【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・黒田健

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 黒田くんのところへ行くと、鹿島先輩が水戸さんとにらみ合っていた。

「あーら女子校の体育祭になんのご用うう?」
「あの、鹿島さん、えーっと。あ、さっきのカッコよかったです、その、騎馬戦、えーと」

 めちゃくちゃ噛みまくってる水戸さんに、鹿島先輩は冷たく「では失礼!」と一言言い放ってさっさか歩いて行ってしまった。

「……あのう」
「よう設楽、おつかれ」

 黒田くんは淡々としてる。水戸さんはその横で沈んでいた。

「似合うな、それ」
「え、はちまき?」

 さっきの騎馬戦で使ったのとは、また違うハチマキ。真っ黒で、長くて腰まである。隅っこに朱色で「体育祭実行委員会」と楷書で刺繍があって、自分でも気に入ってた。
 黒田くんは頷いて、「なぁ写真撮っていいか」と聞いた。

「へ!?」
「? なんだよ」
「あんまり黒田くんそんなこと言わないからさ」

 ちょっと照れ照れしながら髪をいじる。

「そうか? いつも撮りたいけど」
「えええ、そうなの?」
「おう」

 堂々と言われて、赤面しながら頷いた。

「……撮ってやるから並べ」

 凹んでた水戸先輩が手を差し出していた。

「あざっす」

 黒田くんは普通に私の横に並ぶ。はいちーず、だ。

「お前さ、もう少しなんか笑えないの」
「笑ってるじゃないっすか」
「ピースとかさ、ほらほら」
「嫌っすよ」

 スマホを返されながら、そんな話をしてるのを見ていると、背中に軽くどん、とぶつかる衝撃。そのまま抱きつかれる。

「しーたーらさーん」
「わ、大村さん」
「伝えてくれた?」

 にっこり、と微笑まれる。あ、忘れてた。横にはさっきのもう1人の騎馬戦仲間、松井さん。

「うっす、設楽の友達っすか」
「こんにちはー黒田くん、いつもノロケ話は聞いてまーす」

 黒田くんはチラリと私を見た。

「のののののろけてなんか」
「じゅーぶんノロけてますう。で、わたしもノロけたいんで、黒田くん、誰か紹介してもらえません?」

 黒田くんは少しびっくりしたみたいだけど「いいっすよ」と苦笑いして頷いた。

「わーい! いいですか!? じゃあ細かいことは設楽さん経由で連絡しまーすっ」

 大村さんはご機嫌で実行委員席に戻っていく。松井さんもぺこりと頭を下げて、応援席方面に歩いて行った。

「いいの?」

 黒田くんを見上げると、「つーか」とやっぱり苦笑いして言った。

「クラスのやつも、こっちの女子紹介しろってウルセーから逆に助かった」
「あ、そーなんだ」

 こないだ職員室で会った子かな?

「でも紹介ってどーやりゃいいんだ?」
「いや、私もよく分かんないんだけど……」
「ボウリングとかでいいんじゃないの」

 水戸先輩(少し回復)が口を挟んで来た。

「ボウリング……」
「? どうした」
「え、あ、ううん」

 前世以来だ。前世ではそこそこ得意だったけど、今はどうだろう。

「設楽さん、次、受付の時間だって」

 通りすがりの2年の先輩に言われて、慌てて時計を見た。来賓受付だ! けっこうばらけてくるので、一日中受付しないといけない。

「あ、やば、行かなきゃー」
「おう、じゃあその辺うろついてるわ。次何か出るのか」
「次はクラス走だよ、それ終わったら昼休み!」
「分かった」
「あのう」

 もじもじと見上げる。

「なんだよ」
「お弁当……」
「作ってきたよ」
「わーい!」

 思わず両手を挙げた。体育祭で、彼氏の手作りお弁当ってなんか変な気もするけどいいのだ! お願いしてみるもんですよ。
 手を振って別れて、受付のテントで係を交代する。
 受付でいただいた名刺の整理をしていると、ふと目の前に誰かが立った。

「?」
「きみ、こないだ挨拶に来てた子だねぇ」

 にっこり、というか、にっちゃり、みたいに笑うのはご挨拶で回ったタワマンの変なおじさん……! なにやらゴツいカバンを肩から下げていた。

「あ、……はい」

 ちょっと離れてるけど、周りに人もいるし、そう警戒することないかな? と立って頭を下げた。
 じっと見つめられる。頭の先から足までじっとり。

(う、)

 なんだろこのおじさん。やだな……。第一印象が悪すぎるせいかもだけど。

「君さ」
「はぁ」
「ずいぶん発育いいねぇ」
「……は?」

 な、な、な!

(何言い出すんだこのセクハラ野郎ー!?)

「いや、褒め言葉褒め言葉」
「ほ、褒め言葉ではないです」
「謙遜しなくていいよ」
「謙遜ではないです!」

 うわぁ言葉が通じないよ! どうしよう! 先生呼ぶ? てか、この人学校に入れていいの!? ダメじゃない!?

「あー、最近はアレだよね、何言ってもセクハラになるよね。褒め言葉でも」

 私は思わず口をぱくぱくさせた。いや、怖いとかじゃなくて呆れと怒りでどう行動したらいいか分からなかったのだ。

「でもねえ、ほんと最近の子ってみんなこうなのかねぇ」

 言いながら、おじさんの手が私の二の腕をつかもうとした。

(げ、)

 思わず身体を引こうとしたとき、おじさんの手を誰かが掴んで捻り上げた。

「おいコラオッサン、何ヒトのモンに無許可で触ろーとしてんだケーサツ呼ぶぞコラ」

 黒田くんだった。ほっとして、肩から力が抜ける。

「なななななんだねっ」
「なんだねじゃねーぞクソジジイ」
「はははは離したまえっ」

 黒田くんは無言でおじさんを見下ろしながら(目が怖い)手に力をいれたみたいで、おじさんは「いたたたたた」と悶絶していた。

「あ! あなた出禁のはずの!」

 ちょっとワザとらしい声で、仁が駆けつけてきた。

「よう黒田」
「久しぶりっすね」
「そうでもないけどな」

 卒業以来だもんね、大人の感覚からしたら実はそんなに久しぶりでもなかったりする。

「そいつもらうわ。出禁にしてあるはず、なんですけどねー? そのカバンの中身、なんですか?」

 おじさんは露骨にギクリと肩を揺らした。

「まさか、またもや勝手に写真を撮るつもりでした? そのカバン、カメラと三脚とか、ですか」
「と、撮ってはいけないのか!」
「ダメです。保護者以外の競技の撮影は禁止です」

 仁に引きずられて行くおじさん。

「……設楽」
「なに?」
「お前の騎馬戦の様子、撮っちゃったんだけどアウトだと思う?」

 冗談ぽく黒田くんが言って、私はくすくすと笑った。
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