【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・山ノ内瑛

反則?

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 シュリちゃんは案外と、なんていうか、……変わった子でした。

「あのー、この格好は」
「なによ文句ある? ひ、ま、な、の、よっ」
「はぁ……」
「いいじゃんハナ、似合ってるよ」

 私は自分に着せられている、水色の……なんと言いますか、ひらひらフワフワレースたっぷり、なワンピースに猛烈な既視感を感じてゾゾリとしていた。こういうの、"ゲームの華"、着てなかったですっけ……?

「はいこれ、次」

 シュリちゃんは、また別の服を渡してくる。

「また着るの? シュリちゃん着たら」
「うるさいわね、自分で着たって何も楽しくないじゃない」
「そ、そんなことない」

 と、思うんだけれどなぁ。

「ある!」

 断言されてしまった。
 私はしぶしぶ、渡された服片手に自分の寝室に戻る。
 なんだか3人でカンヅメにされてる某高級ホテルのスイートルーム。かれこれ、3日目。
 リビングのほかにダイニング、それからベッドルームも3つ。本来ベッドルーム2つらしいんだけど、特別に客間をベッドルームにしてくれてるらしい。

「そのようなわけで、お一部屋のみ寝具のサイズがダブルなのですが」

 ここに来た初日のこと。
 私は客室係の男のひとの、その言葉に首を傾げた。後から考えると、本来この部屋の寝具はクイーンサイズらしい。

(ダブルサイズで十分ではないでしょうか……)

 ひとりで寝るんだし。
 クイーンサイズなんて、広すぎて眠れないよ、きっと! てなことで、私はこの、客間改造寝室を自室にした。
 そんな自室で、シュリちゃんから渡された服を着る。今度は黒っぽいギンガムチェックのワンピースで、さっきより幾分マシな気もするけど丈が短くて、足がすうすうしてしまう。

(こんな丈が短い服、いつぶりだろ)

 前世でも、こういうの趣味じゃなかったから。
 ちなみにこの服たちは、暇を持て余したシュリちゃんが、いつも服を買ってるっていうお店に連絡して大量にこの部屋に搬入したお洋服たちです。

(そして着せ替え人形にされています……)

 シュリちゃんは楽しいみたいで、写真撮ったりアクセサリー付け替えたり、イキイキしてる。

(こういうの、好きなのかな?)

 さっきは髪型もいじられた。コテだのスプレーだの使って、楽しそうに。

(そういや、こういうの好きな子、前世でもクラスにいたなぁ)

 美容師さんになったんだっけ。シュリちゃんも、そういう系に進みたかったりするのかな。
 ガチャリと部屋を出ると、「華ーっ」といきなりシュリちゃんに呼ばれる。

「な、なに!?」
「こっち来て~ネイルするからぁ」
「ね、ねいる!?」

 シュリちゃんはリビングルームの机に所狭しとネイルを並べてご満悦そうだ。

「あんた少し動きが大雑把すぎんのよ。ネイルしたら少し気を使うでしょ」

 手の動きとか! とシュリちゃんはすっかりご機嫌だ。圭くんは興味津々にネイルボトルを覗き込んでいる。

「絵の具みたいだね?」
「アンタの好きなお絵かきみたいなもんよ」

 やってみる? なんて言うから、圭くんもすっかりその気っぽい。
 結局、右手を圭くん、左手をシュリちゃんがネイルしてくれることになった。爪、短いけどいいのかなぁ。

「結構難しいね」
「でもアンタ結構センスあるわよ」

 楽しそうなふたり。私はもはや抵抗する気を失っていた。
 しばらくして完成した2人の力作は、それぞれ趣味が出てて面白い。
 圭くんの方は、青とか緑とかのグラデーションが綺麗で少しおとなっぽい。
 シュリちゃんのほうは、ピンクベースでストーンとかキラキラの、なんていうかガーリーというか……。
 私はちらり、と時計を見た。

(もうちょっとあるかな)

 圭くん経由で受け取った、アキラくんからの手紙。
 その内容は時間と場所が書かれただけのシンプルなもの。その約束の時間が、もうあと一時間後なのだった。

(どきどきしちゃうよ)

 なんて考えつつ、はたと気がつく。

「ね、ねえ着替えていいかな?」
「新しい服に?」
「違って! 私の服に!」
「だーめ。今から髪もセットして遊ぶんたからー」

 結局着替える間もなく時間になって、私はばたばたと部屋を出た。

(ぎゃー恥ずかしいよう)

 エレベーターの鏡に映る自分を見る。髪は短いなりに編み込みなんかされてるし、服はミニだし太もも見えてるし、爪はキラキラだし、ちょっとメイクまでされちゃってるし。

(……似合わないって言われたらどうしよう)

 アキラくんはそんなこと言わないって、知ってるけど。
 待ち合わせは、地下駐車場。……って書いてあったけど、どこだろ。地下で私はキョロキョロしてしまう。

「華」

 アキラくんの声がして、ふとそちらを見ると「華?」と少し驚いた顔をされた。

(に、ににに似合わないかな!?)

 ひとりで赤くなったり青くなったりしていると、アキラくんは「こっち」と私の手を取って歩き出す。

「これ、おとんの」

 言われるがままに車の後部座席に乗り込む。

「いま、華のばーちゃんと上で話し合いしとるんや」
「敦子さん来てるんだ」

 知らなかった。
 アキラくんも乗り込んで、ばたりとドアが閉められた。

「あんな、色々話さなあかんねん。まぁ俺も何が何だか、なんやけど」

 アキラくんの言葉に頷く。

「せやけどな」
「?」
「その前に、なんなんその可愛らしー格好……!」

 アキラくんは私の頬をむにりと両手で挟んだ。

「反則やっ」

 いやこれは着せられて、なんていう間もなく、私の唇は塞がれてしまっていた。
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