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【高校編】分岐・黒田健

体育祭

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「ていうか、女子で騎馬戦って」

 あるんだなぁ。

(騎馬戦といえば)

 ふと思い出す。

(中学の時の黒田くんかっこよかったな~)

 背中怪我しちゃってたんだよなー。全然痛がってなかったけど。

(高校の体育祭ってどんなんなんだろ)

 男子校の体育祭って、なんか迫力ありそうです。
 とか脳内ノロケ(?)を1人で展開していると、大村さんが「いや、ぽーっとしてちゃダメ設楽さんっ」と声をかけてきた。

「う、はい」

 私は気合を入れなおす。なんと言っても、今私は騎士役で騎馬の2人に担がれているのだから。
 体育祭、女子校なのに騎馬戦。しかもみんな気合い入ってません……?

「てかさ、私、重くない? ごめんね」
「んーん、全然大丈夫なんだけど、あ」
「ふっふっふ、設楽さんたち余裕そうね~?」

 いつものおさげをポニテに結い直し、ハチマキをきりりと締めた鹿島先輩も騎士役のようだ。にっこりと、好戦的な笑みを浮かべていた。

「い、いえっ、先輩、全然よゆーなどとはっ」

 その視線にたじろいで、私は思わず姿勢をただした。

「ここで会ったが100年目! そのハチマキよこしなさいっ」
「ぎゃー!」

 組みついてくる鹿島先輩に、あえなく私はハチマキを奪われてしまった。ちなみに騎馬役には筑波先輩と、もうひとり。

「この程度、設楽華っ!? 重力に縛られているから!」
「ちょっとヒトミ、テンション上がりすぎ」

 呆れたような筑波先輩のツッコミ。高笑いしながら、次のターゲットへと向かっていった。
 私たちはそんな鹿島先輩を見つめながら、歩いて待機場に向かう。

「……先輩って、勝負事になるとああなるんだ……」
「意外だよね、いつも冷静っぽい人だもんね」

 ふと応援の人並みの中に、黒田くんがいるのを見つける。黒田くんだけじゃなくて、水戸さんもいた。……水戸さんだよね? キャップにサングラスして、その上挙動不審だけど。

「あ」
「ん?」

 思わず声を出すと、大村さんが不思議そうに私の視線の先を見る。

「あ、あれ設楽さんの彼氏くんじゃん」
「うん」
「見に来てくれたのかなー? 相変わらずカッコいいね」
「え? ほんと? そう? うふふ」

 にまにまとして返事をすると、呆れた顔で軽く肩をはたかれた。
 ふと黒田くんと目が合う。「よう」みたいな感じで手を挙げられた。

「あーーー好き」
「声に出てるよっ。いいなぁ、彼氏いて!」

 もうひとりの騎馬役をしてくれた石岡さんが「女子校、出会いないもんね」と苦笑いした。

「あ、設楽さん紹介してって頼んでよ、彼氏くんに。男子校の誰か」

 大村さんが思いついたように言う。

「あ、いいな、あたしもそれ参加したいっ」
「え、あ、言うだけでいいなら」

 言ってみるけど、と私は答える。

(てか、合コンだー?)

 合コンみたいなものだよね。今時の高校生ってそういう時どこ行くのかな。カラオケとか? ボウリング? よくわかんないや。

「だーめーでーす」

 突然背後からした声に、私たちはびくりと肩を揺らした。

「あんなっ! 野蛮な! 男子校と! そのような! 破廉恥なっ」
「おちついてヒトミ」

 鹿島先輩と筑波先輩だった。あんなに気合が入っていたのに、持ってるハチマキは私から奪った一本だけ。
 私のハチマキへの視線に気がついたのか、鹿島先輩は「くっ」と悔しそうに唇を噛み締めた。

「相打ち、と言いたいところだが……」
「瞬殺されてたじゃん」

 またもや呆れ顔の筑波先輩に突っ込まれている。

「というか! それはいいのよ。問題はその……、ごっ、ごっご」
「合コンですか?」

 さらりと問い返す石岡さん。

「そのような破廉恥なっ!」
「落ち着いてヒトミ。あのねー、後輩の恋愛に首を突っ込まないの!」
「落ち着いていられますか! わたしがあの男に何をされたかっ」
「え、なんかあったんですか」

 大村さんが問い返す。

(あの男、って水戸さん?)

 なにかしそうな、悪い人には見えないんだけど。そういえば筑波先輩は「あれはヒトミも悪い」とか言ってたなー……。

「何かもクソも、ちょっとチューされただけじゃない。しかも付き合って1年」

 呆れ顔の筑波先輩に、鹿島先輩は唇を抑えながら言う。

「タイミングというものが!」
「いや、1年よ?」
「やっと手を繋ぐことに慣れたところだったのに!」
「ああまぁ、うん」
「ひどいわ! 破廉恥よ!」

 鹿島先輩は走って退場門をくぐり抜けて行ってしまった。

「……あの子、箱入りでね?」

 筑波先輩は呆れたように肩をすくめた。

「あー、はい」
「水戸くんから聞いた話だと、付き合って1年の記念日に、どこだかの公園に行ったらしいのよ。そんで、ベンチに座ってて、あの子が水戸くん見上げて目を閉じたらしいのよ」
「まぁそれは」

 ちゅーしますよね、と3人でうなずく。

「それがね、あの子的にはハグ? そんなのを求めてたらしくて」
「……はい?」
「手を繋ぐ、ハグ、キスの順らしいのよ」
「え、鹿島先輩的に?」
「そー。それで、キスされたからさあ、なんだのかんだのと大騒ぎして、水戸くんも平謝りだったんだけど。その時に"学校の友達にキスもまだなんて変だって言われた"とか言い訳しちゃったっぽくてさ」

 筑波先輩は、グラウンドの砂に指で適当な波線を描きながら続けた。

「もー、それでヒトミん中ではあの学校は野蛮で破廉恥ってなっちゃって」
「はー」
「それはまた、難儀な恋愛観をお持ちで……」

 私と石岡さんはぽかんと頷いた。順番とかこだわっちゃうタイプなのか。

「それでも未だに水戸くん、未練タラタラらしいんだけど……って、あれ水戸くんだ」

 筑波先輩は顔を上げた。

「あれ、横にいるの設楽ちゃんの彼氏くん?」
「そーなんですうふふ」
「写真より男前だね」
「そーなんで、ぐふう」
「のろけすぎー」

 大村さんに頬を掴まれた。

「ひょめん」
「ほーんと、これは絶対紹介してもらわなきゃだよ」

 大村さんが私の頬を掴んだまま笑う。その目はまぁ結構肉食系って感じで、私はアハハと笑いながらなんとか頷いたのでした。
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