【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・相良仁

ごめんな、(side仁)

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 昨日一昨日の湖畔散策、クマは出なかった。でもクマのほうがマシかもって俺は思ってる。

「ねー、先生。このあたり、すっごい素敵なバーがあるんですよ?」
「いえ夜も仕事中なので。というか、修学旅行中ずっと仕事中ですので」
「あら真面目なんですね~。でもそんなとこも素敵だとおもいますっ」

 きゃぴ、って感じで女は言う。名前なんだっけ……華とは別の班のガイド。

(ぜってー苦情いれてやる)

 心の中でそう決めている。つうか、仕事は? って思うけど、まぁ今は特に仕事ないなこの人は……。
 修学旅行7日目は自由行動の日……というか、まぁ、海遊びの日だ。
 今滞在してる街はリゾート地で、ホテルの前が海水浴場になっている。
 砂浜ではなくて、海岸線沿いに続く遊歩道から、直接海に入ることができる。階段状になっていたり、いきなり深かったりとまちまちだけど、生徒たちは思い思いに(基本は班行動で)遊んでいた。ビニールやらチューブやらで作られたアトラクションが貸し切りで出ていて(滑り台だのブランコだのがついてる)こちらも大盛況だ。
 職員は当然監視! 溺れてでもいたら一大事だし。なので一応水着。俺は忙しいんだ。
 なのに、やたらと付いてくるこのエセガイド女……。

(華もなぁ)

 ヤキモチやいてますけど!? ってカオで時々目が合うし、ほんと気まずい。やめてくれ。
 当の華は、例のアトラクションではしゃぎまわっていた。楽しそうで、思わず目を細める。けれど。けれどだ。

(はしゃぐのは結構ですが!)

 むぐぐ、と俺は思う。

(見るな! こら男子!)

 本当は「はいはーいクソガキどもコイツは俺のなんで視界に入れることすら禁止でーす」とか言っちゃいたい。でも言えない。
 ぶっちゃけ華は可愛い。可愛いというよりは、同年代からしたら綺麗目だとは思うけど、スタイルいいしついつい目が行くのは分かる。分かるけど。
 しかし彼らは遠慮気味だ。育ちがいいのもあるし、遠慮もしてる。華に対して、それから鹿王院に対して。
 未だに「華の許婚」であり続ける鹿王院に、皆遠慮してる。そりゃヒトの許婚、ジロジロ見れねーよな。

(いいけどさー)

 いい虫除けになってくれてますけど! けどなんか釈然としないんだよなぁ、なんて思いつつ華を見ていると、ふと目が合った。そして表情が固まる。

(げ、)

 横にコイツいたんだった。華は無表情のまま動きを止めた。
 ちらりとエセガイド女を見ると、にこりと微笑んで俺を見ている。

「筋肉質ですよね~」
「はぁ」
「触ってもいいですかぁ?」
「嫌です」

 女は笑った。

「ヤダー、照れてますう?」
「照れてません」

 えっなんなのこのポジティブエセガイドさん。

(ドン引きしてますけど……)

 俺のドン引きにも全く気づく素振りもなく、そいつは、脇腹に触ろうとした。

「ここ、どおしたんですかぁ?」

 傷跡。刺された時のーー医療関係者を除いては、華にしか触らせたことがない。
 イラっとして手を振り払った。

「ええと」
「失礼。けれど、これはセクハラに当たると思われませんか」

 さすがにびしりと言う。女は戸惑ったように「え、そんな大げさなぁ」とクネクネした声を出した。
 華に視線を戻す。華は戸惑ったように、少し傷ついたような目で俺を見てる。完全に動きを止めていた。
 そのせい、だろう。急に立ち止まったせいで、後ろから来たヤツに当たって、華はアトラクションから足を滑らせた。そんなに高さはない、とはいえ海に無抵抗な状態で落ちていく。驚いたような、ぽかんとした顔。
 反射的に走って、海に飛び込んだ。沈みかけてた華を抱きしめるようにして、遊歩道まで泳ぐ。

「おい、大丈夫か」

 遊歩道に座らせ、背中を叩くと軽く咳き込んだ後にこくりと頷いた。
 同じ班の大村たちが、慌ててアスレチックからこちらに向かっていた。

「あら~、もぉ~、気をつけないとお」

 エセガイド女が近づいてきて、そう言う。俺は無視して(もはや構う価値がない)華を抱き上げた。それから、大村たちに言う。

「救護室へ連れて行きます、みなさんはこのままここで」
「わ、わかりました」

 心配気に答える大村に、心配ないよ、と微笑んで華を連れて歩く。

「あ、あの~。あたし、付いていきましょおか?」
「いえ救護室には養護教諭がいますから結構」

 なんのために付いてくるのか分からない。見もせずに答えて、スタスタと歩く。
 救護室扱いになってる、小西の部屋までスタスタと歩く。ホテルは学校関係者で貸切なので(豪勢な話だ)人目はそんなに気にならない。

「華さま!?」

 椅子に座らせた華を見て、小西は慌てたように近づく。

「あらあらあら」
「軽く溺れてる」
「水は飲みました?」

 小西の問いに、華は小さく「すこし」と答えた。

「ていうか、溺れたってほどでもないんです。アトラクションから足滑らせて、ちょっと海水飲んじゃって」
「それを溺れたというんです。とりあえず、どうぞ」

 小西からミネラルウォーターを受け取り、華はこくりとそれを飲んだ。

「意識もはっきりしてらっしゃいますし、……痛むところはありますか?」

 華はゆるゆると首を振った。小西はほっとした顔をする。

「とりあえずは、大丈夫だと思いますが……あ、」

 小西のスマホが鳴る。通話にでた小西は「あら怪我ですか、分かりました」と答えた。通話を切って、華に向き直る。

「すみません、ケガ人が出たようなのですこし外に出ます。相良さん、華さま任せました」

 そして立ち上がりながら、俺をちらりとーーいやネットリと見た。てめー華さまに何かしたら分かってんだろうな、って目でした……ハイ……。
 小西が出て行って、華はじっとオレを見た。

「どうした?」
「仁」

 こっち来て、と言うので素直に近づくと、軽く頭を倒して、脇腹を噛まれた。甘噛み、だけれど。例の傷跡の上。
 噛んだまま、俺を見上げてくる華の頭を撫でる。

「指一本、触れさせてねーよ」
「……うん」

 華は伏し目がちに、口を離した。そしてぺろりと傷跡を舐める。

「やめて、そんなことしたら元気になる」
「あは、仁、クビだねっ」
「明るく言うなよー」

 言いながら、抱きしめた。

(無事で良かった)

 ふ、と息を吐くと華が小さく「ごめんね」と呟いた。

「いいよ」

 俺は答えながら、自分の不甲斐なさが情けなかった。最初からハッキリ態度に出せばよかったんだ。華にこんな思いをさせずに済んだ。

「……ごめんな?」

 俺の謝罪に、華は不思議そうに腕の中で首を傾げた。
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