【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

文字の大きさ
631 / 702
【高校編】分岐・鹿王院樹

2回目のイースター

しおりを挟む
 週明け、月曜日は学園のイースターイベントの日だった。

「終わったらすぐ行っちゃうんだよね」
「すまん、夕方の飛行機なのでな」

 すこし申し訳なさそうに言う樹くんだけど、もしかして無理矢理これ参加してくれてるのかも、なんて思う。
 ダンスのパートナー、私がボッチになるかもとか心配して。

「無理してくれなくて、良かったのに」
「俺がいなかったら、華にどんな虫が付くかわからん」
「虫て」

 相変わらず過保護気味。

「それに、ドレスも見たかった」

 嬉しそうな樹くん。またもやドレス買ってくれてしまった。

「とても似合う」

 ものすごく幸せそうに言うから、つい照れて下を向いてしまった。
 今年はほんの少し青がかった白いドレス。ふんわりとした裾が少しばかり可愛すぎる気がしないでもないけれど、これ試着した時の樹くんの反応がすごく嬉しそうだったんだよなぁ。

「ウエディングドレスもこういう色味がいいかも」
「それはもう少し純白でもいいと思うぞ」
「そうかな」
「すみません公衆の面前でいちゃつくのやめてもらえませーん?」
「そーだそーだ」

 岡村くんと大村さんの声で、我に帰った。
 イースター、卵探しイベントか始まってすぐ、中庭で樹くんと合流したところだったのだ。
 きょとんと周りを見渡すと、ちらちらとこちらを見る視線……うわぁ気づかなかった。私はともかく、樹くんは目立つもんなぁ……。ちょっと赤面。

「いいだろう」

 樹くんは自慢気に言った。

「羨ましいだろう」
「クソムカつくなお前!」

 岡村くんは笑いながら樹くんに蹴りかかる真似をした。樹くんも笑いながら避けるから、かなり仲良しさんなんだと思う。

「ほんと仲良しさんだよね」

 大村さんは呆れたように言った。

「わたしなんか、まだダンパのパートナー見つかってないのにっ」
「え、うそ、オレも。組む?」
「いいの? でも、岡村くん有名人だから他の子に妬まれるかも」

 くす、と大村さんが笑うと岡村くんは少しだけ赤面した。スポクラの子は人気あるからなぁ。

(でも2人ともアリな反応?)

 ちょっとニンマリとしてしまっとき、のことだ。

「きゃぁぁぁっ」

 なんだかワザとらしいような、よく分からない悲鳴が響いた。

「?」

 振り向くと、例のヒロイン、青花が生垣にもたれかかるように、うずくまっていた。
 樹くんが私の手を引いて、自分の後ろに隠してくれる。

「あ、この子あの変な子っ」

 大村さんが指を指す。

「今度は何!?」
「急に誰かに押されて」

 うるうる、と相変わらずの小動物のような瞳でこちらを見上げてくる。

「え、誰に?」

 岡村くんが素で聞き返す。

「そこ、君しかいなかったよ? ……え、心霊現象?」

 岡村くんはビクッとしながら言った。

「なにそれ、そんな七不思議的なのあったっけ……?」
「あるんじゃなーい?」

 大村さんは冷たく言う。

「ち、違いますっ」

 青花は悲しそうに首を振る。ここだけ見ると、ほんと私たちがいじめてるみたいに見える……。

「そ、その人の取り巻きの人に押されて!」

 指さされた私はビクついて、一歩下がる。取り巻き!? いや、ゲームではいたけど。

「きっとその人に命令されたんだわ! この学園には、設楽華に逆らえる人間はいないから……」

 よよよ、と青花は涙を拭うそぶりをした。

「いやいや、取り巻きなんかいないよ? 設楽さん。残念ながら、そこまで友達も多い方じゃないし」
「う」

 それはその通りなんだけどさ……。

「逆らえる人間も何も、設楽さんってどっちかというと、クラスではいじられ系のキャラだし」
「え!?」

 私、いじられてたの!?

「ほら、こういう子だしさ」
「ど、どういう?」
「すまん大村、華がへこんでいってるのでやめてやってくれ」

 樹くんまで苦笑いしながら言ってくる。

「た、助けて樹くうん」

 甘えた声で、青花は手を伸ばした。

「わざと倒れて何をいう」

 樹くんは冷たく言い放ち、青花を見下ろした。

「何を考えている? 何を企んでいる」
「た、企んでなんか」
「……御前の差し金か?」

 険しい声で、樹くんはぽつりと呟いた。

(あれ、変な方向に誤解してる)

 この子はなんていうか、うん。

(なんでかなぁ)

 松影ルナや石宮瑠璃の時に思ったけど、おなじ「記憶」を持ってても「自分がヒロインに生まれ変わる」ってそんなに変な方向に、テンション上げてしまうことなんだろうか……。

(下手にこちらも前世持ち、ってバレるのもなあ)

 石宮瑠璃の例があるからなぁ。アレ、怖かったなぁ。
 少しゾッ、と思い出して首をさする。

(殺されてもおかしくなかったからなー……)

 まだ死にたくないです。今度こそ長生きします。樹くんと穏やかに生きていくんだもん。

(関わらないのが一番、だよね)

 でもこんなにガッツリ向こうから来られてると、どうしたらいいものやら。

(マジで転校しちゃう?)

 ……アリな気がしてきた。でも、私のいないとこで樹くんに何かされるのも怖い。
 そんなことを考えていると、大きな声が聞こえてきた。

「桜澤さんっ、大丈夫!?」

 この間、階段でも青花を助けに来た男の子だ。本気で心配そうな顔をしている。

「また貴女ですか! 設楽華先輩っ」

 きっ、と睨まれる。

「学園長の親戚だからといって、やっていいことと、いけないことが」
「いやいやいや、だから何もしてないってこの子は」

 大村さんのツッコミも虚しく、「行こう桜澤さん」とその男の子は青花を抱き起こして、連れて行く。

「あ、えっと、待って、まだイベント起きてないの、樹くん、樹くうううん」
「あの子やっべえね」

 岡村くんは端的に言って、樹くんを見上げた。

「モテんのも考えものだなぁ」
「モテているわけではないと思う」

 はぁ、と樹くんはため息をついて「俺がいない間、華を頼む」と頭を下げていた。
しおりを挟む
感想 168

あなたにおすすめの小説

傷物令嬢は魔法使いの力を借りて婚約者を幸せにしたい

恋愛
ローゼライト=シーラデンの額には傷がある。幼い頃、幼馴染のラルスに負わされた傷で責任を取る為に婚約が結ばれた。 しかしローゼライトは知っている。ラルスには他に愛する人がいると。この婚約はローゼライトの額に傷を負わせてしまったが為の婚約で、ラルスの気持ちが自分にはないと。 そこで、子供の時から交流のある魔法使いダヴィデにラルスとの婚約解消をしたいと依頼をするのであった。

ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する

ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。 皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。 ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。 なんとか成敗してみたい。

彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~

プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。 ※完結済。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...