【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・山ノ内瑛

ドレッドノート(side???)

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 白い入道雲が浮かぶ青い空は、殺意が湧きそうなくらいに眩しくて、蝉はうるさくて汗はダラダラで、オレはなんでこんな日にランニングさせられてんだろー、って思う。

「熱中症なるよなこんな暑いのに、なぁネギ」

 隣を無言で走る、同じバスケ部のネギーー幼稚園からの幼馴染、根岸から返事はない。

「? おいネギ、根岸」
「え?」
「おい大丈夫か、ぼーっとしてるけど」

 体調悪いのか、と聞くけど「そんなことない」と根岸は否定した。

「つか最近変だぞお前」
「……そうか?」
「そうだよ。あ、分かった。彼女と上手くいってないのか」
「彼女?」
「え、高等部の……、違ったのか」
「違う。あんな女」

 根岸は吐き捨てるように言った。ほんとに何かあったのかもしれない。
 だって、あんなに好きだったのに。ちょっと異常かもってくらい執着してたし。

(いや、ほんとにおかしかったよな)

 執着の度合いが普通ではなかった、と思う。まぁ、小さい頃からずっと好きだったらしいから。
 でも、付き合い始めてしばらくは、根岸も調子良かった。オレたちは大体2軍で定着しちゃってるけど、根岸は夏休み前くらいまでは、1軍と2軍を行ったり来たりしていた。
 そこからは、お互い無言で走った。
 やっとの思いで体育館まで戻って来てオレはぎょっとした。エントランスには中等部では悪名高い(なぜか水泳部女子からは人気がある)風紀委員会の女王陛下こと、設楽華先輩がじっと館内見取り図を見ていた。

(山ノ内探してんのかな)

 夏休み中の部活にまで来なくたって、と思っていると、隣の根岸が一歩踏み出した。

「根岸?」
「こっち来い」

 根岸は設楽先輩の腕を掴む。オレは、いや近くにいたやつ全員ギョッとしたと思う。
 設楽先輩は思いっきり眉をひそめたまま、連れていかれた。

「え、……どうする?」
「つか、設楽先輩と根岸、どんな関係」

 ちょっと場がざわついた。まぁ少なくとも、色恋沙汰ではなさそうな……。お互いの表情がヤバかった。

「どうしたー?」

 体育館の扉が開いて、1軍の連中がゾロゾロ出てきた。ちょうど休憩に入ったらしい。

「いや、今さぁ、そこに設楽先輩いたんだけど」
「あ、まじか。さっき一瞬、観覧席にいたよ」
「山ノ内にまた文句言いに来たのかと思ったけど」

 ちらりと山ノ内を見ると、何も言わずに麦茶のペットボトルを一気飲みしていた。汗まみれなのに爽やかだ。ムカつくな。
 視線に気づいた山ノ内は「なんも言われてへんで」と普通に答えた。

「だよな。だって今、根岸に腕掴まれて連れていかれて」
「……は?」

 山ノ内の表情が凍った。

「どっち行ったん」
「え、山ノ内? どうしたんだよ」
「ええねん。どっち連れてかれたんや」

 少し焦ったような声。オレは意外だった。山ノ内って、いつもどちらかというと余裕があるタイプだし(ふざけてる時は面白いヤツだと思うけど)というか、そもそも"天敵"なんて言われてる設楽先輩のこと、何をそんなに? いや、根岸が心配?
 混乱しつつも、あっち、と指差したジム方面に山ノ内は走っていった。ぽかん、と見送るけど、オレはひとり後を付けた。いや何がなんだか分かんないけど、もしケンカとかだったら止めなきゃと思って。
 着いた時には、山ノ内はブチ切れてた。

(うわぁ)

 関西弁、怖っ。
 オレの横を、設楽先輩が涙目で駆け抜けていく。さすがに普段の勢いはない。中3とはいえ、山ノ内も根岸も背が高い方だし、あんな風に腕掴まれたり凄まれたりしたら怖くなると思う。普通の女の子なら。

(ふつうの)

 そう考えて、少し意外に思う。設楽先輩も、ふつうの女子なのかもなんて。

「で? 何してたんや」

 山ノ内はまだキレてる。

「関係ないだろ」
「それは俺が決めることや言うてる」
「知るか」
「まぁまぁまぁ」

 オレは間に入った。

「もうコーチ戻ってくるよ。とりあえず頭冷やせよ、2人とも」

 2人はしばらく無言で睨み合ってたけど、ほとんど同時みたいに舌打ちをして、山ノ内が離れて行った。

「……何があったんだよネギ」
「うるせぇ」

 根岸は無言でしゃがみこむ。

「オレだって」

 根岸は言った。

「何が何だか」
「……、ネギ?」

 しばらくして、根岸はよろりと立ち上がった。

「……練習、戻る」
「おう」

 皆のところに戻ってしばらくして、誰かが根岸に尋ねた。

「お前、女王陛下とどんな関係だよ」
「女王陛下?」
「え、設楽先輩……」
「いまの、設楽華?」
「え、そうだよ。知らなかった?」

 きょとん、というよりは呆然、と根岸は宙を見つめた。

「マジかよ」
「鹿王院さんの許婚だろ? 尻に敷かれてるって」
「常盤の偉いさんの孫娘だろ、ここの学園長も親戚だって」

 根岸の顔が青くなる。

「え、ネギ、マジで知らなかったの」
「……あいつの友達だし、大した奴じゃないと勝手に」
「あいつ?」

 根岸は「なんでもない」と答えた後は何も答えず、淡々と練習をこなし足早に帰っていった。

 練習終わり、更衣室を出ようとしたところで肩を叩かれた。

「? あ、山ノ内」
「さっきはスマンな」

 苦笑いする山ノ内は、いつも通りの笑顔で安心する。

「いや、あんなキレてんの見たの初めてでこっちもテンパった。ごめん」
「謝られるとほんま申し訳ないわ」

 ぺこり、と頭を下げられた。

「や、大丈夫だって!」
「ケジメや」
「……ネギと何があったのかは、教えてもらえないんだよな?」
「……すまん」
「いいけど、さ」

 オレは肩をすくめた。

「まぁ、なんでお前が天敵の設楽先輩のとこに駆けつけたかは、ホント謎すぎんだけど」
「謎にしといてや一生」
「あっは、まぁ一瞬、山ノ内は設楽先輩が好きなのかなとか思ったけど」

 一瞬、山ノ内が言葉に詰まって、オレは「え?」と変な声が出る。
 山ノ内はキョロキョロして、周りに誰もいないことを確認すると、もう一度オレに頭を下げた。

「すまん、それ、黙っといてくれへん? 油断してたわ」
「え、うそ、まじ? 好きなの?」
「せやねん」

 顔を上げた山ノ内は、いっそ堂々と返事をした。

「マジで好き」
「まじかよ」

 なんでそうなった。

「お前、ドMなの?」

 そう聞くと、山ノ内はめっちゃ爆笑して「せやねん!」と楽しそうに言い放った。

「ほんま、ド級のドMやで」
「へぇー。Sっぽいけど。なぁ、告白とかしないの」

 それに対して、山ノ内は曖昧に微笑むだけだった。
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