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分岐・鍋島真
夏の日
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「ねぇ華、花火行こう」
塾の前になぜかいた真さんに、そう誘われて私は首を傾げた。
(好きな人誘うんじゃなかったの、このヒト)
ひよりちゃん情報。
(あ)
私は気づく。
(ごめんよ、真さん)
なるほど、フラれたのか。
(まっとうな人もいるのね)
真さんに騙されてフラフラ行かない女性も。うんうん。
それで何で私なんだろ。断られまくってもう私しか残ってなかったとか……。
(あら~)
私は真さんを見た。長い人生、そんな日もあるよ、とお姉さんは思うよ。
「あの、ありがたいんですけど」
私は真さんを傷つけないように言う。
「私、夜、外に出られなくて」
「室内ならいい?」
「え、あ、はい。それは」
私は頷く。
「大丈夫、レストラン予約してるから」
「あー」
「何納得してるの?」
「いえいえ」
なるほど、レストラン予約しちゃってたか。そりゃとにかく誰でも連れて行きたいよなぁ、ちんちくりんの中学生でも……と、私はここでハタと気づく。
「千晶ちゃんは誘わなかったんですか?」
「そだね、うん、来ない」
「?」
妹狂いの真さんが連れてこないってことは、千晶ちゃんは千晶ちゃんで用事があるんだろうなぁと思う。
「……まぁ、その日は何もないんで」
いいですよ、と頷いた。
暑い暑い中、日傘の影だけを頼りにふうふうと帰宅すると、珍しく日中に敦子さんがいた。
「あれ、ただいまです」
「おかえり華」
アイスティーを美味しそうに飲む敦子さんの向かいの席に座る。
「おかえり華ちゃん」
「わ、おいしそ!」
お手伝いの八重子さんが、私の前にグラスを置いてくれた。きらきらしてる、ゼリーポンチ! 青、黄、紫、赤、色とりどりのゼリーに、しゅわしゅわのソーダに、とどめに上に乗ってるバニラアイス!
「夏、万歳」
「どーぞ召し上がれ」
「いただきます!」
美味しくゼリーポンチをいただきながら、敦子さんとつらつら話す。
「あ、そういえば真さんに」
「真さん? 鍋島さんの?」
「ですです。あの人に時々勉強教えてもらってて」
「あらそう。あの方は優秀らしいから」
「全国9位なんですって」
「さすがねぇ」
「今度お食事に誘っていただいてて」
「あら」
敦子さんは微笑む。
「お礼をしなくてはね」
「ですねぇ」
私はぼけっと考える。あの人が喜ぶものねぇ。想像つかないなぁ。
「……あ」
「? どうしたの」
「いえ」
なにか宇宙関係のもの? なんだろ、そんなものあるかなぁ。
(花火の日にあげよ)
フルフルのゼリーポンチを眺めながら思う。
翌日、私は本屋さんでうんうん唸っていた。宇宙関係って、本しか思い浮かばなかった。宇宙食とかも面白いかもと思ったけど、美味しいかわかんないし。
(隕石とか?)
科学館行けばあるかもだけど、そこまでしなくてもなぁ。勉強教えて貰ってるのに誠意が足りない気もするけど、まぁ、そこはそれ。
(あ)
これ綺麗。
月の写真集。世界中の色んなところで、色んな月が撮ってある。
(これにしよ)
レジでラッピングしてもらう。
待っている間、店内をふらふらしていると話しかけられた。
「華」
「あれ、樹くん」
やほ、と手を挙げた。Tシャツにジャージ、肩からはエナメルバッグ。練習帰りかな。
「何か探しているのか?」
「ううん、ラッピング待ち」
樹くんは不思議そうな顔をしたけど、真さんのことを言うのは少し気が引けた。心配かけちゃうだろうな。もう大丈夫なんだけど。
(でも、)
謝ってもらったことは一応伝えておこう。
「あのさ、真さんが前よくわかんないコトしてたじゃん」
「鍋島邸の書斎の件か」
樹くんの眉間が強く寄る。うう、心配されている……。
「あれね、謝罪されて」
「……そうなのか?」
「うん、なんかずっと謝りたかったみたい」
多分。
樹くんはふと肩から力を抜いた、けど。
「華が許すならいいが、……俺は許せそうにない」
「樹くん」
「華」
樹くんは私の頭を撫でた。
「あの人を信用するな。あまり……、近づかないほうがいい」
「……そうかな」
ふと頭によぎるのは、プラネタリウムでの真さん。宇宙の話をしてくれた年相応の瞳だとか、……その前の、私の心にさざ波みたいなの作った、あの幼い子供みたいな目だとか。
「……この後何かあるか?」
ふと、樹くんが気を取り直したように言った。
「ううん」
「では、どこか寄って帰らないか」
樹くんは笑う。私も微笑んで頷いた。
レジでラッピングされた写真集を受け取って、樹くんと本屋さんを出る。樹くんはいつも手を繋いでくれる。
(迷子になるから?)
よくわかんないけど、小学生の頃からの習慣だから特に抵抗はない。
並んで色んなことを話しながら歩く。樹くんの部活のことだとか、私の塾のことだとか、圭くんから送られてきてるメールのことだとか。
「充実してるみたいだな、サマースクール」
「美術館巡りできるんだもん」
「そのうち、俺たちも行こう」
「カナダ?」
「秋が綺麗だ」
「へぇ」
私は微笑んで、脳内にカナダを思い描くけど、メイプルシロップしか浮かばなかった。うん、自分でも残念なアラサー(中身)だとは思う……。
塾の前になぜかいた真さんに、そう誘われて私は首を傾げた。
(好きな人誘うんじゃなかったの、このヒト)
ひよりちゃん情報。
(あ)
私は気づく。
(ごめんよ、真さん)
なるほど、フラれたのか。
(まっとうな人もいるのね)
真さんに騙されてフラフラ行かない女性も。うんうん。
それで何で私なんだろ。断られまくってもう私しか残ってなかったとか……。
(あら~)
私は真さんを見た。長い人生、そんな日もあるよ、とお姉さんは思うよ。
「あの、ありがたいんですけど」
私は真さんを傷つけないように言う。
「私、夜、外に出られなくて」
「室内ならいい?」
「え、あ、はい。それは」
私は頷く。
「大丈夫、レストラン予約してるから」
「あー」
「何納得してるの?」
「いえいえ」
なるほど、レストラン予約しちゃってたか。そりゃとにかく誰でも連れて行きたいよなぁ、ちんちくりんの中学生でも……と、私はここでハタと気づく。
「千晶ちゃんは誘わなかったんですか?」
「そだね、うん、来ない」
「?」
妹狂いの真さんが連れてこないってことは、千晶ちゃんは千晶ちゃんで用事があるんだろうなぁと思う。
「……まぁ、その日は何もないんで」
いいですよ、と頷いた。
暑い暑い中、日傘の影だけを頼りにふうふうと帰宅すると、珍しく日中に敦子さんがいた。
「あれ、ただいまです」
「おかえり華」
アイスティーを美味しそうに飲む敦子さんの向かいの席に座る。
「おかえり華ちゃん」
「わ、おいしそ!」
お手伝いの八重子さんが、私の前にグラスを置いてくれた。きらきらしてる、ゼリーポンチ! 青、黄、紫、赤、色とりどりのゼリーに、しゅわしゅわのソーダに、とどめに上に乗ってるバニラアイス!
「夏、万歳」
「どーぞ召し上がれ」
「いただきます!」
美味しくゼリーポンチをいただきながら、敦子さんとつらつら話す。
「あ、そういえば真さんに」
「真さん? 鍋島さんの?」
「ですです。あの人に時々勉強教えてもらってて」
「あらそう。あの方は優秀らしいから」
「全国9位なんですって」
「さすがねぇ」
「今度お食事に誘っていただいてて」
「あら」
敦子さんは微笑む。
「お礼をしなくてはね」
「ですねぇ」
私はぼけっと考える。あの人が喜ぶものねぇ。想像つかないなぁ。
「……あ」
「? どうしたの」
「いえ」
なにか宇宙関係のもの? なんだろ、そんなものあるかなぁ。
(花火の日にあげよ)
フルフルのゼリーポンチを眺めながら思う。
翌日、私は本屋さんでうんうん唸っていた。宇宙関係って、本しか思い浮かばなかった。宇宙食とかも面白いかもと思ったけど、美味しいかわかんないし。
(隕石とか?)
科学館行けばあるかもだけど、そこまでしなくてもなぁ。勉強教えて貰ってるのに誠意が足りない気もするけど、まぁ、そこはそれ。
(あ)
これ綺麗。
月の写真集。世界中の色んなところで、色んな月が撮ってある。
(これにしよ)
レジでラッピングしてもらう。
待っている間、店内をふらふらしていると話しかけられた。
「華」
「あれ、樹くん」
やほ、と手を挙げた。Tシャツにジャージ、肩からはエナメルバッグ。練習帰りかな。
「何か探しているのか?」
「ううん、ラッピング待ち」
樹くんは不思議そうな顔をしたけど、真さんのことを言うのは少し気が引けた。心配かけちゃうだろうな。もう大丈夫なんだけど。
(でも、)
謝ってもらったことは一応伝えておこう。
「あのさ、真さんが前よくわかんないコトしてたじゃん」
「鍋島邸の書斎の件か」
樹くんの眉間が強く寄る。うう、心配されている……。
「あれね、謝罪されて」
「……そうなのか?」
「うん、なんかずっと謝りたかったみたい」
多分。
樹くんはふと肩から力を抜いた、けど。
「華が許すならいいが、……俺は許せそうにない」
「樹くん」
「華」
樹くんは私の頭を撫でた。
「あの人を信用するな。あまり……、近づかないほうがいい」
「……そうかな」
ふと頭によぎるのは、プラネタリウムでの真さん。宇宙の話をしてくれた年相応の瞳だとか、……その前の、私の心にさざ波みたいなの作った、あの幼い子供みたいな目だとか。
「……この後何かあるか?」
ふと、樹くんが気を取り直したように言った。
「ううん」
「では、どこか寄って帰らないか」
樹くんは笑う。私も微笑んで頷いた。
レジでラッピングされた写真集を受け取って、樹くんと本屋さんを出る。樹くんはいつも手を繋いでくれる。
(迷子になるから?)
よくわかんないけど、小学生の頃からの習慣だから特に抵抗はない。
並んで色んなことを話しながら歩く。樹くんの部活のことだとか、私の塾のことだとか、圭くんから送られてきてるメールのことだとか。
「充実してるみたいだな、サマースクール」
「美術館巡りできるんだもん」
「そのうち、俺たちも行こう」
「カナダ?」
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