【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・黒田健

白詰草

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「おっじゃましまーす」

 空元気なのバレバレな気もしてます、な午後7時半、すぎ。駅からは黒田くんの自転車の荷台に乗せてもらって、黒田くんの家にやってきた。黒田くんは自転車押しながら、歩きだったけど。ありがたい。

「荷物てきとーに」
「ありがと」

 お礼を言って、リビングの片隅にカバンを置いた。

「煮物でいいか? ブリ」
「うん、てかむしろ大好物です」

 お礼を言って、キッチンを覗き込む。

「タコ貰ったから酢の物にするわ」
「何か手伝う?」
「いいよ、少し横になっとくか?」

 ソファをアゴで示された。

「ジャージ貸そうか」
「……借りよっかな」

 制服シワになっちゃうし、ってのは言い訳で黒田くんのジャージ、着たいだけだったりする。
 洗面所借りて着替えて、ソファに座った。大きいTシャツ、裾を折り曲げまくったジャージ。

「少し目ぇ閉じとくだけでも、違うんじゃねーの」
「んー」

 私はぼんやり周りを見つめる。

「いいやぁ、眠れそうにないし」
「……そうか」

 ローテブルにことん、とお茶が置かれた。麦茶。

「まぁゆっくりしとけ」

 ぽんぽん、と頭を撫でられた。小さくうなずく。
 しばらく、キッチンで黒田くんが調理している音を聞きながらぼーっとしていた。とんとん、という包丁の音と、鍋の音と。

(落ち着くなぁ)

 そう思う。なんでか、落ち着く。
 じきに黒田くんがソファの横に座った。無言で抱き寄せられて、頭をゆっくり撫でられた。

「ご飯は?」
「あと白メシ炊き上がったら完成」
「……あのさ」
「なんだ」
「お願いがあるんだけど」
「言ってみろ」
「お膝、乗ってもいい?」

 上目遣いがちにそう言うと、ぽかんとさた顔をされた。

「膝だ?」
「うん」

 返事を待たず、よいしょと膝に乗る。後ろから抱きしめられてるみたいな体勢。

「どうした」
「んー、なんとなくね」

 私は黒田くんの手をなんとなくいじりながら言う。

「落ち着く気がして」
「ならしばらくこうしとけ」

 黒田くんはあっさりそう言うと、きゅっと後ろから抱きしめ直してくれる。

(あったかいなぁ)

 ぼんやり、とした眠気が襲ってくる。瞼が重い。

(あ、眠れる、かも)

 だんだんと重くなる身体を、黒田くんに預けた。黒田くんは何も言わず、そっと頭を撫でてくれる。

(夢を)

 私は沈んでいく意識の中でそう思った。

(あの夢はもう見たくないな)

 もっと幸せな夢ならいいのに。


「華はこういうん、似合うなぁ」

 パパがそう言って、私は微笑んだ。頭に乗ってるのは、シロツメクサの冠。

「ほんま? お姫様みたい?」

 幼い私はそう言う。

「ほんまほんま」

 あんまり日本人っぽくない顔立ちのパパは、嬉しそうに私にカメラを向ける。
 その後ろで、ママはもう一つ、冠を作る。そしてパパの頭に乗せた。

「おそろい!」

 私は嬉しくてそう叫んだ。ママの頭にも冠が乗っている。少し不格好なそれは、私が作ったものだ。

「おそろいやな」

 ママが笑う。パパも笑う。私も嬉しくていっぱい笑う。

 そんな、夢だった。
 優しく私の頬を撫でる指。

「私、泣いてた?」

 黒田くんは何も言わず、指で涙を拭う。

「でも今のは、いい夢だった」
「そうか」

 私はいつのまにか、黒田くんに膝枕されていた。黒田くんの膝を枕に、ソファに横になる感じ。

「寝にくいかと思って」
「んー。ありがと」

 テレビの上の時計を見る。9時。1時間くらい寝ていたのかな。

「……あれ、お父さんは?」
「少し遅くなってるみてー」

 黒田くんはスマホを見ながら言う。

「先、メシ食うか」
「あ! てかごめん、お腹空いてたよね!?」

 部活で散々運動したあとなのに! 疲れてるしお腹も空いてるだろうに!

「いーよ」

 黒田くんは、起き上がった私にそっとキスをした。

「少しでも眠れたなら良かった」
「……うん」

 小さくうなずく。
 ぽすり、と黒田くんの横に座り直して、ちょっとくっつく。

「なんか、……多分だけど」

 私は小さく首をかしげる。

「多分?」
「うん。多分、だけど……今日から、あの怖い夢は見ないかもしれない」

 "華"の記憶の、いろんな夢は見るかもだけれど。

「そうなったらいいな」

 黒田くんは静かに笑った。私はぎゅうっと抱きつく。

「ありがと」
「なんもしてねーけどな」
「してるよ」

 黒田くんといると落ち着く。安心する。昔から、ほんと、小学生の時出会ってから、ずっと。
 今度は私からキスをする。何度も。少しずつ、深くなってーーこんなキスは、あまりしたことがない。
 フワフワした気持ちで、黒田くんを見つめる。黒田くんの目は、相変わらずまっすぐで、とてもキレイでーー。

「だあっ!」

 黒田くんがものすごく唐突に叫んで、身体を離した。

「な、なに!?」
「お前な! いや設楽は何も悪くない」

 俺が悪い、修行がたんねー、とブツブツ言いながら、黒田くんはキッチンへと足早に向かってしまった。

「……?」
「ただいまー」

 ちょうどそのタイミングで、黒田くんのお父さんがリビングの扉を開けた。

「てめー遅いんだよ」
「帰宅して早々、いきなりそんな怒らなくたって! あ、華さんお久しぶり」
「お邪魔してます」

 立ち上がって、ぺこりと頭を下げた。

「たけるー」

 そう言って、お父さんはキッチンへ入っていく。

「んだよ」

 黒田くんの返事が聞こえた。
 そこからの会話は聞こえなかったけれど、お父さんが「はははは思春期め」と言いながらキッチンから追い出されていたので、相変わらず仲良し親子だな、と微笑ましく思ったのでした。
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