷がある。幼い頃、幼馴染のラルスに負わされた傷で責任を取る為に婚約が結ばれた。
しかしローゼライトは知っている。ラルスには他に愛する人がいると。この婚約はローゼライトの額に傷を負わせてしまったが為の婚約で、ラルスの気持ちが自分にはないと。
そこで、子供の時から交流のある魔法使いダヴィデにラルスとの婚約解消をしたいと依頼をするのであった。
ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する
ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。
皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。
ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。
なんとか成敗してみたい。
彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~
プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。
※完結済。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ
朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。
理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。
逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。
エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。
すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした
珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。
色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。
バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。
※全4話。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる