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分岐・相良仁
転校生
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音楽室の事件、あれから1ヶ月。
東城の友達、というか、あの場にいた取り巻きたちは肩身が狭そうだが、変わらず学校に来ている。
当の東城は、さすがに転校していった。本人は(図太いので)平気そうだったのだが、親御さんの判断。大友のご両親との話し合いの結果、だ。
華のばーさんも「判断は学校に」なんて言っていたけれど、まぁあれは「子供の処分はそちらで」ってことだったみたいで、まぁ、大人の世界って怖いよね、っていう……。男子2人も転校していった。親の転勤が急に決まったとか言ってるけど、そんなことある? マジあのばーさん怖いわ。いやまぁ、あのばーさんなのか、華の許婚君なのか、わかんないけど。
(……俺もあいつらの顔見たくなかったからなぁ)
俺的には良かった。うん。華もあいつらの顔なんか見たくないだろうしなぁ。
まぁそういうことで、大友の両親も大友本人も、納得したらしい。1組の担任が話を聞いたところによると、あとは先生たちにお任せします、とのこと。
その代わり、というわけでは勿論ないのだが、1組に転校生が入ることになった。
職員室で、1組の担任が連れたその子を見て俺は息を飲んだし、その子も「あっ」と言って俺のところまでやってきて、そしてよく分からない持論を展開し始めた。
「で、ですからっ。先生は騙されているのです」
まっすぐな瞳でそう言ってくる女子生徒に、俺はどうしたもんかと首をひねった。1組の担任も、困り顔だ。
彼女の名前は石宮瑠璃。
華と鍋島曰く「ヒロイン」で、華に水ぶっかけようとした女。
(まさか、転校してくるとは)
「る、瑠璃に課せられた試練は、き、きっとっ、悪役令嬢3人を、こらしめることなんですっ。ですから、おばあちゃんとこに引っ越して、そして転校してきたのですっ」
「はぁ……」
「せ、先生っ。聞いているのですかっ」
「いや、はぁ、まぁ」
無。心を無にするんだ、俺。こんな電波ちゃんとは深く関わらないに限るぞ……。
「失礼しまーす」
職員室の扉から、華の声が聞こえて俺は慌てる。黒田と一緒だ。日直だから。まさかこんなことになるとは思わなくて、クラス分の社会のワーク(宿題)を回収するようにお願いしていたのだ。
「設楽華っ」
華はこちらを見て、目を見開いた。
「え、あれ、……石宮、さん?」
黒田と一緒に、俺の机までやってくる。黒田は不審そうに石宮を見つめた。
「き、気安く呼ばないでっ……でも、いい機会ですっ。ここで、あ、あなたの罪の一つを、だ、断罪しますっ」
「……罪?」
華は首を傾げた。
「そ、そうです……! ま、松影、松影ルナちゃんを殺したのは、設楽華、あ、あなたですねっ!?」
「……え?」
ぽかん、と石宮を見つめる華。
(松影ルナ……って、あいつか)
調査書しか読んではいないが、久保とかいう元塾講師を焚きつけて華を誘拐させたとんでもない少女。最終的に、久保によって道連れにされたはずだ。
「そうでなければっ、松影ルナちゃんがあんなとこで死ぬ、なんてこと、あるはずないから、ですっ」
得意げに石宮は続ける。
「る、ルナちゃんと小学校が同じだった、って子から、聞きましたっ。あなたは、ルナちゃんとトラブルになってたって。ルナちゃんは、あなたを許さないって、何度も言ってたって」
華は目を見開く。
「調べたところによりますとっ、ルナちゃんが家からいなくなったのは夜8時前後っ。あなたはそれくらいの時間にルナちゃんを呼び出して、海へ行き、そして殺したんだわ! そして久保とかいう人も殺して、罪をなすりつけた! そうに違いない、んですっ」
華は、ぱちりと瞬きをした。その表情には、明らかな困惑が浮かんでいる。
「あー、石宮さん? 設楽さんは、夜、屋外に出られないんだよ」
俺はそう言った。だから、華には無理なんだよ、という意味をこめて。というか、めちゃくちゃすぎるぞ、その断罪だかなんだか分からないが、その推理…….推理と呼べるのか? 穴だらけというか、穴しかないじゃないか。
「出られない?」
不思議そうな石宮に、華は言う。
「あの、私、そういう病気で」
「な、なるほど、ですっ」
瑠璃はひとりでうんうん、と頷く。
「そういう、アリバイ工作ですねっ。なるほどっ、それは演技ですっ」
びしり、と華に指をつきつけた。
「演技ぃ?」
俺は眉を寄せる。
「先生は騙されてますっ。この子は、悪役令嬢なんですよ? 悪いんですっ」
力説する石宮。その目はむしろ、キラキラと輝いている。自分が間違っている、なんてことは微塵も考えていないようだった。
「……クソどーでも良くて黙って聞いてたけどよ」
黒田が口を開いた。
「設楽に変な噂が立つのもムカつくから言っとくわ」
威圧的な声。明らかにイラついていた。
「な、なんですか?」
びくり、と恐る恐る黒田を見上げる石宮。
「その日、設楽にアリバイ工作も何もねーよ。夜8時まで、設楽は俺といたんだから。8時に呼び出しなんか無理だ」
「ん、え?」
「聞こえてねぇのか、工作もクソもねぇっつってんだよ。そもそも設楽には無理なんだ」
「ほ、ほええ?」
「これはな、新聞でもテレビでも言ってたから教えてやる」
「え?」
「午後9時過ぎに、漁協の防犯カメラに久保が映ってんだよ。松影らしい奴を抱えてな」
「……んっ?」
「他の人影なんか映ってねぇんだよ、分かったらその煩せぇ口閉じとけ。行くぞ設楽、次移動教室だ」
「え、あ、そうだっけ」
呆然としている華を引っ張るように、黒田は職員室を出て行く。
ただ見つめるしかない俺は2人を見つめて「わぁお似合い」なんて思ってしまう……。切ない。
石宮は、それをぼうっと眺めながら「そんなはずないのに」と何度もつぶやいていた。
……うん、この子、怖い。
東城の友達、というか、あの場にいた取り巻きたちは肩身が狭そうだが、変わらず学校に来ている。
当の東城は、さすがに転校していった。本人は(図太いので)平気そうだったのだが、親御さんの判断。大友のご両親との話し合いの結果、だ。
華のばーさんも「判断は学校に」なんて言っていたけれど、まぁあれは「子供の処分はそちらで」ってことだったみたいで、まぁ、大人の世界って怖いよね、っていう……。男子2人も転校していった。親の転勤が急に決まったとか言ってるけど、そんなことある? マジあのばーさん怖いわ。いやまぁ、あのばーさんなのか、華の許婚君なのか、わかんないけど。
(……俺もあいつらの顔見たくなかったからなぁ)
俺的には良かった。うん。華もあいつらの顔なんか見たくないだろうしなぁ。
まぁそういうことで、大友の両親も大友本人も、納得したらしい。1組の担任が話を聞いたところによると、あとは先生たちにお任せします、とのこと。
その代わり、というわけでは勿論ないのだが、1組に転校生が入ることになった。
職員室で、1組の担任が連れたその子を見て俺は息を飲んだし、その子も「あっ」と言って俺のところまでやってきて、そしてよく分からない持論を展開し始めた。
「で、ですからっ。先生は騙されているのです」
まっすぐな瞳でそう言ってくる女子生徒に、俺はどうしたもんかと首をひねった。1組の担任も、困り顔だ。
彼女の名前は石宮瑠璃。
華と鍋島曰く「ヒロイン」で、華に水ぶっかけようとした女。
(まさか、転校してくるとは)
「る、瑠璃に課せられた試練は、き、きっとっ、悪役令嬢3人を、こらしめることなんですっ。ですから、おばあちゃんとこに引っ越して、そして転校してきたのですっ」
「はぁ……」
「せ、先生っ。聞いているのですかっ」
「いや、はぁ、まぁ」
無。心を無にするんだ、俺。こんな電波ちゃんとは深く関わらないに限るぞ……。
「失礼しまーす」
職員室の扉から、華の声が聞こえて俺は慌てる。黒田と一緒だ。日直だから。まさかこんなことになるとは思わなくて、クラス分の社会のワーク(宿題)を回収するようにお願いしていたのだ。
「設楽華っ」
華はこちらを見て、目を見開いた。
「え、あれ、……石宮、さん?」
黒田と一緒に、俺の机までやってくる。黒田は不審そうに石宮を見つめた。
「き、気安く呼ばないでっ……でも、いい機会ですっ。ここで、あ、あなたの罪の一つを、だ、断罪しますっ」
「……罪?」
華は首を傾げた。
「そ、そうです……! ま、松影、松影ルナちゃんを殺したのは、設楽華、あ、あなたですねっ!?」
「……え?」
ぽかん、と石宮を見つめる華。
(松影ルナ……って、あいつか)
調査書しか読んではいないが、久保とかいう元塾講師を焚きつけて華を誘拐させたとんでもない少女。最終的に、久保によって道連れにされたはずだ。
「そうでなければっ、松影ルナちゃんがあんなとこで死ぬ、なんてこと、あるはずないから、ですっ」
得意げに石宮は続ける。
「る、ルナちゃんと小学校が同じだった、って子から、聞きましたっ。あなたは、ルナちゃんとトラブルになってたって。ルナちゃんは、あなたを許さないって、何度も言ってたって」
華は目を見開く。
「調べたところによりますとっ、ルナちゃんが家からいなくなったのは夜8時前後っ。あなたはそれくらいの時間にルナちゃんを呼び出して、海へ行き、そして殺したんだわ! そして久保とかいう人も殺して、罪をなすりつけた! そうに違いない、んですっ」
華は、ぱちりと瞬きをした。その表情には、明らかな困惑が浮かんでいる。
「あー、石宮さん? 設楽さんは、夜、屋外に出られないんだよ」
俺はそう言った。だから、華には無理なんだよ、という意味をこめて。というか、めちゃくちゃすぎるぞ、その断罪だかなんだか分からないが、その推理…….推理と呼べるのか? 穴だらけというか、穴しかないじゃないか。
「出られない?」
不思議そうな石宮に、華は言う。
「あの、私、そういう病気で」
「な、なるほど、ですっ」
瑠璃はひとりでうんうん、と頷く。
「そういう、アリバイ工作ですねっ。なるほどっ、それは演技ですっ」
びしり、と華に指をつきつけた。
「演技ぃ?」
俺は眉を寄せる。
「先生は騙されてますっ。この子は、悪役令嬢なんですよ? 悪いんですっ」
力説する石宮。その目はむしろ、キラキラと輝いている。自分が間違っている、なんてことは微塵も考えていないようだった。
「……クソどーでも良くて黙って聞いてたけどよ」
黒田が口を開いた。
「設楽に変な噂が立つのもムカつくから言っとくわ」
威圧的な声。明らかにイラついていた。
「な、なんですか?」
びくり、と恐る恐る黒田を見上げる石宮。
「その日、設楽にアリバイ工作も何もねーよ。夜8時まで、設楽は俺といたんだから。8時に呼び出しなんか無理だ」
「ん、え?」
「聞こえてねぇのか、工作もクソもねぇっつってんだよ。そもそも設楽には無理なんだ」
「ほ、ほええ?」
「これはな、新聞でもテレビでも言ってたから教えてやる」
「え?」
「午後9時過ぎに、漁協の防犯カメラに久保が映ってんだよ。松影らしい奴を抱えてな」
「……んっ?」
「他の人影なんか映ってねぇんだよ、分かったらその煩せぇ口閉じとけ。行くぞ設楽、次移動教室だ」
「え、あ、そうだっけ」
呆然としている華を引っ張るように、黒田は職員室を出て行く。
ただ見つめるしかない俺は2人を見つめて「わぁお似合い」なんて思ってしまう……。切ない。
石宮は、それをぼうっと眺めながら「そんなはずないのに」と何度もつぶやいていた。
……うん、この子、怖い。
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