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【高校編】分岐・山ノ内瑛
お茶会
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うふふふふふ、まぁそうなんですね、でも本当に素敵なお召し物で、なんて、まぁ歯が浮きそう。
(笑顔がツる……)
秋の陽がちょっと眩しい土曜日の午後、私は敦子さんにくっついて、青百合学園OG会に参加していた。
といっても、全世代のものじゃなくて敦子さん世代のものだけれど。
横浜の高級ホテル。さやさやと言う囁きに近いような会話、時折上がる笑い声もまたお上品な感じで。
「ほんとうに可愛らしいわねぇ」
「お人形さんみたい」
「鹿王院さんのところと許婚なんですって」
「まー、そうなの。お式が楽しみねぇ」
「いいお嫁さんになるのよ」
「おばあちゃまみたいに、殿方のように働くなんてダメ。そんなんだから、ほかに女を作られるの」
「あら、愛人を作られても堂々としていればいいのよ。本妻はあなたなのだから」
次々にやってきては、そんな言葉をかけてくるおば(あ)さま軍団。全員がニコニコと、悪意がなさそ~なのがまた怖い。私はとにかく、引きつったように笑っていた。
流石の敦子さんも笑顔が引きつっている。
(うーん、なんとも前時代的な……)
そんな時代ではないと、思うんだけどなぁ。
とりあえず、OG会の雰囲気を感じてみようと参加してみたものの……うん、手強そうです。
「華」
敦子さんが少しグッタリとした顔で、小さく言った。
「あなた途中で抜けて、少し休んでらっしゃい。顔が」
「顔が?」
「引きつりすぎて変なことに」
敦子さんは苦笑いした。うう、たしかに表情が、もはや笑顔なんだかなんなんだか分からない……。
会場を出て、ふらふらホテル内を歩く。どこかカフェにでも行こうかな、と歩いているとすっかり迷ってしまった。
(どこでしょね、ここ)
もはや客室が並んでいる。うーん、方向音痴ではないはずなんですが……。
ふと、強く手を引かれた。
「ん!?」
「華、俺や俺」
イタズラっぽく笑ったのはアキラくんで、驚く間もなく、部屋に連れ込まれた。ぱたり、と閉まる扉。
「え、アキラくん、なんで?」
「神戸のばーちゃんの喜寿のお祝いでな、家族親戚総出でここ泊まってるんや」
「え、そうなの?」
私はキョロキョロと部屋を見渡す。普通のツインルーム。
「や、みんな今横浜観光や。俺、練習終わって今来てん。夜の食事で合流する予定やったんけど……華みかけて連れ込んでもうた」
あはは、と快活に笑うアキラくんに、私も微笑んだ。すっごいラッキーもあったもんですよ。
「座りー」
「あ、うん」
窓際の丸テーブルの椅子に腰掛けて、ふとアキラくんを見ると、少し離れてベッドに座って、私をにこにこと見ている。
「……どうしたの?」
「いや、キレーやなって」
とても嬉しそうに、アキラくんは言った。幸せそうに目を細めて、ただ私を見ていた。
「華はなんでここおるん? 誰かの結婚式?」
「や、おばーちゃんに着いてOG会」
簡単に説明すると、アキラくんは少しだけ眉をひそめた。
「まじか、華のばーちゃんおるんか。鉢合わせせんようにしとかなあかんな」
「だ、ねー」
少し申し訳なくて目線をそらす。
「華」
アキラくんは、ベッドをおりて私の目の前までゆっくりと歩いてきた。
「華、そんな顔せんとって?」
私の両手を取って、目の前にしゃがむ。少し上目遣いのアキラくんーー。
(あ、久しぶり)
昔は、私の方が背が高かったんだっけ。一瞬で抜かれたけどね。
それを思い出して、ふと笑ってしまう。アキラくんも微笑んだ。
「どうしたん?」
「ううん、アキラくん背ぇ伸びたなぁって」
「せやろ、高校入る頃には180いってるんちゃうかな」
「どんどん伸びるねー」
「ほんまの父親知らんから、どれくらいまで伸びんのかようわからんのやけどな」
「私はそろそろ成長期、終わりかなー」
あんまりもう伸びてない。ちょっと悔しいけど、まぁ平均程度にはあるから諦めよう。
「ちっちゃくて可愛いやんか」
「ち、ちっちゃくはない!」
平均くらいはあるんだって!
「あは、俺からしたらちっちゃいねん、めっちゃ可愛いわ」
「うう……」
そりゃあ、もうじき180に届くって人からしたら小さいかもですが!
「まぁ、もし俺よりデカくても華は可愛かったと思うけどな」
「そしたらモデルになるー」
悪役令嬢な顔面スペックあるので、これで身長あったらスーパーモデルになれそう……って、中身がザンネンなのでそれは無理か。
「そんなんモテるやん。あかんあかん」
「束縛だ!」
「ほんまはなー」
アキラくんはへにゃりと笑った。可愛らしい、と形容していいだろう、きゅんとするような笑顔。
「めっちゃ束縛したいんや」
「え、そうなの」
「独占欲強いしな、ヤキモチ妬きやしな、もう華のことどっかに閉じ込めときたいくらいなんやで?」
「知らなかった」
たしかにヤキモチはやかれてたな、とは思うけど。
アキラくんは立ち上がる。
「コドモなん、嫌やー。はよ大人になりたい」
「アキラくん」
「めっちゃ長い。もどかしい」
少し目を伏せて、アキラくんは言う。
(前世の頃を思い出すと、)
私は考える。
(子供時代なんか一瞬だったと思うけれど)
でも、その当時はいつも、もがいていたような気もする。早く大人になりたくて。同時に、大人になんか、なりたくなくて。
「……、大人のアキラくんはきっとすごくカッコイイんだろうな」
「ん、華。なにいうとんねん、今もじゅーぶんカッコイイやろが」
「あは、うん、それはたしかに」
一番カッコいいよ、と私が言うと、アキラくんははにかむように笑った。それからそっと、唇にキスをしてくれる。
「華は一番綺麗や。ソトミだけやなくて、ナカミが」
「…….中身はどうだろうねぇ」
外見は、まぁ、悪役令嬢スペックで多少は見られるものだと思う。でも中身はなぁ。ゆるゆるですよ、ゆるゆる。
「なに言うとんの、華は中身が最高に華やのに」
「ごめん、褒め言葉なのかよくわかんない……!」
私の返答に、アキラくんは楽しそうに笑った。
(笑顔がツる……)
秋の陽がちょっと眩しい土曜日の午後、私は敦子さんにくっついて、青百合学園OG会に参加していた。
といっても、全世代のものじゃなくて敦子さん世代のものだけれど。
横浜の高級ホテル。さやさやと言う囁きに近いような会話、時折上がる笑い声もまたお上品な感じで。
「ほんとうに可愛らしいわねぇ」
「お人形さんみたい」
「鹿王院さんのところと許婚なんですって」
「まー、そうなの。お式が楽しみねぇ」
「いいお嫁さんになるのよ」
「おばあちゃまみたいに、殿方のように働くなんてダメ。そんなんだから、ほかに女を作られるの」
「あら、愛人を作られても堂々としていればいいのよ。本妻はあなたなのだから」
次々にやってきては、そんな言葉をかけてくるおば(あ)さま軍団。全員がニコニコと、悪意がなさそ~なのがまた怖い。私はとにかく、引きつったように笑っていた。
流石の敦子さんも笑顔が引きつっている。
(うーん、なんとも前時代的な……)
そんな時代ではないと、思うんだけどなぁ。
とりあえず、OG会の雰囲気を感じてみようと参加してみたものの……うん、手強そうです。
「華」
敦子さんが少しグッタリとした顔で、小さく言った。
「あなた途中で抜けて、少し休んでらっしゃい。顔が」
「顔が?」
「引きつりすぎて変なことに」
敦子さんは苦笑いした。うう、たしかに表情が、もはや笑顔なんだかなんなんだか分からない……。
会場を出て、ふらふらホテル内を歩く。どこかカフェにでも行こうかな、と歩いているとすっかり迷ってしまった。
(どこでしょね、ここ)
もはや客室が並んでいる。うーん、方向音痴ではないはずなんですが……。
ふと、強く手を引かれた。
「ん!?」
「華、俺や俺」
イタズラっぽく笑ったのはアキラくんで、驚く間もなく、部屋に連れ込まれた。ぱたり、と閉まる扉。
「え、アキラくん、なんで?」
「神戸のばーちゃんの喜寿のお祝いでな、家族親戚総出でここ泊まってるんや」
「え、そうなの?」
私はキョロキョロと部屋を見渡す。普通のツインルーム。
「や、みんな今横浜観光や。俺、練習終わって今来てん。夜の食事で合流する予定やったんけど……華みかけて連れ込んでもうた」
あはは、と快活に笑うアキラくんに、私も微笑んだ。すっごいラッキーもあったもんですよ。
「座りー」
「あ、うん」
窓際の丸テーブルの椅子に腰掛けて、ふとアキラくんを見ると、少し離れてベッドに座って、私をにこにこと見ている。
「……どうしたの?」
「いや、キレーやなって」
とても嬉しそうに、アキラくんは言った。幸せそうに目を細めて、ただ私を見ていた。
「華はなんでここおるん? 誰かの結婚式?」
「や、おばーちゃんに着いてOG会」
簡単に説明すると、アキラくんは少しだけ眉をひそめた。
「まじか、華のばーちゃんおるんか。鉢合わせせんようにしとかなあかんな」
「だ、ねー」
少し申し訳なくて目線をそらす。
「華」
アキラくんは、ベッドをおりて私の目の前までゆっくりと歩いてきた。
「華、そんな顔せんとって?」
私の両手を取って、目の前にしゃがむ。少し上目遣いのアキラくんーー。
(あ、久しぶり)
昔は、私の方が背が高かったんだっけ。一瞬で抜かれたけどね。
それを思い出して、ふと笑ってしまう。アキラくんも微笑んだ。
「どうしたん?」
「ううん、アキラくん背ぇ伸びたなぁって」
「せやろ、高校入る頃には180いってるんちゃうかな」
「どんどん伸びるねー」
「ほんまの父親知らんから、どれくらいまで伸びんのかようわからんのやけどな」
「私はそろそろ成長期、終わりかなー」
あんまりもう伸びてない。ちょっと悔しいけど、まぁ平均程度にはあるから諦めよう。
「ちっちゃくて可愛いやんか」
「ち、ちっちゃくはない!」
平均くらいはあるんだって!
「あは、俺からしたらちっちゃいねん、めっちゃ可愛いわ」
「うう……」
そりゃあ、もうじき180に届くって人からしたら小さいかもですが!
「まぁ、もし俺よりデカくても華は可愛かったと思うけどな」
「そしたらモデルになるー」
悪役令嬢な顔面スペックあるので、これで身長あったらスーパーモデルになれそう……って、中身がザンネンなのでそれは無理か。
「そんなんモテるやん。あかんあかん」
「束縛だ!」
「ほんまはなー」
アキラくんはへにゃりと笑った。可愛らしい、と形容していいだろう、きゅんとするような笑顔。
「めっちゃ束縛したいんや」
「え、そうなの」
「独占欲強いしな、ヤキモチ妬きやしな、もう華のことどっかに閉じ込めときたいくらいなんやで?」
「知らなかった」
たしかにヤキモチはやかれてたな、とは思うけど。
アキラくんは立ち上がる。
「コドモなん、嫌やー。はよ大人になりたい」
「アキラくん」
「めっちゃ長い。もどかしい」
少し目を伏せて、アキラくんは言う。
(前世の頃を思い出すと、)
私は考える。
(子供時代なんか一瞬だったと思うけれど)
でも、その当時はいつも、もがいていたような気もする。早く大人になりたくて。同時に、大人になんか、なりたくなくて。
「……、大人のアキラくんはきっとすごくカッコイイんだろうな」
「ん、華。なにいうとんねん、今もじゅーぶんカッコイイやろが」
「あは、うん、それはたしかに」
一番カッコいいよ、と私が言うと、アキラくんははにかむように笑った。それからそっと、唇にキスをしてくれる。
「華は一番綺麗や。ソトミだけやなくて、ナカミが」
「…….中身はどうだろうねぇ」
外見は、まぁ、悪役令嬢スペックで多少は見られるものだと思う。でも中身はなぁ。ゆるゆるですよ、ゆるゆる。
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