【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・相良仁

神様がいるのなら(side仁)

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 華は笑った。
 薄ぼんやりとした教室の中、差し込む日光でホコリがキラキラと光って、そこで華は笑っていた。
 机に座って、水色のドレスを着て、足をぶらぶらとさせながら笑う華は、この世のものじゃないみたいだった。印象派の絵から抜け出してきたような。

「……ヨユーだなお前」
「だって仁来てくれるって分かってたし」

 100パーセントの信頼が、その目にあった。前世ではついに手に入らなかった、それ。
 俺は息を飲む。

(もう、これでいいや)

 恋とかしてくんなくてもいい。この信頼がもらえただけでも、生まれ変わった甲斐がある。ありがとう、いるんだかいないんだか分かんない神様。

(愛してる)

 扉をしめて、華の前に立って、彼女の髪に触れながら、それだけを思った。

「……綺麗だよ」
「ん?」

 ほんの少し、頬が赤い華が首をかしげる。

(あ、やっぱ前言撤回です神様)

 ちょー欲しい。こいつが。信頼だけとかムリ。だってこいつしか欲しくないんだもん。

「似合ってるよ、ドレス」
「最初から素直になればいいのに」

 毎回そうじゃん、と言う華の頬に手を添える。

「だって他の男からのプレゼントじゃんそれ」
「……え、あ、うん」

 華は少し驚いた顔をした。

「でも樹くんだよ」
「だからだよ」

 許婚だろうが。このままだったら、お前あいつと結婚するんだろ。

(幸せになれるだろう)

 ものすごく大事にするだろう、あいつは華を。華もあいつを幸せにする。

(……俺って嫌な奴?)

 でも止まる気はない。

「嫉妬してたんだよ」
「……ごめん」

 華は目を伏せた。

「そんなつもりはなくて、」
「分かってるよ」

 大人なんだから。
 そう言うと華は困った顔をする。

「ねぇなんでそんなに優しいの? 私、前世でも仁のことすっごい傷つけてたんじゃないの?」
「そりゃもう、泣いて夜を明かしたことも」
「ごめんなさい」

 俺は焦る。別に華を悲しませたいわけじゃない。ただ、好きになってもらいたいだけ。俺だけ見てほしいだけ。

「……じゃー、一個お願い聞いてくれる?」
「いいよ」

 なんでもするよ、と言う華だけど、じゃあ俺に惚れてってのもすぐにはムリだろう。

「ピアス開けていい?」
「ピアス?」

 華は首を傾げた。

「別にいいけど……校則違反じゃないかな」
「透明なのしてりゃ分かんないだろ、髪で隠れてるし」
「まぁ」

 まじまじと見られないなら、と華は首を傾げた。

「でも、なんで」
「ピアスあげたいから」
「腕時計までもらったし」

 色々もらえないよ、と華は言う。

「いいじゃん、多分似合うぜ」
「そう? ……ってか、お願いになってなくない?」

 私がトクするだけなんじゃないの、と華は言うけど、違うんだよなぁ。

(本当は)

 俺が華を傷つけたいだけ。
 一生消えない俺の傷。
 そっとその耳たぶに触れた。

「こっちに開けよう」
「え、どうせなら両耳がいい」

 華はきょとんと言う。

「え、2回もいいの」
「なんかヤダな、その言い方」

 華は眉をほんの少しひそめて笑った。

「よっしゃ、明日にでもピアッサー持ってこよう」
「前世ぶりだなー、前世はそんなに痛くなかった」
「耳たぶ、薄かったからな」
「え、やだ、そんなの覚えてるの?」

 俺は笑う。

(覚えてるよ)

「……でも、そうだな、声だけ忘れた」
「ああ」

 華は笑う。

「人が死んで、最初に忘れられるのって声らしいからね」
「忘れたくないのに」

 俺は華の顔を両手で包み込む。

「全部全部、覚えていたいのに」
「……今の私の声じゃだめ?」
「いい」

 別に声なんかどうだっていいんだ。お前がいてくれるなら、それで。
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