513 / 702
【高校編】分岐・相良仁
神様がいるのなら(side仁)
しおりを挟む
華は笑った。
薄ぼんやりとした教室の中、差し込む日光でホコリがキラキラと光って、そこで華は笑っていた。
机に座って、水色のドレスを着て、足をぶらぶらとさせながら笑う華は、この世のものじゃないみたいだった。印象派の絵から抜け出してきたような。
「……ヨユーだなお前」
「だって仁来てくれるって分かってたし」
100パーセントの信頼が、その目にあった。前世ではついに手に入らなかった、それ。
俺は息を飲む。
(もう、これでいいや)
恋とかしてくんなくてもいい。この信頼がもらえただけでも、生まれ変わった甲斐がある。ありがとう、いるんだかいないんだか分かんない神様。
(愛してる)
扉をしめて、華の前に立って、彼女の髪に触れながら、それだけを思った。
「……綺麗だよ」
「ん?」
ほんの少し、頬が赤い華が首をかしげる。
(あ、やっぱ前言撤回です神様)
ちょー欲しい。こいつが。信頼だけとかムリ。だってこいつしか欲しくないんだもん。
「似合ってるよ、ドレス」
「最初から素直になればいいのに」
毎回そうじゃん、と言う華の頬に手を添える。
「だって他の男からのプレゼントじゃんそれ」
「……え、あ、うん」
華は少し驚いた顔をした。
「でも樹くんだよ」
「だからだよ」
許婚だろうが。このままだったら、お前あいつと結婚するんだろ。
(幸せになれるだろう)
ものすごく大事にするだろう、あいつは華を。華もあいつを幸せにする。
(……俺って嫌な奴?)
でも止まる気はない。
「嫉妬してたんだよ」
「……ごめん」
華は目を伏せた。
「そんなつもりはなくて、」
「分かってるよ」
大人なんだから。
そう言うと華は困った顔をする。
「ねぇなんでそんなに優しいの? 私、前世でも仁のことすっごい傷つけてたんじゃないの?」
「そりゃもう、泣いて夜を明かしたことも」
「ごめんなさい」
俺は焦る。別に華を悲しませたいわけじゃない。ただ、好きになってもらいたいだけ。俺だけ見てほしいだけ。
「……じゃー、一個お願い聞いてくれる?」
「いいよ」
なんでもするよ、と言う華だけど、じゃあ俺に惚れてってのもすぐにはムリだろう。
「ピアス開けていい?」
「ピアス?」
華は首を傾げた。
「別にいいけど……校則違反じゃないかな」
「透明なのしてりゃ分かんないだろ、髪で隠れてるし」
「まぁ」
まじまじと見られないなら、と華は首を傾げた。
「でも、なんで」
「ピアスあげたいから」
「腕時計までもらったし」
色々もらえないよ、と華は言う。
「いいじゃん、多分似合うぜ」
「そう? ……ってか、お願いになってなくない?」
私がトクするだけなんじゃないの、と華は言うけど、違うんだよなぁ。
(本当は)
俺が華を傷つけたいだけ。
一生消えない俺の傷。
そっとその耳たぶに触れた。
「こっちに開けよう」
「え、どうせなら両耳がいい」
華はきょとんと言う。
「え、2回もいいの」
「なんかヤダな、その言い方」
華は眉をほんの少しひそめて笑った。
「よっしゃ、明日にでもピアッサー持ってこよう」
「前世ぶりだなー、前世はそんなに痛くなかった」
「耳たぶ、薄かったからな」
「え、やだ、そんなの覚えてるの?」
俺は笑う。
(覚えてるよ)
「……でも、そうだな、声だけ忘れた」
「ああ」
華は笑う。
「人が死んで、最初に忘れられるのって声らしいからね」
「忘れたくないのに」
俺は華の顔を両手で包み込む。
「全部全部、覚えていたいのに」
「……今の私の声じゃだめ?」
「いい」
別に声なんかどうだっていいんだ。お前がいてくれるなら、それで。
薄ぼんやりとした教室の中、差し込む日光でホコリがキラキラと光って、そこで華は笑っていた。
机に座って、水色のドレスを着て、足をぶらぶらとさせながら笑う華は、この世のものじゃないみたいだった。印象派の絵から抜け出してきたような。
「……ヨユーだなお前」
「だって仁来てくれるって分かってたし」
100パーセントの信頼が、その目にあった。前世ではついに手に入らなかった、それ。
俺は息を飲む。
(もう、これでいいや)
恋とかしてくんなくてもいい。この信頼がもらえただけでも、生まれ変わった甲斐がある。ありがとう、いるんだかいないんだか分かんない神様。
(愛してる)
扉をしめて、華の前に立って、彼女の髪に触れながら、それだけを思った。
「……綺麗だよ」
「ん?」
ほんの少し、頬が赤い華が首をかしげる。
(あ、やっぱ前言撤回です神様)
ちょー欲しい。こいつが。信頼だけとかムリ。だってこいつしか欲しくないんだもん。
「似合ってるよ、ドレス」
「最初から素直になればいいのに」
毎回そうじゃん、と言う華の頬に手を添える。
「だって他の男からのプレゼントじゃんそれ」
「……え、あ、うん」
華は少し驚いた顔をした。
「でも樹くんだよ」
「だからだよ」
許婚だろうが。このままだったら、お前あいつと結婚するんだろ。
(幸せになれるだろう)
ものすごく大事にするだろう、あいつは華を。華もあいつを幸せにする。
(……俺って嫌な奴?)
でも止まる気はない。
「嫉妬してたんだよ」
「……ごめん」
華は目を伏せた。
「そんなつもりはなくて、」
「分かってるよ」
大人なんだから。
そう言うと華は困った顔をする。
「ねぇなんでそんなに優しいの? 私、前世でも仁のことすっごい傷つけてたんじゃないの?」
「そりゃもう、泣いて夜を明かしたことも」
「ごめんなさい」
俺は焦る。別に華を悲しませたいわけじゃない。ただ、好きになってもらいたいだけ。俺だけ見てほしいだけ。
「……じゃー、一個お願い聞いてくれる?」
「いいよ」
なんでもするよ、と言う華だけど、じゃあ俺に惚れてってのもすぐにはムリだろう。
「ピアス開けていい?」
「ピアス?」
華は首を傾げた。
「別にいいけど……校則違反じゃないかな」
「透明なのしてりゃ分かんないだろ、髪で隠れてるし」
「まぁ」
まじまじと見られないなら、と華は首を傾げた。
「でも、なんで」
「ピアスあげたいから」
「腕時計までもらったし」
色々もらえないよ、と華は言う。
「いいじゃん、多分似合うぜ」
「そう? ……ってか、お願いになってなくない?」
私がトクするだけなんじゃないの、と華は言うけど、違うんだよなぁ。
(本当は)
俺が華を傷つけたいだけ。
一生消えない俺の傷。
そっとその耳たぶに触れた。
「こっちに開けよう」
「え、どうせなら両耳がいい」
華はきょとんと言う。
「え、2回もいいの」
「なんかヤダな、その言い方」
華は眉をほんの少しひそめて笑った。
「よっしゃ、明日にでもピアッサー持ってこよう」
「前世ぶりだなー、前世はそんなに痛くなかった」
「耳たぶ、薄かったからな」
「え、やだ、そんなの覚えてるの?」
俺は笑う。
(覚えてるよ)
「……でも、そうだな、声だけ忘れた」
「ああ」
華は笑う。
「人が死んで、最初に忘れられるのって声らしいからね」
「忘れたくないのに」
俺は華の顔を両手で包み込む。
「全部全部、覚えていたいのに」
「……今の私の声じゃだめ?」
「いい」
別に声なんかどうだっていいんだ。お前がいてくれるなら、それで。
20
あなたにおすすめの小説
傷物令嬢は魔法使いの力を借りて婚約者を幸せにしたい
棗
恋愛
ローゼライト=シーラデンの額には傷がある。幼い頃、幼馴染のラルスに負わされた傷で責任を取る為に婚約が結ばれた。
しかしローゼライトは知っている。ラルスには他に愛する人がいると。この婚約はローゼライトの額に傷を負わせてしまったが為の婚約で、ラルスの気持ちが自分にはないと。
そこで、子供の時から交流のある魔法使いダヴィデにラルスとの婚約解消をしたいと依頼をするのであった。
ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する
ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。
皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。
ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。
なんとか成敗してみたい。
彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~
プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。
※完結済。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ
朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。
理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。
逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。
エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。
すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした
珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。
色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。
バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。
※全4話。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる