【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・相良仁

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 葉桜の緑が風に揺れる。
 放課後、あまり人気のない学内の庭園(ゲームで華が断罪されてたとのとは、また違うところ)、ベンチから葉桜の濃い緑を見上げつつ、私と千晶ちゃんはぼそぼそと会話をしていた。

「え、それってさ。華ちゃん、相良さんのこと好きじゃん」
「そう、じゃないかもなんだけど」
「なんで? めちゃくちゃヤキモチ妬いてるじゃん」
「そうじゃなくて、私、ほんと押しに弱いから」

 単に押されて動揺してるだけかもなんだよね、と小さく言った。自分の感情がよく分からない。仁はずっと友達だと思ってたんだし。

「でも、相良さんも前世から華ちゃんのこと好きだったんでしょ?」
「も、って何。も、って」
「華ちゃんも前世で、ちょっとときめいたことあったって」
「うーん、それはそうなんだけど、うーん」

 私は何度も首をひねった。

(なんであの時、あんなに辛くなっちゃったんだろ)

 付き合ってるわけじゃない。なんでもない。なんの関係でもない、はずだ。私と仁は。

(そりゃ、なんか事あるごとにアピールっぽい、ことはされてるけど)

 思い出すと赤面してしまう。
 そんな私を横目で見て、千晶ちゃんは笑った。

「まぁまぁまぁ、いいんじゃない? ゆっくり考えたら」

 千晶ちゃんは私の頭をぽん、と撫でてくれた。

「ここまで待ってくれたんだから、焦んなくていいでしょ」
「……かな」

 ちょっと言い淀む。前世合わせたら、どんだけ待たせてるんだろう。前世では、散々恋愛相談やら愚痴やら話しちゃってたし。

(私だったら嫌いになっちゃってるかも)

 そんな風に思う。

(ほんとに、好きでいてくれてるんだ)

 それは分かってる、てか。
 思い出して、またもや赤面する。

(抱きしめられてしまった)

 男のひと、だった。
 や、当たり前なんだけど。うん。
 ふと黙り込んで、千晶ちゃんと並んでまた葉桜を眺めていた。

「あ」
「なに?」

 千晶ちゃんが思い出したように言う。

「イースターだね」
「あー」

 復活祭イースター

「"ゲーム"でもやったね」
「最初の方のイベントだったよね」

 私は頷きながら答えた。イースターの卵探しイベントのあと、ダンスパーティーまであるのだ。盛り込み感すごい。
 本来は日曜日の行事だけど、この学校では翌月曜日にやる。

「来年はドタバタかなぁ」

 私はハァ、と遠い目をして言った。

「ヒロインちゃん入学してくるもんなぁ」
「まぁね」

 千晶ちゃんは苦笑いした。

「でも関わらないつもりなんでしょ?」
「当たり前だよ~」

 私は大きく空を仰いだ。

「無難に生きていきたい……」
「でも相良さんとだったら無難には行けないよね」
「う」

 たしかに。ボディーガード兼先生と恋愛って、……敦子さんなんて言うか。思わず思い浮かべるのは保護者の顔。

「てか華ちゃん、何しても無難には行けないんじゃ」
「え!? なんでっ」
「だってこのままだったら、樹くんのお嫁さんでしょ」
「樹くん?」

 私は瞬きをした。

「樹くん、そのうちステキな恋愛するんじゃ」
「そーかなぁ~~」

 千晶ちゃんは含みのある笑い方をする。

「実のところ、わたしは樹くんと華ちゃんがくっつけばいいと思ってるから」
「な、なにそれ」

 時々言うよなぁ、千晶ちゃん。それ。

「お似合いだよ」
「そうは思えないけど」
「ドレス、プレゼントしてくれたんでしょ」
「うん」

 イースターのパーティ用のドレス。一応ドレスコードとしては、セミアフタヌーンドレス準拠らしくて、どんなの買えばいいか分からなかったから、正直助かった。なんなのセミアフタヌーン。

「あの子はねぇ、身内にはほんっとに優しいの」

 おばあちゃんズが決めた許婚の私にも、昔からほんとに優しい。

「あのね」
「? うん」
「ま、華ちゃんナカミはいい年だもんね」
「む、人のこと言えないでしょ」
「まーね」

 ふふふ、と笑う千晶ちゃん。

「どんなドレス?」
「ええと、濃いめの水色っていうのかな、デザインは割とシンプルで大人っぽいかんじ」
「さすが樹くん、華ちゃんの好み分かってるね」
「あは、まぁね」

 ゲームの華さんはフリフリリボンのドレス(似合ってたけど)なんか着てましたけどね。私は絶対ヤなんだよなぁ。

「千晶ちゃんはどんなの?」
「今から買いに行くの」

 そして微笑んで、立ち上がる。ちょっとからかうように続けた。

「楽しみにしてるね、樹くんが選んでくれたドレス」
「あ、うん」
「また明日ね」
「ばいばい」

 千晶ちゃんに手を振って、またほんの少しぼうっと葉桜の緑を眺めていると、ふと横に誰かが座ってきた。

「よう」
「仁」

 ちょっとドキリとする。

(……?)

 ものすごく無表情。というか、無表情を装ってるというか?

「どうしたの?」
「……なにも?」

 仁ははぁ、とため息をついて、それからふと私の手首に触れた。

「……つけてくれてる」
「あ、うん。使いやすいよ。ありがと」

 私は腕を上げて、時計を見せた。仁がくれた腕時計。
 仁はその手をそのままとった。

「?」

 不思議に思った瞬間には、手の甲にキスをされていた。

「じ、じん」

 なにも言わず、その手を自分の頬に寄せる。

「俺、大人なのになぁ」
「し、知ってるけど」

 抱きしめられた感覚を思い出す。大人の男のひとだ、って思った。肩幅とか、胸板とか、今、私の手に添えられた、この手も。

「どうして?」
「嫉妬とかすごい」
「どしたの、急に」

 私はどぎまぎしてふい、と顔を背ける。

「なんでも」

 仁は少し目を閉じた。そしてもう一度だけ、なんでもない、とそう小さく繰り返した。
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