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【高校編】分岐・相良仁

きみだけを(side仁)

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「は? まじで?」
「はぁ」

 学園の、社会科準備室。
 小西は柳眉を微かにしかめて、報告書を渡してきた。

「セルビアまでは辿れたんですけど」
「いや、うん、そっか」

 華を襲った3人組が仕事を受けたと言う闇サイト。そこでやり取りしたメッセージ、サーバをたどってもたどってもたどってもたどり着かない。ゆうに数十箇所以上は経由されているみたいだった。

「ただのお莫迦ちゃんのやり口だとは思えません」

 小西はいう。

「……だな。身元洗い直すか」

 そう言いつつも、それはもしかしたら徒労になるかもな、なんて思う。

(前世の記憶で、こーいうことやってたとしたら、現世でいくら調べようとあいつは"ただの女子高生"だ)

 何者なんだろう。
 ただの馬鹿だと、侮っていたか。

「それと」
「なんだよ」
「華さまが」
「……なに?」
「相良さんのこと、呼び捨てにしてましたね?」
「……」
「おつきあい的なことを?」

 俺は遠くを見つめた。しまった。

「……あの」
「ただ! ただ! ですよ」

 小西は、苦虫を噛み潰したようなかおで続けた。

「華さま、こうおっしゃってました。あなたがいないと、生きていられないと」
「え」
「自殺する、とまで」
「は?」
「ですので、……苦渋の決断ではありますが、黙っています。ただし、ただしっ」

 びしり、と指を突きつけられた。

「手を出してごらんなさい! さすがにその時は敦子さまに報告します……っ」
「あの、はい、気をつけます……」

 とりあえずは、ほっとする。
 小西が出て行って、俺はコーヒーサーバーのスイッチを入れた。

(……さてと)

 やることは山積みだ。桜澤の身辺調査のやり直しの指示を出して、華の護衛システムも組み直した。
 それから、教師としての雑務ーーというか、今月半ばからの修学旅行の資料!

(なーんで日本史担当にさせるかね)

 行き先はクロアチアとスロベニア。なんと2週間まるまる……。豪勢なことだ。部活動をしている生徒は、この間に現地のクラブチームとの練習試合なども組まれているらしい。これもまた豪勢なことだと思う。さすがはおセレブな学校だ。

「じーん」

 がらり、と扉が開く。機嫌の良さそうな華が入ってくる。

「よう、つか、ちょっと様子見ろよ。だれかいたらどーすんの」
「あは、ごめんごめん」

 華は慣れた様子で、すとんと椅子に座る。俺は入ったばかりのコーヒーをことりと机に置いてやった。

「ありがとー。あ、ねえ、忙しい?」
「ちょっとな。なんでだ」
「んー」

 華は首をかしげる。

「特に、ないんだけど」
「ふうん」

 言いながら、ふと何か引っかかる。ほんの少しだけ、華の表情が陰っている気がして。

「……桜澤になにかされたか」
「ん!? ううん、なにも」

 首を振る華。俺は立ち上がり、扉の鍵を閉めた。それから華の横の椅子に座って、華を抱き上げて膝に乗せる。

「ひゃ!?」
「なーにそんなカオしてるんだよー」
「ちょ、ま、なん、く、くすぐったいっ」

 左腕で抱きしめるように押さえつけて、脇腹をこれでもか、とくすぐる。

「ひゃ、も、ふふ、やぁめて、もーっ」

 どんどん涙目になってくる華。

「あ、や、ほんとっ、やめっ」
「これヤバイな声」
「何言ってるの、ばか、ひゃあっ」

 ついでに首を舐め上げた。特に意味はない。

「ふ、ふう、ふう」

 ぱっと両手を離すと、くたりと力が抜けた華が体重を預けてくる。かーわいーったら。

「やめてよぅ……」
「チカラ抜けた?」

 華の髪をさらりと撫でた。

「……ん」
「何かあったのか」
「……何かっていうか、なんていうか」

 華はまだ逡巡している。

「コラまたくすぐるぞ」
「うわぁ、ごめん、言う、言います……その、ね? あきれない?」
「内容による」
「じゃあいい、……ひゃあっ」
「いいの? ここ、こんな風にしちゃうけどいいの」
「や、やめて、いう、言うから」

 ふーふー、と華は俺を少し睨みつける。上気した頬、涙目の瞳、とてもグッとクる。我慢。

「こないださ、ラブホいったじゃん」
「手は出してないけどな!」

 ここ重要。とても。

「でね、思ったの。ねぇ、いままで何人くらいとお付き合いしたの?」
「ん? なんで?」
「だってさぁ、……モテるでしょ?」
「まぁ、」

 否定はしない。それなりに。

「でも記憶が戻ってからはお前一筋だよ?」
「知ってる、よ。でも、でもさ」

 華は俺を見上げる。

「過去の彼女に、私、すっごいヤキモチやいてる。その子たちにも、こんな風に優しかったの?」
「こんな風にって?」
「ひ、膝に乗せたりとか、その、あんな風なちゅーたくさん、したり、とか?」

 最後は照れたのか、明後日の方向を見ながら華は言った。

「してないよ」
「?」

 俺は即答する。

「前世含めても、淡白でつまんないから、ってすぐにフラれてたよ。まぁそれなりには遊んでたりはしたけど」
「淡白?」
「だからさー、こういうの、お前だけなんだって。言わせんなよほんと、恥ずかしいじゃん」

 ぎゅうぎゅうと抱きしめる。なんだ、ヤキモチ妬いてたのか。

「わ、たしだけ?」
「そうだよ。むしろ俺、ベタベタしてくる女嫌いだったもん」
「え!?」

 すっごい驚いた顔で俺を見てくる。

「こんなんしてるのに!?」
「だからさ、今までの人生でこんなことしてんの、お前だけだってば」
「そ、っか」

 華は俯く。

「……嫌な人間かも」
「え、や、そこまで言う?」
「あ、違う。仁じゃなくて、私」

 華は俺を見上げた。情けないような表情で、眉を下げて。

「私、嫌な人間だ。だってさ、嬉しいんだよ」
「?」
「仁の特別が、私だけだってことが」

 噛み付くみたいにキスをした。唇を甘噛みして、口の中という中を味わって、華が弱いトコを舐め上げて、華の白い喉がごくりと動いて「ああ俺の唾液も飲んだのかな」と思うとものすごく興奮した。
 満足いくまで味わい尽くして、唇を離す。とろんとした目で俺を見る華。

「可愛いこというから、つい」
「……ぽわぽわする」

 華は俺に完全に身体を預けている。

「お前だけ。華だけ」

 優しく言うと、華は微かに頷いた。
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