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【高校編】分岐・鹿王院樹
闖入者
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イースターの翌日……といっても連休に入ったので祝日。
ウチ、というか樹くんの家なんだけど、とにかく遊びに来てくれた千晶ちゃんに昨日の話をした。
「アグレッシブね」
「だよね……」
「唯一の救いは、松影や石宮にあった"自分が正義"みたいな信念はないことよね」
「あー、まぁ、それは」
「わたしや、ひよりちゃんには絡んでこないもの。自分のことしか目に入ってない感じ。勝手に自滅してくれそうなのは、くれそうだけど」
濡れ縁に座布団ひいて、お庭を眺めながら日本茶とお団子……おばあちゃん感半端ないけど、まったりほっこりでちょっと癒される。
昨日の夕方には、樹くんは合宿へ行ってしまった。……行ってしまった、って言い方も変なんだけどさ。
"くれぐれも1人になるな。常に誰かと行動しろ"と散々念押しして、ものすごく渋い顔をして飛行機に乗って行った。もっと楽しく見送りたかったのに。
「とりあえず様子見て、無理そうならもう転校する。どっか編入先探す」
半ば死んだ目で言うと、千晶ちゃんは軽く頷いた。
「それもいいかも。ちょっとシナリオ通りでムカつくけど」
「シナリオ、……あ」
原作ゲームでは"華"は退学処分。退学と転校と、違いはあるけれど「学園からいなくなる」という点では同じだ。
千晶ちゃんは肩をすくめる。
「ここはひとつ、乗ってやるのも手なんじゃない」
「まぁ、ね……ま、いっか。忘れよう。しばらく会わないし」
連休だし、今月半ばからは学校休んで私も渡英しちゃうのだ。
「で、このまま試合観戦なわけね」
「今月半ばからねー」
私はもぐもぐとお団子を食みながら答える。
「でもね、もーさー、寂しいし緊張だし」
「華ちゃんが緊張してどうするの」
「うう、わかってるんだけど」
緊張しちゃうのだ。試合出られるかなぁ、とか、怪我しないかなぁ、とか。色々。
「あ、でね、例の話なんだけど」
「観戦ね。いいよ」
千晶ちゃんは微笑んでくれる。
「わたしも、お兄様の様子見に行こうかなと思ってたし」
「ええと、フランスだっけ」
「うん、リヨン」
リヨンがフランスのどの辺りにあるのかは分からないけれど、この間空港で「海外旅行」なんて嘯いてた真さんは、実際は半年間の留学だったらしい。リヨンにある法律の専門の大学だとか。
……正直、日本にいないことでホッとしてる。
「フランス経由でイギリス、でも構わない?」
「うん、全然分かんないけどおっけー」
「お兄様に華ちゃん接触させたくないから、ホテルか何かにいて欲しいんだけど」
「りょーかいー」
私もあまり会いたくはない。ペースすっごい乱されるし、樹くんにも心配かけてしまう。
「パスポートは?」
「取りに行ったよー。変な顔の写真で」
ほら、とそれを見せる。見せようと思って持ってきていたのだ。
もはやネタです。写真、免許みたいに向こうでしか撮れないと思い込んでた。撮ってから行けば良かったのに。
(証明写真って、どうしてこう変な顔に……)
前世でも運転免許の写真はヒドイものだった。別にいいんだけどさ。
「ふふ、少し半目になってる。あっは、可愛い可愛い」
「もー千晶ちゃん適当言って……」
まぁ笑ってもらえたので、変顔になった甲斐はあったよ。
「飛行機の手配なんかは、こっちでやっておくから」
「助かります」
正直、全然わかんない。
「クレカあるっけ?」
「使ってないけど、あるよ。敦子さんにもらったやつ」
「海外でいきなり使って止められないかな。敦子さんに、カード会社に連絡してもらっておいたらどうかな」
「か、カードなの」
現金はダメなのでしょうか。
「カードのほうが安心なの。盗られても止められるし、保証あるし。現金なんか返ってこないよ」
「うう、その通りなんだけど」
なるほど、これが海外経験の差でしょうか。
「それから」
びしり、と指さされた。
「ぜえええったい、ひとりで出歩かない」
「ロンドンとかでも?」
「だめだめだめだめ」
千晶ちゃんは私の頬をうにうにと両手で上下に動かした。うう、何されてるの私? てかほっぺに弾力ありすぎない? また太ったかな? やばくない?
「だ、ダイエットしよ」
「どこでそうなったの」
呆れ顔で手を離した千晶ちゃんは、真剣に言う。
「日本と同じに考えちゃダメ」
「うーん、でも観光地でしょ?」
リヨンもパリに次ぐ第二の都市らしいし、樹くんの試合があるのもロンドンが中心だ。
「リヨンもロンドンも、浅草鎌倉京都奈良みたいなとこじゃないの。不慣れな東洋人なんか、一瞬で見抜かれてカモだから」
「うーん」
「とにかく! 絶対!」
「わ、分かったよ」
押されるように返事をした時、お手伝いの吉田さんの声がした。
「あの、お話中ごめんなさい華さま」
「? どうされまさした?」
「樹さんのお友達、と言う方が訪ねてらっしゃって」
「はぁ」
「ご不在です、と申し上げてもお帰りにならないんです」
「?」
「なんでも、イースターのイベントが未回収だからどうのこうの」
「!?」
私は千晶ちゃんと顔を見合わせた。
「……なんで家、知ってるの?」
「さ、さあ……」
ちょう怖いんですけど。
とりあえず吉田さんをこれ以上困らせても何なので、私は立ち上がる。
(うう、接触したくないよう)
なんとかお帰り願わなきゃだ……。
ウチ、というか樹くんの家なんだけど、とにかく遊びに来てくれた千晶ちゃんに昨日の話をした。
「アグレッシブね」
「だよね……」
「唯一の救いは、松影や石宮にあった"自分が正義"みたいな信念はないことよね」
「あー、まぁ、それは」
「わたしや、ひよりちゃんには絡んでこないもの。自分のことしか目に入ってない感じ。勝手に自滅してくれそうなのは、くれそうだけど」
濡れ縁に座布団ひいて、お庭を眺めながら日本茶とお団子……おばあちゃん感半端ないけど、まったりほっこりでちょっと癒される。
昨日の夕方には、樹くんは合宿へ行ってしまった。……行ってしまった、って言い方も変なんだけどさ。
"くれぐれも1人になるな。常に誰かと行動しろ"と散々念押しして、ものすごく渋い顔をして飛行機に乗って行った。もっと楽しく見送りたかったのに。
「とりあえず様子見て、無理そうならもう転校する。どっか編入先探す」
半ば死んだ目で言うと、千晶ちゃんは軽く頷いた。
「それもいいかも。ちょっとシナリオ通りでムカつくけど」
「シナリオ、……あ」
原作ゲームでは"華"は退学処分。退学と転校と、違いはあるけれど「学園からいなくなる」という点では同じだ。
千晶ちゃんは肩をすくめる。
「ここはひとつ、乗ってやるのも手なんじゃない」
「まぁ、ね……ま、いっか。忘れよう。しばらく会わないし」
連休だし、今月半ばからは学校休んで私も渡英しちゃうのだ。
「で、このまま試合観戦なわけね」
「今月半ばからねー」
私はもぐもぐとお団子を食みながら答える。
「でもね、もーさー、寂しいし緊張だし」
「華ちゃんが緊張してどうするの」
「うう、わかってるんだけど」
緊張しちゃうのだ。試合出られるかなぁ、とか、怪我しないかなぁ、とか。色々。
「あ、でね、例の話なんだけど」
「観戦ね。いいよ」
千晶ちゃんは微笑んでくれる。
「わたしも、お兄様の様子見に行こうかなと思ってたし」
「ええと、フランスだっけ」
「うん、リヨン」
リヨンがフランスのどの辺りにあるのかは分からないけれど、この間空港で「海外旅行」なんて嘯いてた真さんは、実際は半年間の留学だったらしい。リヨンにある法律の専門の大学だとか。
……正直、日本にいないことでホッとしてる。
「フランス経由でイギリス、でも構わない?」
「うん、全然分かんないけどおっけー」
「お兄様に華ちゃん接触させたくないから、ホテルか何かにいて欲しいんだけど」
「りょーかいー」
私もあまり会いたくはない。ペースすっごい乱されるし、樹くんにも心配かけてしまう。
「パスポートは?」
「取りに行ったよー。変な顔の写真で」
ほら、とそれを見せる。見せようと思って持ってきていたのだ。
もはやネタです。写真、免許みたいに向こうでしか撮れないと思い込んでた。撮ってから行けば良かったのに。
(証明写真って、どうしてこう変な顔に……)
前世でも運転免許の写真はヒドイものだった。別にいいんだけどさ。
「ふふ、少し半目になってる。あっは、可愛い可愛い」
「もー千晶ちゃん適当言って……」
まぁ笑ってもらえたので、変顔になった甲斐はあったよ。
「飛行機の手配なんかは、こっちでやっておくから」
「助かります」
正直、全然わかんない。
「クレカあるっけ?」
「使ってないけど、あるよ。敦子さんにもらったやつ」
「海外でいきなり使って止められないかな。敦子さんに、カード会社に連絡してもらっておいたらどうかな」
「か、カードなの」
現金はダメなのでしょうか。
「カードのほうが安心なの。盗られても止められるし、保証あるし。現金なんか返ってこないよ」
「うう、その通りなんだけど」
なるほど、これが海外経験の差でしょうか。
「それから」
びしり、と指さされた。
「ぜえええったい、ひとりで出歩かない」
「ロンドンとかでも?」
「だめだめだめだめ」
千晶ちゃんは私の頬をうにうにと両手で上下に動かした。うう、何されてるの私? てかほっぺに弾力ありすぎない? また太ったかな? やばくない?
「だ、ダイエットしよ」
「どこでそうなったの」
呆れ顔で手を離した千晶ちゃんは、真剣に言う。
「日本と同じに考えちゃダメ」
「うーん、でも観光地でしょ?」
リヨンもパリに次ぐ第二の都市らしいし、樹くんの試合があるのもロンドンが中心だ。
「リヨンもロンドンも、浅草鎌倉京都奈良みたいなとこじゃないの。不慣れな東洋人なんか、一瞬で見抜かれてカモだから」
「うーん」
「とにかく! 絶対!」
「わ、分かったよ」
押されるように返事をした時、お手伝いの吉田さんの声がした。
「あの、お話中ごめんなさい華さま」
「? どうされまさした?」
「樹さんのお友達、と言う方が訪ねてらっしゃって」
「はぁ」
「ご不在です、と申し上げてもお帰りにならないんです」
「?」
「なんでも、イースターのイベントが未回収だからどうのこうの」
「!?」
私は千晶ちゃんと顔を見合わせた。
「……なんで家、知ってるの?」
「さ、さあ……」
ちょう怖いんですけど。
とりあえず吉田さんをこれ以上困らせても何なので、私は立ち上がる。
(うう、接触したくないよう)
なんとかお帰り願わなきゃだ……。
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