【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・黒田健

遭遇

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 横浜で気になってたカフェには小上がり席、っていうかベッドみたいになってる席があって、そこにぺたんと座ってお茶をいただく。

「……女子はこんなん好きなのか」
「うんめっちゃ楽しい」

 えへへと笑うと、黒田くんは「飯食いづらい」と神妙な顔をして言った。まぁそれはたしかに!

「晴れてよかったな」
「ね!」

 黒田くんが居心地悪そうだったからカフェは早めに出て、2人でのんびり海を眺めながら歩いた。
 黒田くんは部活帰りのジャージで(学校名が入ってるやつ)私はシンプルなワンピースで(精一杯のおしゃれ)手を繋いでのんびり過ごす。超幸せ。

「あ」
「あ、先輩」

 駅方面に歩いていたら、鹿島先輩と遭遇した。

「こんにちは」

 先輩は私に向かってにこりと笑った後、黒田くんを見て少し悲しそうな顔をした。

「話は聞いてるけど、キミ、いい人そうなのにあの高校なんだね」
「? いい人ですよ黒田くんは」
「染まっちゃダメだよ」

 先輩は意味深に言う。

「設楽さんだけ大事にしてあげてね」
「? うっす」

 返事を聞くと、先輩はほんの少し微笑んだ。

「あ、黒田、デートかよ」

 その声に振り向くと、黒田くんと同じジャージの集団。

(空手部のひとたち)

 この間お邪魔したので、私はぺこりと頭を下げた。

「そう言いましたけど」
「いいご身分だな~、オイ」

 黒田くんと楽しそうに話すのは、こないだ黒田くんと組手してた先輩。

「お疲れさまです」

 とりあえずご挨拶。

「やー、彼女さん、黒田に飽きたらいつでもオレ空いてるから、ね……」

 その先輩の言葉の語尾が霞むように消えた。鹿島先輩が冷たい目でみていたから。

「え、ヒトミ」

 鹿島先輩は下の名前を呼ばれて、ものすごく嫌そうな顔をする。

「あ、ごめん、鹿島……さん。ご無沙汰してます」
「相変わらず軽薄そうで何よりだわ、水戸くん」
「いやそんな、はは」

 水戸くん、と言われた先輩は頭をかいた。

「じゃあ設楽さん、わたし行くわね、また明日」
「あ、はい」

 先輩はさっさと踵を返して歩いていく。普段は三つ編みにしてる黒髪がサラリと揺れた。

「知り合いっすか」
「いや、昔、色々……」

 水戸さんは「やっちゃった」って顔をしてしゃがんでしまった。

「オレは本当にタイミングが悪い男なんだ……」
「……なんとなくお察しします」

 なにがあったか分からないけれど、多分、水戸さんは鹿島先輩が好きなんだろうなぁと思う。
 鹿島先輩は毛嫌いしてそうだったけど。

「ねぇ設楽さん、鹿島さんっていまフリー?」
「え、分かんないです……けど」

 私は正直なところを言う。

「そちらの高校のことは、野蛮だと」
「あー、まじで? うん」

 水戸さんは頭を抱えた。

「ごめん、ほんと反省してるって伝えてもらっていい……?」
「お伝えする分には」
「よろしくね……」

 水戸先輩の肩をぽん、と別の先輩が叩いた。

「そろそろ諦めろお前、いつまでもウジウジウジウジと」
「うう、だってまさか」
「縁がなかったんだよ」
「いやだあ」

 部活の人たちは「またな」と挨拶して、駅方面に歩いて行った。水戸さんは半分引きずられていたけど。

「なんか、……憎めない感じの人だね」

 完璧に鹿島先輩には嫌われてそうだけど。

「空手は強いんだけどな」

 黒田くんは意外そうな顔をして、水戸さんの背中を見つめていた。

「つーか」
「ん?」

 黒田くんは、ぽん、と私の頭に手を置いた。

「寝不足か?」
「え、わかる?」
「ん」

 黒田くんはぶっきらぼうに頷く。

「少しクマできてる」
「んー」

 私は下まぶたを指で触れる。

「なーんかね」

 寝つきが悪くて、なんて言うけど実は違う。何度も起きてしまうのだ。

(夢見が悪い、っていうのかな)

 最近、やけに生々しい夢を見るのだ。

(生々しい、っていうか……"記憶"が戻る前の、華の記憶っていうか)

 あの、小学五年生直前の春休み、神戸の病院で目覚める前の記憶。設楽華の記憶。

(しかも、一番多く見るのが……"事件"の前くらいからの記憶)

 起きた時、はっきり記憶に残っていることもあれば、普通の夢みたいにすぐ忘れるものもある。

(雪が降ってた)

 "事件"ーー華のお母さんが殺された日。まだ夜明けまでは時間がある、そんな暁前。ガタガタと音がして目を覚ますと、リビングで男の人が"お母さん"に馬乗りになっていた。包丁が薄暗闇できらりと輝いて"華"は小さく悲鳴をあげた。

(……そんな夢)

 夢っていうか記憶?

(本当に起きたことなんだろうか)

 少し考えこんでしまって、心配気な黒田くんと目線が合う。

「悩み事でもあんのか」
「……あのね」

 黒田くんは知ってる。私の"お母さん"が殺されたこともーー。

「調べたいことがあるの」
「分かった、付き合う」
「何かって聞かないの?」
「なんでもいーよ」

 黒田くんは少し頬を緩める。

「設楽がそれで眠れるようになるなら」

 なんだか不思議な言い回しで、私は首をかしげる。黒田くんは笑った。

「お前は幸せにメシの夢見てるくらいでちょうどいいんだ」
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