【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・相良仁

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「あ、思い出した」

 私がそう言うと、仁は「なにを?」って顔で私を見た。コーヒーサーバーから、コーヒーを注いでくれている。
 青花に「教科書ズタボロ事件」の犯人扱いされそうになった日の放課後、仁はちょっと不安定で(いつもは堂々と、っていうか飄々としてるのに)それって私のせいだから、なんだか申し訳なくなる。

(でもなぁ)

 謝ったりするのも、仁は嫌がるし。なんか割と自分ひとりで抱えがちだよなー、なんて思うこともあったり。

(もうちょっと、私のこと頼ってくれたっていいのにね?)

 そんな風に思うけど……頼ってもらえるような、そんな人間になれば、自ずと頼ってもらえるよね。はやく"大人"にならなきゃだ。いたずらに年齢を重ねるのではなくて。
 とりあえずは、青花対策だ。

「あのねぇ」

 私は思いだしたこと、について話し出す。

「さっきのさ、職員室の。あれ、本来はイベントになるはずだったんだよね」
「イベントお?」
「そそそ」

 私は頷きながら、仁がおいてくれた、目の前のコーヒーに口をつけた。

「ゲームに、そんな展開があったの」
「へえ?」

 仁は私の目の前に座りながら、自分の分のコーヒーを飲む。

「ゲームでは、どんな展開だったんだ?」
「ゲームではね、仁は……っていうか、"華"の担任ね。顔も名前も出てこないキャラなんだけど、その人も青花の味方だったの」
「は?」
「だからさ、ゲームの華ってメチャクチャしてたから。担任も設楽ならやりかねないなぁ、みたいな感じで」
「へえ?」
「でね、ゲームでも職員室の問答の時に樹くんが入ってくるのは同じなの」

 ふうん、と言う仁の表情を窺う。特にどう、ということはなくて安心した。さっきまでバチクソヤキモチ妬かれて(私も妬くけども!)何やからかんやらされてしまいましたからね……。

「なに赤面してんの?」

 楽しそうに私を覗き込んでくる仁。

「なんでもないっ」
「へー?」

 にやにやと楽しそう。ちょっとホッとする。いつもの仁だったから。

(さっきまで、)

 笑ってても、なんか無理してそうな感じだったし。うん。

「で、ね!」
「はいはい」

 無理やり話を戻した。

「樹くんは"華"を糾弾するの。細かい内容は忘れたけど」
「現実は違ったな? ……だからあいつ、あんな顔してたのか」
「あんな顔?」
「やけに不思議そーな顔してんなと思ってたんだよ」

 仁は椅子にもたれかかって、腕を組む。何か考えてるみたいで、……でもきっと教えてはくれない。

(ちょっと寂しい)

 まだ、私はあなたの横に立てるパートナーじゃない?
 そんなふうに、考えてしまう。

「華」

 仁が私の頬に触れる。

「心配しなくていいからな」

 優しく微笑む仁の、心のうちが分からない。


 その後学校を出て、私は塾へ向かった。隣の市にある大手の予備校だ。

「あ、華ちゃん」

 塾に入ってすぐに話しかけられる。顔を上げると、最近仲良くなった他校の女子が手を振ってくれていた。
 私が休みの日にしてたピアスを見て、「可愛いね」と話しかけてくれた子だ。

「ユアちゃん、今日はやいね」

 私はその子、ユアちゃんに微笑むながらそう言った。ユアちゃんはかたをすくめる。

「宿題忘れちゃってー。今から急いでやるんだ!」
「あ、そーなんだ。珍しいね?」
「なんかボケーっとしちゃって」

 夜ね、なんてユアちゃんが言うから少し心配になる。……ちょっと、痩せてきてるし。痩せるっていうより、やつれてる気がする。

「大丈夫? 疲れてるんじゃない?」
「んー? 大丈夫大丈夫!」

 ほらこの通り! なんてユアちゃんははガッツポーズしてくれたけど、……でも授業中もやっぱり、最近のユアちゃんは変だ。いつもなら答えられるような問題なのに、なにかぼうっとして上手く答えられていない。

「設楽さん、斎藤さんと仲良いわよね、最近」

 塾終わり、教室を出たところで、講師の先生に話しかけられた。私は頷く。

「斎藤さん、最近何かあったか知らない? 少し変よね?」

 そう言う先生は凄く心配そうだった。

「ですよね」

 私も眉を下げる。ほんとに、ユアちゃんどうしちゃったんだろ。
 ちらり、と教室を覗き込むと、まだユアちゃんは机でぼーっとしていた。

「ストレスかしら」
「ストレス?」

 私は聞き返す。

「がくんと成績下がっちゃって」
「あー」

 頷いた。高2の夏前に成績下がると、受験生ほどでないにしろ、結構プレッシャーかもだ。なにしろ「高2の夏が天王山」「受験を決める」だのなんだの、散々言われてるから。

「良ければ、少し気晴らしにでも連れてってあげて……って、あたしから頼むのも変なんだけど」
「いえ」

 私は首を振った。

「私も気になってたんで」

 そう言うと、先生は優しく笑って「よろしくね」と言って歩いて行った。私は教室に戻る。

「ユアちゃん」
「……あ、華ちゃん」
「あのさ、今度お茶でもしない?」

 にこりと微笑んで言うと、ユアちゃんは少し驚いたような顔をした。

「お茶?」
「カラオケでも何でもいいんだけど、」

 気晴らし、なんて言わない方がいいだろうな、と思う。少し悩んで、正直に言うことにした。

「あんま遊んだことないじゃん。私、ユアちゃんともっと仲良くなりたいから」

 ユアちゃんは少しぽかんとした後、ちょっと嬉しそうに頷いてくれた。
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