【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・相良仁

現実であるということ(side青花)

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 風紀委員だっていう設楽華が、校門で活動してて、あたしはわざと視界に入りに行く。
 びくりと揺れる肩。あたしを見て凍りつく設楽華。

(あたしのせいだって、勘付いてはいるみたいね)

 チンピラくん3人にさせた襲撃ーー結局報告は何もないんだけど、この怯え方を見てると上手くいったみたいね?

(あーウケる)

 あたしの邪魔するからじゃん、とあたしは思う。邪魔っていうか、シナリオ通りに動いてもらわなきゃ困るのよ。

(話しかけてやろうかな)

 あのチンピラくんたち、コイツどんな目に遭わせてくれたんだろ? 写真くらい送ってくれてもいいのに!
 上機嫌で近づこうとすると、二年生の先生が設楽華を呼んだ。
 こないだ、階段であたしたちを受け止めた先生。そこそこイケメン。
 あたしがせっかく階段から落ちて、設楽華が進めないシナリオを進めてやろうとしていたのに。要はーー中々、"悪者"になってくれないから。

(まぁ、仕方ないとは思うのよ)

 あたしは手を見る。ここは"現実"だ。0と1で構成されたゲームの世界なんかじゃない。だから、差異があるのは仕方ない。
 たとえば、設楽華にしたって髪型から違う。入学式に発生するはずだった、色んなイベントも発生していない。
 なら、今後その差異をどう埋めていくのか……トライアンドエラーの繰り返しだとは思うけど、色々試していくしかない。
 ないけれどーー設楽華は邪魔だ。
 "悪役"になるか、退場してもらうか。設楽華の選択肢は、どちらかしか、ない。
 設楽華は、先生に呼ばれて歩いて行ってしまう。ちぇ、残念。どうだったか、こっそり聞きたかったのに。
 あたしはクスクス笑う。

(どんな表情カオするんだろ!)

 その日の放課後、あたしはネットで知り合った同じ年の女の子とカラオケに来てた。同じアイドルが好き(ってことにして)超盛り上がる。

「え、青ちゃんて青百合なんだ! お嬢様じゃん!」
「えー、そんなことないよ。高校からだし」

 その子……、ええと名前なんだっけ、そうだ、ユア。ユアちゃんに向かって、あたしは微笑む。

「すごいよ~」
「ありがとう。あ、飲む?」

 あたしが鞄から取り出したのは缶ビール。ちょっとぬるくなってるけど、ま、いいか。
 このカラオケ、ほんとは持ち込み不可なんだけど、この時間のアルバイトがいちいち防犯カメラなんて見てないのはチェック済み。
 ユアちゃんはびっくりした顔をする。

「え、お酒?」
「みんな飲んでるよ」
「そおなの?」

 不思議そうに、恐々とあたしから缶ビールを受け取るユアちゃん。

(みんなって誰とか思わないのかなー)

 くすくす笑いながら、あたしは先にプルタブを開けた。かしゅり、と音がする。あたしはそれをごくりと飲んで見せた。
 ユアちゃんはおっかなびっくり、って感じで口をつける。

「……苦っ」
「初めてだとそんなだよ」

 にっこり微笑んでみせると、ユアちゃんは少しあたしに憧憬みたいな目線を送る。
 
(こう言う感じの……この年頃のコってさ、大人になりだかるよね)

 感覚的なものだと思う。引っかかるのだ。心の底面にゴリゴリに固まった劣等感だとかコンプレックスだとか、そういうのがちょっと歪なコ。そういう子は前世むかしから狙い目だった。

 髪を染めて。
 ピアスをあけて。
 お酒を飲んで。
 タバコを吸って。

(くっだらない)

 ひとつとして、大人の要件に達してない。そんなものは子供でもできる。

(そんなだから、)

 あたしは心の中で薄く笑う。

(悪いに騙されちゃうんだよ?)

 でも自業自得だよね、とあたしは思う。バカなのが悪いんだもん。

(例えば、)

 あたしはふと思い返す。

(詐欺師に騙された人のリストって、需要が高いんだよね)

 こくり、とまたビールを喉に流し込む。

(その人たちは、ーーカモは死ぬまでカモ)

 流し込んだビールをごくりと飲み込んで、あたしは首を傾げた。

「そういえば、ユアちゃんって彼氏いるの?」
「いまいなーい」

 ユアちゃんはつまらなさそうに言う。とろんとした目つき。あは、あれくらいで酔っちゃった?

「青百合のひと紹介しようか?」
「えっまじで!? でも、」

 ユアちゃんの目線が泳ぐ。

「わたし、いまさぁ、太っちゃってるから。ダイエットしてからかなぁ」
「ダイエット?」
「そう。なかなか続かなくて、」

 そう言うユアちゃんは、ほんの少しぽっちゃりしてる。まぁそういう子を選んだんだけど。あとヒトの話信じやすそうな子。

「いいタバコあるよ?」
「タバコ?」

 あたしは微笑む。

「痩せれて、すっごい明るくなるタバコ」
「えー?」
「天然で、自然で、オーガニックなものだから、体に悪くないよ」
「ふうん?」

 首をかしげるユアちゃん。

「そーなんだ。でもオーガニックなものなら安心だね」

あたしは笑いたくなる。

(自然のものなら何でも安心だと思うのなら、トリカブトのサラダでも食べているといいーー)

 あたしは"タバコ"を取り出した。天然で自然でオーガニックってのは、嘘じゃない。少々の混ぜ物はあるにしてもーーゆったりと、微笑む。
 天帝はなぜこんなものを世に創りたもうたのか。

「少しだけ、ためしてみる?」
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