445 / 702
【高校編】分岐・黒田健
写真
しおりを挟む
黒田くんのところへ行くと、鹿島先輩が水戸さんとにらみ合っていた。
「あーら女子校の体育祭になんのご用うう?」
「あの、鹿島さん、えーっと。あ、さっきのカッコよかったです、その、騎馬戦、えーと」
めちゃくちゃ噛みまくってる水戸さんに、鹿島先輩は冷たく「では失礼!」と一言言い放ってさっさか歩いて行ってしまった。
「……あのう」
「よう設楽、おつかれ」
黒田くんは淡々としてる。水戸さんはその横で沈んでいた。
「似合うな、それ」
「え、はちまき?」
さっきの騎馬戦で使ったのとは、また違うハチマキ。真っ黒で、長くて腰まである。隅っこに朱色で「体育祭実行委員会」と楷書で刺繍があって、自分でも気に入ってた。
黒田くんは頷いて、「なぁ写真撮っていいか」と聞いた。
「へ!?」
「? なんだよ」
「あんまり黒田くんそんなこと言わないからさ」
ちょっと照れ照れしながら髪をいじる。
「そうか? いつも撮りたいけど」
「えええ、そうなの?」
「おう」
堂々と言われて、赤面しながら頷いた。
「……撮ってやるから並べ」
凹んでた水戸先輩が手を差し出していた。
「あざっす」
黒田くんは普通に私の横に並ぶ。はいちーず、だ。
「お前さ、もう少しなんか笑えないの」
「笑ってるじゃないっすか」
「ピースとかさ、ほらほら」
「嫌っすよ」
スマホを返されながら、そんな話をしてるのを見ていると、背中に軽くどん、とぶつかる衝撃。そのまま抱きつかれる。
「しーたーらさーん」
「わ、大村さん」
「伝えてくれた?」
にっこり、と微笑まれる。あ、忘れてた。横にはさっきのもう1人の騎馬戦仲間、松井さん。
「うっす、設楽の友達っすか」
「こんにちはー黒田くん、いつもノロケ話は聞いてまーす」
黒田くんはチラリと私を見た。
「のののののろけてなんか」
「じゅーぶんノロけてますう。で、わたしもノロけたいんで、黒田くん、誰か紹介してもらえません?」
黒田くんは少しびっくりしたみたいだけど「いいっすよ」と苦笑いして頷いた。
「わーい! いいですか!? じゃあ細かいことは設楽さん経由で連絡しまーすっ」
大村さんはご機嫌で実行委員席に戻っていく。松井さんもぺこりと頭を下げて、応援席方面に歩いて行った。
「いいの?」
黒田くんを見上げると、「つーか」とやっぱり苦笑いして言った。
「クラスのやつも、こっちの女子紹介しろってウルセーから逆に助かった」
「あ、そーなんだ」
こないだ職員室で会った子かな?
「でも紹介ってどーやりゃいいんだ?」
「いや、私もよく分かんないんだけど……」
「ボウリングとかでいいんじゃないの」
水戸先輩(少し回復)が口を挟んで来た。
「ボウリング……」
「? どうした」
「え、あ、ううん」
前世以来だ。前世ではそこそこ得意だったけど、今はどうだろう。
「設楽さん、次、受付の時間だって」
通りすがりの2年の先輩に言われて、慌てて時計を見た。来賓受付だ! けっこうばらけてくるので、一日中受付しないといけない。
「あ、やば、行かなきゃー」
「おう、じゃあその辺うろついてるわ。次何か出るのか」
「次はクラス走だよ、それ終わったら昼休み!」
「分かった」
「あのう」
もじもじと見上げる。
「なんだよ」
「お弁当……」
「作ってきたよ」
「わーい!」
思わず両手を挙げた。体育祭で、彼氏の手作りお弁当ってなんか変な気もするけどいいのだ! お願いしてみるもんですよ。
手を振って別れて、受付のテントで係を交代する。
受付でいただいた名刺の整理をしていると、ふと目の前に誰かが立った。
「?」
「きみ、こないだ挨拶に来てた子だねぇ」
にっこり、というか、にっちゃり、みたいに笑うのはご挨拶で回ったタワマンの変なおじさん……! なにやらゴツいカバンを肩から下げていた。
「あ、……はい」
ちょっと離れてるけど、周りに人もいるし、そう警戒することないかな? と立って頭を下げた。
じっと見つめられる。頭の先から足までじっとり。
(う、)
なんだろこのおじさん。やだな……。第一印象が悪すぎるせいかもだけど。
「君さ」
「はぁ」
「ずいぶん発育いいねぇ」
「……は?」
な、な、な!
(何言い出すんだこのセクハラ野郎ー!?)
「いや、褒め言葉褒め言葉」
「ほ、褒め言葉ではないです」
「謙遜しなくていいよ」
「謙遜ではないです!」
うわぁ言葉が通じないよ! どうしよう! 先生呼ぶ? てか、この人学校に入れていいの!? ダメじゃない!?
「あー、最近はアレだよね、何言ってもセクハラになるよね。褒め言葉でも」
私は思わず口をぱくぱくさせた。いや、怖いとかじゃなくて呆れと怒りでどう行動したらいいか分からなかったのだ。
「でもねえ、ほんと最近の子ってみんなこうなのかねぇ」
言いながら、おじさんの手が私の二の腕をつかもうとした。
(げ、)
思わず身体を引こうとしたとき、おじさんの手を誰かが掴んで捻り上げた。
「おいコラオッサン、何ヒトのモンに無許可で触ろーとしてんだケーサツ呼ぶぞコラ」
黒田くんだった。ほっとして、肩から力が抜ける。
「なななななんだねっ」
「なんだねじゃねーぞクソジジイ」
「はははは離したまえっ」
黒田くんは無言でおじさんを見下ろしながら(目が怖い)手に力をいれたみたいで、おじさんは「いたたたたた」と悶絶していた。
「あ! あなた出禁のはずの!」
ちょっとワザとらしい声で、仁が駆けつけてきた。
「よう黒田」
「久しぶりっすね」
「そうでもないけどな」
卒業以来だもんね、大人の感覚からしたら実はそんなに久しぶりでもなかったりする。
「そいつもらうわ。出禁にしてあるはず、なんですけどねー? そのカバンの中身、なんですか?」
おじさんは露骨にギクリと肩を揺らした。
「まさか、またもや勝手に写真を撮るつもりでした? そのカバン、カメラと三脚とか、ですか」
「と、撮ってはいけないのか!」
「ダメです。保護者以外の競技の撮影は禁止です」
仁に引きずられて行くおじさん。
「……設楽」
「なに?」
「お前の騎馬戦の様子、撮っちゃったんだけどアウトだと思う?」
冗談ぽく黒田くんが言って、私はくすくすと笑った。
「あーら女子校の体育祭になんのご用うう?」
「あの、鹿島さん、えーっと。あ、さっきのカッコよかったです、その、騎馬戦、えーと」
めちゃくちゃ噛みまくってる水戸さんに、鹿島先輩は冷たく「では失礼!」と一言言い放ってさっさか歩いて行ってしまった。
「……あのう」
「よう設楽、おつかれ」
黒田くんは淡々としてる。水戸さんはその横で沈んでいた。
「似合うな、それ」
「え、はちまき?」
さっきの騎馬戦で使ったのとは、また違うハチマキ。真っ黒で、長くて腰まである。隅っこに朱色で「体育祭実行委員会」と楷書で刺繍があって、自分でも気に入ってた。
黒田くんは頷いて、「なぁ写真撮っていいか」と聞いた。
「へ!?」
「? なんだよ」
「あんまり黒田くんそんなこと言わないからさ」
ちょっと照れ照れしながら髪をいじる。
「そうか? いつも撮りたいけど」
「えええ、そうなの?」
「おう」
堂々と言われて、赤面しながら頷いた。
「……撮ってやるから並べ」
凹んでた水戸先輩が手を差し出していた。
「あざっす」
黒田くんは普通に私の横に並ぶ。はいちーず、だ。
「お前さ、もう少しなんか笑えないの」
「笑ってるじゃないっすか」
「ピースとかさ、ほらほら」
「嫌っすよ」
スマホを返されながら、そんな話をしてるのを見ていると、背中に軽くどん、とぶつかる衝撃。そのまま抱きつかれる。
「しーたーらさーん」
「わ、大村さん」
「伝えてくれた?」
にっこり、と微笑まれる。あ、忘れてた。横にはさっきのもう1人の騎馬戦仲間、松井さん。
「うっす、設楽の友達っすか」
「こんにちはー黒田くん、いつもノロケ話は聞いてまーす」
黒田くんはチラリと私を見た。
「のののののろけてなんか」
「じゅーぶんノロけてますう。で、わたしもノロけたいんで、黒田くん、誰か紹介してもらえません?」
黒田くんは少しびっくりしたみたいだけど「いいっすよ」と苦笑いして頷いた。
「わーい! いいですか!? じゃあ細かいことは設楽さん経由で連絡しまーすっ」
大村さんはご機嫌で実行委員席に戻っていく。松井さんもぺこりと頭を下げて、応援席方面に歩いて行った。
「いいの?」
黒田くんを見上げると、「つーか」とやっぱり苦笑いして言った。
「クラスのやつも、こっちの女子紹介しろってウルセーから逆に助かった」
「あ、そーなんだ」
こないだ職員室で会った子かな?
「でも紹介ってどーやりゃいいんだ?」
「いや、私もよく分かんないんだけど……」
「ボウリングとかでいいんじゃないの」
水戸先輩(少し回復)が口を挟んで来た。
「ボウリング……」
「? どうした」
「え、あ、ううん」
前世以来だ。前世ではそこそこ得意だったけど、今はどうだろう。
「設楽さん、次、受付の時間だって」
通りすがりの2年の先輩に言われて、慌てて時計を見た。来賓受付だ! けっこうばらけてくるので、一日中受付しないといけない。
「あ、やば、行かなきゃー」
「おう、じゃあその辺うろついてるわ。次何か出るのか」
「次はクラス走だよ、それ終わったら昼休み!」
「分かった」
「あのう」
もじもじと見上げる。
「なんだよ」
「お弁当……」
「作ってきたよ」
「わーい!」
思わず両手を挙げた。体育祭で、彼氏の手作りお弁当ってなんか変な気もするけどいいのだ! お願いしてみるもんですよ。
手を振って別れて、受付のテントで係を交代する。
受付でいただいた名刺の整理をしていると、ふと目の前に誰かが立った。
「?」
「きみ、こないだ挨拶に来てた子だねぇ」
にっこり、というか、にっちゃり、みたいに笑うのはご挨拶で回ったタワマンの変なおじさん……! なにやらゴツいカバンを肩から下げていた。
「あ、……はい」
ちょっと離れてるけど、周りに人もいるし、そう警戒することないかな? と立って頭を下げた。
じっと見つめられる。頭の先から足までじっとり。
(う、)
なんだろこのおじさん。やだな……。第一印象が悪すぎるせいかもだけど。
「君さ」
「はぁ」
「ずいぶん発育いいねぇ」
「……は?」
な、な、な!
(何言い出すんだこのセクハラ野郎ー!?)
「いや、褒め言葉褒め言葉」
「ほ、褒め言葉ではないです」
「謙遜しなくていいよ」
「謙遜ではないです!」
うわぁ言葉が通じないよ! どうしよう! 先生呼ぶ? てか、この人学校に入れていいの!? ダメじゃない!?
「あー、最近はアレだよね、何言ってもセクハラになるよね。褒め言葉でも」
私は思わず口をぱくぱくさせた。いや、怖いとかじゃなくて呆れと怒りでどう行動したらいいか分からなかったのだ。
「でもねえ、ほんと最近の子ってみんなこうなのかねぇ」
言いながら、おじさんの手が私の二の腕をつかもうとした。
(げ、)
思わず身体を引こうとしたとき、おじさんの手を誰かが掴んで捻り上げた。
「おいコラオッサン、何ヒトのモンに無許可で触ろーとしてんだケーサツ呼ぶぞコラ」
黒田くんだった。ほっとして、肩から力が抜ける。
「なななななんだねっ」
「なんだねじゃねーぞクソジジイ」
「はははは離したまえっ」
黒田くんは無言でおじさんを見下ろしながら(目が怖い)手に力をいれたみたいで、おじさんは「いたたたたた」と悶絶していた。
「あ! あなた出禁のはずの!」
ちょっとワザとらしい声で、仁が駆けつけてきた。
「よう黒田」
「久しぶりっすね」
「そうでもないけどな」
卒業以来だもんね、大人の感覚からしたら実はそんなに久しぶりでもなかったりする。
「そいつもらうわ。出禁にしてあるはず、なんですけどねー? そのカバンの中身、なんですか?」
おじさんは露骨にギクリと肩を揺らした。
「まさか、またもや勝手に写真を撮るつもりでした? そのカバン、カメラと三脚とか、ですか」
「と、撮ってはいけないのか!」
「ダメです。保護者以外の競技の撮影は禁止です」
仁に引きずられて行くおじさん。
「……設楽」
「なに?」
「お前の騎馬戦の様子、撮っちゃったんだけどアウトだと思う?」
冗談ぽく黒田くんが言って、私はくすくすと笑った。
0
あなたにおすすめの小説
傷物令嬢は魔法使いの力を借りて婚約者を幸せにしたい
棗
恋愛
ローゼライト=シーラデンの額には傷がある。幼い頃、幼馴染のラルスに負わされた傷で責任を取る為に婚約が結ばれた。
しかしローゼライトは知っている。ラルスには他に愛する人がいると。この婚約はローゼライトの額に傷を負わせてしまったが為の婚約で、ラルスの気持ちが自分にはないと。
そこで、子供の時から交流のある魔法使いダヴィデにラルスとの婚約解消をしたいと依頼をするのであった。
ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する
ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。
皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。
ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。
なんとか成敗してみたい。
彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~
プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。
※完結済。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ
朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。
理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。
逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。
エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。
すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした
珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。
色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。
バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。
※全4話。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる