443 / 702
【高校編】分岐・黒田健
白詰草
しおりを挟む
「おっじゃましまーす」
空元気なのバレバレな気もしてます、な午後7時半、すぎ。駅からは黒田くんの自転車の荷台に乗せてもらって、黒田くんの家にやってきた。黒田くんは自転車押しながら、歩きだったけど。ありがたい。
「荷物てきとーに」
「ありがと」
お礼を言って、リビングの片隅にカバンを置いた。
「煮物でいいか? ブリ」
「うん、てかむしろ大好物です」
お礼を言って、キッチンを覗き込む。
「タコ貰ったから酢の物にするわ」
「何か手伝う?」
「いいよ、少し横になっとくか?」
ソファをアゴで示された。
「ジャージ貸そうか」
「……借りよっかな」
制服シワになっちゃうし、ってのは言い訳で黒田くんのジャージ、着たいだけだったりする。
洗面所借りて着替えて、ソファに座った。大きいTシャツ、裾を折り曲げまくったジャージ。
「少し目ぇ閉じとくだけでも、違うんじゃねーの」
「んー」
私はぼんやり周りを見つめる。
「いいやぁ、眠れそうにないし」
「……そうか」
ローテブルにことん、とお茶が置かれた。麦茶。
「まぁゆっくりしとけ」
ぽんぽん、と頭を撫でられた。小さくうなずく。
しばらく、キッチンで黒田くんが調理している音を聞きながらぼーっとしていた。とんとん、という包丁の音と、鍋の音と。
(落ち着くなぁ)
そう思う。なんでか、落ち着く。
じきに黒田くんがソファの横に座った。無言で抱き寄せられて、頭をゆっくり撫でられた。
「ご飯は?」
「あと白メシ炊き上がったら完成」
「……あのさ」
「なんだ」
「お願いがあるんだけど」
「言ってみろ」
「お膝、乗ってもいい?」
上目遣いがちにそう言うと、ぽかんとさた顔をされた。
「膝だ?」
「うん」
返事を待たず、よいしょと膝に乗る。後ろから抱きしめられてるみたいな体勢。
「どうした」
「んー、なんとなくね」
私は黒田くんの手をなんとなくいじりながら言う。
「落ち着く気がして」
「ならしばらくこうしとけ」
黒田くんはあっさりそう言うと、きゅっと後ろから抱きしめ直してくれる。
(あったかいなぁ)
ぼんやり、とした眠気が襲ってくる。瞼が重い。
(あ、眠れる、かも)
だんだんと重くなる身体を、黒田くんに預けた。黒田くんは何も言わず、そっと頭を撫でてくれる。
(夢を)
私は沈んでいく意識の中でそう思った。
(あの夢はもう見たくないな)
もっと幸せな夢ならいいのに。
「華はこういうん、似合うなぁ」
パパがそう言って、私は微笑んだ。頭に乗ってるのは、シロツメクサの冠。
「ほんま? お姫様みたい?」
幼い私はそう言う。
「ほんまほんま」
あんまり日本人っぽくない顔立ちのパパは、嬉しそうに私にカメラを向ける。
その後ろで、ママはもう一つ、冠を作る。そしてパパの頭に乗せた。
「おそろい!」
私は嬉しくてそう叫んだ。ママの頭にも冠が乗っている。少し不格好なそれは、私が作ったものだ。
「おそろいやな」
ママが笑う。パパも笑う。私も嬉しくていっぱい笑う。
そんな、夢だった。
優しく私の頬を撫でる指。
「私、泣いてた?」
黒田くんは何も言わず、指で涙を拭う。
「でも今のは、いい夢だった」
「そうか」
私はいつのまにか、黒田くんに膝枕されていた。黒田くんの膝を枕に、ソファに横になる感じ。
「寝にくいかと思って」
「んー。ありがと」
テレビの上の時計を見る。9時。1時間くらい寝ていたのかな。
「……あれ、お父さんは?」
「少し遅くなってるみてー」
黒田くんはスマホを見ながら言う。
「先、メシ食うか」
「あ! てかごめん、お腹空いてたよね!?」
部活で散々運動したあとなのに! 疲れてるしお腹も空いてるだろうに!
「いーよ」
黒田くんは、起き上がった私にそっとキスをした。
「少しでも眠れたなら良かった」
「……うん」
小さくうなずく。
ぽすり、と黒田くんの横に座り直して、ちょっとくっつく。
「なんか、……多分だけど」
私は小さく首をかしげる。
「多分?」
「うん。多分、だけど……今日から、あの怖い夢は見ないかもしれない」
"華"の記憶の、いろんな夢は見るかもだけれど。
「そうなったらいいな」
黒田くんは静かに笑った。私はぎゅうっと抱きつく。
「ありがと」
「なんもしてねーけどな」
「してるよ」
黒田くんといると落ち着く。安心する。昔から、ほんと、小学生の時出会ってから、ずっと。
今度は私からキスをする。何度も。少しずつ、深くなってーーこんなキスは、あまりしたことがない。
フワフワした気持ちで、黒田くんを見つめる。黒田くんの目は、相変わらずまっすぐで、とてもキレイでーー。
「だあっ!」
黒田くんがものすごく唐突に叫んで、身体を離した。
「な、なに!?」
「お前な! いや設楽は何も悪くない」
俺が悪い、修行がたんねー、とブツブツ言いながら、黒田くんはキッチンへと足早に向かってしまった。
「……?」
「ただいまー」
ちょうどそのタイミングで、黒田くんのお父さんがリビングの扉を開けた。
「てめー遅いんだよ」
「帰宅して早々、いきなりそんな怒らなくたって! あ、華さんお久しぶり」
「お邪魔してます」
立ち上がって、ぺこりと頭を下げた。
「たけるー」
そう言って、お父さんはキッチンへ入っていく。
「んだよ」
黒田くんの返事が聞こえた。
そこからの会話は聞こえなかったけれど、お父さんが「はははは思春期め」と言いながらキッチンから追い出されていたので、相変わらず仲良し親子だな、と微笑ましく思ったのでした。
空元気なのバレバレな気もしてます、な午後7時半、すぎ。駅からは黒田くんの自転車の荷台に乗せてもらって、黒田くんの家にやってきた。黒田くんは自転車押しながら、歩きだったけど。ありがたい。
「荷物てきとーに」
「ありがと」
お礼を言って、リビングの片隅にカバンを置いた。
「煮物でいいか? ブリ」
「うん、てかむしろ大好物です」
お礼を言って、キッチンを覗き込む。
「タコ貰ったから酢の物にするわ」
「何か手伝う?」
「いいよ、少し横になっとくか?」
ソファをアゴで示された。
「ジャージ貸そうか」
「……借りよっかな」
制服シワになっちゃうし、ってのは言い訳で黒田くんのジャージ、着たいだけだったりする。
洗面所借りて着替えて、ソファに座った。大きいTシャツ、裾を折り曲げまくったジャージ。
「少し目ぇ閉じとくだけでも、違うんじゃねーの」
「んー」
私はぼんやり周りを見つめる。
「いいやぁ、眠れそうにないし」
「……そうか」
ローテブルにことん、とお茶が置かれた。麦茶。
「まぁゆっくりしとけ」
ぽんぽん、と頭を撫でられた。小さくうなずく。
しばらく、キッチンで黒田くんが調理している音を聞きながらぼーっとしていた。とんとん、という包丁の音と、鍋の音と。
(落ち着くなぁ)
そう思う。なんでか、落ち着く。
じきに黒田くんがソファの横に座った。無言で抱き寄せられて、頭をゆっくり撫でられた。
「ご飯は?」
「あと白メシ炊き上がったら完成」
「……あのさ」
「なんだ」
「お願いがあるんだけど」
「言ってみろ」
「お膝、乗ってもいい?」
上目遣いがちにそう言うと、ぽかんとさた顔をされた。
「膝だ?」
「うん」
返事を待たず、よいしょと膝に乗る。後ろから抱きしめられてるみたいな体勢。
「どうした」
「んー、なんとなくね」
私は黒田くんの手をなんとなくいじりながら言う。
「落ち着く気がして」
「ならしばらくこうしとけ」
黒田くんはあっさりそう言うと、きゅっと後ろから抱きしめ直してくれる。
(あったかいなぁ)
ぼんやり、とした眠気が襲ってくる。瞼が重い。
(あ、眠れる、かも)
だんだんと重くなる身体を、黒田くんに預けた。黒田くんは何も言わず、そっと頭を撫でてくれる。
(夢を)
私は沈んでいく意識の中でそう思った。
(あの夢はもう見たくないな)
もっと幸せな夢ならいいのに。
「華はこういうん、似合うなぁ」
パパがそう言って、私は微笑んだ。頭に乗ってるのは、シロツメクサの冠。
「ほんま? お姫様みたい?」
幼い私はそう言う。
「ほんまほんま」
あんまり日本人っぽくない顔立ちのパパは、嬉しそうに私にカメラを向ける。
その後ろで、ママはもう一つ、冠を作る。そしてパパの頭に乗せた。
「おそろい!」
私は嬉しくてそう叫んだ。ママの頭にも冠が乗っている。少し不格好なそれは、私が作ったものだ。
「おそろいやな」
ママが笑う。パパも笑う。私も嬉しくていっぱい笑う。
そんな、夢だった。
優しく私の頬を撫でる指。
「私、泣いてた?」
黒田くんは何も言わず、指で涙を拭う。
「でも今のは、いい夢だった」
「そうか」
私はいつのまにか、黒田くんに膝枕されていた。黒田くんの膝を枕に、ソファに横になる感じ。
「寝にくいかと思って」
「んー。ありがと」
テレビの上の時計を見る。9時。1時間くらい寝ていたのかな。
「……あれ、お父さんは?」
「少し遅くなってるみてー」
黒田くんはスマホを見ながら言う。
「先、メシ食うか」
「あ! てかごめん、お腹空いてたよね!?」
部活で散々運動したあとなのに! 疲れてるしお腹も空いてるだろうに!
「いーよ」
黒田くんは、起き上がった私にそっとキスをした。
「少しでも眠れたなら良かった」
「……うん」
小さくうなずく。
ぽすり、と黒田くんの横に座り直して、ちょっとくっつく。
「なんか、……多分だけど」
私は小さく首をかしげる。
「多分?」
「うん。多分、だけど……今日から、あの怖い夢は見ないかもしれない」
"華"の記憶の、いろんな夢は見るかもだけれど。
「そうなったらいいな」
黒田くんは静かに笑った。私はぎゅうっと抱きつく。
「ありがと」
「なんもしてねーけどな」
「してるよ」
黒田くんといると落ち着く。安心する。昔から、ほんと、小学生の時出会ってから、ずっと。
今度は私からキスをする。何度も。少しずつ、深くなってーーこんなキスは、あまりしたことがない。
フワフワした気持ちで、黒田くんを見つめる。黒田くんの目は、相変わらずまっすぐで、とてもキレイでーー。
「だあっ!」
黒田くんがものすごく唐突に叫んで、身体を離した。
「な、なに!?」
「お前な! いや設楽は何も悪くない」
俺が悪い、修行がたんねー、とブツブツ言いながら、黒田くんはキッチンへと足早に向かってしまった。
「……?」
「ただいまー」
ちょうどそのタイミングで、黒田くんのお父さんがリビングの扉を開けた。
「てめー遅いんだよ」
「帰宅して早々、いきなりそんな怒らなくたって! あ、華さんお久しぶり」
「お邪魔してます」
立ち上がって、ぺこりと頭を下げた。
「たけるー」
そう言って、お父さんはキッチンへ入っていく。
「んだよ」
黒田くんの返事が聞こえた。
そこからの会話は聞こえなかったけれど、お父さんが「はははは思春期め」と言いながらキッチンから追い出されていたので、相変わらず仲良し親子だな、と微笑ましく思ったのでした。
0
あなたにおすすめの小説
傷物令嬢は魔法使いの力を借りて婚約者を幸せにしたい
棗
恋愛
ローゼライト=シーラデンの額には傷がある。幼い頃、幼馴染のラルスに負わされた傷で責任を取る為に婚約が結ばれた。
しかしローゼライトは知っている。ラルスには他に愛する人がいると。この婚約はローゼライトの額に傷を負わせてしまったが為の婚約で、ラルスの気持ちが自分にはないと。
そこで、子供の時から交流のある魔法使いダヴィデにラルスとの婚約解消をしたいと依頼をするのであった。
ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する
ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。
皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。
ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。
なんとか成敗してみたい。
彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~
プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。
※完結済。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ
朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。
理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。
逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。
エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。
すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした
珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。
色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。
バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。
※全4話。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる