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【高校編】分岐・鹿王院樹
2回目のイースター
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週明け、月曜日は学園のイースターイベントの日だった。
「終わったらすぐ行っちゃうんだよね」
「すまん、夕方の飛行機なのでな」
すこし申し訳なさそうに言う樹くんだけど、もしかして無理矢理これ参加してくれてるのかも、なんて思う。
ダンスのパートナー、私がボッチになるかもとか心配して。
「無理してくれなくて、良かったのに」
「俺がいなかったら、華にどんな虫が付くかわからん」
「虫て」
相変わらず過保護気味。
「それに、ドレスも見たかった」
嬉しそうな樹くん。またもやドレス買ってくれてしまった。
「とても似合う」
ものすごく幸せそうに言うから、つい照れて下を向いてしまった。
今年はほんの少し青がかった白いドレス。ふんわりとした裾が少しばかり可愛すぎる気がしないでもないけれど、これ試着した時の樹くんの反応がすごく嬉しそうだったんだよなぁ。
「ウエディングドレスもこういう色味がいいかも」
「それはもう少し純白でもいいと思うぞ」
「そうかな」
「すみません公衆の面前でいちゃつくのやめてもらえませーん?」
「そーだそーだ」
岡村くんと大村さんの声で、我に帰った。
イースター、卵探しイベントか始まってすぐ、中庭で樹くんと合流したところだったのだ。
きょとんと周りを見渡すと、ちらちらとこちらを見る視線……うわぁ気づかなかった。私はともかく、樹くんは目立つもんなぁ……。ちょっと赤面。
「いいだろう」
樹くんは自慢気に言った。
「羨ましいだろう」
「クソムカつくなお前!」
岡村くんは笑いながら樹くんに蹴りかかる真似をした。樹くんも笑いながら避けるから、かなり仲良しさんなんだと思う。
「ほんと仲良しさんだよね」
大村さんは呆れたように言った。
「わたしなんか、まだダンパのパートナー見つかってないのにっ」
「え、うそ、オレも。組む?」
「いいの? でも、岡村くん有名人だから他の子に妬まれるかも」
くす、と大村さんが笑うと岡村くんは少しだけ赤面した。スポクラの子は人気あるからなぁ。
(でも2人ともアリな反応?)
ちょっとニンマリとしてしまっとき、のことだ。
「きゃぁぁぁっ」
なんだかワザとらしいような、よく分からない悲鳴が響いた。
「?」
振り向くと、例のヒロイン、青花が生垣にもたれかかるように、うずくまっていた。
樹くんが私の手を引いて、自分の後ろに隠してくれる。
「あ、この子あの変な子っ」
大村さんが指を指す。
「今度は何!?」
「急に誰かに押されて」
うるうる、と相変わらずの小動物のような瞳でこちらを見上げてくる。
「え、誰に?」
岡村くんが素で聞き返す。
「そこ、君しかいなかったよ? ……え、心霊現象?」
岡村くんはビクッとしながら言った。
「なにそれ、そんな七不思議的なのあったっけ……?」
「あるんじゃなーい?」
大村さんは冷たく言う。
「ち、違いますっ」
青花は悲しそうに首を振る。ここだけ見ると、ほんと私たちがいじめてるみたいに見える……。
「そ、その人の取り巻きの人に押されて!」
指さされた私はビクついて、一歩下がる。取り巻き!? いや、ゲームではいたけど。
「きっとその人に命令されたんだわ! この学園には、設楽華に逆らえる人間はいないから……」
よよよ、と青花は涙を拭うそぶりをした。
「いやいや、取り巻きなんかいないよ? 設楽さん。残念ながら、そこまで友達も多い方じゃないし」
「う」
それはその通りなんだけどさ……。
「逆らえる人間も何も、設楽さんってどっちかというと、クラスではいじられ系のキャラだし」
「え!?」
私、いじられてたの!?
「ほら、こういう子だしさ」
「ど、どういう?」
「すまん大村、華がへこんでいってるのでやめてやってくれ」
樹くんまで苦笑いしながら言ってくる。
「た、助けて樹くうん」
甘えた声で、青花は手を伸ばした。
「わざと倒れて何をいう」
樹くんは冷たく言い放ち、青花を見下ろした。
「何を考えている? 何を企んでいる」
「た、企んでなんか」
「……御前の差し金か?」
険しい声で、樹くんはぽつりと呟いた。
(あれ、変な方向に誤解してる)
この子はなんていうか、うん。
(なんでかなぁ)
松影ルナや石宮瑠璃の時に思ったけど、おなじ「記憶」を持ってても「自分がヒロインに生まれ変わる」ってそんなに変な方向に、テンション上げてしまうことなんだろうか……。
(下手にこちらも前世持ち、ってバレるのもなあ)
石宮瑠璃の例があるからなぁ。アレ、怖かったなぁ。
少しゾッ、と思い出して首をさする。
(殺されてもおかしくなかったからなー……)
まだ死にたくないです。今度こそ長生きします。樹くんと穏やかに生きていくんだもん。
(関わらないのが一番、だよね)
でもこんなにガッツリ向こうから来られてると、どうしたらいいものやら。
(マジで転校しちゃう?)
……アリな気がしてきた。でも、私のいないとこで樹くんに何かされるのも怖い。
そんなことを考えていると、大きな声が聞こえてきた。
「桜澤さんっ、大丈夫!?」
この間、階段でも青花を助けに来た男の子だ。本気で心配そうな顔をしている。
「また貴女ですか! 設楽華先輩っ」
きっ、と睨まれる。
「学園長の親戚だからといって、やっていいことと、いけないことが」
「いやいやいや、だから何もしてないってこの子は」
大村さんのツッコミも虚しく、「行こう桜澤さん」とその男の子は青花を抱き起こして、連れて行く。
「あ、えっと、待って、まだイベント起きてないの、樹くん、樹くうううん」
「あの子やっべえね」
岡村くんは端的に言って、樹くんを見上げた。
「モテんのも考えものだなぁ」
「モテているわけではないと思う」
はぁ、と樹くんはため息をついて「俺がいない間、華を頼む」と頭を下げていた。
「終わったらすぐ行っちゃうんだよね」
「すまん、夕方の飛行機なのでな」
すこし申し訳なさそうに言う樹くんだけど、もしかして無理矢理これ参加してくれてるのかも、なんて思う。
ダンスのパートナー、私がボッチになるかもとか心配して。
「無理してくれなくて、良かったのに」
「俺がいなかったら、華にどんな虫が付くかわからん」
「虫て」
相変わらず過保護気味。
「それに、ドレスも見たかった」
嬉しそうな樹くん。またもやドレス買ってくれてしまった。
「とても似合う」
ものすごく幸せそうに言うから、つい照れて下を向いてしまった。
今年はほんの少し青がかった白いドレス。ふんわりとした裾が少しばかり可愛すぎる気がしないでもないけれど、これ試着した時の樹くんの反応がすごく嬉しそうだったんだよなぁ。
「ウエディングドレスもこういう色味がいいかも」
「それはもう少し純白でもいいと思うぞ」
「そうかな」
「すみません公衆の面前でいちゃつくのやめてもらえませーん?」
「そーだそーだ」
岡村くんと大村さんの声で、我に帰った。
イースター、卵探しイベントか始まってすぐ、中庭で樹くんと合流したところだったのだ。
きょとんと周りを見渡すと、ちらちらとこちらを見る視線……うわぁ気づかなかった。私はともかく、樹くんは目立つもんなぁ……。ちょっと赤面。
「いいだろう」
樹くんは自慢気に言った。
「羨ましいだろう」
「クソムカつくなお前!」
岡村くんは笑いながら樹くんに蹴りかかる真似をした。樹くんも笑いながら避けるから、かなり仲良しさんなんだと思う。
「ほんと仲良しさんだよね」
大村さんは呆れたように言った。
「わたしなんか、まだダンパのパートナー見つかってないのにっ」
「え、うそ、オレも。組む?」
「いいの? でも、岡村くん有名人だから他の子に妬まれるかも」
くす、と大村さんが笑うと岡村くんは少しだけ赤面した。スポクラの子は人気あるからなぁ。
(でも2人ともアリな反応?)
ちょっとニンマリとしてしまっとき、のことだ。
「きゃぁぁぁっ」
なんだかワザとらしいような、よく分からない悲鳴が響いた。
「?」
振り向くと、例のヒロイン、青花が生垣にもたれかかるように、うずくまっていた。
樹くんが私の手を引いて、自分の後ろに隠してくれる。
「あ、この子あの変な子っ」
大村さんが指を指す。
「今度は何!?」
「急に誰かに押されて」
うるうる、と相変わらずの小動物のような瞳でこちらを見上げてくる。
「え、誰に?」
岡村くんが素で聞き返す。
「そこ、君しかいなかったよ? ……え、心霊現象?」
岡村くんはビクッとしながら言った。
「なにそれ、そんな七不思議的なのあったっけ……?」
「あるんじゃなーい?」
大村さんは冷たく言う。
「ち、違いますっ」
青花は悲しそうに首を振る。ここだけ見ると、ほんと私たちがいじめてるみたいに見える……。
「そ、その人の取り巻きの人に押されて!」
指さされた私はビクついて、一歩下がる。取り巻き!? いや、ゲームではいたけど。
「きっとその人に命令されたんだわ! この学園には、設楽華に逆らえる人間はいないから……」
よよよ、と青花は涙を拭うそぶりをした。
「いやいや、取り巻きなんかいないよ? 設楽さん。残念ながら、そこまで友達も多い方じゃないし」
「う」
それはその通りなんだけどさ……。
「逆らえる人間も何も、設楽さんってどっちかというと、クラスではいじられ系のキャラだし」
「え!?」
私、いじられてたの!?
「ほら、こういう子だしさ」
「ど、どういう?」
「すまん大村、華がへこんでいってるのでやめてやってくれ」
樹くんまで苦笑いしながら言ってくる。
「た、助けて樹くうん」
甘えた声で、青花は手を伸ばした。
「わざと倒れて何をいう」
樹くんは冷たく言い放ち、青花を見下ろした。
「何を考えている? 何を企んでいる」
「た、企んでなんか」
「……御前の差し金か?」
険しい声で、樹くんはぽつりと呟いた。
(あれ、変な方向に誤解してる)
この子はなんていうか、うん。
(なんでかなぁ)
松影ルナや石宮瑠璃の時に思ったけど、おなじ「記憶」を持ってても「自分がヒロインに生まれ変わる」ってそんなに変な方向に、テンション上げてしまうことなんだろうか……。
(下手にこちらも前世持ち、ってバレるのもなあ)
石宮瑠璃の例があるからなぁ。アレ、怖かったなぁ。
少しゾッ、と思い出して首をさする。
(殺されてもおかしくなかったからなー……)
まだ死にたくないです。今度こそ長生きします。樹くんと穏やかに生きていくんだもん。
(関わらないのが一番、だよね)
でもこんなにガッツリ向こうから来られてると、どうしたらいいものやら。
(マジで転校しちゃう?)
……アリな気がしてきた。でも、私のいないとこで樹くんに何かされるのも怖い。
そんなことを考えていると、大きな声が聞こえてきた。
「桜澤さんっ、大丈夫!?」
この間、階段でも青花を助けに来た男の子だ。本気で心配そうな顔をしている。
「また貴女ですか! 設楽華先輩っ」
きっ、と睨まれる。
「学園長の親戚だからといって、やっていいことと、いけないことが」
「いやいやいや、だから何もしてないってこの子は」
大村さんのツッコミも虚しく、「行こう桜澤さん」とその男の子は青花を抱き起こして、連れて行く。
「あ、えっと、待って、まだイベント起きてないの、樹くん、樹くうううん」
「あの子やっべえね」
岡村くんは端的に言って、樹くんを見上げた。
「モテんのも考えものだなぁ」
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