【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・鹿王院樹

理性と煩悩

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 樹くんと、もう一度唇を重ねた。
 少しだけカサついた唇。

(あったかい)

 目を開けると、視線がかち合った。
 今度は少しだけ深いキス。

(溶けちゃいたい)

 お互いがどろどろの液体みたいになって、溶けあえたら幸せなのにな、なんて有り得ないことを思う。
 離された唇が、今度は首に優しく触れた。樹くんの鼻先が首筋に当たって、くすぐったい。

「ふふ、」

 笑って少し身をよじる。

「樹くん」
「華」

 私は樹くんの頬に手を添えた。
 唇を重ねる。

(どうなっちゃってもいいなぁ)

 目なんか、とろんとしてるかも。馬鹿みたいな顔、してるかも、なんて思って樹くんを見上げると、樹くんは少し考えるように眉をよせた。

「……そんな顔をして、」

 どんな顔でしょう。
 やっぱりボケっとした顔してたかな。
 そして、樹くんはおもむろに立ち上がった。無言でベンチコートを私に被せる。ばさり、と上から、少し乱暴に。それからまた屈んで、ファスナーをがあっと上げて、きっちりと着せてくれる、……というか着せられた。フードまで被せられる。
 なぜに。
 てか、暑い。ふつうに私もコート着てたし。コート二枚重ね。

(……、やっぱ、大きいなぁ)

 男物な上に、樹くんは大柄なのでかなり大きい。しかもベンチコート。立ち上がったら絶対引きずる。

「なに?」
「着ていろ」

 はぁ、とため息をついて樹くんは軽く私の頬に触れる。

「このままだと襲うから出よう」
「襲う?」
「当たり前だ」

 樹くんはベンチコートのフード越しに、私の頭をぽんぽんと叩く。

「好きな女と2人きりでこんなことをしていて、変な気分にならん男はいないぞ」

 私は樹くんを見上げた。

「おとこ?」

 男の人だけかなぁ。

「? うむ」
「おんなだって」

 私は樹くんと距離を詰める。

「変な気持ちに、なるよ?」
「ちょっと待て華」

 樹くんがじりじりと下がる。私は距離を詰めた。抱きついて、上目遣いで見上げる。わざと。
 樹くんは思い切り眉をしかめて目を閉じた。

「なにしてるの?」
「理性と煩悩が戦ってる」
「頑張れ煩悩」
「そこを応援するな……!」

 樹くんは目を開けて、私の身体をぐいっと離す。

「えー」
「えー、じゃない、華。落ち着け」
「落ち着いてるよ私は」

 とても冷静です。
 冷静にあなたが欲しい。
 うふふ、と笑うと「ああ本当にお前は」と樹くんはおでこにキスをした。

「ダメだ」
「なんで」
「バレたらどうなる? 俺は華と離れたくない」

 敦子さんに連れてかれる?

(どうかなぁ)

 ……中学のキスマーク事件、結構怒ってたしなぁ。

「バレるかな」
「バレるだろう」

 樹くんは淡々と言った。

「一緒に住んでるんだぞ? 一度超えたら我慢できる自信がない、俺は」
「そうー?」

 男子高校生ってそんなものだっけか……あんまよく覚えてないな。

(……てか)

 私は今更赤面した。頬に熱が集まる。
 うわぁ。

(い、一緒に住んでるんだった!)

 自分の頬に手を当てる。なぜすぐそこに思い至らなかったのか。全然冷静じゃないじゃん、私。

(む、むり)

 普通に接するとか無理かもですよ……!?
 圭くんあたりに、めちゃくちゃ怪しまれる。絶対!

「だから、うむ、少し離れて」
「じゃあ友達でいようね樹くん」

 私は一気に言って、にこりと微笑んだ。

(そうするしかない!)

「は?」

 ぽかんと私を見下ろす樹くん。

「だって絶対私、煩悩の方が勝つし」
「勝たないでくれ」
「照れてうまく話せなくなるし、過ごせなくなるし」
「それは」
「だから、お友達でいよう」

 体裁的にだけは。形だけは。

(せめてそんな風にしてないと、……私暴走しちゃうかも)

 中身オトナなのになぁ。
 樹くんのほうがよほどオトナだ。

「特別なお友達、みたいな?」
「いやだ」
「なんで? 襲っちゃうよ?」
「それはこちらのセリフと言いたいところだが……嫌に決まっているだろう」

 樹くんは私をぎゅうぎゅうと抱きしめる。切ない顔で。

(あ、)

 私の中にじわじわとした切なさと喜びがこみ上げる。

(このひと、ほんとに私のこと好きなんだ)

 どうしよう。嬉しい。
 私も樹くんをぎゅうっと抱きしめ返す。好き。

「でもね、樹くん」
「……なんだ」
「お友達。お友達だけど、プロポーズ待ってるから」
「プロポーズ?」
「そうしたらね、すぐに結婚しようね」

 そういうと、樹くんは優しく笑った。

「分かった」
「楽しみにしてる。約束だよ。約束」

 今度は、約束してもらう。
 絶対、絶対だ。

「ああ、約束だ」

 そう言って、私にキスをする。唇。離れていく熱がさみしい。

「……お友達はキスなんかしないんだよ」
「特別なお友達、なんだろう」

 キスくらいするさ、と樹くんはもう一度キスをする。

「そうなのかなぁ」

 これからしばらくの間、私はこの恋心をうまく……ごまかせるのでしょうか?

(頑張れ私の理性?)

 煩悩のほうが勝ちそうだけど。
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