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【高校編】分岐・鹿王院樹
運命に沿って
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帰国早々、めんどくさくて私は大きな大きなため息をついた。
一昨日帰国して、昨日は1日お休み。そして今日から通常授業、なんだけど。
あと数メートルで学園の正面エントランス、ってとこで邪魔されてる。
目の前には、シクシクと泣き崩れる"ゲームのヒロイン"の青花と、彼女に気遣わしげに寄り添う一年生(多分)の男子数名と、思い切り苦い顔をしてるアキラくんと圭くん。
「ハナ」
圭くんに言われる。
「気にせず教室行きなよ。こんな虚言癖オンナに付き合うの人生の無駄だよ」
「せやで、華」
アキラくんも言う。
「こいつ、なんや悲劇のヒロインぶってどーのこーの言うてくるけど、華がんなことするわけないっちゅーねんな」
「ていうか、そもそもハナ、アリバイあるからさ」
圭くんがイラついた声で言う。
「ハナとイツキ、2人とも時差ボケで明け方まで騒いでて、夜に出かけたりなんかしてないから。ついでに昨日は休みで学校来てないから」
「じゃ、じゃあっ」
青花はさめざめと言う。
「あ、あたしの教科書ズタズタにしたの誰なのぅ……っ」
そうだそうだ、と男子くんたちは圭くんとアキラくんに言う。2人は呆れたようにほとんど同時にため息をついた。
「知らないよ。キミ、敵多そうだしその内の誰かじゃない? 少なくともハナじゃない」
「設楽先輩じゃなくてもっ、その取り巻きとかじゃないのかっ!」
男子くんが声を上げる。取り巻き取り巻き言うけれど!
「私に友達はいても、取り巻きなんかいないです」
一応、そう言うけれど睨まれた。びくりと肩を引くと、アキラくんが私と男子くんの間にずいっと入ってくれた。
「いい加減にせぇや。オンナ怖がらせてどないすんねん、クソダサいわ」
「怖がらせてるのはそっちだろう! だいたい、友達だと思ってようが、取り巻きは取り巻きだ!」
頭が痛くなってきた。これ、ずっと平行線なのでは……? 思わず眉間を揉んだ。
青花サンは相変わらずさめざめと震えながら泣いている。小動物のよう……。
「だいたい、なんでお前たちは青花さんの味方をしないんだ!? そこの女王気取り女と、健気で可愛らしい青花さん、どう考えても悪いのはそっちの女だろう!」
"女王"か、……。ゲームで華がそう呼称し、呼称させていたあだ名。
「キミたちの目、フシアナなの? そのオンナのどこがケナゲ?」
心底不思議そうに圭くんが言うと、青花は悲しそうに圭くんを見上げた。
「な、なんで信じてくれないの……? はっ!」
青花は気がついたように私を見る。
「脅してるのね!?」
「誰を!?」
思わず聞き返した。
「圭くんをっ……! きっとあの絵を人質にとって!」
「だからあの白鳥の絵ならおれが持ってるんだって!」
圭くんのイラつきは最高潮って感じだった。
「なんだと!? なんて汚いんだ設楽華っ! 権力を振りかざし、女王気取りするだけでなく弟まで脅して……! そこまでして、なぜ青花さんに嫌がらせするんだっ!?」
憤る男子くん。
全身から力が抜けた。疲れた。時差ボケであんまり眠れてないし、……これ付き合わなきゃダメかなあ?
「なんとか言え! 女王、設楽華!」
「女王か」
ふと聞き慣れた声が割り込んできた。朝練終わりなんだろう、部活の格好のまんまの樹くん。
「華に相応しいな。無論、気高く美しいという意味合いでだが」
「いやごめんね樹くん、それ私に当てはまってはない」
一応突っ込んだ。残念ながら、あなたの許婚さんにそんな素敵要素はない。自分で言うのも、なんなんだけどさ……。
「そうか?」
ふむ、と首をかしげる樹くん。なぜそんなに心底不思議そうに……。
「ないよ。気高くないし美しくない」
「華は気高いし美しいぞ?」
「なんなのその謎の評価は……」
樹くんは昔から私に対して高評価過ぎる。
「そーだよ、設楽さんは気高いというよりはエンゲル係数が高くて、美しいというよりは顔と中身のギャップが残念だよ」
通りすがりだったっぽい、大村さんが加勢してくれた。加勢……?
「なにその微妙な表情」
「いえ……」
「あ、でも鹿王院くんの稼ぎなら、設楽さんくらい食べてもエンゲル係数上がんないか」
「私、そんなに食べてます……?」
大村さんが残念そうな顔で私を見た。え、そんなに?
「何度も警告しているはずだ、桜澤」
樹くんは、私の肩を抱く。アキラくんが「げっ」て顔をした。
「華に近づくな、と」
「な、なんでですかぁ?」
青花はうるうるとした瞳で樹くんを見上げた。
「なんで、青花のこと信じてくれないんですかあ?」
「証拠もないことを信じられるか」
そう言われた瞬間、青花は「ふーん?」みたいな表情を一瞬浮かべた。え、ねえ、なに考えてますの……?
「いいか桜澤。次こんなことがあれば学園側にも通告する。いいな?」
「権力を使う気だろう! 自分が学園長の親戚だからって!」
男子くんに、びしりと指さされた。私は弱々しく首を振る。もう本気で疲れた。ぐったりだよ。
予鈴がなった。教室へ向かわなきゃだ。
(授業もあるし、委員会もなんか忙しくなるし!)
なんでこんな濡れ衣祭りに参加しなきゃいけないんだよう……。
「ごめんね、私、忙しいの。帰ってくれる……?」
言いながら、ハッとした。これ、ゲームでも華のセリフだった。"あたくし忙しいんですの! 庶民の陳情にお付き合いしてる暇はなくてよ! そろそろ兎小屋にお帰りくださる!?"だったけど、まぁ意味合いは似てる?
青花はほくそ笑んでいた。もしかして、これ、言わされた?
(ゲームのシナリオに沿うように?)
私はぞくりとする。
私か運命に逆らいたくても、この子は無理やりに沿わせてくるのではないか、そう思ってーー。
一昨日帰国して、昨日は1日お休み。そして今日から通常授業、なんだけど。
あと数メートルで学園の正面エントランス、ってとこで邪魔されてる。
目の前には、シクシクと泣き崩れる"ゲームのヒロイン"の青花と、彼女に気遣わしげに寄り添う一年生(多分)の男子数名と、思い切り苦い顔をしてるアキラくんと圭くん。
「ハナ」
圭くんに言われる。
「気にせず教室行きなよ。こんな虚言癖オンナに付き合うの人生の無駄だよ」
「せやで、華」
アキラくんも言う。
「こいつ、なんや悲劇のヒロインぶってどーのこーの言うてくるけど、華がんなことするわけないっちゅーねんな」
「ていうか、そもそもハナ、アリバイあるからさ」
圭くんがイラついた声で言う。
「ハナとイツキ、2人とも時差ボケで明け方まで騒いでて、夜に出かけたりなんかしてないから。ついでに昨日は休みで学校来てないから」
「じゃ、じゃあっ」
青花はさめざめと言う。
「あ、あたしの教科書ズタズタにしたの誰なのぅ……っ」
そうだそうだ、と男子くんたちは圭くんとアキラくんに言う。2人は呆れたようにほとんど同時にため息をついた。
「知らないよ。キミ、敵多そうだしその内の誰かじゃない? 少なくともハナじゃない」
「設楽先輩じゃなくてもっ、その取り巻きとかじゃないのかっ!」
男子くんが声を上げる。取り巻き取り巻き言うけれど!
「私に友達はいても、取り巻きなんかいないです」
一応、そう言うけれど睨まれた。びくりと肩を引くと、アキラくんが私と男子くんの間にずいっと入ってくれた。
「いい加減にせぇや。オンナ怖がらせてどないすんねん、クソダサいわ」
「怖がらせてるのはそっちだろう! だいたい、友達だと思ってようが、取り巻きは取り巻きだ!」
頭が痛くなってきた。これ、ずっと平行線なのでは……? 思わず眉間を揉んだ。
青花サンは相変わらずさめざめと震えながら泣いている。小動物のよう……。
「だいたい、なんでお前たちは青花さんの味方をしないんだ!? そこの女王気取り女と、健気で可愛らしい青花さん、どう考えても悪いのはそっちの女だろう!」
"女王"か、……。ゲームで華がそう呼称し、呼称させていたあだ名。
「キミたちの目、フシアナなの? そのオンナのどこがケナゲ?」
心底不思議そうに圭くんが言うと、青花は悲しそうに圭くんを見上げた。
「な、なんで信じてくれないの……? はっ!」
青花は気がついたように私を見る。
「脅してるのね!?」
「誰を!?」
思わず聞き返した。
「圭くんをっ……! きっとあの絵を人質にとって!」
「だからあの白鳥の絵ならおれが持ってるんだって!」
圭くんのイラつきは最高潮って感じだった。
「なんだと!? なんて汚いんだ設楽華っ! 権力を振りかざし、女王気取りするだけでなく弟まで脅して……! そこまでして、なぜ青花さんに嫌がらせするんだっ!?」
憤る男子くん。
全身から力が抜けた。疲れた。時差ボケであんまり眠れてないし、……これ付き合わなきゃダメかなあ?
「なんとか言え! 女王、設楽華!」
「女王か」
ふと聞き慣れた声が割り込んできた。朝練終わりなんだろう、部活の格好のまんまの樹くん。
「華に相応しいな。無論、気高く美しいという意味合いでだが」
「いやごめんね樹くん、それ私に当てはまってはない」
一応突っ込んだ。残念ながら、あなたの許婚さんにそんな素敵要素はない。自分で言うのも、なんなんだけどさ……。
「そうか?」
ふむ、と首をかしげる樹くん。なぜそんなに心底不思議そうに……。
「ないよ。気高くないし美しくない」
「華は気高いし美しいぞ?」
「なんなのその謎の評価は……」
樹くんは昔から私に対して高評価過ぎる。
「そーだよ、設楽さんは気高いというよりはエンゲル係数が高くて、美しいというよりは顔と中身のギャップが残念だよ」
通りすがりだったっぽい、大村さんが加勢してくれた。加勢……?
「なにその微妙な表情」
「いえ……」
「あ、でも鹿王院くんの稼ぎなら、設楽さんくらい食べてもエンゲル係数上がんないか」
「私、そんなに食べてます……?」
大村さんが残念そうな顔で私を見た。え、そんなに?
「何度も警告しているはずだ、桜澤」
樹くんは、私の肩を抱く。アキラくんが「げっ」て顔をした。
「華に近づくな、と」
「な、なんでですかぁ?」
青花はうるうるとした瞳で樹くんを見上げた。
「なんで、青花のこと信じてくれないんですかあ?」
「証拠もないことを信じられるか」
そう言われた瞬間、青花は「ふーん?」みたいな表情を一瞬浮かべた。え、ねえ、なに考えてますの……?
「いいか桜澤。次こんなことがあれば学園側にも通告する。いいな?」
「権力を使う気だろう! 自分が学園長の親戚だからって!」
男子くんに、びしりと指さされた。私は弱々しく首を振る。もう本気で疲れた。ぐったりだよ。
予鈴がなった。教室へ向かわなきゃだ。
(授業もあるし、委員会もなんか忙しくなるし!)
なんでこんな濡れ衣祭りに参加しなきゃいけないんだよう……。
「ごめんね、私、忙しいの。帰ってくれる……?」
言いながら、ハッとした。これ、ゲームでも華のセリフだった。"あたくし忙しいんですの! 庶民の陳情にお付き合いしてる暇はなくてよ! そろそろ兎小屋にお帰りくださる!?"だったけど、まぁ意味合いは似てる?
青花はほくそ笑んでいた。もしかして、これ、言わされた?
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私はぞくりとする。
私か運命に逆らいたくても、この子は無理やりに沿わせてくるのではないか、そう思ってーー。
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