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【高校編】分岐・相良仁
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「あ、思い出した」
私がそう言うと、仁は「なにを?」って顔で私を見た。コーヒーサーバーから、コーヒーを注いでくれている。
青花に「教科書ズタボロ事件」の犯人扱いされそうになった日の放課後、仁はちょっと不安定で(いつもは堂々と、っていうか飄々としてるのに)それって私のせいだから、なんだか申し訳なくなる。
(でもなぁ)
謝ったりするのも、仁は嫌がるし。なんか割と自分ひとりで抱えがちだよなー、なんて思うこともあったり。
(もうちょっと、私のこと頼ってくれたっていいのにね?)
そんな風に思うけど……頼ってもらえるような、そんな人間になれば、自ずと頼ってもらえるよね。はやく"大人"にならなきゃだ。いたずらに年齢を重ねるのではなくて。
とりあえずは、青花対策だ。
「あのねぇ」
私は思いだしたこと、について話し出す。
「さっきのさ、職員室の。あれ、本来はイベントになるはずだったんだよね」
「イベントお?」
「そそそ」
私は頷きながら、仁がおいてくれた、目の前のコーヒーに口をつけた。
「ゲームに、そんな展開があったの」
「へえ?」
仁は私の目の前に座りながら、自分の分のコーヒーを飲む。
「ゲームでは、どんな展開だったんだ?」
「ゲームではね、仁は……っていうか、"華"の担任ね。顔も名前も出てこないキャラなんだけど、その人も青花の味方だったの」
「は?」
「だからさ、ゲームの華ってメチャクチャしてたから。担任も設楽ならやりかねないなぁ、みたいな感じで」
「へえ?」
「でね、ゲームでも職員室の問答の時に樹くんが入ってくるのは同じなの」
ふうん、と言う仁の表情を窺う。特にどう、ということはなくて安心した。さっきまでバチクソヤキモチ妬かれて(私も妬くけども!)何やからかんやらされてしまいましたからね……。
「なに赤面してんの?」
楽しそうに私を覗き込んでくる仁。
「なんでもないっ」
「へー?」
にやにやと楽しそう。ちょっとホッとする。いつもの仁だったから。
(さっきまで、)
笑ってても、なんか無理してそうな感じだったし。うん。
「で、ね!」
「はいはい」
無理やり話を戻した。
「樹くんは"華"を糾弾するの。細かい内容は忘れたけど」
「現実は違ったな? ……だからあいつ、あんな顔してたのか」
「あんな顔?」
「やけに不思議そーな顔してんなと思ってたんだよ」
仁は椅子にもたれかかって、腕を組む。何か考えてるみたいで、……でもきっと教えてはくれない。
(ちょっと寂しい)
まだ、私はあなたの横に立てるパートナーじゃない?
そんなふうに、考えてしまう。
「華」
仁が私の頬に触れる。
「心配しなくていいからな」
優しく微笑む仁の、心のうちが分からない。
その後学校を出て、私は塾へ向かった。隣の市にある大手の予備校だ。
「あ、華ちゃん」
塾に入ってすぐに話しかけられる。顔を上げると、最近仲良くなった他校の女子が手を振ってくれていた。
私が休みの日にしてたピアスを見て、「可愛いね」と話しかけてくれた子だ。
「ユアちゃん、今日はやいね」
私はその子、ユアちゃんに微笑むながらそう言った。ユアちゃんはかたをすくめる。
「宿題忘れちゃってー。今から急いでやるんだ!」
「あ、そーなんだ。珍しいね?」
「なんかボケーっとしちゃって」
夜ね、なんてユアちゃんが言うから少し心配になる。……ちょっと、痩せてきてるし。痩せるっていうより、やつれてる気がする。
「大丈夫? 疲れてるんじゃない?」
「んー? 大丈夫大丈夫!」
ほらこの通り! なんてユアちゃんははガッツポーズしてくれたけど、……でも授業中もやっぱり、最近のユアちゃんは変だ。いつもなら答えられるような問題なのに、なにかぼうっとして上手く答えられていない。
「設楽さん、斎藤さんと仲良いわよね、最近」
塾終わり、教室を出たところで、講師の先生に話しかけられた。私は頷く。
「斎藤さん、最近何かあったか知らない? 少し変よね?」
そう言う先生は凄く心配そうだった。
「ですよね」
私も眉を下げる。ほんとに、ユアちゃんどうしちゃったんだろ。
ちらり、と教室を覗き込むと、まだユアちゃんは机でぼーっとしていた。
「ストレスかしら」
「ストレス?」
私は聞き返す。
「がくんと成績下がっちゃって」
「あー」
頷いた。高2の夏前に成績下がると、受験生ほどでないにしろ、結構プレッシャーかもだ。なにしろ「高2の夏が天王山」「受験を決める」だのなんだの、散々言われてるから。
「良ければ、少し気晴らしにでも連れてってあげて……って、あたしから頼むのも変なんだけど」
「いえ」
私は首を振った。
「私も気になってたんで」
そう言うと、先生は優しく笑って「よろしくね」と言って歩いて行った。私は教室に戻る。
「ユアちゃん」
「……あ、華ちゃん」
「あのさ、今度お茶でもしない?」
にこりと微笑んで言うと、ユアちゃんは少し驚いたような顔をした。
「お茶?」
「カラオケでも何でもいいんだけど、」
気晴らし、なんて言わない方がいいだろうな、と思う。少し悩んで、正直に言うことにした。
「あんま遊んだことないじゃん。私、ユアちゃんともっと仲良くなりたいから」
ユアちゃんは少しぽかんとした後、ちょっと嬉しそうに頷いてくれた。
私がそう言うと、仁は「なにを?」って顔で私を見た。コーヒーサーバーから、コーヒーを注いでくれている。
青花に「教科書ズタボロ事件」の犯人扱いされそうになった日の放課後、仁はちょっと不安定で(いつもは堂々と、っていうか飄々としてるのに)それって私のせいだから、なんだか申し訳なくなる。
(でもなぁ)
謝ったりするのも、仁は嫌がるし。なんか割と自分ひとりで抱えがちだよなー、なんて思うこともあったり。
(もうちょっと、私のこと頼ってくれたっていいのにね?)
そんな風に思うけど……頼ってもらえるような、そんな人間になれば、自ずと頼ってもらえるよね。はやく"大人"にならなきゃだ。いたずらに年齢を重ねるのではなくて。
とりあえずは、青花対策だ。
「あのねぇ」
私は思いだしたこと、について話し出す。
「さっきのさ、職員室の。あれ、本来はイベントになるはずだったんだよね」
「イベントお?」
「そそそ」
私は頷きながら、仁がおいてくれた、目の前のコーヒーに口をつけた。
「ゲームに、そんな展開があったの」
「へえ?」
仁は私の目の前に座りながら、自分の分のコーヒーを飲む。
「ゲームでは、どんな展開だったんだ?」
「ゲームではね、仁は……っていうか、"華"の担任ね。顔も名前も出てこないキャラなんだけど、その人も青花の味方だったの」
「は?」
「だからさ、ゲームの華ってメチャクチャしてたから。担任も設楽ならやりかねないなぁ、みたいな感じで」
「へえ?」
「でね、ゲームでも職員室の問答の時に樹くんが入ってくるのは同じなの」
ふうん、と言う仁の表情を窺う。特にどう、ということはなくて安心した。さっきまでバチクソヤキモチ妬かれて(私も妬くけども!)何やからかんやらされてしまいましたからね……。
「なに赤面してんの?」
楽しそうに私を覗き込んでくる仁。
「なんでもないっ」
「へー?」
にやにやと楽しそう。ちょっとホッとする。いつもの仁だったから。
(さっきまで、)
笑ってても、なんか無理してそうな感じだったし。うん。
「で、ね!」
「はいはい」
無理やり話を戻した。
「樹くんは"華"を糾弾するの。細かい内容は忘れたけど」
「現実は違ったな? ……だからあいつ、あんな顔してたのか」
「あんな顔?」
「やけに不思議そーな顔してんなと思ってたんだよ」
仁は椅子にもたれかかって、腕を組む。何か考えてるみたいで、……でもきっと教えてはくれない。
(ちょっと寂しい)
まだ、私はあなたの横に立てるパートナーじゃない?
そんなふうに、考えてしまう。
「華」
仁が私の頬に触れる。
「心配しなくていいからな」
優しく微笑む仁の、心のうちが分からない。
その後学校を出て、私は塾へ向かった。隣の市にある大手の予備校だ。
「あ、華ちゃん」
塾に入ってすぐに話しかけられる。顔を上げると、最近仲良くなった他校の女子が手を振ってくれていた。
私が休みの日にしてたピアスを見て、「可愛いね」と話しかけてくれた子だ。
「ユアちゃん、今日はやいね」
私はその子、ユアちゃんに微笑むながらそう言った。ユアちゃんはかたをすくめる。
「宿題忘れちゃってー。今から急いでやるんだ!」
「あ、そーなんだ。珍しいね?」
「なんかボケーっとしちゃって」
夜ね、なんてユアちゃんが言うから少し心配になる。……ちょっと、痩せてきてるし。痩せるっていうより、やつれてる気がする。
「大丈夫? 疲れてるんじゃない?」
「んー? 大丈夫大丈夫!」
ほらこの通り! なんてユアちゃんははガッツポーズしてくれたけど、……でも授業中もやっぱり、最近のユアちゃんは変だ。いつもなら答えられるような問題なのに、なにかぼうっとして上手く答えられていない。
「設楽さん、斎藤さんと仲良いわよね、最近」
塾終わり、教室を出たところで、講師の先生に話しかけられた。私は頷く。
「斎藤さん、最近何かあったか知らない? 少し変よね?」
そう言う先生は凄く心配そうだった。
「ですよね」
私も眉を下げる。ほんとに、ユアちゃんどうしちゃったんだろ。
ちらり、と教室を覗き込むと、まだユアちゃんは机でぼーっとしていた。
「ストレスかしら」
「ストレス?」
私は聞き返す。
「がくんと成績下がっちゃって」
「あー」
頷いた。高2の夏前に成績下がると、受験生ほどでないにしろ、結構プレッシャーかもだ。なにしろ「高2の夏が天王山」「受験を決める」だのなんだの、散々言われてるから。
「良ければ、少し気晴らしにでも連れてってあげて……って、あたしから頼むのも変なんだけど」
「いえ」
私は首を振った。
「私も気になってたんで」
そう言うと、先生は優しく笑って「よろしくね」と言って歩いて行った。私は教室に戻る。
「ユアちゃん」
「……あ、華ちゃん」
「あのさ、今度お茶でもしない?」
にこりと微笑んで言うと、ユアちゃんは少し驚いたような顔をした。
「お茶?」
「カラオケでも何でもいいんだけど、」
気晴らし、なんて言わない方がいいだろうな、と思う。少し悩んで、正直に言うことにした。
「あんま遊んだことないじゃん。私、ユアちゃんともっと仲良くなりたいから」
ユアちゃんは少しぽかんとした後、ちょっと嬉しそうに頷いてくれた。
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