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【高校編】分岐・山ノ内瑛
責任
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「突然ね、責任取るんだって言い出して」
困ったように、松井さんは言った。
高等部のカフェテリア。あまり人気のない、隅っこの席を確保して、それでも小声で会話をしていた。
私の前にはアイスティー、松井さんはアイスカフェオレ。
「てか、カフェイン大丈夫なの?」
「ちょっとくらいはいいんだって」
9月の半ばを過ぎても、まだまだ日差しは暑い。
9月ーーそう、松井さんは退学にならなかった。
根岸くんが、突然に全部の責任を認めたから。脅すように行為に及んだことも、全部全部。
(そうなれば、松井さんは被害者だもんね)
根岸家のご両親も、泡を食って謝罪に来てくれたらしい。
そして、根岸くん側からも、学校側に掛け合ってくれたのだ。こちらが加害者なんです、と。
学校側としては、多額の寄付金を毎年納めてくれている根岸くん(しかも、代々この学校の卒業生)を退学にはしたくないっていう裏事情もあったらしい。
結局、学校側は「両家の判断に任せます」という消極的な態度に出てきた。
(だだし、お腹が目立つようになる前に休学、ってのはまぁ……納得いかないんだけれど)
ちらり、と松井さんを見る。
(まぁ、本人がそれでいいなら)
ゆっくり赤ちゃんを迎える準備をするのも、いいのかもしれない。
「設楽さん、ほんとにありがとう」
「ん?」
私はぽかんと口を開けた。結局、なんの役にも立ってない。一人で焦って、右往左往してただけだ。
「根岸くんが、設楽さんに怒られたって」
「あー」
私は首を傾げた。
(あれもなぁ)
根岸くんが保健室に来たのは、単に私が「鹿王院樹」の婚約者で「常盤のお嬢さん」だったからだ。
どうやらそれを知らずに私に食ってかかっていたらしく(我ながら上から目線な言い方だなぁ、嫌になる)ご機嫌伺いをしようという腹だったらしい。
「わたし、やっぱり大学行きたいし、そう考えたらここの……、青百合のカリキュラムは理想だったの。せっかく特進に受かったし」
「うん」
「退学にならずにすんで、ほんと」
松井さんは少しすん、と鼻をすする。
「ありがと、設楽さん」
「これからが大変だと思うけど」
私は松井さんの手を取った。
「協力するからね!」
「ありがと」
にこり、と笑う松井さん。
とりあえずは、一件落着、なのかな。
(あとは安産祈願だなぁ)
プレゼントしたいし、お守りでももらいにいこうかな、なんて考えていると、松井さんがまた口を開いたのだ。突然責任取る、と言い出した、と。
「ん? 根岸くんが?」
元々、経済的な援助はしていくみたいな話じゃなかったっけ?
首をかしげると、松井さんは言った。
「ちゃんと、18になったら籍もいれるって。それまでも、きちんと父親として接させてほしいって」
「……松井さんはなんて答えたの?」
「無理ですって言ったよ!」
くすくすと松井さんは笑う。
「でもチャンスはあげることにしたの」
「チャンス?」
「毎日ウチに来て、ちゃんと赤ちゃんのお世話できたら許してもいい」
「ほえー」
私はびっくりして変な声を出してしまった。それでいいんだ!?
「あのね、驚かれるかもなんだけど」
「うん」
「こうなっても、まだ、わたし、あの人のこと、どっか好きみたい」
「まじですか」
「まじです」
微笑む松井さんは、もうあんまり、16の女の子ぽくはなかった。
そんな話を、私はアキラくんにする。場所はいつもの地下書庫。
「ほんまかー」
「ほんまなのよ」
関西弁(?)で返すと、ぷっと笑われた。
「イントネーションがちゃうわ」
「厳しいな!」
関西人って、ニセ関西弁に厳しいよね。なんでなんだろ。
「ま、根岸、本気かもな。部活も辞めるって」
「え、ほんと?」
「ちゃんと"父親"したいんちゃうか? 家の手伝いして仕事はよ覚える言うてたわ」
「ふーん」
私はそう返事をして、アキラくんの髪に触れた。
「金色だねぇ」
「……染め直さへんで?」
「んー、というか、ね」
「うん」
「やっぱ変だよね、この学校。女子にだけ厳しいの。今回のこともそうだけどーー私」
決めたことがある。
「女子の校則、改正させる!」
「ほーん?」
「せっかく風紀委員になったんだし! 何か手はあるはず」
「気合い入ってんな~」
アキラくんは楽しそうに笑って、私のおでこにキスをした。
「ま、やれることあったら協力するわ」
「助かるっ」
ぽんぽん、と頭を撫でられた。ちょっと照れくさい。
(とはいえ、なにから始めたらいいんだろ?)
私はぼんやりと、そんな風に思った。
困ったように、松井さんは言った。
高等部のカフェテリア。あまり人気のない、隅っこの席を確保して、それでも小声で会話をしていた。
私の前にはアイスティー、松井さんはアイスカフェオレ。
「てか、カフェイン大丈夫なの?」
「ちょっとくらいはいいんだって」
9月の半ばを過ぎても、まだまだ日差しは暑い。
9月ーーそう、松井さんは退学にならなかった。
根岸くんが、突然に全部の責任を認めたから。脅すように行為に及んだことも、全部全部。
(そうなれば、松井さんは被害者だもんね)
根岸家のご両親も、泡を食って謝罪に来てくれたらしい。
そして、根岸くん側からも、学校側に掛け合ってくれたのだ。こちらが加害者なんです、と。
学校側としては、多額の寄付金を毎年納めてくれている根岸くん(しかも、代々この学校の卒業生)を退学にはしたくないっていう裏事情もあったらしい。
結局、学校側は「両家の判断に任せます」という消極的な態度に出てきた。
(だだし、お腹が目立つようになる前に休学、ってのはまぁ……納得いかないんだけれど)
ちらり、と松井さんを見る。
(まぁ、本人がそれでいいなら)
ゆっくり赤ちゃんを迎える準備をするのも、いいのかもしれない。
「設楽さん、ほんとにありがとう」
「ん?」
私はぽかんと口を開けた。結局、なんの役にも立ってない。一人で焦って、右往左往してただけだ。
「根岸くんが、設楽さんに怒られたって」
「あー」
私は首を傾げた。
(あれもなぁ)
根岸くんが保健室に来たのは、単に私が「鹿王院樹」の婚約者で「常盤のお嬢さん」だったからだ。
どうやらそれを知らずに私に食ってかかっていたらしく(我ながら上から目線な言い方だなぁ、嫌になる)ご機嫌伺いをしようという腹だったらしい。
「わたし、やっぱり大学行きたいし、そう考えたらここの……、青百合のカリキュラムは理想だったの。せっかく特進に受かったし」
「うん」
「退学にならずにすんで、ほんと」
松井さんは少しすん、と鼻をすする。
「ありがと、設楽さん」
「これからが大変だと思うけど」
私は松井さんの手を取った。
「協力するからね!」
「ありがと」
にこり、と笑う松井さん。
とりあえずは、一件落着、なのかな。
(あとは安産祈願だなぁ)
プレゼントしたいし、お守りでももらいにいこうかな、なんて考えていると、松井さんがまた口を開いたのだ。突然責任取る、と言い出した、と。
「ん? 根岸くんが?」
元々、経済的な援助はしていくみたいな話じゃなかったっけ?
首をかしげると、松井さんは言った。
「ちゃんと、18になったら籍もいれるって。それまでも、きちんと父親として接させてほしいって」
「……松井さんはなんて答えたの?」
「無理ですって言ったよ!」
くすくすと松井さんは笑う。
「でもチャンスはあげることにしたの」
「チャンス?」
「毎日ウチに来て、ちゃんと赤ちゃんのお世話できたら許してもいい」
「ほえー」
私はびっくりして変な声を出してしまった。それでいいんだ!?
「あのね、驚かれるかもなんだけど」
「うん」
「こうなっても、まだ、わたし、あの人のこと、どっか好きみたい」
「まじですか」
「まじです」
微笑む松井さんは、もうあんまり、16の女の子ぽくはなかった。
そんな話を、私はアキラくんにする。場所はいつもの地下書庫。
「ほんまかー」
「ほんまなのよ」
関西弁(?)で返すと、ぷっと笑われた。
「イントネーションがちゃうわ」
「厳しいな!」
関西人って、ニセ関西弁に厳しいよね。なんでなんだろ。
「ま、根岸、本気かもな。部活も辞めるって」
「え、ほんと?」
「ちゃんと"父親"したいんちゃうか? 家の手伝いして仕事はよ覚える言うてたわ」
「ふーん」
私はそう返事をして、アキラくんの髪に触れた。
「金色だねぇ」
「……染め直さへんで?」
「んー、というか、ね」
「うん」
「やっぱ変だよね、この学校。女子にだけ厳しいの。今回のこともそうだけどーー私」
決めたことがある。
「女子の校則、改正させる!」
「ほーん?」
「せっかく風紀委員になったんだし! 何か手はあるはず」
「気合い入ってんな~」
アキラくんは楽しそうに笑って、私のおでこにキスをした。
「ま、やれることあったら協力するわ」
「助かるっ」
ぽんぽん、と頭を撫でられた。ちょっと照れくさい。
(とはいえ、なにから始めたらいいんだろ?)
私はぼんやりと、そんな風に思った。
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