【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・黒田健

お弁当

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「おいしーい!」

 中庭のベンチ、そこで私は黒田くんのお弁当を頬張っていた。

「からあげ!」
「唐揚げの素だよ」
「卵焼き! 甘い!」
「好きだろ」
「わーいおにぎり、おかかだ!」
「こっちは梅」
「なぁお前らオレの存在忘れてるだろ」

 黒田くんのお弁当にはしゃいでたら、水戸さんに拗ねられた。
 もぐもぐと悲しい瞳で肉団子を食べている。そ、そんなに……?

「勝手に付いてきたの水戸さんじゃないっすか」
「だって……体育祭。話す機会あるかなぁなんて」
「ほら水戸さん、麦茶、麦茶」

 水戸さんのコップに麦茶を注いであげる。水戸さんは「ええいヤケ麦茶だ!」と麦茶を一気に仰いだ。

「げふっ!」
「ほら一気飲みなんかするから!」

 べしょべしょになった首から服からを拭いてあげようとすると、黒田くんにタオルを奪われた。

「水戸さん、ヒトの彼女になにさせようとしてるんすか」
「お前案外独占欲強いよな……」

 黒田くんは少しだけ眉をしかめた。

(独占欲?)

 そうなのかなぁ。うへへ、なんか嬉しいけど、うん、まぁ違う気もする。

「……で、もういいんじゃないっすか水戸さん。鹿島さんでしたっけ。あれこれ以上付きまとっても迷惑っすよ」
「お、お前まで……っ」

 水戸さんはがくりと肩を落とした。

「そうなのよ迷惑なのよ」

 低い声。振り向くと、鹿島先輩が腕を組んで立っていた。

「ほんとに……その節はごめんなさい」

 水戸さんが頭を下げる。
 鹿島先輩はつん、と顎をそらした。

「いやでもですね、鹿島さん、あんな目を閉じられてはこれはもうキスしていいのかなぁってなりますよ!」
「いつ! いいって言ったの!?」
「いやそれは」
「設楽さん!」
「は、はひ!?」
「アナタたちお付き合いしてどれくらい!?」
「え!? えーと」

 唐突に言われて焦る。えーと、ええと?

「もうすぐ2年っす」

 黒田くんが即答した。あ、もうそんなになるのか……。

(ていうか、前世含めて最長記録かも)

 記録更新中。ずーっと更新していけたらいいのになぁ。
 ぼけーっとそんなことを考える。

「で、初キスはいつ!?」
「え」

 私と黒田くんは顔を合わせた。

「あのう」

 私はややためらいがちに答えた。

「初日、ですかね」
「なに?」

 不思議そうな鹿島先輩。

「ですから」

 噛んで含めるように言う。

「うん」
「あのー、お付き合いの初日に」
「……は?」

 鹿島さんは目を見開いた。そ、そんなに驚かなくたって!

「は、はれんちだわ」
「破廉恥て」

 両手を頬に当て、ふるふると私を見つめる鹿島先輩。ああもう難儀だなこの人!

「人によるんじゃないっすかね」

 黒田くんが淡々と答えた。

「俺らはあのタイミングだったと思います」
「そ、そういう、もの?」

 鹿島先輩は困ったように言う。

「鹿島さん」

 水戸さんがもう一度、頭を下げた。

「もう鹿島さんの意思を無視したりなんかしないから、もう一度お付き合いしてもらえませんか」
「それとこれとは話が別」

 ばっさり。
 水戸さんはがくりと肩を落とした。

「んん、まぁ、でも。人によるのかも、ってのは分かりました」
「え、じゃあ」

 ぱっと顔を上げた水戸さんを、鹿島さんは無視した。

「人の意見も聞かなきゃダメね」
「鹿島先輩って、コイバナとかあんましないんですか?」

 首をかしげる。けっこう、こういう話ってするんじゃないかな。キスしちゃったんだ、とか。
 高校生だと、ませた子になるともっと色々、とか。うん。ひとりで想像して少し赤くなる。

「設楽さん、なにを赤くなってるの?」
「えへへ、いやいや」
「まぁいいわ。うん、実は、……苦手」

 鹿島先輩はそこで初めて、照れたように笑った。

「なんか、素の自分を見せるのに抵抗があるの。しかも、恋の話なんてーー自分の内臓を見せつけてるみたい」
「内臓、ですか」
「だから、……ごめんね水戸くん」

 鹿島さんは寂しそうに笑った。

「もっと、いろんな話するべきだったね、わたしたち。水戸くんだけが悪いんじゃなくて、わたしも色々伝えておくべきだった。じゃあね、いい人見つけてね」

 長いハチマキを翻し、鹿島さんはスタスタと歩いてった。

「完全に未練ねぇな、あっちには」
「……ね」

 水戸さんは呆然とその後ろ姿を見送ったあと、憤然と立ち上がり「まだチャンスあるよな!?」と私たちを見た。

「ん、え!?」
「いま、少し"素"見せてくれたもんな!?」
「いや、まぁ、」

 たしかに、そう……なのかな?

「うおお諦めねーぞ! じゃあなオレは走り込みに行ってくる!」

 気合十分、って感じで走り去っていく水戸さん。

「……お似合いな気もするんだけど」
「まぁ」

 黒田くんは肩をすくめた。

「あ、ねえそっちの体育祭、来週だよね」
「おう」
「私、お弁当作っていこうかな!」

 黒田くんは少し驚いた顔で私を見た。……え、迷惑かな?
 少ししゅんとして黒田くんの顔を見ていると、ものすごく不思議そうに「設楽って料理できんの?」と聞かれてしまった。

「ええ!? 上手ってわけではないけど、まぁ、そこそこ……って、料理できないと思ってたの!?」
「だってお前んちお手伝いさんいるし」
「いるけど! いない日は私か圭くんで作ってるんだよ!」

 敦子さんは絶対台所に立たない人だし、まぁ忙しくて無理って理由もあるんだけど。

「へー」
「へー、じゃないよ! もう! 絶対作っていく!」

 別に「女の子だから料理できるべき」と思ってたわけじゃないけど、彼氏に「料理できない人」だと思われてたのはなんか……なんか!

「いや、楽しみ」

 黒田くんは、私の頭を撫でながらニヤリと笑った。

「けっこーマジで」
「ほんとうかなぁ!?」

 もう、びっくりさせてやるんだからねっ!
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