【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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分岐・鍋島真

宇宙の話

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 プラネタリウムへ向かって歩きながら、ふと展示に気づいて見つめる。

「ブラックホール?」
「だね」

 真さんは少し嬉しそうに言う。
 少し意外な気持ちでそれを見てから、私は展示に視線を戻した。
 展示といっても、あまり説明があるわけでもなく、淡々と写真や資料が並んでいる。

「これ、なんですか?」

 撮影されたブラックホール、とタイトルが付いた写真(?)の横にあるCGイラストを指差した。

「この、赤いの」

 ブラックホールの周りを渦巻く赤っぽいなにか。

「ブラックホールに吸い込まれていく物質」
「へぇ」

 私はまじまじと眺めた。確かなんでも吸い込んじゃうんだよなぁ、ブラックホール。よくわからないけど。

「じゃあこっちは?」
「ジェットって言って、まぁブラックホールから噴出してる物質」
「?」

 私は真さんを見上げた。

「ブラックホールって吸い込むんじゃ」
「ああ、中から出てるわけじゃないよ、この」

 真さんは指で赤い渦を指差す。

「吸い込まれるコイツらの1割くらいは、何らかの力でこっちに噴出しちゃうの」
「なんでですか?」
「なんでだろうねぇ、面白いよね」

 真さんは楽しそうに言う。

(あ)

 私はまじまじと真さんを見つめた。

「……なに」
「いえ、なんでも」

 答えながら思う。ワカモノらしい顔つき、できるんじゃん。

(普段からそうしてたらいいのに)

 いつも妙にスカしちゃってさ、なんて思う。

「そもそもブラックホールってなんですか?」
「星の死骸」
「死んだ星?」
「そう。恒星ってなんだ」
「ええと、自分で光れる、太陽とかの」
「テストなら減点だからね」
「う、はい」
「恒星は核融合反応によるエネルギーで、自分の重さを支えてるんだけど」
「はい」
「これがまぁ、エネルギー切れになると重力崩壊が起きて、全てのものが中心に向かって落ち込み出す」
「え、怖」
「密度がだんだん濃くなって、そうなると重力もだんだん強くなって、やがて光さえも抜け出せないくらいになる。これがブラックホール、簡単な説明だし色々端折ったけど」
「怖すぎるんですけど」

 真さんは笑う。

「宇宙やべーよね」
「あんまり知らないんですよね」
「地球はさ」

 真さんは少し楽しそうに言う。

「大体秒速30キロくらいで太陽の周りを公転してる」
「秒速」
「そう。君と僕は今、立ち止まってるけど、実際はものすごい速さで移動してるんだ」
「ですねー……」

 そんなこと習ったっけ? 高校で習うのかな? 覚えてないや。

「で、さらにその太陽系も秒速240キロで銀河系の中を移動してる」
「240!」

 秒速だ。相当速い。

「そんな速い太陽系ができてから、銀河系を周回したの何回くらいだと思う?」
「えー」

 私は首を傾げた。太陽系ってできたのいつだろう。

「できたの46億年前くらいね」

 すっごい昔だ。

「1万回くらい?」

 適当に答えた。真さんは笑う。

「20回」
「え、そんなもんですか?」

 太陽系ができてから、だ。

「広いデショ? そう思うと、大抵のことはちっぽけだなって思えない?」
「まぁ、そうですね」

 真さんの表情は読めない。

(ちっぽけだな、か)

 悩みとかなさそう、とか勝手に思ってたけど、この人にも色々あるんだろうか。

("ゲーム"ではお母さんに捨てられた反動で女遊び激しい系のキャラだったんだっけ?)

 なんか違う気もするけど、プレイしてないし仕方ない。千晶ちゃん情報だ。

(そもそもが影がある人なんだよな、そういうことなら、きっと)

 その影を癒すはずのヒロインちゃんと出会うのはまだ先。
 もう少し、真さんはこんな感じで生きていくのかなぁ。

(それは、少し)

 辛いんじゃないかな、なんて思ってしまう。もし、私が感じたとおりに、本来の真さんには"普通の高校生らしさ"があるのだと、すれば。

「普段から」

 私は思わずそう言ってしまう。

「そんな風にしてたらいいのに、真さん」

 真さんはほんの一瞬、目を見開いて、それから笑った。

(あ、戻っちゃった)

 スカし顔の、ムカつく真さんに。

「そうしてたら、君、僕のこと好きになってくれる?」
「それとこれとは話が別です」

 あはは、と真さんは笑って、私の手を取った。またもや恋人繋ぎ。

(……なぜに)

「華は意地悪だ」
「絶対そんなことないと思いますけど?」
「意地悪だよ」

 断言された。納得いかない……。

「さ、プラネタリウム上映、そろそろ始まるよ」

 真さんはまるで、サーカスを前にした子供みたいな目で言う。

(どうやらこのひと、……星とか好きなのかな)

 意外すぎる趣味だけど、と私は首をひねった。
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