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【高校編】分岐・鹿王院樹
結局イカってなんなんだよ(side???)
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合宿に16歳が来る、と聞いてオレは「付いて来れんのかな普通に」と少し思った。しかもキーパー。指示とか出せんのかね、萎縮しちゃって普段のパフォーマンス出せないんじゃないの、なんて思うのはオレはその「鹿王院樹」という選手を知ってるから。
いつだか母校の試合に行って、その相手チームにいたのが鹿王院だ。1年生で正キーパー。背も高い。
まぁ上手だった。上手っていうか、同年代では頭ひとつ抜けてたから呼ばれてもおかしくはないけど、それでも、だ。
(まぁ底上げのためかもね)
ディフェンダーのオレは、正直、そんな風に思う。実際選出されなくても、レベルが高いところで練習なりプレーなりできるのはいい経験になるから。
(だってほとんどプロだもんな)
他のメンバーは、フィールダーに大学生と高3がひとり。あとは全員プロだ。サッカーで飯を食ってるし、なんならU23どころかA代表呼ばれてるやつもいる。
(せめて気後れしない程度にはフォローしてやろう)
合宿前はそんな風に思っていたけれど、まぁなんていうか、奴は普通に堂々としていた。紅白戦では普通に指示だされたし(遠慮して言えない選手とかもいるんだけどな)……大人びてるから、時々年下なの忘れそうになる。
「鹿王院、多分彼女いるぜ」
「まじ」
そんな会話があったのは、合宿初日の合宿所、その食堂での夕食の後だった。チームは違うが、結構仲のいい選手。
「まぁあれだけ顔も整ってるしなぁ、よりどりみどりだろ」
オレが答えると、そいつは羨ましげに言った。
「いいなぁJKとお付き合い」
「お前が言うと犯罪臭がする」
「失礼だな!」
「つか、なんで彼女いるとかわかったの」
なんか鹿王院、そういうの突っ込んで聞いちゃいけなさそうな雰囲気してて聞けなかったんだよな。
仲、縮めるにはコイバナとか有効なんだけど。
「いや、こそこそスマホ持って廊下行ってたから」
「あー、まぁ電話くらいするんじゃね」
そう言いながら立ち上がり、少し部屋で紅白戦のおさらいでもするか、と廊下を歩いているとぼそぼそと話し声がする。
「鹿王院じゃね?」
「あー、彼女と電話かな」
「盗み聞きしたろ。そんでからかったろ」
「おまえ、悪趣味だな」
言いつつも、こいつが単なる興味本位でそんなことを言ってる訳じゃないことくらい分かる。
もしかしたら、これからしばらく一緒に試合を戦い抜いていくかもしれないやつと、少しでも距離を詰めたいだけなのだ。
2人で息を潜めて聞き耳を立てた。
「いや、そこはイカじゃない。コオロギ? いや無理はしなくていい」
オレたちは顔を見合わせた。イカ? コオロギ?
「いやわかる、言いたいことは。コオロギは確かにアレに似ている」
その言葉を聞きながら、まぁ確かに似てるよななんて思う。アレってGだろ。
似てるけどなんの話してるんだ。
「? バカだな、好きに決まってる……おやすみ」
オレたちは首をひねりながらその場を離れた。
「いまの、彼女との会話?」
「違うかも」
「なんなんだ、イカ」
「……さぁ」
そんな会話をした翌日は公開練習だった。マスコミもそこそこ来てて、見学のファンも多い。
その中に、なんだか人の目を惹く女の子がいた。
「どっかのレポーター?」
「にしては若そうだけど」
単なるファン?
テレビ局のカメラも時折彼女を向いていた。まぁ映すならどうせなら可愛い子がいいよな……スポーツ中継でも、映像に抜かれるファンの子は綺麗な子が多いと思う。
正体はじきに分かった。
練習グラウンドからミーティングのために移動中、ファンに混じって立っていたその子が、普通に鹿王院が話しかけた。
「寒いねぇ」
「東北だからな。……華、マフラーもしないで」
「鎌倉はあったかかったんだよ」
鹿王院は手に持っていたネックウォーマーを当然のようにその子に被せた。
「髪崩れる」
文句を言いながらも、その子は甘えるような目線で、嬉しそうに鹿王院を見上げて。鹿王院も幸せそうにその子を見ていた。
「なんという!」
「どうした」
「現役JK、しかも美少女。ズルイ」
「おまえが言うと犯罪臭するのはなんでなんだろ」
そんな会話をしつつ、昼食の時に何気なく聞いてみた。
「鹿王院」
「はい」
ハヤシライスを黙々と食べ終わった鹿王院は、オレを見上げて「守備位置なにか悪かったですか」と聞いてきた。
「いや、さっきの子」
「さっき?」
「あのボブのかぁいらしい子だよ」
「ああ」
鹿王院はあからさまに嬉しそうにした。
「あれ、彼女?」
「ええと」
鹿王院は珍しく言い淀む。
「その、なんというか……好きな人です」
「好きな人? 付き合ってないの?」
「まぁ、一応。友達? です」
「えっなんで」
普通にびっくりした。めちゃくちゃ仲よさそうだし、友達でわざわざこんな遠くまで応援に来ないだろう。
「色々ありまして、……待ってもらってる感じです、かね」
「あー」
なんだろ? サッカーに集中したいとか?
「待たせてて不安じゃないの」
「いえ」
鹿王院は不敵に笑った。
「不安はありません」
「……あ、そ」
こいつの自信とか矜持とか、それはもちろん自分で積み重ねてきたものなんだろうけど、でもそれを下支えしてんのはもしかしてあの子なのかもなぁ、なんてオレはなんとなく思う。
「18になったら結婚します」
「気が早くない?」
まずはお付き合いじゃないの?
「……遅いくらいです」
少し拗ねたような目で言う鹿王院は、なんだか普通の高校生って感じ。
「あ、そういやさ」
イカ。なんの話だったんだろう。
そう聞こうとした瞬間に、鹿王院はコーチに呼ばれてしまった。一礼して去っていく高校生。
「……イカなぁ」
とりあえずオレには、イカとコオロギの共通性は見つけられそうにない感じです。
いつだか母校の試合に行って、その相手チームにいたのが鹿王院だ。1年生で正キーパー。背も高い。
まぁ上手だった。上手っていうか、同年代では頭ひとつ抜けてたから呼ばれてもおかしくはないけど、それでも、だ。
(まぁ底上げのためかもね)
ディフェンダーのオレは、正直、そんな風に思う。実際選出されなくても、レベルが高いところで練習なりプレーなりできるのはいい経験になるから。
(だってほとんどプロだもんな)
他のメンバーは、フィールダーに大学生と高3がひとり。あとは全員プロだ。サッカーで飯を食ってるし、なんならU23どころかA代表呼ばれてるやつもいる。
(せめて気後れしない程度にはフォローしてやろう)
合宿前はそんな風に思っていたけれど、まぁなんていうか、奴は普通に堂々としていた。紅白戦では普通に指示だされたし(遠慮して言えない選手とかもいるんだけどな)……大人びてるから、時々年下なの忘れそうになる。
「鹿王院、多分彼女いるぜ」
「まじ」
そんな会話があったのは、合宿初日の合宿所、その食堂での夕食の後だった。チームは違うが、結構仲のいい選手。
「まぁあれだけ顔も整ってるしなぁ、よりどりみどりだろ」
オレが答えると、そいつは羨ましげに言った。
「いいなぁJKとお付き合い」
「お前が言うと犯罪臭がする」
「失礼だな!」
「つか、なんで彼女いるとかわかったの」
なんか鹿王院、そういうの突っ込んで聞いちゃいけなさそうな雰囲気してて聞けなかったんだよな。
仲、縮めるにはコイバナとか有効なんだけど。
「いや、こそこそスマホ持って廊下行ってたから」
「あー、まぁ電話くらいするんじゃね」
そう言いながら立ち上がり、少し部屋で紅白戦のおさらいでもするか、と廊下を歩いているとぼそぼそと話し声がする。
「鹿王院じゃね?」
「あー、彼女と電話かな」
「盗み聞きしたろ。そんでからかったろ」
「おまえ、悪趣味だな」
言いつつも、こいつが単なる興味本位でそんなことを言ってる訳じゃないことくらい分かる。
もしかしたら、これからしばらく一緒に試合を戦い抜いていくかもしれないやつと、少しでも距離を詰めたいだけなのだ。
2人で息を潜めて聞き耳を立てた。
「いや、そこはイカじゃない。コオロギ? いや無理はしなくていい」
オレたちは顔を見合わせた。イカ? コオロギ?
「いやわかる、言いたいことは。コオロギは確かにアレに似ている」
その言葉を聞きながら、まぁ確かに似てるよななんて思う。アレってGだろ。
似てるけどなんの話してるんだ。
「? バカだな、好きに決まってる……おやすみ」
オレたちは首をひねりながらその場を離れた。
「いまの、彼女との会話?」
「違うかも」
「なんなんだ、イカ」
「……さぁ」
そんな会話をした翌日は公開練習だった。マスコミもそこそこ来てて、見学のファンも多い。
その中に、なんだか人の目を惹く女の子がいた。
「どっかのレポーター?」
「にしては若そうだけど」
単なるファン?
テレビ局のカメラも時折彼女を向いていた。まぁ映すならどうせなら可愛い子がいいよな……スポーツ中継でも、映像に抜かれるファンの子は綺麗な子が多いと思う。
正体はじきに分かった。
練習グラウンドからミーティングのために移動中、ファンに混じって立っていたその子が、普通に鹿王院が話しかけた。
「寒いねぇ」
「東北だからな。……華、マフラーもしないで」
「鎌倉はあったかかったんだよ」
鹿王院は手に持っていたネックウォーマーを当然のようにその子に被せた。
「髪崩れる」
文句を言いながらも、その子は甘えるような目線で、嬉しそうに鹿王院を見上げて。鹿王院も幸せそうにその子を見ていた。
「なんという!」
「どうした」
「現役JK、しかも美少女。ズルイ」
「おまえが言うと犯罪臭するのはなんでなんだろ」
そんな会話をしつつ、昼食の時に何気なく聞いてみた。
「鹿王院」
「はい」
ハヤシライスを黙々と食べ終わった鹿王院は、オレを見上げて「守備位置なにか悪かったですか」と聞いてきた。
「いや、さっきの子」
「さっき?」
「あのボブのかぁいらしい子だよ」
「ああ」
鹿王院はあからさまに嬉しそうにした。
「あれ、彼女?」
「ええと」
鹿王院は珍しく言い淀む。
「その、なんというか……好きな人です」
「好きな人? 付き合ってないの?」
「まぁ、一応。友達? です」
「えっなんで」
普通にびっくりした。めちゃくちゃ仲よさそうだし、友達でわざわざこんな遠くまで応援に来ないだろう。
「色々ありまして、……待ってもらってる感じです、かね」
「あー」
なんだろ? サッカーに集中したいとか?
「待たせてて不安じゃないの」
「いえ」
鹿王院は不敵に笑った。
「不安はありません」
「……あ、そ」
こいつの自信とか矜持とか、それはもちろん自分で積み重ねてきたものなんだろうけど、でもそれを下支えしてんのはもしかしてあの子なのかもなぁ、なんてオレはなんとなく思う。
「18になったら結婚します」
「気が早くない?」
まずはお付き合いじゃないの?
「……遅いくらいです」
少し拗ねたような目で言う鹿王院は、なんだか普通の高校生って感じ。
「あ、そういやさ」
イカ。なんの話だったんだろう。
そう聞こうとした瞬間に、鹿王院はコーチに呼ばれてしまった。一礼して去っていく高校生。
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