【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・鹿王院樹

不可抗力

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 樹くん帰国の日。なんとなくノリで(なんてのは言い訳。ふつうに早く会いたかったから)空港まで来てみたけど、ちょっと後悔してる。

(ひ、人だかり)

 U-20の人たちは普通にプロ中心のチームだからか、到着ゲートには、サポーターとかファンの出待ちが結構いた。

(この間は、そんなにいなかったのに)

 福島での合宿は。まぁ、あれは合宿だし首都圏からのアクセスもいいわけじゃなかったから。

(多いよ~)

 しかも、出待ちの女の子の中には樹くんファン(?)の子もいるみたいで、……人気あるんだなぁ、樹くん。
 マスコミ関係者っぽい人も結構いる。テレビカメラも。

(そりゃそうだよね)

 年代別で、その上練習試合とはいえ、格上相手に3戦3勝。注目も集まる。
 樹くんもひと試合、フル出場してた。テレビを齧りつくように見たのなんて、前世ぶりだよほんと。

(カッコよかった)

 PK止めたんだもんね。実況の人も解説の人もべた褒めだった。
 曰く、落ち着きが16歳だとは思えない、だそうで……私もそう思う。普段から。

(……帰ろ)

 さくさく歩き出した。帰って大人しく待って、お帰りなさいしよ。すぐ会いたいけど。すっごい会いたいけど、……邪魔はできない。
 私いるの知ったら、もしかしたら心配しちゃうかもだし。
 こんなに人が多いところにいると、迷子になるやらならないやら言い出すかも、あのヒトは。
 幼児ですか私は。中身はずうっと年上なんですよー。

(前世、か)

 うぎゃあと叫んで頭を抱えたくなることを思い出す。
 "私"、というか"華"というか、が悪役令嬢なゲームのヒロイン。

(あの子、ぜえええったい記憶あるよね)

 あるどころか、……なんていうか、明らかにシナリオ通りに物事を進めようとしている、というか。

(まぁ、今のところ空回ってるかんじだけど)

 ふう、とため息ひとつ。
 大きな窓の外には、航空機が並ぶ。国際線の飛行機ってそういや前世以来、乗ってない。

(来月乗るんだよなー……)

 修学旅行がある。前世でも、アジア圏しか行ったことがなかったのでちょっと楽しみ。

(樹くんは大変だなぁ)

 もしこのまま代表に選ばれたら、今月半ばから大会だ。順当に勝ち上がれば、来月頭まで試合。

(そんで、来月末から修学旅行だもんね~)

 超忙しい。無理はして欲しくないと思う。でも修学旅行は行きたいだろうしなぁ……なんだっけ、なんちゃらっていう両生類がいる湖だか鍾乳洞だかに行くらしくて、それが楽しみらしい。

(両生類まで飼いだしたら、静子さんすっごい怒るだろうなぁ)

 まぁウーパールーパーも両生類なんだけどね。メキシコサラマンダー。水を減らすとトカゲになるとのこと。けどその過程で死んじゃうこともあるらしくて、樹くんはあんまり考えてないみたいだった。
 ぼけーっと歩いてたら、完全に迷子になっていた。

「……あれ?」

 でも、ふふん、と私は虚勢をはる。

(ま、看板見て歩いてたら大丈夫でしょ)

 ヨユーですよ、ヨユー。
 特急に乗って帰るのだ。駅に行かなくては……。

「あれ?」

 私はまたキョロキョロした。あれからしばらく歩いて、あの私、……方向音痴ではないはずなんです。

「空港が広すぎる……」

 国際空港だからか、広い広い。
 本当に嫌になる。
 ちょっと面倒くさくなって、近くにあったカフェに入った。出るときに店員さんに道を聞こう。
 案内された席は、窓ガラス側の席。窓といっても外側じゃなくて空港内側ーーガラス越しにフロアを動き回る人がよく見えた。
 美味しそうなケーキがあったので、セットで注文。うふふ、と到着を楽しみにしていると目の前に誰か座った。

「?」
「や、奇遇」
「あっ」

 私は軽く叫んで、その人を睨みつけた。

「真さん」
「なあに」
「私で遊びましたね……!?」

 目の前に座った優雅なその人は、軽く目を細めて肩をすくめた。

「嘘はついてないよ」
「じゅーぶんにウソです」

 このヒトは!

(樹くんが文句を言いにいった、らしいけど)

 樹くんは「絶対に華に近寄るな」と言ってくれたらしいのに、まぁ完全に無視しちゃってくれてる状況だ。

「何年苦しんだと」
「ねー?」

 真さんは不思議なくらい、悪びれていない。ちょっと泣きそうになりながら睨みつけるけど、ほんとに飄々と視線を流されるばかり。

(……これは、言ってもムダか)

 諦めモード。うう。千晶ちゃんに言いつけておこう……。

「てか、何してるんですか、こんなとこで」

 ちょっと感情を切り替えて、そう聞いた。

「海外旅行?」
「あ、そーですか」

 なんで疑問形なんだろ。

「一緒に行かない?」
「行きません」
「おや残念」

 クスクスと真さんは笑った。もう、読めないからイヤなんだよなぁ、このヒト!
 私は眉をきゅうと寄せて悩んだ。

(どーしよ)

 もうケーキのことは忘れて(真さんに食べてください、とでも言って)この店を出るべきか、でもそれってお店の人にとって迷惑かなぁ。うーん。
 そんな風な迷いは、ガン! という窓ガラスを叩く音で考えを中断された。

「樹くん……?」

 なぜここに。
 白黒のジャージ姿で、黒いバックパックを背負ってる。

(かっこいい)

 ついぽけーっと見てしまうけれど、その目はかなり険しい。

(お、怒ってる)

 真さんには近づくなって口酸っぱく言われてるから、……怒られるかもしれない。

(でもこれ不可抗力なんだよう!)

 樹くんは、すっと窓ガラスから離れて、カフェの入り口のほうに向かう。

「やだなぁ、なんで見つかるんだろ」

 真さんはぽつりと言って、とてもエレガントに足を組み直した。
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