【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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分岐・鍋島真

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「あ、きみ、真くんのお気に入りの子だ」

 12月も中旬に入って、すっかりクリスモードな横浜のデパート。
 私は、毎年恒例のクリスマスパーティー(樹くんと圭くんとかと)のプレゼントをひとりで買いに来ていた。ふと疲れて入ったカフェで、その人に話しかけられたのだ。
 白いブレザーを着た女の子。青百合学園、"例の乙女ゲーム"の舞台となる学校。樹くんや圭くん、真さんが通う学校。

「こんにちは」

 にこりと微笑まれて、とりあえず会釈する。

「ええと、その」
「あ、ごめんね、突然。真くんのです」

 綺麗な人だった。さらりとした黒いロングヘアも、大人びた表情も。

(はー、真さん好きそう)

 ぱちぱちと瞬きしてしまう。お友達、って多分そういうお友達だよね? この言い方で普通のクラスメイトってことはないでしょう。

「前写真見せてもらって」
「はぁ」

 私は頷きながら、モヤモヤしたこの気持ちについて考える。

(なに? なんで?)

 は、と気づく。まさか、新幹線での寝顔(よだれ)ではあるまいなあのクソガキ!
 よもやネタにするとは……!?

(そのモヤモヤかっ)

 しかしわざわざ確かめるのもなぁ、私、その写真よだれ垂らしてました? って聞くの? 聞きづらいよ。

「写真より可愛いね」
「はぁ、どうも」

 その人は私の向かいに座りながらそう言った。

(まぁ、よだれ垂らし寝顔よりはね)

 可愛く見えるでしょうよ……くそう。

(てかなぜ私の正面に)

 ちらり、と見遣るとやっぱり微笑まれた。何? 何なの?

「ねぇ、付き合ってるの」
「誰とですか」
「真くん」
「ないです」

 きっぱり答えると、彼女はケタケタ笑った。

「あは、ウケる。やっぱ振られてんじゃん」
「はぁ……」

 なんだろう、なんていうか仲いいのかな? この人と真さん。なんとなく、雰囲気が。

「ねえ、やった?」
「なにをですか?」
「決まってんじゃん」

 その人は、周りのお客さんの耳を気にしてか、そっと私の耳元で囁いた。

「し、してません!」

 私は赤くなりながら否定した。なに中学生に聞いてるんだこの人は!

「えー? してないの? 上手だよ」
「知りません……!」

 上手もクソもない!
 赤くなって睨みつけると「じゃあキスは?」と聞いてくるので「それもないです」と即答した。

「ないんだ? なにもしてないんだ?」

 その人は、少し勝ち誇ったような目で見て私を見る。いやそんな顔されても。

(でもなんかムカつく)

 なにが理由だか知らないけど、この人はなぜだか私にマウントとりにきてる。

(いや別にいいんですけどね?)

 取りたきゃ勝手にとってなさい、と私は半目でホットのカフェラテを飲む。甘。美味し。

「……そういえば」

 私はなんだか勝ち誇ってるその人に、ついでだから聞いてみた。

「あの、手を繋ぎたがるのはいつもですか?」
「……え?」
「だから、手」

 その人はきょとんと私を見つめる。

「真さん、ずっと手を繋いでるじゃないですか。あれ、いつもかなって」

 いや別になんでもいいんだけど、なんとなく疑問だったので聞いてみたのだ。

「繋いでるの?」
「え? あ、はい」
「手を?」

 ほかに何を繋ぐんだ……いや昔ヒトに首輪とリード繋いでたことあったわあの人。

「手、です。手」

 リードではなくて。

「ずっと?」

 しつこいなぁ。
 ちょっと聞いたのを後悔する。まだ飲むの途中だけど、もうお店出ちゃおうかな、なんて思っていると、その人はポツリと言った。

「手なんか繋がないよ、真くん」
「え?」

 今度は私がきょとんとする番だった。あんなに繋ぎたがりなのに?

「絶対繋がない。あたし以外でも、繋いだりしてないと思う」
「え。あ、そう……なんですか」

 じゃあ私なんなんだろ? 迷子になるとでも思われてるのかな? ……逃げるとか思われてそうだな。

(てことは、リード代わりなのか)

 あのお手手繋ぎは。

「そっかぁ」

 その人は、きれいに笑った。

「あなた、大事にされてるんだ」
「……?」

 首をかしげていると、その人は立ち上がった。

「お邪魔してごめんね」
「あ、はい」
「あのね。真くんに伝えてもらえる?」
「はぁ」
「実るといいね、って言っておいて」
「……はぁ」

 全くわけがわからなくて、とりあえず頷いた。
 翌日、学校で千晶ちゃんにカフェでのことを話す。

「……あのね」
「うん」
「それは秘密にしてたほうがいいかも」
「真さんに? でも伝言頼まれちゃったから」

 知らないふりはなぁ、と言うと千晶ちゃんは「彼女のためなの」と呟いた。

「お兄様ね、自分のそういうトモダチがわたしに接触するの嫌がってたから、多分華ちゃんだともっと嫌。その人、どうなるか分からない」
「えぇ……」

 なんだそれは……。

「てか、なんで私だと嫌なの?」

 からかわれてるだけな気がする昨今ですが。先生としては最高に分かりやすいんだけど。

「……これに関してはお兄様の自業自得よね」
「自業自得?」

 千晶ちゃんは「気にしないで」と少し肩をすくめた。

「てか、あのヒトやっぱ、そういう関係のヒトなんだ?」
「え、あ、まぁ……多分」
「そうかぁ」

 "してる"んだな、と少し思ってしまった。なんていうか……なんだろう。妙な気持ちだ。

(どんな風にキスとかするんだろう)

 それからその先もーーって、私には関係ない話だ。うん。

「あのさ、このところは鳴りを潜めて、っていうか、もう女遊び的なことはしてないっていうか」

 千晶ちゃんはちょっとフォローしてる。

「受験だしね」
「それだけじゃないんだけど」

 千晶ちゃんは言いにくそうにした後、「ま、それもお兄様の自業自得だから」と呆れたように呟いた。
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