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分岐・鍋島真
鳩に豆鉄砲(side真)
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「ねえ千晶、華って夕方以降外に出られないってホント?」
「……え」
千晶の部屋を訪ねてそんな質問をすると、千晶は鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした。そんな顔でもキュートだから、さすが妹。妹とは可愛いの意、だときっと辞書にも載っていたはずだ。あれ、違ったっけ。
「なぜですか」
「花火誘おうと思って」
ワオ。
これでもかってほど目が見開かれてる。
「……なんですかこの手は」
「溢れそうだったから」
千晶の顔の前に、掬うような形で手を差し出したけど払われた。いや、お目目がね、落ちちゃわないかなぁってお兄様は心配だったんだよ。
「あの、……華ちゃんに手を出さなでいただけます?」
いくらお兄様でも、やっていいことと悪いことがあります、と千晶は僕を睨む。
「ひよりちゃんから聞いたんです、あの子の告白にこう答えましたね? 好きな子を花火に誘いたいから、と」
「あの子口が軽いね」
「そんな事はないと思いますが、ーーお兄様」
千晶は僕を睨みつける。
「華ちゃんには、樹くんという大事な許婚が」
「許婚ね」
僕は笑った。
「それ、僕じゃダメなのかな」
「ダメに決まってます」
千晶はかぶりを振る。
「家同士の関係云々を置いておいて、お兄様個人を見ても、お兄様浮気性じゃないですか」
千晶は淡々という。浮気性、ね。
(この子は少し考え違いをしてる)
何をどう考えたかは知らないけれど、僕が女の子を、あるいは女の人を取っ替え引っ替えしているのは、女性性に対する復讐だと思っている節がある。
女好きの女性不信みたいな?
"あのヒト"が千晶を産んですぐ出てったせいだと思ってるみたいだけど、それは違う。僕はあのヒトになんの感情も抱いていなかった。過去も今も。顔さえ覚えていない。
(半分は当たってたかも)
どこかに、産みの母親に対する復讐心があったかもしれないーー、女なんかこんなもんだ、そう考えたかった。
けれど本心は探していただけだ。ずっと探していた。僕だけを見て、僕だけを愛してくれる人。
(愛されたことがないから)
僕は、愛されてみたいと思っていた。僕だけの特別なヒトに。
でも、それも少し違ったみたいだ。華への気持ちに気付いて分かった。僕は、僕が好きになったヒトから愛されたかった。単純だ。僕もフツーの人間だったんだなぁと思う。
まぁ、端的に言えば、僕は設楽華に愛されたい。どろどろのぐちゃぐちゃにされたい。殺されたいくらい、愛されたい。
「僕、もう他の女の子と遊ぶのやめるよ?」
「は?」
千晶は目を眇めた。
「信用できませんよ、あんなに色々……お兄様の彼女さんたちに意地悪されたこと、一度や二度では」
「その子たちはキッチリ落とし前つけてもらっただろう?」
「それが怖いんですよ」
はぁ、と千晶は息を吐いた。
「なんで彼女にあんなことできるんです」
「そもそも彼女じゃないよ、千晶。あの子たちは」
僕は胸を張る。
「僕はまだ誰ともお付き合いしたことがない」
「サイッテーですね」
蔑んだ目で見られた。
「あれだけ女の人振り回しておきながら、よくもまぁ」
「あっは、過去のことじゃん」
僕は笑う。
「信用できない?」
「できません」
「まぁ、変なこと華に吹き込まれても困るから、えい」
僕は自分のスマホを床に放り投げた。絨毯にぽさりと落ちるスマートフォン。
「? なんです」
「いや、女の子たちとの決別を見てもらおうと」
僕は思い切り踵で蹴り下ろした。ばきん、と画面が割れるスマートフォン。バイバイ僕のスマホ。すぐ買うけど。
「えっえっえ、なにしてるんです」
「スマホに女の子たちの連絡先とか入ってるからね?」
僕は蹴りつける足を止めない。えいえいえい。ばきばきばきばき。
「こうやればもう壊れたでしょ」
呆然とする千晶の前で、千晶の机にあったティーポットを手に取る。
「え?」
「とどめ」
バキバキになったスマホに紅茶をかけた。ばちゃばちゃと紅茶がスマホにふりかかり、絨毯に染み込む。
「さてこれで他の女の子には連絡できない、とおっとしまった、千晶あとで華の連絡先教えて」
「……ご自分でお調べになったら」
千晶は呆然と紅茶まみれのバキバキスマートフォンを見つめて「……掃除は誰が?」と呟いた。僕は肩をすくめる。そこ?
「仕方ないなぁまた待ち伏せよう」
「そんなことしてたんですか!」
千晶は叫ぶように言って、僕は笑った。
「ねぇ千晶」
「なんです?」
「兄に真っ当な人間になって欲しくないの?」
「……どういう意味です」
「僕、華に恋してるんだよね」
千晶は声にならない悲鳴をあげた。
「や、やめてください、華ちゃんに手を」
「だからさ」
僕は微笑む。
「そんなことしないよ」
「……え?」
「そりゃしたいけどさ、華とセッ」
「絶対ダメですっ」
千晶は顔を青くして言う。
「ちゅ、中学生ですよ!?」
「だからしないって」
「考えてるだけでもアウトですっ」
「分かったよ、考えないようにするよ」
「考えてたんですねっ」
「考えてないよ」
僕はにっこり微笑む。
「ね?」
頭の中は誰にも覗けない。
「……どういう意味です、真っ当なって?」
「だから、ひとりの女の子に一途になるってこと」
「できるんですか」
鼻で笑われた。
「できるんじゃないかなあ」
僕は首をかしげる。
「なにぶん初恋だから、良く分からないんだけど、……うん、あの子は大事にしたいって思うから」
付き合ってすらないのにこんな事言うのもどうかなと思うけどね、まぁ大事にするって人によって形は違うよね。ふふ。
千晶はまたもや目を見開いていた。それから弱々しく言う。
「……そのセリフを、今聞くとは思いませんでした」
「?」
千晶は時々意味が分からないことを言う。
「"今"聞く?」
「いえ、なんでも……」
はぁ、と千晶はため息をついた。
「絶対に華ちゃんの意に沿わないことをしませんね?」
「しないしない」
「嫌がることも」
「しないよ」
多分。
「……なら、少しだけ、静観しようと思います」
千晶はぽつりとそう言った。
「お兄様も一度くらい失恋したらいいんだわ」
「……え」
千晶の部屋を訪ねてそんな質問をすると、千晶は鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした。そんな顔でもキュートだから、さすが妹。妹とは可愛いの意、だときっと辞書にも載っていたはずだ。あれ、違ったっけ。
「なぜですか」
「花火誘おうと思って」
ワオ。
これでもかってほど目が見開かれてる。
「……なんですかこの手は」
「溢れそうだったから」
千晶の顔の前に、掬うような形で手を差し出したけど払われた。いや、お目目がね、落ちちゃわないかなぁってお兄様は心配だったんだよ。
「あの、……華ちゃんに手を出さなでいただけます?」
いくらお兄様でも、やっていいことと悪いことがあります、と千晶は僕を睨む。
「ひよりちゃんから聞いたんです、あの子の告白にこう答えましたね? 好きな子を花火に誘いたいから、と」
「あの子口が軽いね」
「そんな事はないと思いますが、ーーお兄様」
千晶は僕を睨みつける。
「華ちゃんには、樹くんという大事な許婚が」
「許婚ね」
僕は笑った。
「それ、僕じゃダメなのかな」
「ダメに決まってます」
千晶はかぶりを振る。
「家同士の関係云々を置いておいて、お兄様個人を見ても、お兄様浮気性じゃないですか」
千晶は淡々という。浮気性、ね。
(この子は少し考え違いをしてる)
何をどう考えたかは知らないけれど、僕が女の子を、あるいは女の人を取っ替え引っ替えしているのは、女性性に対する復讐だと思っている節がある。
女好きの女性不信みたいな?
"あのヒト"が千晶を産んですぐ出てったせいだと思ってるみたいだけど、それは違う。僕はあのヒトになんの感情も抱いていなかった。過去も今も。顔さえ覚えていない。
(半分は当たってたかも)
どこかに、産みの母親に対する復讐心があったかもしれないーー、女なんかこんなもんだ、そう考えたかった。
けれど本心は探していただけだ。ずっと探していた。僕だけを見て、僕だけを愛してくれる人。
(愛されたことがないから)
僕は、愛されてみたいと思っていた。僕だけの特別なヒトに。
でも、それも少し違ったみたいだ。華への気持ちに気付いて分かった。僕は、僕が好きになったヒトから愛されたかった。単純だ。僕もフツーの人間だったんだなぁと思う。
まぁ、端的に言えば、僕は設楽華に愛されたい。どろどろのぐちゃぐちゃにされたい。殺されたいくらい、愛されたい。
「僕、もう他の女の子と遊ぶのやめるよ?」
「は?」
千晶は目を眇めた。
「信用できませんよ、あんなに色々……お兄様の彼女さんたちに意地悪されたこと、一度や二度では」
「その子たちはキッチリ落とし前つけてもらっただろう?」
「それが怖いんですよ」
はぁ、と千晶は息を吐いた。
「なんで彼女にあんなことできるんです」
「そもそも彼女じゃないよ、千晶。あの子たちは」
僕は胸を張る。
「僕はまだ誰ともお付き合いしたことがない」
「サイッテーですね」
蔑んだ目で見られた。
「あれだけ女の人振り回しておきながら、よくもまぁ」
「あっは、過去のことじゃん」
僕は笑う。
「信用できない?」
「できません」
「まぁ、変なこと華に吹き込まれても困るから、えい」
僕は自分のスマホを床に放り投げた。絨毯にぽさりと落ちるスマートフォン。
「? なんです」
「いや、女の子たちとの決別を見てもらおうと」
僕は思い切り踵で蹴り下ろした。ばきん、と画面が割れるスマートフォン。バイバイ僕のスマホ。すぐ買うけど。
「えっえっえ、なにしてるんです」
「スマホに女の子たちの連絡先とか入ってるからね?」
僕は蹴りつける足を止めない。えいえいえい。ばきばきばきばき。
「こうやればもう壊れたでしょ」
呆然とする千晶の前で、千晶の机にあったティーポットを手に取る。
「え?」
「とどめ」
バキバキになったスマホに紅茶をかけた。ばちゃばちゃと紅茶がスマホにふりかかり、絨毯に染み込む。
「さてこれで他の女の子には連絡できない、とおっとしまった、千晶あとで華の連絡先教えて」
「……ご自分でお調べになったら」
千晶は呆然と紅茶まみれのバキバキスマートフォンを見つめて「……掃除は誰が?」と呟いた。僕は肩をすくめる。そこ?
「仕方ないなぁまた待ち伏せよう」
「そんなことしてたんですか!」
千晶は叫ぶように言って、僕は笑った。
「ねぇ千晶」
「なんです?」
「兄に真っ当な人間になって欲しくないの?」
「……どういう意味です」
「僕、華に恋してるんだよね」
千晶は声にならない悲鳴をあげた。
「や、やめてください、華ちゃんに手を」
「だからさ」
僕は微笑む。
「そんなことしないよ」
「……え?」
「そりゃしたいけどさ、華とセッ」
「絶対ダメですっ」
千晶は顔を青くして言う。
「ちゅ、中学生ですよ!?」
「だからしないって」
「考えてるだけでもアウトですっ」
「分かったよ、考えないようにするよ」
「考えてたんですねっ」
「考えてないよ」
僕はにっこり微笑む。
「ね?」
頭の中は誰にも覗けない。
「……どういう意味です、真っ当なって?」
「だから、ひとりの女の子に一途になるってこと」
「できるんですか」
鼻で笑われた。
「できるんじゃないかなあ」
僕は首をかしげる。
「なにぶん初恋だから、良く分からないんだけど、……うん、あの子は大事にしたいって思うから」
付き合ってすらないのにこんな事言うのもどうかなと思うけどね、まぁ大事にするって人によって形は違うよね。ふふ。
千晶はまたもや目を見開いていた。それから弱々しく言う。
「……そのセリフを、今聞くとは思いませんでした」
「?」
千晶は時々意味が分からないことを言う。
「"今"聞く?」
「いえ、なんでも……」
はぁ、と千晶はため息をついた。
「絶対に華ちゃんの意に沿わないことをしませんね?」
「しないしない」
「嫌がることも」
「しないよ」
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「……なら、少しだけ、静観しようと思います」
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