【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

文字の大きさ
439 / 702
【高校編】分岐・黒田健

邂逅

しおりを挟む
「うわぁ国会議事堂」

 初めて見た、と黒田くんを見上げると「俺は社会科見学で来たな」と返された。

「何年の時?」
「四年」
「一年遅かったか」

 ふふ、と見上げる。私が転校してきたのは小5だったから。
 なぜ永田町なんかに来たのか。それは、国立国会図書館へ来るためだ。
 この図書館は、日本国内で出版されたすべての出版物が保存してある。すべて、だ。

「新聞報道がねーなら、週刊誌とか当たってみるしかねぇな」

 という黒田くんの言葉で、私たちははるばる、永田町まで来た。まぁそんなに遠くはないんだけど。乗り換え1回だけだし。
 道中、黒田くんは「大して調べられてねーけど」と言いながら事件について教えてくれた。おおまかに、だけど。

「きつくねぇのか」
「あの夢が」

 私は被せるように、電話と同じことを言い返す。

「本当のことなのか、調べたいの」
「どんな夢なんだ」
「ええと」

 私は口を濁らせた。

「……いーよ。無理すんな」
「うん」

 私は黒田くんの手を握る。
 黒田くんと歩き出してすぐ、スーツの男性とすれ違う。

(あれ?)

 見たことのある人だった。正確には、「見たことがあるような気がする人」だろうか……。

(でも、どこで?)

 不思議に思いながら振り返る。

「え」

 思わずそう言ってしまった。向こうも、私を見て呆然としていたから。

「……知り合いか」

 黒田くんの低い声。

「わかんない」

 小さく答えて、私はその人に向かって一歩踏み出した。

「あの、すみませ」

 言い切らないうちに、男の人は走り出してしまった。

「あの!?」
「どうする、追いかけるか」
「ううん、……本当に知ってる人か確証ないし」

(でも)

 変なもやもやがある。

(見覚えが、ある?)

 あるような、ないような。

「……変なやつじゃねーだろうな」
「変なやつってなに?」
「つきまとわれてたとか」
「それはない、よ」

 さすがにそれだったら覚えているだろうし……ほんとに誰だろう。
 少し心配気な黒田くんに、私は笑って「思い出したらちゃんと言うよ」と伝えた。

「そうしてくれ」

 心配だから、とそっぽをむいて言われて、私は頷く。ほんと、いつも心配かけてるなぁ……。

「とりあえず図書館いこ!」

 切り替えるように私は言って、黒田くんも頷いた。
 だけれど。

「恐ろしいくらい報道ねぇな」
「……ね」

 私たちは閲覧室の大きな机で、大量の週刊誌や雑誌を積んで途方にくれていた。全然見つからない。

「うーん」
「……設楽は」
「なに?」

 黒田くんの声に顔を上げる。

「その、見てる夢とかが本当にあったことだとして、どうするんだ」
「どうするって」
「犯人は捕まってる。塀の中だ」

 黒田くんは新聞の記事を見せてくる。
「神戸ストーカー殺人、無期懲役で刑が確定」そこにはそうあった。しかし、とても小さな扱いだ。

「復讐か」
「え」

 私はじっと黒田くんを見つめた。

「なにがしたい、設楽」
「私は」

 ぽつり、と私は呟いた。

「私は、……悲しみたい」
「悲しむ?」
「私、……、事件より前の記憶がほとんど、なくて」

 黒田くんは黙って聞いてくれている。

「だから、……この人が」

 急に報道が下火になる前の新聞記事(事件が起きてすぐ)に載っている、女性の写真。"華の母親"の写真。

「もういないことが、そこまで悲しくないの」

 ひとつ、息をつく。

「きちんと知れたら、それが何かきっかけになるかもって」

 あの日、目覚めた神戸の病院で、"華の母親"が死んだことを知っても、私はほとんど何も感じなかった。
 あの罪悪感は、少しずつ大きくなっている。

「そうか」

 黒田くんはそう言って、私に雑誌を渡した。

「38ページ」
「?」

 言われた通りにそれを開く。法律系の雑誌だった。

「中身はまだ、……読まねーほうがいいと思う」
「これって」
「判例だとさ」

 あの事件の裁判内容が、おおまかだけれど載っていた。

「複写してもらおう。落ち着けるとこで読め。それから、」

 すっ、と指でとある人名を指す。

「これ」
「……山ノ内?」

 検事名が並んだそこに、知ってる苗字。

「あいつの父親検事なんだろ。山ノ内なんか、珍しかねぇけどありふれてる名前って訳でもねー。当たってみる価値は十分ある」
「……アキラくんのお父さん」

 私はじっとその名前を見つめた。もしかしたら、直接話が聞けるかも知れない。

 複写願いを出し、それを待つ間、黒田くんが外でアキラくんに電話をかけてくれた。

「おう中3……なんでだよラブラブだわボケ」
「?」

 一体なんの話でラブラブってでたんだろ。てか、黒田くんがラブラブって。似合わない。
 ふすす、とこっそり笑っていると、軽く頭を小突かれた。
 二言三言話した後、ハンズフリーにしてくれた。

『よう華! こないだ試合見に来てくれたぶりやな。俺のスリーポイントかっこよかったやろ?』
「うん! あれすごいよねぇ」
『せやろせやろ? やからそんな無愛想男とはさっさと別れてやな』
「てめー余計なこと言ってないでさっさと本題入りやがれ」
『そっちから頼んできたくせになんやねん! と言いたいとこやけど、華の頼みやからな~』
「ごめんね、忙しいのに」
『ええねんええねん、華のためならエーンヤコラやで! で、やな。その山ノ内雅貴言う検事な、同姓同名やなかったらウチのおとんで間違い無いわ』

 電話の向こうで、アキラくんの声が少し低くなった。

『何があったん?』
しおりを挟む
感想 168

あなたにおすすめの小説

傷物令嬢は魔法使いの力を借りて婚約者を幸せにしたい

恋愛
ローゼライト=シーラデンの額には傷がある。幼い頃、幼馴染のラルスに負わされた傷で責任を取る為に婚約が結ばれた。 しかしローゼライトは知っている。ラルスには他に愛する人がいると。この婚約はローゼライトの額に傷を負わせてしまったが為の婚約で、ラルスの気持ちが自分にはないと。 そこで、子供の時から交流のある魔法使いダヴィデにラルスとの婚約解消をしたいと依頼をするのであった。

ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する

ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。 皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。 ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。 なんとか成敗してみたい。

彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~

プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。 ※完結済。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...