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分岐・黒田健
いじめ(一部共通)
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帰りのホームルームが終わって、少し周りの子たちとおしゃべりタイム。
その子たちもぼちぼち部活に向かったりなんかし始める。
私もカバンに教科書を詰めつつ、でも実は千晶ちゃんとこっそり話したいことがあって、ちらりと千晶ちゃんを視界にいれながら悩んでいた。
(いつものカフェで待ち合わせ、とかのほうがいいかな?)
下手に学校で話して、誰かに聞かれてもなぁ、なんて考えていると、黒田くんに声をかけられる。
「設楽、帰るのちょっと待っててもらえるか」
いつも一緒に帰っている黒田くんにそう言われて、私は不思議に思いながら頷いた。なんだろ。
同じクラスの男子のところに、黒田くんは寄っていく。
「三田、それ俺出しとくわ」
三田くんは首を傾げた。それ、とは日直が集めた国語のワーク。授業中に回収し忘れたとのことで、日直が放課後集めて持っていくことになっていた。
「こないだ日直の黒板、代わってくれただろ」
「あ、あれか。いーのに」
「や、なんか俺がきもちわりーから。それにお前今日、合同練習とか言ってただろ、他の学校で」
「あ」
すっかり忘れていたっぽい三田くんは、慌てて時計を見た。
「やば、行かなきゃ。すまん、黒田」
「気をつけてな」
三田くんは楽器の入ってるっぽい黒いケース(多分トランペット)を抱えて慌てて教室を出て行く。確か、吹奏楽部だったはず。
私は机の上の、30冊以上のワークを見た。一冊がそこそこの厚さなので、それなりの量がある。
「手伝おうか?」
「や、いい……けど」
黒田くんは少し迷う。
「一緒に職員室行くか?」
多分、この間ひとりになった時に、私が男子にからかわれたのを気にしてくれているんだろう。
どうしようかな、と思っていると千晶ちゃんから話しかけられる。
「華ちゃん、ちょっといいかな」
「あ、うん。じゃあ黒田くん、また後でね」
「おう。すぐ戻る」
黒田くんが教室から出て行って、私は千晶ちゃんと席に座ってこっそり話す。話したい内容は、同じものだろう、と思っていたら、やはり同じだった。
「ひよりちゃんの様子、変、だよね?」
「うん……」
廊下ですれ違った時とかに、いつも一緒にいた同じクラスの子がいない。
話しかけると、いつも通りに笑ってくれてはいる。けれど、元気はない。
休み時間にひよりちゃんを訪ねてみたら、ぽつりと一人座って外を眺めていた。胸がぎゅうっとなってしまった。
「大丈夫かな」
「いじめ、始まってる気がする」
「テニス部の子に聞いたらいつも通りだって。だから、やっぱり多分……クラスだと思う」
千晶ちゃんの言葉に、私は眉をひそめる。決めつけはダメだって分かってるけど、やっぱり東城さんのあの態度が気になっているのだ。
その時、がらり、と教室のドアが開く。
「?」
立っていたのは、なんとなく見たことのある女の子。
(あれ?)
確か、東城さんの友達だ。
首を傾げてみていると、その子は私たちのところに走り寄ってきた。
「あの、さ、設楽さんと鍋島さんってさぁ、大友さんと仲いい、よね?」
「? うん」
どうしたんだろう、と首をかしげる。
「あのさ、……あたしが言ったって、誰にも言わないで欲しいんだけど」
その子は、きょろきょろと周りを見渡して、私たち以外がいないことを確認してから、そう口を開いた。
「うん」
私は少し真剣に答える。なにか、ひどく嫌な予感がする。
「あたし、いくらなんでも東城、やりすぎかなって思って」
「やりすぎ?」
「うん」
女の子は俯いた。
「ちょっとさ、先生には言えないし。あたしが止めても、東城絶対聞かないし。てか、まぁ、あたしがハブられるだけなんだけどさ。でも、止めて欲しくて……ほんとに、やりすぎ」
「なにをしようとしてるの?」
私は少し焦りながら聞いた。
女の子は、少し言いにくそうに言う。
「脱がせて、裸の写真ネットに上げてやるって」
「は!?」
私は立ち上がった。
想定以上のことが起きようとしていた。ひよりちゃんの性格が激変するくらいの、いじめ。酷いことが起きるのではないかとは、思っていたけれど。
「あの、ごめん、わたしがチクったっての」
「大丈夫、絶対言わないから。ねぇ、どこにいるの?」
「お、音楽室。今日、吹部が他校に練習行ってるから、誰もいなくて。防音しっかりしてるから騒いでも大丈夫だって、東城が」
私と千晶ちゃんは教室を飛び出た。
「ごめん、千晶ちゃん、先生たちに伝えてもらえる? あと、いたら黒田くん!」
職員室にいてくれてるといいけど!
「え、華ちゃん」
「私、とにかく時間稼ぐね!」
待ってる時間はない。とにかく止めなくては。
「わ、わかった、すぐに行くから」
千晶ちゃんは職員室へ向かって階段を降り、私は逆に階段を駆け上がる。
音楽室は四階のすみっこで、私は日頃の運動不足を後悔した。とにかく急がなきゃなのに!
なんとかたどり着き、ドアをひねる。
(鍵、)
そりゃ閉めてるよね、と私は舌打ちをした。
ドアをがんがん、と叩くと、ドアのすりガラスのところに誰かの影が立った。
「開けなさい! 私の友達になにしてくれてんのよ!」
少しだけ、ドアの向こうで何か話す気配があった。
それから、かちゃりとドアが開いて、私は飛び込む。
「ひよりちゃんっ」
背後で、ばたりとドアが閉められた。
(しまった)
慌てて振り向く。東城さんの取り巻きが、笑って鍵を閉めたところだった。
「バカじゃん?」
くすくす、と笑われる。
私はぐっと唇を噛み締めながら、周りを見渡す。
東城さんとその友達ーーもとい、取り巻きがいるのは分かっていた。
(まさか男子がいるなんて)
想定外たった。
それも、去年私のことをプールでからかった男子。それから、その友達(確か、体育会の時倉庫でふざけてた人だ)が、笑いながら私を見ている。
ひよりちゃんは、東城さんたちに押さえつけられながらも、脱がされまいと抵抗していた。
私は「やめなさい!」と叫ぶ。
「は、華ちゃあんっ」
「もう大丈夫!」
私はひよりちゃんを力づけるように言った。
「もうすぐ先生も来るからね!」
「なにが大丈夫よ、先生来たからってなに? ちょっと仲良くふざけてただけじゃん、ねぇ?」
東城さんはニヤニヤと笑う。
「さっさと脱がせて写真撮っちゃお。そしたらコイツら言うこと聞くしかなくなるじゃん。先生にもふざけてただけですって証言してよねー?」
その言葉に、男子二人は笑みを深めた。
「つか、さあ、増えたじゃん。しかも設楽さん」
「ラッキー」
ニヤニヤと笑うその下卑た表情に、思わず鳥肌が立つ。去年、プールで私をバカにした男子と、体育会の時に暴れてあわやひよりちゃんに怪我をさせそうになった男子。
よりによって、この2人が東城さんと組んでたなんて。
「……この下衆野郎、最っ低」
「は?」
蔑む目線で、無言でそいつらを睨む。ほんとに最低だと思ったから。
「なんだよ、その目は。立場分かってんのか」
男子に肩を押されて、床に倒れこむ。幸い、音楽室の床は絨毯敷きなので、そこまで痛くはなかった。
「じゃあさ」
男子はニマニマと笑う。
「大友に手ぇ出されたくないんならさ、お前が代わりに脱げよ」
私はすこし、目を見開いた。
唇を噛んで、ちらりとひよりちゃんに目線をやる。
(じきに先生たちが到着する)
時間を稼げばいいのだ。
「……、わかった、そうしたらもう、ひよりちゃんに嫌がらせするの、やめてくれる?」
「いいよ、やめてあげる!」
できるもんならね! と高笑いする東城さん。
はぁ、と私はため息をついて白いタイをしゅるり、と解いた。
「え、うそ、まじ」
びっくりしながらも、にやりと笑う男子。……下衆だと、心から思う。
「ダメだよ華ちゃん!」
泣きそうな、というより泣きながら叫ぶひよりちゃん。東城と友達に押さえつけられていて、動けない。
「ダメ!」
「あっは、いいじゃんいいじゃん!」
高笑いする東城。
私は、のろのろとセーラー服のスナップボタンに手をかけた。
「はやくしなよ、大友脱がすけど」
時間を稼ごうとしているのに気がついたのだろう東城さんは、ひよりちゃんのスナップボタンに手をかけてそう言った。
「……、わかったよ」
ぷち、ぷちと少しだけはずす。
(もう、来てくれる)
だいいち、セーラー服脱いだって下にキャミソール着てるし。全然平気なんだもんねっ、こちとら中身アラサーですよ!
なんて強がってみせていると、がちゃん! とドアノブを強く回す音がした。
「開けろ」
ドスの効いた、黒田くんの声。
(ま、間に合った)
ほう、と身体から力が抜ける。
東城さんは少し青くなっていて、男子たちも顔を見合わせた。
「え、ほんとにチクってきたの」
「ひとりだったから、先生呼んだとかも嘘かと」
取り巻きさんたちが、ひそひそと不安げに話す。
それから、ごん、と大きな音。ドアが軋む。がん、がん、ごん、と鍵が壊れる音。
ドアを蹴りつけるように開けて入って来たのは、やっぱり黒田くんだった。
室内を一瞥して、私と目があってーー低い声で黒田くんは言う。
「てめぇら、何したか分かってんだろーな」
(う、わぁ)
相変わらず、というか、なんというか、本気で怒ると口だけ笑うんだよなぁこの人。めっちゃ、怖い。
黒田くんは男子たちの前に立って、威圧的に見下ろす。男子たちは「じょーだん、ふざけてただけだって、な?」と愛想笑いを浮かべるが、黒田くんは聞いていない。
「おいコラてめぇらもいい加減俺のイトコ離せ」
東城さんたちは、慌ててひよりちゃんを離す。ひよりちゃんは一目散に私のところにかけてきて、私をぎゅうぎゅうと抱きしめた。
「ばか、華ちゃん、ばか」
「心配かけてごめんね」
私も、ひよりちゃんをぎゅっと抱きしめた。無事でよかった……!
私たちをちらりと横目で見て、黒田くんは男子に向き直る。
「どっちからだ?」
黒田くんは薄く笑う。
「え?」
「宣戦布告だろーが、ヒトの女に手ぇ出すなんざ」
「いや、その」
「いやそのじゃねぇよ、決めろ。2人がかりでも俺はいーぞ」
「黒田、その、俺たち、あいつに、唆されて」
男子たちは東城さんを指差す。
「え!? は、あ、あんたたちだって乗り気だったじゃない」
「オンナのせーにしてんじゃねぇぞボケ!」
黒田くんがそう叫んだのと、先生たちが飛び込んできたのは同時だった。
その子たちもぼちぼち部活に向かったりなんかし始める。
私もカバンに教科書を詰めつつ、でも実は千晶ちゃんとこっそり話したいことがあって、ちらりと千晶ちゃんを視界にいれながら悩んでいた。
(いつものカフェで待ち合わせ、とかのほうがいいかな?)
下手に学校で話して、誰かに聞かれてもなぁ、なんて考えていると、黒田くんに声をかけられる。
「設楽、帰るのちょっと待っててもらえるか」
いつも一緒に帰っている黒田くんにそう言われて、私は不思議に思いながら頷いた。なんだろ。
同じクラスの男子のところに、黒田くんは寄っていく。
「三田、それ俺出しとくわ」
三田くんは首を傾げた。それ、とは日直が集めた国語のワーク。授業中に回収し忘れたとのことで、日直が放課後集めて持っていくことになっていた。
「こないだ日直の黒板、代わってくれただろ」
「あ、あれか。いーのに」
「や、なんか俺がきもちわりーから。それにお前今日、合同練習とか言ってただろ、他の学校で」
「あ」
すっかり忘れていたっぽい三田くんは、慌てて時計を見た。
「やば、行かなきゃ。すまん、黒田」
「気をつけてな」
三田くんは楽器の入ってるっぽい黒いケース(多分トランペット)を抱えて慌てて教室を出て行く。確か、吹奏楽部だったはず。
私は机の上の、30冊以上のワークを見た。一冊がそこそこの厚さなので、それなりの量がある。
「手伝おうか?」
「や、いい……けど」
黒田くんは少し迷う。
「一緒に職員室行くか?」
多分、この間ひとりになった時に、私が男子にからかわれたのを気にしてくれているんだろう。
どうしようかな、と思っていると千晶ちゃんから話しかけられる。
「華ちゃん、ちょっといいかな」
「あ、うん。じゃあ黒田くん、また後でね」
「おう。すぐ戻る」
黒田くんが教室から出て行って、私は千晶ちゃんと席に座ってこっそり話す。話したい内容は、同じものだろう、と思っていたら、やはり同じだった。
「ひよりちゃんの様子、変、だよね?」
「うん……」
廊下ですれ違った時とかに、いつも一緒にいた同じクラスの子がいない。
話しかけると、いつも通りに笑ってくれてはいる。けれど、元気はない。
休み時間にひよりちゃんを訪ねてみたら、ぽつりと一人座って外を眺めていた。胸がぎゅうっとなってしまった。
「大丈夫かな」
「いじめ、始まってる気がする」
「テニス部の子に聞いたらいつも通りだって。だから、やっぱり多分……クラスだと思う」
千晶ちゃんの言葉に、私は眉をひそめる。決めつけはダメだって分かってるけど、やっぱり東城さんのあの態度が気になっているのだ。
その時、がらり、と教室のドアが開く。
「?」
立っていたのは、なんとなく見たことのある女の子。
(あれ?)
確か、東城さんの友達だ。
首を傾げてみていると、その子は私たちのところに走り寄ってきた。
「あの、さ、設楽さんと鍋島さんってさぁ、大友さんと仲いい、よね?」
「? うん」
どうしたんだろう、と首をかしげる。
「あのさ、……あたしが言ったって、誰にも言わないで欲しいんだけど」
その子は、きょろきょろと周りを見渡して、私たち以外がいないことを確認してから、そう口を開いた。
「うん」
私は少し真剣に答える。なにか、ひどく嫌な予感がする。
「あたし、いくらなんでも東城、やりすぎかなって思って」
「やりすぎ?」
「うん」
女の子は俯いた。
「ちょっとさ、先生には言えないし。あたしが止めても、東城絶対聞かないし。てか、まぁ、あたしがハブられるだけなんだけどさ。でも、止めて欲しくて……ほんとに、やりすぎ」
「なにをしようとしてるの?」
私は少し焦りながら聞いた。
女の子は、少し言いにくそうに言う。
「脱がせて、裸の写真ネットに上げてやるって」
「は!?」
私は立ち上がった。
想定以上のことが起きようとしていた。ひよりちゃんの性格が激変するくらいの、いじめ。酷いことが起きるのではないかとは、思っていたけれど。
「あの、ごめん、わたしがチクったっての」
「大丈夫、絶対言わないから。ねぇ、どこにいるの?」
「お、音楽室。今日、吹部が他校に練習行ってるから、誰もいなくて。防音しっかりしてるから騒いでも大丈夫だって、東城が」
私と千晶ちゃんは教室を飛び出た。
「ごめん、千晶ちゃん、先生たちに伝えてもらえる? あと、いたら黒田くん!」
職員室にいてくれてるといいけど!
「え、華ちゃん」
「私、とにかく時間稼ぐね!」
待ってる時間はない。とにかく止めなくては。
「わ、わかった、すぐに行くから」
千晶ちゃんは職員室へ向かって階段を降り、私は逆に階段を駆け上がる。
音楽室は四階のすみっこで、私は日頃の運動不足を後悔した。とにかく急がなきゃなのに!
なんとかたどり着き、ドアをひねる。
(鍵、)
そりゃ閉めてるよね、と私は舌打ちをした。
ドアをがんがん、と叩くと、ドアのすりガラスのところに誰かの影が立った。
「開けなさい! 私の友達になにしてくれてんのよ!」
少しだけ、ドアの向こうで何か話す気配があった。
それから、かちゃりとドアが開いて、私は飛び込む。
「ひよりちゃんっ」
背後で、ばたりとドアが閉められた。
(しまった)
慌てて振り向く。東城さんの取り巻きが、笑って鍵を閉めたところだった。
「バカじゃん?」
くすくす、と笑われる。
私はぐっと唇を噛み締めながら、周りを見渡す。
東城さんとその友達ーーもとい、取り巻きがいるのは分かっていた。
(まさか男子がいるなんて)
想定外たった。
それも、去年私のことをプールでからかった男子。それから、その友達(確か、体育会の時倉庫でふざけてた人だ)が、笑いながら私を見ている。
ひよりちゃんは、東城さんたちに押さえつけられながらも、脱がされまいと抵抗していた。
私は「やめなさい!」と叫ぶ。
「は、華ちゃあんっ」
「もう大丈夫!」
私はひよりちゃんを力づけるように言った。
「もうすぐ先生も来るからね!」
「なにが大丈夫よ、先生来たからってなに? ちょっと仲良くふざけてただけじゃん、ねぇ?」
東城さんはニヤニヤと笑う。
「さっさと脱がせて写真撮っちゃお。そしたらコイツら言うこと聞くしかなくなるじゃん。先生にもふざけてただけですって証言してよねー?」
その言葉に、男子二人は笑みを深めた。
「つか、さあ、増えたじゃん。しかも設楽さん」
「ラッキー」
ニヤニヤと笑うその下卑た表情に、思わず鳥肌が立つ。去年、プールで私をバカにした男子と、体育会の時に暴れてあわやひよりちゃんに怪我をさせそうになった男子。
よりによって、この2人が東城さんと組んでたなんて。
「……この下衆野郎、最っ低」
「は?」
蔑む目線で、無言でそいつらを睨む。ほんとに最低だと思ったから。
「なんだよ、その目は。立場分かってんのか」
男子に肩を押されて、床に倒れこむ。幸い、音楽室の床は絨毯敷きなので、そこまで痛くはなかった。
「じゃあさ」
男子はニマニマと笑う。
「大友に手ぇ出されたくないんならさ、お前が代わりに脱げよ」
私はすこし、目を見開いた。
唇を噛んで、ちらりとひよりちゃんに目線をやる。
(じきに先生たちが到着する)
時間を稼げばいいのだ。
「……、わかった、そうしたらもう、ひよりちゃんに嫌がらせするの、やめてくれる?」
「いいよ、やめてあげる!」
できるもんならね! と高笑いする東城さん。
はぁ、と私はため息をついて白いタイをしゅるり、と解いた。
「え、うそ、まじ」
びっくりしながらも、にやりと笑う男子。……下衆だと、心から思う。
「ダメだよ華ちゃん!」
泣きそうな、というより泣きながら叫ぶひよりちゃん。東城と友達に押さえつけられていて、動けない。
「ダメ!」
「あっは、いいじゃんいいじゃん!」
高笑いする東城。
私は、のろのろとセーラー服のスナップボタンに手をかけた。
「はやくしなよ、大友脱がすけど」
時間を稼ごうとしているのに気がついたのだろう東城さんは、ひよりちゃんのスナップボタンに手をかけてそう言った。
「……、わかったよ」
ぷち、ぷちと少しだけはずす。
(もう、来てくれる)
だいいち、セーラー服脱いだって下にキャミソール着てるし。全然平気なんだもんねっ、こちとら中身アラサーですよ!
なんて強がってみせていると、がちゃん! とドアノブを強く回す音がした。
「開けろ」
ドスの効いた、黒田くんの声。
(ま、間に合った)
ほう、と身体から力が抜ける。
東城さんは少し青くなっていて、男子たちも顔を見合わせた。
「え、ほんとにチクってきたの」
「ひとりだったから、先生呼んだとかも嘘かと」
取り巻きさんたちが、ひそひそと不安げに話す。
それから、ごん、と大きな音。ドアが軋む。がん、がん、ごん、と鍵が壊れる音。
ドアを蹴りつけるように開けて入って来たのは、やっぱり黒田くんだった。
室内を一瞥して、私と目があってーー低い声で黒田くんは言う。
「てめぇら、何したか分かってんだろーな」
(う、わぁ)
相変わらず、というか、なんというか、本気で怒ると口だけ笑うんだよなぁこの人。めっちゃ、怖い。
黒田くんは男子たちの前に立って、威圧的に見下ろす。男子たちは「じょーだん、ふざけてただけだって、な?」と愛想笑いを浮かべるが、黒田くんは聞いていない。
「おいコラてめぇらもいい加減俺のイトコ離せ」
東城さんたちは、慌ててひよりちゃんを離す。ひよりちゃんは一目散に私のところにかけてきて、私をぎゅうぎゅうと抱きしめた。
「ばか、華ちゃん、ばか」
「心配かけてごめんね」
私も、ひよりちゃんをぎゅっと抱きしめた。無事でよかった……!
私たちをちらりと横目で見て、黒田くんは男子に向き直る。
「どっちからだ?」
黒田くんは薄く笑う。
「え?」
「宣戦布告だろーが、ヒトの女に手ぇ出すなんざ」
「いや、その」
「いやそのじゃねぇよ、決めろ。2人がかりでも俺はいーぞ」
「黒田、その、俺たち、あいつに、唆されて」
男子たちは東城さんを指差す。
「え!? は、あ、あんたたちだって乗り気だったじゃない」
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