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分岐・鍋島真
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「あ、きみ、真くんのお気に入りの子だ」
12月も中旬に入って、すっかりクリスモードな横浜のデパート。
私は、毎年恒例のクリスマスパーティー(樹くんと圭くんとかと)のプレゼントをひとりで買いに来ていた。ふと疲れて入ったカフェで、その人に話しかけられたのだ。
白いブレザーを着た女の子。青百合学園、"例の乙女ゲーム"の舞台となる学校。樹くんや圭くん、真さんが通う学校。
「こんにちは」
にこりと微笑まれて、とりあえず会釈する。
「ええと、その」
「あ、ごめんね、突然。真くんのお友達です」
綺麗な人だった。さらりとした黒いロングヘアも、大人びた表情も。
(はー、真さん好きそう)
ぱちぱちと瞬きしてしまう。お友達、って多分そういうお友達だよね? この言い方で普通のクラスメイトってことはないでしょう。
「前写真見せてもらって」
「はぁ」
私は頷きながら、モヤモヤしたこの気持ちについて考える。
(なに? なんで?)
は、と気づく。まさか、新幹線での寝顔(よだれ)ではあるまいなあのクソガキ!
よもやネタにするとは……!?
(そのモヤモヤかっ)
しかしわざわざ確かめるのもなぁ、私、その写真よだれ垂らしてました? って聞くの? 聞きづらいよ。
「写真より可愛いね」
「はぁ、どうも」
その人は私の向かいに座りながらそう言った。
(まぁ、よだれ垂らし寝顔よりはね)
可愛く見えるでしょうよ……くそう。
(てかなぜ私の正面に)
ちらり、と見遣るとやっぱり微笑まれた。何? 何なの?
「ねぇ、付き合ってるの」
「誰とですか」
「真くん」
「ないです」
きっぱり答えると、彼女はケタケタ笑った。
「あは、ウケる。やっぱ振られてんじゃん」
「はぁ……」
なんだろう、なんていうか仲いいのかな? この人と真さん。なんとなく、雰囲気が。
「ねえ、やった?」
「なにをですか?」
「決まってんじゃん」
その人は、周りのお客さんの耳を気にしてか、そっと私の耳元で囁いた。
「し、してません!」
私は赤くなりながら否定した。なに中学生に聞いてるんだこの人は!
「えー? してないの? 上手だよ」
「知りません……!」
上手もクソもない!
赤くなって睨みつけると「じゃあキスは?」と聞いてくるので「それもないです」と即答した。
「ないんだ? なにもしてないんだ?」
その人は、少し勝ち誇ったような目で見て私を見る。いやそんな顔されても。
(でもなんかムカつく)
なにが理由だか知らないけど、この人はなぜだか私にマウントとりにきてる。
(いや別にいいんですけどね?)
取りたきゃ勝手にとってなさい、と私は半目でホットのカフェラテを飲む。甘。美味し。
「……そういえば」
私はなんだか勝ち誇ってるその人に、ついでだから聞いてみた。
「あの、手を繋ぎたがるのはいつもですか?」
「……え?」
「だから、手」
その人はきょとんと私を見つめる。
「真さん、ずっと手を繋いでるじゃないですか。あれ、いつもかなって」
いや別になんでもいいんだけど、なんとなく疑問だったので聞いてみたのだ。
「繋いでるの?」
「え? あ、はい」
「手を?」
ほかに何を繋ぐんだ……いや昔ヒトに首輪とリード繋いでたことあったわあの人。
「手、です。手」
リードではなくて。
「ずっと?」
しつこいなぁ。
ちょっと聞いたのを後悔する。まだ飲むの途中だけど、もうお店出ちゃおうかな、なんて思っていると、その人はポツリと言った。
「手なんか繋がないよ、真くん」
「え?」
今度は私がきょとんとする番だった。あんなに繋ぎたがりなのに?
「絶対繋がない。あたし以外でも、繋いだりしてないと思う」
「え。あ、そう……なんですか」
じゃあ私なんなんだろ? 迷子になるとでも思われてるのかな? ……逃げるとか思われてそうだな。
(てことは、リード代わりなのか)
あのお手手繋ぎは。
「そっかぁ」
その人は、きれいに笑った。
「あなた、大事にされてるんだ」
「……?」
首をかしげていると、その人は立ち上がった。
「お邪魔してごめんね」
「あ、はい」
「あのね。真くんに伝えてもらえる?」
「はぁ」
「実るといいね、って言っておいて」
「……はぁ」
全くわけがわからなくて、とりあえず頷いた。
翌日、学校で千晶ちゃんにカフェでのことを話す。
「……あのね」
「うん」
「それは秘密にしてたほうがいいかも」
「真さんに? でも伝言頼まれちゃったから」
知らないふりはなぁ、と言うと千晶ちゃんは「彼女のためなの」と呟いた。
「お兄様ね、自分のそういうトモダチがわたしに接触するの嫌がってたから、多分華ちゃんだともっと嫌。その人、どうなるか分からない」
「えぇ……」
なんだそれは……。
「てか、なんで私だと嫌なの?」
からかわれてるだけな気がする昨今ですが。先生としては最高に分かりやすいんだけど。
「……これに関してはお兄様の自業自得よね」
「自業自得?」
千晶ちゃんは「気にしないで」と少し肩をすくめた。
「てか、あのヒトやっぱ、そういう関係のヒトなんだ?」
「え、あ、まぁ……多分」
「そうかぁ」
"してる"んだな、と少し思ってしまった。なんていうか……なんだろう。妙な気持ちだ。
(どんな風にキスとかするんだろう)
それからその先もーーって、私には関係ない話だ。うん。
「あのさ、このところは鳴りを潜めて、っていうか、もう女遊び的なことはしてないっていうか」
千晶ちゃんはちょっとフォローしてる。
「受験だしね」
「それだけじゃないんだけど」
千晶ちゃんは言いにくそうにした後、「ま、それもお兄様の自業自得だから」と呆れたように呟いた。
12月も中旬に入って、すっかりクリスモードな横浜のデパート。
私は、毎年恒例のクリスマスパーティー(樹くんと圭くんとかと)のプレゼントをひとりで買いに来ていた。ふと疲れて入ったカフェで、その人に話しかけられたのだ。
白いブレザーを着た女の子。青百合学園、"例の乙女ゲーム"の舞台となる学校。樹くんや圭くん、真さんが通う学校。
「こんにちは」
にこりと微笑まれて、とりあえず会釈する。
「ええと、その」
「あ、ごめんね、突然。真くんのお友達です」
綺麗な人だった。さらりとした黒いロングヘアも、大人びた表情も。
(はー、真さん好きそう)
ぱちぱちと瞬きしてしまう。お友達、って多分そういうお友達だよね? この言い方で普通のクラスメイトってことはないでしょう。
「前写真見せてもらって」
「はぁ」
私は頷きながら、モヤモヤしたこの気持ちについて考える。
(なに? なんで?)
は、と気づく。まさか、新幹線での寝顔(よだれ)ではあるまいなあのクソガキ!
よもやネタにするとは……!?
(そのモヤモヤかっ)
しかしわざわざ確かめるのもなぁ、私、その写真よだれ垂らしてました? って聞くの? 聞きづらいよ。
「写真より可愛いね」
「はぁ、どうも」
その人は私の向かいに座りながらそう言った。
(まぁ、よだれ垂らし寝顔よりはね)
可愛く見えるでしょうよ……くそう。
(てかなぜ私の正面に)
ちらり、と見遣るとやっぱり微笑まれた。何? 何なの?
「ねぇ、付き合ってるの」
「誰とですか」
「真くん」
「ないです」
きっぱり答えると、彼女はケタケタ笑った。
「あは、ウケる。やっぱ振られてんじゃん」
「はぁ……」
なんだろう、なんていうか仲いいのかな? この人と真さん。なんとなく、雰囲気が。
「ねえ、やった?」
「なにをですか?」
「決まってんじゃん」
その人は、周りのお客さんの耳を気にしてか、そっと私の耳元で囁いた。
「し、してません!」
私は赤くなりながら否定した。なに中学生に聞いてるんだこの人は!
「えー? してないの? 上手だよ」
「知りません……!」
上手もクソもない!
赤くなって睨みつけると「じゃあキスは?」と聞いてくるので「それもないです」と即答した。
「ないんだ? なにもしてないんだ?」
その人は、少し勝ち誇ったような目で見て私を見る。いやそんな顔されても。
(でもなんかムカつく)
なにが理由だか知らないけど、この人はなぜだか私にマウントとりにきてる。
(いや別にいいんですけどね?)
取りたきゃ勝手にとってなさい、と私は半目でホットのカフェラテを飲む。甘。美味し。
「……そういえば」
私はなんだか勝ち誇ってるその人に、ついでだから聞いてみた。
「あの、手を繋ぎたがるのはいつもですか?」
「……え?」
「だから、手」
その人はきょとんと私を見つめる。
「真さん、ずっと手を繋いでるじゃないですか。あれ、いつもかなって」
いや別になんでもいいんだけど、なんとなく疑問だったので聞いてみたのだ。
「繋いでるの?」
「え? あ、はい」
「手を?」
ほかに何を繋ぐんだ……いや昔ヒトに首輪とリード繋いでたことあったわあの人。
「手、です。手」
リードではなくて。
「ずっと?」
しつこいなぁ。
ちょっと聞いたのを後悔する。まだ飲むの途中だけど、もうお店出ちゃおうかな、なんて思っていると、その人はポツリと言った。
「手なんか繋がないよ、真くん」
「え?」
今度は私がきょとんとする番だった。あんなに繋ぎたがりなのに?
「絶対繋がない。あたし以外でも、繋いだりしてないと思う」
「え。あ、そう……なんですか」
じゃあ私なんなんだろ? 迷子になるとでも思われてるのかな? ……逃げるとか思われてそうだな。
(てことは、リード代わりなのか)
あのお手手繋ぎは。
「そっかぁ」
その人は、きれいに笑った。
「あなた、大事にされてるんだ」
「……?」
首をかしげていると、その人は立ち上がった。
「お邪魔してごめんね」
「あ、はい」
「あのね。真くんに伝えてもらえる?」
「はぁ」
「実るといいね、って言っておいて」
「……はぁ」
全くわけがわからなくて、とりあえず頷いた。
翌日、学校で千晶ちゃんにカフェでのことを話す。
「……あのね」
「うん」
「それは秘密にしてたほうがいいかも」
「真さんに? でも伝言頼まれちゃったから」
知らないふりはなぁ、と言うと千晶ちゃんは「彼女のためなの」と呟いた。
「お兄様ね、自分のそういうトモダチがわたしに接触するの嫌がってたから、多分華ちゃんだともっと嫌。その人、どうなるか分からない」
「えぇ……」
なんだそれは……。
「てか、なんで私だと嫌なの?」
からかわれてるだけな気がする昨今ですが。先生としては最高に分かりやすいんだけど。
「……これに関してはお兄様の自業自得よね」
「自業自得?」
千晶ちゃんは「気にしないで」と少し肩をすくめた。
「てか、あのヒトやっぱ、そういう関係のヒトなんだ?」
「え、あ、まぁ……多分」
「そうかぁ」
"してる"んだな、と少し思ってしまった。なんていうか……なんだろう。妙な気持ちだ。
(どんな風にキスとかするんだろう)
それからその先もーーって、私には関係ない話だ。うん。
「あのさ、このところは鳴りを潜めて、っていうか、もう女遊び的なことはしてないっていうか」
千晶ちゃんはちょっとフォローしてる。
「受験だしね」
「それだけじゃないんだけど」
千晶ちゃんは言いにくそうにした後、「ま、それもお兄様の自業自得だから」と呆れたように呟いた。
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