【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

文字の大きさ
643 / 702
【高校編】分岐・鹿王院樹

鐘の音

しおりを挟む
 私たちが訪れてる湖には小さな島があって、そこに教会が建っている。白っぽい、漆喰とレンガで作られたこじんまりとした教会。

「この湖は、」

 各班にひとり専属で着いてくれているガイドさんが、湖を渡る舟の上で解説をしてくれる。50代くらいの女性で、落ち着いた雰囲気が涼やかな、日本人のガイドさん。
 ちなみに手漕ぎだ! 船頭さん、ていうのかな、むきむきな男の人が軽々と大きな手漕ぎボートを漕いでくれる。のんびりと進んで、風が気持ちいい。

「アルプスの瞳、とも称される湖です。あの教会は15世紀に建てられ」

 私はぽけーっと教会を眺める。

(そういえば、樹くん言ってたなぁ)

 ふと思い出す。"結婚式によさそうな教会"。ここのことだったりして?
 舟が島について、そして私たちは(分かってたけど)ちょっとはふうって感じだ。

「階段~」

 大村さんが辟易、って感じで言う。教会に行くにはこの急な階段を上らなくてはらしい。

「金比羅さんみたい」

 私が言うと、大村さんは苦笑いした。

「急に日本的!」
「おうどん屋さんは無いけどねっ」

 そんな話をしていると、ガイドさんが苦笑して言う。

「ここの階段は、98段ですから。金比羅さんよりはマシですよ」

 あそこは1368段だそうで。

「うー、そう聞くと頑張れなくもなさそう」
「ね」
「若いんだから、頑張ってください!」

 背中をぱしん、と叩かれた。いや、ほら、中身がグウタラなオトナなので、なんかためらっちゃうんですよねこんなの~。

「ここはね、結婚式の時は新郎が新婦を抱きかかえて登るんですよ」

 ガイドさんの言葉に、同じ班の男子が「無理!」と軽く叫ぶ。

「ふふ、ですので、ここで式を挙げることが決まったカップルは、新郎は筋トレに、新婦はダイエットに励むそうです……さ、皆さんはなにも抱えていないんですから張り切って登りましょう!」
「はーい」

 うん、まぁ、たしかに登らないと始まらないのです。
 そういえば小学校の修学旅行も、伏見稲荷も階段きつかったなぁ。でもあれはなだらかだったから、なんてことを考えながら登頂(と言っていいのかな?)成功。

「わー」

 みんなの声に振り向くと、なるほど「アルプスの瞳」かもね、と思う。木々に囲まれて、キラキラ太陽の光を反射するエメラルドグリーンの湖面。

(緑色の瞳、)

 ここの絵葉書とかあったら圭くんのお土産にしよう、なんて思った。
 教会は案外リフォーム(という言い方が正しいのかどうか……)されてて、入り口なんかはガラス張り。なんだかモダンとアンティークが入り混じって、不思議な空間になっていた。
 教会の内部は昔のまま、のよう。

「きらきらしいね」

 思わず感想を漏らす。大村さんも「カトリックは割と装飾的だとは書いてあったけどねー」としおりを片手に呟いた。
 金の装飾なんかもあって派手だけど、やっぱり宗教的なものなせいか、荘厳な感じもする。

「あれが鐘を鳴らす紐です」

 ガイドさんが手で示した先には、教会の天井から吊りさがったロープ。

「あの鐘を鳴らすと、幸運が訪れるらしいですよ」
「おー」

 班のみんなで近づいてみる。

「鳴らす?」
「鳴らしてみようか」

 わくわくしながら、まず1番近くにいた私がロープを手に取る。

(むっ!?)

 私は思わず顔をしかめた。

(お、重いっ)

 結構重いぞー? ちょっと悔しいなぁ。もっと体重かけなきゃなのかな、と思った矢先、ふと軽くなり、鐘が鳴る。
 りんごーん。
 目線を上げると、樹くん(多分後の船便で来て追いついて来たのかな)が一緒にロープを持ってくれていた。

「余計なお世話だったか?」
「ううん、ありがと。助かったー」
「では」

 樹くんは微笑む。

「あと6回、頑張ろう」
「? あ、うん」

 言われるがままに鳴らすーーっていっても、私、手を添えてただけみたいな。ほとんど樹くんの力だったと思う。
 合計7回、きっちり鳴らして樹くんは満足気にロープから手を離す。

(なんだったんだろ?)

 首を傾げていると、ガイドさんがクスクス笑う。

「お付き合いされてる方ですか?」
「エッ」

 私は振り向く。わあ、今私、顔がすっごい赤いと思う。

「そ、そうなような、違うような」
「あら? そうなんですか?」

 ガイドさんは不思議そうに言う。

「来年結婚します」

 さらり、と樹くんは普通に言った。
 一瞬、教会の中がしんとなる。いま、教会の中はほとんどウチの学校で貸し切りみたいになってる。みんな一瞬黙って、それから「ええええ!?」とざわついた。

「はや、はやくない!?」

 同じ班の友達に言われて「いやー、あのー、そのー」と私は目線をウロウロする。

「はやくないよ、もうこの子たちいつまでもイチャついてるからサッサと身を固めて貰った方が落ち着くよ」

 大村さんがフォローなんだかなんなんだか分からないことを言う。

「それもそだね」

 あっさりと引く友達。
 納得するんだ!?
 ていうか、イチャついてると思われてたんだ! き、気をつけよう……!

「あら、まぁ。それはおめでとうございます」

 ガイドさんは少しびっくりしたみたいだけど、すぐにお祝いを言ってくれた。

「ありがとうございます」

 樹くんは堂々と微笑んでお礼を言っている。私は照れてしまって顔があげられない。

「それならちょうど良かったですね」

 ガイドさんは、ロープに触れる。

「この鐘をカップルで7回鳴らすと、永遠の愛が約束されるそうですから。ご存知だったんですね」
「慣らさなくとも永遠ですが、せっかくなので」

 樹くんの答えに、ガイドさんは「あらまぁご馳走さまです」と笑ってくれた。私はやっぱり赤面して、顔があげられそうにありません。
しおりを挟む
感想 168

あなたにおすすめの小説

傷物令嬢は魔法使いの力を借りて婚約者を幸せにしたい

恋愛
ローゼライト=シーラデンの額には傷がある。幼い頃、幼馴染のラルスに負わされた傷で責任を取る為に婚約が結ばれた。 しかしローゼライトは知っている。ラルスには他に愛する人がいると。この婚約はローゼライトの額に傷を負わせてしまったが為の婚約で、ラルスの気持ちが自分にはないと。 そこで、子供の時から交流のある魔法使いダヴィデにラルスとの婚約解消をしたいと依頼をするのであった。

ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する

ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。 皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。 ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。 なんとか成敗してみたい。

彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~

プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。 ※完結済。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...