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【高校編】分岐・鹿王院樹
鐘の音
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私たちが訪れてる湖には小さな島があって、そこに教会が建っている。白っぽい、漆喰とレンガで作られたこじんまりとした教会。
「この湖は、」
各班にひとり専属で着いてくれているガイドさんが、湖を渡る舟の上で解説をしてくれる。50代くらいの女性で、落ち着いた雰囲気が涼やかな、日本人のガイドさん。
ちなみに手漕ぎだ! 船頭さん、ていうのかな、むきむきな男の人が軽々と大きな手漕ぎボートを漕いでくれる。のんびりと進んで、風が気持ちいい。
「アルプスの瞳、とも称される湖です。あの教会は15世紀に建てられ」
私はぽけーっと教会を眺める。
(そういえば、樹くん言ってたなぁ)
ふと思い出す。"結婚式によさそうな教会"。ここのことだったりして?
舟が島について、そして私たちは(分かってたけど)ちょっとはふうって感じだ。
「階段~」
大村さんが辟易、って感じで言う。教会に行くにはこの急な階段を上らなくてはらしい。
「金比羅さんみたい」
私が言うと、大村さんは苦笑いした。
「急に日本的!」
「おうどん屋さんは無いけどねっ」
そんな話をしていると、ガイドさんが苦笑して言う。
「ここの階段は、98段ですから。金比羅さんよりはマシですよ」
あそこは1368段だそうで。
「うー、そう聞くと頑張れなくもなさそう」
「ね」
「若いんだから、頑張ってください!」
背中をぱしん、と叩かれた。いや、ほら、中身がグウタラなオトナなので、なんかためらっちゃうんですよねこんなの~。
「ここはね、結婚式の時は新郎が新婦を抱きかかえて登るんですよ」
ガイドさんの言葉に、同じ班の男子が「無理!」と軽く叫ぶ。
「ふふ、ですので、ここで式を挙げることが決まったカップルは、新郎は筋トレに、新婦はダイエットに励むそうです……さ、皆さんはなにも抱えていないんですから張り切って登りましょう!」
「はーい」
うん、まぁ、たしかに登らないと始まらないのです。
そういえば小学校の修学旅行も、伏見稲荷も階段きつかったなぁ。でもあれはなだらかだったから、なんてことを考えながら登頂(と言っていいのかな?)成功。
「わー」
みんなの声に振り向くと、なるほど「アルプスの瞳」かもね、と思う。木々に囲まれて、キラキラ太陽の光を反射するエメラルドグリーンの湖面。
(緑色の瞳、)
ここの絵葉書とかあったら圭くんのお土産にしよう、なんて思った。
教会は案外リフォーム(という言い方が正しいのかどうか……)されてて、入り口なんかはガラス張り。なんだかモダンとアンティークが入り混じって、不思議な空間になっていた。
教会の内部は昔のまま、のよう。
「きらきらしいね」
思わず感想を漏らす。大村さんも「カトリックは割と装飾的だとは書いてあったけどねー」としおりを片手に呟いた。
金の装飾なんかもあって派手だけど、やっぱり宗教的なものなせいか、荘厳な感じもする。
「あれが鐘を鳴らす紐です」
ガイドさんが手で示した先には、教会の天井から吊りさがったロープ。
「あの鐘を鳴らすと、幸運が訪れるらしいですよ」
「おー」
班のみんなで近づいてみる。
「鳴らす?」
「鳴らしてみようか」
わくわくしながら、まず1番近くにいた私がロープを手に取る。
(むっ!?)
私は思わず顔をしかめた。
(お、重いっ)
結構重いぞー? ちょっと悔しいなぁ。もっと体重かけなきゃなのかな、と思った矢先、ふと軽くなり、鐘が鳴る。
りんごーん。
目線を上げると、樹くん(多分後の船便で来て追いついて来たのかな)が一緒にロープを持ってくれていた。
「余計なお世話だったか?」
「ううん、ありがと。助かったー」
「では」
樹くんは微笑む。
「あと6回、頑張ろう」
「? あ、うん」
言われるがままに鳴らすーーっていっても、私、手を添えてただけみたいな。ほとんど樹くんの力だったと思う。
合計7回、きっちり鳴らして樹くんは満足気にロープから手を離す。
(なんだったんだろ?)
首を傾げていると、ガイドさんがクスクス笑う。
「お付き合いされてる方ですか?」
「エッ」
私は振り向く。わあ、今私、顔がすっごい赤いと思う。
「そ、そうなような、違うような」
「あら? そうなんですか?」
ガイドさんは不思議そうに言う。
「来年結婚します」
さらり、と樹くんは普通に言った。
一瞬、教会の中がしんとなる。いま、教会の中はほとんどウチの学校で貸し切りみたいになってる。みんな一瞬黙って、それから「ええええ!?」とざわついた。
「はや、はやくない!?」
同じ班の友達に言われて「いやー、あのー、そのー」と私は目線をウロウロする。
「はやくないよ、もうこの子たちいつまでもイチャついてるからサッサと身を固めて貰った方が落ち着くよ」
大村さんがフォローなんだかなんなんだか分からないことを言う。
「それもそだね」
あっさりと引く友達。
納得するんだ!?
ていうか、イチャついてると思われてたんだ! き、気をつけよう……!
「あら、まぁ。それはおめでとうございます」
ガイドさんは少しびっくりしたみたいだけど、すぐにお祝いを言ってくれた。
「ありがとうございます」
樹くんは堂々と微笑んでお礼を言っている。私は照れてしまって顔があげられない。
「それならちょうど良かったですね」
ガイドさんは、ロープに触れる。
「この鐘をカップルで7回鳴らすと、永遠の愛が約束されるそうですから。ご存知だったんですね」
「慣らさなくとも永遠ですが、せっかくなので」
樹くんの答えに、ガイドさんは「あらまぁご馳走さまです」と笑ってくれた。私はやっぱり赤面して、顔があげられそうにありません。
「この湖は、」
各班にひとり専属で着いてくれているガイドさんが、湖を渡る舟の上で解説をしてくれる。50代くらいの女性で、落ち着いた雰囲気が涼やかな、日本人のガイドさん。
ちなみに手漕ぎだ! 船頭さん、ていうのかな、むきむきな男の人が軽々と大きな手漕ぎボートを漕いでくれる。のんびりと進んで、風が気持ちいい。
「アルプスの瞳、とも称される湖です。あの教会は15世紀に建てられ」
私はぽけーっと教会を眺める。
(そういえば、樹くん言ってたなぁ)
ふと思い出す。"結婚式によさそうな教会"。ここのことだったりして?
舟が島について、そして私たちは(分かってたけど)ちょっとはふうって感じだ。
「階段~」
大村さんが辟易、って感じで言う。教会に行くにはこの急な階段を上らなくてはらしい。
「金比羅さんみたい」
私が言うと、大村さんは苦笑いした。
「急に日本的!」
「おうどん屋さんは無いけどねっ」
そんな話をしていると、ガイドさんが苦笑して言う。
「ここの階段は、98段ですから。金比羅さんよりはマシですよ」
あそこは1368段だそうで。
「うー、そう聞くと頑張れなくもなさそう」
「ね」
「若いんだから、頑張ってください!」
背中をぱしん、と叩かれた。いや、ほら、中身がグウタラなオトナなので、なんかためらっちゃうんですよねこんなの~。
「ここはね、結婚式の時は新郎が新婦を抱きかかえて登るんですよ」
ガイドさんの言葉に、同じ班の男子が「無理!」と軽く叫ぶ。
「ふふ、ですので、ここで式を挙げることが決まったカップルは、新郎は筋トレに、新婦はダイエットに励むそうです……さ、皆さんはなにも抱えていないんですから張り切って登りましょう!」
「はーい」
うん、まぁ、たしかに登らないと始まらないのです。
そういえば小学校の修学旅行も、伏見稲荷も階段きつかったなぁ。でもあれはなだらかだったから、なんてことを考えながら登頂(と言っていいのかな?)成功。
「わー」
みんなの声に振り向くと、なるほど「アルプスの瞳」かもね、と思う。木々に囲まれて、キラキラ太陽の光を反射するエメラルドグリーンの湖面。
(緑色の瞳、)
ここの絵葉書とかあったら圭くんのお土産にしよう、なんて思った。
教会は案外リフォーム(という言い方が正しいのかどうか……)されてて、入り口なんかはガラス張り。なんだかモダンとアンティークが入り混じって、不思議な空間になっていた。
教会の内部は昔のまま、のよう。
「きらきらしいね」
思わず感想を漏らす。大村さんも「カトリックは割と装飾的だとは書いてあったけどねー」としおりを片手に呟いた。
金の装飾なんかもあって派手だけど、やっぱり宗教的なものなせいか、荘厳な感じもする。
「あれが鐘を鳴らす紐です」
ガイドさんが手で示した先には、教会の天井から吊りさがったロープ。
「あの鐘を鳴らすと、幸運が訪れるらしいですよ」
「おー」
班のみんなで近づいてみる。
「鳴らす?」
「鳴らしてみようか」
わくわくしながら、まず1番近くにいた私がロープを手に取る。
(むっ!?)
私は思わず顔をしかめた。
(お、重いっ)
結構重いぞー? ちょっと悔しいなぁ。もっと体重かけなきゃなのかな、と思った矢先、ふと軽くなり、鐘が鳴る。
りんごーん。
目線を上げると、樹くん(多分後の船便で来て追いついて来たのかな)が一緒にロープを持ってくれていた。
「余計なお世話だったか?」
「ううん、ありがと。助かったー」
「では」
樹くんは微笑む。
「あと6回、頑張ろう」
「? あ、うん」
言われるがままに鳴らすーーっていっても、私、手を添えてただけみたいな。ほとんど樹くんの力だったと思う。
合計7回、きっちり鳴らして樹くんは満足気にロープから手を離す。
(なんだったんだろ?)
首を傾げていると、ガイドさんがクスクス笑う。
「お付き合いされてる方ですか?」
「エッ」
私は振り向く。わあ、今私、顔がすっごい赤いと思う。
「そ、そうなような、違うような」
「あら? そうなんですか?」
ガイドさんは不思議そうに言う。
「来年結婚します」
さらり、と樹くんは普通に言った。
一瞬、教会の中がしんとなる。いま、教会の中はほとんどウチの学校で貸し切りみたいになってる。みんな一瞬黙って、それから「ええええ!?」とざわついた。
「はや、はやくない!?」
同じ班の友達に言われて「いやー、あのー、そのー」と私は目線をウロウロする。
「はやくないよ、もうこの子たちいつまでもイチャついてるからサッサと身を固めて貰った方が落ち着くよ」
大村さんがフォローなんだかなんなんだか分からないことを言う。
「それもそだね」
あっさりと引く友達。
納得するんだ!?
ていうか、イチャついてると思われてたんだ! き、気をつけよう……!
「あら、まぁ。それはおめでとうございます」
ガイドさんは少しびっくりしたみたいだけど、すぐにお祝いを言ってくれた。
「ありがとうございます」
樹くんは堂々と微笑んでお礼を言っている。私は照れてしまって顔があげられない。
「それならちょうど良かったですね」
ガイドさんは、ロープに触れる。
「この鐘をカップルで7回鳴らすと、永遠の愛が約束されるそうですから。ご存知だったんですね」
「慣らさなくとも永遠ですが、せっかくなので」
樹くんの答えに、ガイドさんは「あらまぁご馳走さまです」と笑ってくれた。私はやっぱり赤面して、顔があげられそうにありません。
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