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【高校編】分岐・山ノ内瑛
青くさくて幼くて
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「え、それはちょっと酷いわね?」
食後、お茶を飲みながら敦子さんは軽くその綺麗な眉をひそめた。
「オトコの方はお咎めなし?」
八重子さんがテーブルにタルトを置きながら言った。お礼を言って受け取る。
(うわーい)
アメリカンチェリーのタルト!
美味しそう~。生で乗ってるやつじゃなくて、一緒に焼いてあるもの。甘みが増して美味しいんですよこれが。大好き。
「らしいんですよー。松井さんが主導したんだろう、と学校側はそういう主張」
ぱくり、とタルトを頬張りながらそう言うと、少し敦子さんにたしなめられた。お行儀が悪い!
「アイツって、そんなヤツだっけなぁ」
圭くんが「話したことある程度だけど」と言った。
「転校してすぐ、……絵を褒めてくれたんだよね」
「褒めてくれたからいい人とは限らないでしょ!」
「まーね。てか、ハナは直接会ってるんだもんね」
「やなヤツだったよ」
「そっかー……」
うーん、どうやら友達ウケは悪くない子みたいだな、根岸。
(私たちにはすっごくヤなヤツだったけど)
だってそうじゃなきゃ「それ本当に俺の子?」なんて言えないよね。
しかも、先生たちにも「自分は騙された」みたいな主張してるみたいだし。
「それでね、松井さんは赤ちゃん産むんだって」
「え、産むの」
「すっごい可愛いらしいよ」
そう言うと、敦子さんと八重子さんは「へぇー」という顔をした。
「強いのね~」
「まぁ、ご実家も裕福でらっしゃるからね」
「でもね、退学なんだって、そうすると」
「あー、まぁ……それは」
2人からは仕方ないんじゃない~? みたいな雰囲気が出てて、私は「変じゃん!」と叫んだ。
「赤ちゃん産まれるのって、ほんとはお祝いすることなんじゃないの?」
「まぁ、本来学業に専念すべき学生が、子供産んじゃうのはどうかってことなんじゃない?」
「ウチの学校、部活部活部活なスポクラとかもありますけど!?」
「まぁ、それはそれで"高校生らしい"んじゃないの? ……やっぱり、責任を持って、子供を養える環境でないと」
「親に頼るのがダメってこと? でも、将来的に頼りきりにならないためにも、松井さんには今、教育っていうか、学歴が必要なんじゃないの?」
今、退学になるかならないかで、松井さんは就ける職業の幅が変わってくる。取れる資格も。
「アンタ女子高生のくせに色々詳しいわね……」
ぎくり。いや、ほら、前世アラサーでしたからそれなりに友達からの情報なんかが。
「でもね、華。そんな風に熱くなれるのは、あなたがまだ若いからよ。まだまだ若くて、……世間を知らないから」
何も見えてない、まだまだ青い、っていう感じで言われて私は黙る。
(いちおう社会人してたんだけどなぁ!)
前世。とはいえ、中身が何歳でも、まだまだ敦子さんよりは世間知らずだ。それはわかってるけど。
「えーと、ね? ほら、風紀が乱れるとか?」
私がぐっと黙ったので、気を使ってか、八重子さんが言う。
「私! 風紀委員ですけど! 校則にもマニュアルにも、妊娠出産は退学なんてどこにも書かれてませんけどっ」
ふんす、と鼻息荒くそう言うと、敦子さんは「はぁ」とため息をついた。
「はいはい、分かりました。一応口添えだけならできるわよ」
私は敦子さんの手を握る。
「あ、ありがとうございますっ」
退学阻止! できるかも!
「……けど、学園の方へのあたしの影響力なんか殆どないわよ? あそこの学園長、何年か前に"お兄様派"の人間に変わったから」
「え、大伯父様?」
ぽかん、と聞き返す。え、それがどう関係するんだろ?
「あたしね、今、あのクソジジイ蹴落そうとしてるから」
ふふん、と少し自慢げに敦子さんは言った。
「蹴落とす、って」
「そのままの意味よ。あのクソジジイが座ってる椅子、そっくりそのままあたしのモノにすんの」
敦子さんは上品に笑った。
翌日、私はぷらりと中等部体育館へ向かった。アキラくんみたいのもあるけど、1番は根岸の観察(?)だ。
ミンミンミンと蝉が相変わらず忙しない。耳鳴りなんだか、蝉の鳴き声なんだか分からなくなって来る。
(根岸、少しは反省してないかな)
昨日は、根岸のご両親も学校に呼び出されて、の話し合いだったらしいから。
中等部の体育館はヒンヤリしていた。
観覧席には、……む、アキラくんファンと思われる女子たちがアキラくんに向かって手を振っている。無視してるけど。
(……ゲームとは随分性格違うよなぁ)
ゲームのアキラくんは嬉々として手を振り返していたけれど。
ふと目線が合う。一瞬だけアキラくんの頬に微笑みがうかんで、それだけで胸がキュンとするから……はー、ほんっと重症だ。
(写真撮りたいなぁ)
スマホも携帯も無い私。デジカメなんかも持ってない。こうなれば網膜に灼きつけるしか……って。
(あれ?)
キョロキョロしてみるけど、根岸の姿はない。
(別のところで練習かな?)
体育館のエントランスまで引き返して、体育館の見取り図を見る。第三体育館まであるので(プラスして2つの武道場、卓球場、フェンシングの練習場、ジム、エトセトラエトセトラ)よく分からない。
じっと見取り図を見ていると、背後から大声がした。
「あちー!」
「こんな日に外周なんて殺す気かよ!」
体育館の入り口に、汗まみれの男子たちがドヤドヤと入ってきた。この暑い中、ランニングに出ていたらしい。
振り返った私は思わず声を出した。
「あ」
こちらを見た根岸もまた、嫌そうに眉をひそめて舌打ちをした。
……いや、舌打ちしたいのこっちだからね!?
食後、お茶を飲みながら敦子さんは軽くその綺麗な眉をひそめた。
「オトコの方はお咎めなし?」
八重子さんがテーブルにタルトを置きながら言った。お礼を言って受け取る。
(うわーい)
アメリカンチェリーのタルト!
美味しそう~。生で乗ってるやつじゃなくて、一緒に焼いてあるもの。甘みが増して美味しいんですよこれが。大好き。
「らしいんですよー。松井さんが主導したんだろう、と学校側はそういう主張」
ぱくり、とタルトを頬張りながらそう言うと、少し敦子さんにたしなめられた。お行儀が悪い!
「アイツって、そんなヤツだっけなぁ」
圭くんが「話したことある程度だけど」と言った。
「転校してすぐ、……絵を褒めてくれたんだよね」
「褒めてくれたからいい人とは限らないでしょ!」
「まーね。てか、ハナは直接会ってるんだもんね」
「やなヤツだったよ」
「そっかー……」
うーん、どうやら友達ウケは悪くない子みたいだな、根岸。
(私たちにはすっごくヤなヤツだったけど)
だってそうじゃなきゃ「それ本当に俺の子?」なんて言えないよね。
しかも、先生たちにも「自分は騙された」みたいな主張してるみたいだし。
「それでね、松井さんは赤ちゃん産むんだって」
「え、産むの」
「すっごい可愛いらしいよ」
そう言うと、敦子さんと八重子さんは「へぇー」という顔をした。
「強いのね~」
「まぁ、ご実家も裕福でらっしゃるからね」
「でもね、退学なんだって、そうすると」
「あー、まぁ……それは」
2人からは仕方ないんじゃない~? みたいな雰囲気が出てて、私は「変じゃん!」と叫んだ。
「赤ちゃん産まれるのって、ほんとはお祝いすることなんじゃないの?」
「まぁ、本来学業に専念すべき学生が、子供産んじゃうのはどうかってことなんじゃない?」
「ウチの学校、部活部活部活なスポクラとかもありますけど!?」
「まぁ、それはそれで"高校生らしい"んじゃないの? ……やっぱり、責任を持って、子供を養える環境でないと」
「親に頼るのがダメってこと? でも、将来的に頼りきりにならないためにも、松井さんには今、教育っていうか、学歴が必要なんじゃないの?」
今、退学になるかならないかで、松井さんは就ける職業の幅が変わってくる。取れる資格も。
「アンタ女子高生のくせに色々詳しいわね……」
ぎくり。いや、ほら、前世アラサーでしたからそれなりに友達からの情報なんかが。
「でもね、華。そんな風に熱くなれるのは、あなたがまだ若いからよ。まだまだ若くて、……世間を知らないから」
何も見えてない、まだまだ青い、っていう感じで言われて私は黙る。
(いちおう社会人してたんだけどなぁ!)
前世。とはいえ、中身が何歳でも、まだまだ敦子さんよりは世間知らずだ。それはわかってるけど。
「えーと、ね? ほら、風紀が乱れるとか?」
私がぐっと黙ったので、気を使ってか、八重子さんが言う。
「私! 風紀委員ですけど! 校則にもマニュアルにも、妊娠出産は退学なんてどこにも書かれてませんけどっ」
ふんす、と鼻息荒くそう言うと、敦子さんは「はぁ」とため息をついた。
「はいはい、分かりました。一応口添えだけならできるわよ」
私は敦子さんの手を握る。
「あ、ありがとうございますっ」
退学阻止! できるかも!
「……けど、学園の方へのあたしの影響力なんか殆どないわよ? あそこの学園長、何年か前に"お兄様派"の人間に変わったから」
「え、大伯父様?」
ぽかん、と聞き返す。え、それがどう関係するんだろ?
「あたしね、今、あのクソジジイ蹴落そうとしてるから」
ふふん、と少し自慢げに敦子さんは言った。
「蹴落とす、って」
「そのままの意味よ。あのクソジジイが座ってる椅子、そっくりそのままあたしのモノにすんの」
敦子さんは上品に笑った。
翌日、私はぷらりと中等部体育館へ向かった。アキラくんみたいのもあるけど、1番は根岸の観察(?)だ。
ミンミンミンと蝉が相変わらず忙しない。耳鳴りなんだか、蝉の鳴き声なんだか分からなくなって来る。
(根岸、少しは反省してないかな)
昨日は、根岸のご両親も学校に呼び出されて、の話し合いだったらしいから。
中等部の体育館はヒンヤリしていた。
観覧席には、……む、アキラくんファンと思われる女子たちがアキラくんに向かって手を振っている。無視してるけど。
(……ゲームとは随分性格違うよなぁ)
ゲームのアキラくんは嬉々として手を振り返していたけれど。
ふと目線が合う。一瞬だけアキラくんの頬に微笑みがうかんで、それだけで胸がキュンとするから……はー、ほんっと重症だ。
(写真撮りたいなぁ)
スマホも携帯も無い私。デジカメなんかも持ってない。こうなれば網膜に灼きつけるしか……って。
(あれ?)
キョロキョロしてみるけど、根岸の姿はない。
(別のところで練習かな?)
体育館のエントランスまで引き返して、体育館の見取り図を見る。第三体育館まであるので(プラスして2つの武道場、卓球場、フェンシングの練習場、ジム、エトセトラエトセトラ)よく分からない。
じっと見取り図を見ていると、背後から大声がした。
「あちー!」
「こんな日に外周なんて殺す気かよ!」
体育館の入り口に、汗まみれの男子たちがドヤドヤと入ってきた。この暑い中、ランニングに出ていたらしい。
振り返った私は思わず声を出した。
「あ」
こちらを見た根岸もまた、嫌そうに眉をひそめて舌打ちをした。
……いや、舌打ちしたいのこっちだからね!?
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